教育心理の部屋

第3回「期待―価値モデル 4章「『やる気』を考える」

第3回
2017/12/25
「期待―価値モデル 4章「『やる気』を考える」

アトキソンとリトウィンの実験(1960)は、輪投げの課題を使い、人は適度に難しい課題をやろうとすることを示しました。そこからアトキソンは、「達成行動を行おうとする傾向=達成動機×期待×価値」という式を立てました。達成動機は達成したいと思う気持ち、期待はできそうだと思う気持ち、価値は達成したときの喜び、となります。達成動機の強さはその人の性格的なもので一定だとすると、動機付けの強さは期待と価値で決まることになります。

更にアトキンソンは期待と価値の間に反比例的な関係があるとも考えました。価値=1-期待とし、期待が高いほど価値が小さい、つまり簡単にできるものは、達成感も少ないという事です。そして0.5×0.5になったときが一番達成行動傾向が強くなると考えています。

私達に使えることとしては、2点を考えています。まず期待×価値の部分で、目標と課題の階段づくりをすること。いつも言う通り200点の子がいきなり400点は難しいので、400点に向けた階段をつくること。また、試験前いきなり多くの課題はできないので、分かる系ではなくできる系の必テキも毎週のジコガクで出していく事です。

もう一つは、達成動機。ここがそもそもかけ算の最初であり、ビジョンセッション等のライフスキル教育や私たちの期待・承認行動により高めていくことです。これにより、塾生の達成したいと思う気持ちを高めていければと思います。具体的には、高校見学を促すこと、400点取るとどんな良いことがあるか伝えていくこと、高校が楽しい伝えること、社会人は楽しいという事を伝えること、でしょうか。是非、浩子も英克もこの点独自で楽しみながら探求していってもらえればと思います。
(711字)

宗興の本棚

第21週『人生を楽しむ人が勝利者になる』

第21週
2017/12/24
『人生を楽しむ人が勝利者になる』
武宮正樹 著

囲碁界のプロ棋士、武宮氏の著書。現在66歳の武宮氏は「宇宙流」と言われる独特なスタイルを確立し、名人・本因坊のタイトルをとる1流の棋士です。12月自分の懊悩が極致に達した時に、「楽しんでいる1流」という感覚に導かれるように手を取った本です。

結論としては、前半の囲碁に関わる所は読みごたえがあったのですが、後半の世の一般論的なものになると、途端に魅力が失われ、読む気が失せてきました。ただ、その中でも強く感じる部分がありました。それは、『感じるままに生きていると道は拓けていくのです』という言葉です。プロは何手先も読んでいる訳ではなく、感じて浮かんだ手が間違っていないのかどうかを確認しているとのこと。読んでいたら遅く、「読むのは音速、感じるのは光速」という事でした。そして皆多かれ少なかれ感じているはずなのに、それを素直に言動として出す事ができない人が多く、勇気をもって実行した方が良いと著者は言っています。

自分に置き換えれば、「子供達へのライフスキル教育に時間を使いたい」という気持ちを閉ざすことなく解放し、実行していくことです。金曜日に伝えた通り、英克、浩子に実務・業績を任せていき、ライフスキルの洗練化に注力することです。

最近「感覚的に〇〇」という言葉をあえて封印してきましたが、もっと多用しようと思います。まず感じてみる。それが自分が生き生きとするために大切と思います。
(589字)

宗興の本棚

第20週『モチベーション3.0』

第20週
2017/12/16
『モチベーション3.0』
ダニエル・ピンク 著

子供達への自発的な動機をどのように引き出すか。この難題に対して更に知見を深める目的で読んだ本です。

モチベーション1.0は生存を目的とする動機、モチベーション2.0は信賞必罰に基づき引き出される動機、そしてモチベーション3.0は自分の内面から湧き出る動機であり、ルーチンワーク中心の時代は2.0が有効だったが、創造性が必要な21世紀は、モチベーション3.0が必要であるという事が論旨です。

まず印象に残ったのは、冒頭に出てくるハリー・ハーロウの実験(1949)です。八匹のアカゲザルがいる檻に、ピンを抜き、フックを外し、金具を持ち上げるという3手順必要な仕掛けを置いたところ、外部から報酬も罰もないのに、サルは熱心に仕掛けで遊び、実験開始から2週間経って、腕が上がっていました。

一方、ごほうびとして餌を与えた場合、以前と比較し成功率がずっと低くなった。ここからハーローは「課題に取り組む自体が内発的報酬にあたる」という当時では斬新な仮説を立てました。

他にも、保育園でお迎え遅刻の罰金を設けたら、逆に遅刻が増えたという調査。賞がもらえると分かっている幼稚園児のグループは絵を描くことが仕事となり続かず、何も知らせされてないグループは楽しんで絵を描き続けるというレッパーとグリーンの研究等、「交換条件つき」の報酬が自律性(やる気)を失わされるという興味深い調査や実験が数多く載っていました。

ブルームウィルで取り入れたいと思うことは二つあります。一つは20%ルールです。Googleでも行っている、このルールは、自律性をや創造性を促進する目的で、勤務時間の20%を何でも好きなプロジェクトに充てられるものです。週5日のうち丸1日をそこに充てることになり、授業が毎日ある咲心舎では20%は難しいですが、10%=半日を充てるぐらいはできると思います。

もう一点はライフスキルシートの運用です。結論として今のまま塾生に任せるのが良いと思っています。勉強はルーティンワークの部分が多く、モチベーション2.0が効きやすくモチベーション3.0が効きにくいものかもしれません。ライフスキルシートだけは自分で自由に目標設定し行動も決めていく、という事で創造性を発揮して欲しいと感じています。
(928字)

教育心理の部屋

第2回「自己強化 3章ほめることの大切さ」

第2回
2017/12/15
「自己強化 3章ほめることの大切さ」

人間が自分でコントロールできる賞罰によって自分自身の学習を促進することを「自己強化」と呼びます。バンデュラとパーロフの実験(1967年)は子供の「自己強化」を実証しました。子供を被験者として、車輪を回すという運動課題の実験を行いました。課題は車輪を8回回すと5点の得点が与えられ、5・10・15・20点の4つの達成基準があります。被験者は3つの群に分けられ、1つ目の自己強化群は5~20の目標を一つ自分で選択し、車輪を回し始める。達成するとチャイムがなり、賞と交換できるコインを自由に獲得できます。そしてまた同じ手続きが繰り返されます。2つ目の外部強化群は、達成基準が外部に決められ、達成すればコインが自動的に与えられます。3つ目はただ課題を遂行するだけの群です。

結果としては、自己強化群と外部強化群は差異がなく統制群と比べ、高い作業量となりました。ここから、他者からの強化がなくても児童が自己強化によって学習可能であることが実証されました。親や教師からの賞罰がなくても、自律的に学習できる存在だという事です。

私達が現場で取り入れるとしたら、「自分でご褒美を設定してみる」事をライフスキル(意欲向上力)目標に入れてもらうことでしょうか。ビジョンセッションで、時折自分で勉強のご褒美を入れる事をやっている塾生がいます。昨年の受験生のMさんだったり、学力高めの子だった
記憶があります。「今日ここまでやったらテレビみてよし」等。少し皆さんも促してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は自分に賞を与えるのが下手な人間です。自己強化を増すために、ご褒美の設定をしてみたいと思います。

教育心理の部屋

第1回「自己効力」

第1回
2017/12/9
「自己効力」

バンデュラは、行動すれば結果を変えられるという期待を結果期待と呼び、そのために必要な行動を自分がとれるかどうかの信念を自己効力と呼び両者を区別しました。

私が高3の時『星の金貨』を見て「医者になりたい」と思い立った時、医学部の問題をみて即座にやめた経験があります。この場合、行動として毎日3時間以上2~3年ぐらい勉強すれば合格できると思ました。実際にそのようなアドバイスを専門の先生からもらいました。しかし、その行動を自分がとれる自信は全く持てませんでした。自己効力が低いとは、自分にはその努力は無理だと諦めてしまう事と解釈して良いと思います。

N君の「どうせやっても」というのは、勉強しても結果は出せない=結果期待が低く、相応の時間自分は勉強できない=自己効力が低い、のどちらが当てはまるのでしょうか。結果期待が低いのは本当に困りものです。何か特別なアプローチが必要かもしれません。まずは自己効力の方を上げるところから皆さんにやってみて欲しいです。まず1日15分勉強やってみようか、次30分勉強できたよね、次40分できたよね、と勉強量=努力ができることを塾生に認知してもらいたいと思っています。

宗興の本棚

第19週『舟を編む』

第19週
2017/12/9
『舟を編む』
三浦しをん 著

私が読む本はほぼビジネス書ばかり。少し幕間が欲しくなり、久しぶりに小説を手にとりました。本書は2012年本屋大賞の大賞受賞作であり、翌年映画化もされました。

内容としては、出版社勤務の主人公が辞書編集部に異動になり、新しい辞書の制作を10年以上もかけて行い、その間に起こる人間模様を中心に描いた作品です。

読後感としては、何か心が少し暖かくなるような感覚で、涙が一筋こぼれてきました。辞書編集という地味で地道な作業。また主人公を含めそこに携わる人物も一部を除き基本は派手さがなく地味。物語も大きな浮沈がなく、どちらかというと淡々と緩く進むので地味。ただ、その地味な人達が、言葉の魅力にとりつかれ、辞書編集には比肩できない程の情熱をもち、人生を捧げる姿に若干の憧憬の念を抱きました。

私の好きなシーンは、編集部で唯一派手なキャラクターの男が、学生時代からつかず離れずの距離にいる女性とのシーン。互いに束縛し合わない関係が彼にとって楽であったのですが、いつしか恋愛的に好きではない筈の彼女に癒され、自身の本心の愛情に気づいていきます。はっきりいってベタですですが、余計なものが削ぎ落されると純度の高い「素敵な」ものが表出してくる過程は、こちらもときめくものがありました。

実用的なビジネス書の世界に、瑞々しい感覚を入れてくれた本書。心の余白を生み出すと共に「潤い」となりました。
(583字)

宗興の本棚

第18週『やさしい教育心理学』

第18週
2017/12/2
『やさしい教育心理学』
鎌原雅彦・竹綱誠一郎 著

ライフスキル教育の専門家として、学術的な知識基盤を培いたいと考えて手に取った本書。「やさしい」と言いながら完全な学術書であり、読了するのに1ヶ月はかかりましたが、咲心舎の実践に照らして大変参考になる書籍でした。

そもそも教育心理学とは、教育問題を心理学的見地から研究する学問です。領域は確固たるものは決まっていないようですが、本書に沿うと6つに大別できます。①思考・学習と指導法②意欲と動機付け③学校世界④測定と評価⑤成長と発達⑥カウンセリングです。

特に私が興味深かったのは①の部分で、そもそも「学ぶ」とは何かを探求した章でした。学ぶというのは知識が主役であり、事実についての知識(宣言的知識)とやり方についての知識(手続き的知識)の二つに区別することができます。そして人間の生活はこの二つを用いながら、問題解決をしていく事とのこと。例えばお昼何にしようかを決めることも問題解決と言えるので、生きている事そのものが問題解決行為と言えます。

これは私の思想の土台形成の一助となる程、有用な内容でした。今後は本書のキーワード、研究内容などを1週間に1回ピックアップし、咲心舎にて実践し、レポートに書いていきます。この学術的知識の継続実践を通して咲心舎の教育力を高めていきたいと考えています。
(541字)