教育心理の部屋

第15回「孵化効果」(第2章 学ぶことと考えること)

第15回
2018/3/24
「孵化効果」(第2章 学ぶことと考えること)

問題解決を阻むものとして「孵化効果」というものがあります。ずっと問題を考えていて煮詰まることがあると思います。その際、少し休憩して離れるとその問題の答えがひらめくことがあります。鳥が卵を温めると孵化するように、創造的な解は少し間を置くなど「温める期間」が必要な場合があります。それを心理学では孵化効果(Incubation Effect)といいます。

Andersonは1980年に「安いネックレス問題」でこの孵化効果を提示しました。ここに3つのネックレスがつながれた集合が4つあります。
ひとつの輪を開くのに2セント、閉じるのに3セントかかるとして、15セント以内で4つの集合をひとつなぎの輪にするのにはどうしたらよいか、という問題です。答えは、まず1つの集合を全部開きます。これで2セント×3回=6セント。開かれた3つの輪を残りの3つの集合の接続点としてつなぎ、閉じるので3セント×3回=9セント。合計15セントとなります。

この問題を連続して30分考える場合と、中休みを入れる場合を比較すると、中休みを入れた方が正解率が高かったといいます。ちなみに被験者は中休みの間は関係ない他の事をしていました。

この孵化効果を塾生に適用するとなると、ある塾生がしばらく考えても問題が解けない場合、三つの事を促進するのが良いと考えます。①休憩してもらう②別の問題を解いてもらう③別の教科を行ってもらう、です。

宗興の本棚

第34週『バクノビ 子供の底力を圧倒的に引き出す339の言葉』

第34週
2018/3/24
『バクノビ 子供の底力を圧倒的に引き出す339の言葉』
坪田信貴著 KADOKAWA

ビリギャルで有名な坪田さんの著書。情熱大陸の坪田さんをみて「変な人」だなと感じて以来、ライバル心もあり基本スルーしてきましたが、今回坂上さんの薦めで手に取りました。

まず、339の言葉自体を作りだすのは凄いと思います。その上で、現場で使おうと思う三つの項目を列挙します。

一つ目は、素直ではない子の接し方。「自分を理解してくれている人、または理解してくれようとする人には素直になる」という意見は、腹にしみます。傾聴が重要であり、傾聴する時も「勉強やりたくないよなあ」と共感から入ることで「分かってくれる」感覚を持ってもらえると思います。

二つ目は、キレやすい子への対処法。坪田さんは指導に不満顔をし、自分のテスト用紙を丸めるAさんの姿を撮影しました。その映像を彼女に見せたところ、「これはひどい。知らなかった。」と態度を改め始めたとのこと。その後も都度撮影してみてもらったところ、キレなくなったそうです。塾生が「知らない」で失礼な態度をとることは多いです。授業風景をビデオ撮影し見せる事が、塾生の受講姿勢の改善につながるかもしれません。

三つ目は、「要領が悪い」と叱る前に。ペットボトルの水をコップに注ぐ行動を分解すると29項目になったそうです。子供にはそれぐらいかみ砕いて指示をする必要があるとのこと。あらためて塾生には細かく伝えることが重要と感じます。更に、皆でより「伝わる」方法を探求し続けたいです。

教育心理の部屋

第14回「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

第14回
2018/3/18
「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

数学、英語という勉強だけでなく、夜何を食べようかから、環境問題の解決まで、私達は日々問題解決活動を行っていると言えます。その問題解決の際に短時間で解決することを助けるのがヒューリステイックスです。

ヒューリスティックスは必ずしも解決が保証される訳ではないが、短時間でおおよその答えを得る可能性のある方法を指します。例えば、携帯のパスワードを忘れたとき、全ての数字を試すのは非効率です。自分の誕生日や電話番号などで試してみる思考がヒューリスティックスです。他にも「問い合わせがくる広告は?」という問いに、見やすさ、絵が多い、説明がしっかりしている等々、あらゆるパターンを考えるより、「実績を掲載する」が一番問合せの可能性があり、これがヒューリステイックな考え方です。経験則からくる仮説思考と言えるかもしれません。

このヒューリステイックの話から、正しい経験則を増やしていけば、解決のスピードが上がり、解決量も増えると考えられます。経験則は私が今研修で行っている「教訓化」によって個々人が作成できます。成功や失敗を含めた具体的事象から抽象的に自分の上手くいく原則まとめるのです。塾生に対しても自分の経験則を増やす試みをしていくと、ヒューリスティックができる、且つ精度が上がるはずです。具体的には、ビジョンセッションのマイルールを例えば、「自分のやる気を出す3ヶ条」的に設定するのも一つの手かもしれません。
(598字)

宗興の本棚

第33週『フランス革命 歴史における劇薬』

第33週
2018/3/18
『フランス革命 歴史における劇薬』
遅塚忠躬著 岩波ジュニア新書

教育改革の実現要素は何か。歴史上の革命(社会構造の改革)から要素を抽出し、教育改革の参考にする意図で本書を手に取りました。

フランス革命は、明治維新と違い、大衆という虐げられていた弱い者たちが主体となり革命を起こしました。主体が今の私の立場に近いという事も、フランス革命を分析対象とした理由でもあります。

フランス革命のポイントは3つあると考えました。

まず時代背景として、旧体制の行き詰まりがあります。覇権を争っていたイギリスは産業革命で工業化が進み、フランスは後れをとります。明治維新同様、外圧による危機感が改革の土壌を醸成する点は注目すべきです。

二つ目は、ブルジョワジー(富裕な商工農業者・知識人)の台頭です。資本主義という新しい経済システムの中核をなすのがブルジョワジーであるため、彼らの力は必然的に増し、三部会など議会でも力を持ちます。ここから読み取れるのは、時代の流れを推進する者が主役になるという点と、やはり改革には政治的な力が必要という点です。

三つ目は、革命には大衆の力が必要だったということ。大衆の情念の巨大な噴出によりバスティーユが起こり、王政が廃止されました。ここから、結局世論に認知され味方にする事が重要と考えます。一方大衆の「情念」はリスクがあり、フランス革命は内部抗争や蜂起など血で血を争う事態となっています。今後イギリス名誉革命、日本の明治維新もあらためて分析していきます。
(599字)

教育心理の部屋

第13回「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

第13回
2018/3/11
「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

宣言的知識の他に、もう一種類の知識は、手続き的知識といいます。手続き的知識は、こういう場合はこうしろという規則(プロダクションルール)の集まりと考えられています。例えば、もし(if)赤信号なら、そのときは(then)ブレーキを踏めというように、プロダクションルールはif-thenという形で表現されます。

地頭の良いと私達が言っているのは、この手続き的知識の定着が良い子を指すのかもしれません。もし主語が三人称ならsをつける。単位がcmなら100倍する。など、二手三手の手続きができるというイメージです。

5教科の中で、手続き的知識が多く必要なのは数学だと思います。計算ひとつとっても、繰り上がり繰り下がり、通分、約分、正負、カッコ、とプロダクションルールが数多く出てきます。計算間違いは、4+5=9という単純間違いより、プロダクションルールの欠如か、間違ってあてはめているか、のどちらかが多いと言えます。

ここから私達の指導に次の点を取り入れたいと考えます。指導をする際にルールを意識してもらうという事です。計算ができないのは、分数のルールや、累乗のルールなど、プロダクションルールが定着していなことによります。逆にルールを意識せずただ単に物量をこなすだけでは一向に計算力が上がりません。四則計算をする際に、より「ルール」という言葉を多用し、各塾生にルールを意識化することを促進してもらいたいです。
(599字)

宗興の本棚

第32週『史上最強の哲学入門』

第32週
2018/3/11
『史上最強の哲学入門』
飲茶 河出文庫

「社会を本当に変えてきたのは、革命家や大衆である前に、彼らを支えた思想家たちの言説であると思う。」これは日本政策学校で知り合った馬場さんの投稿です(1/9)。フランス革命のルソー、共産主義革命のマルクスなど、世の変革にはそれを支えた思想家がいます。私自身、ライフスキル教育で大きな社会のうねりを創ろうとしています。自分が依拠できる思想を持つことは以前からの宿題であり、本書を手にとりました。本書は馬場さん主催の哲学勉強会の課題図書でもあります。

本書の中で私が納得・共感した5名の西洋哲学者を列挙します。

ルソー。人間は国家などなくても、互いに助け合って暮らしていける平和的な生き物と考えており、この人間観は私には合います。

ヒューム(イギリス経験論哲学)の、「神も科学も思い込みに過ぎない。人間の知覚を中心とした経験上の産物に過ぎない。」という考えも、現実的で納得感があります。

カント。人知を越えた真理を求めるロマンではなく、人間にとっての真理を求める現実的な方向へと哲学を変えました。人間にとって意味あるものを考えるスタンスに私も共感します。

サルトル。自由とは「何が正しいのかわからないのに『好きにしろ』と放り出されてしまった不安定な状態のこと」を指し、人間は自由の刑を科せられていると言っています。だからこそ思いっきり生きろ。折角やるのだから大きな舞台=歴史を進めるぐらいに、というメッセージは清濁併せのみつつそれでも起ち上がる感覚で、深く共鳴します。

ニーチェ。人間本来の根源的なまっすぐの欲望とは力への意志。宗教が人間の生きる力を弱めた。強くなりたいという意思をしっかり自覚し、それから目を背けないという考えの人間主体、人間礼賛の部分に共鳴をします。

この他、フッサールやソシュールにも興味がわきました。こうみると、自分の筋が「人間礼賛」的であることが見えてきました。私は人間は素晴らしいと思っています。そして生をそれぞれの目的で充実させ、まっとうしたいという強い渇望がある存在であるとも思っています。次に別の書を使い、上記5名の内容をもう少し詳しく掘っていき、誰が自分の思想の依拠する方になるのか探っていきます。また東洋思想の本も読み進めます。
(923字)

教育心理の部屋

第12回「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

第12回
2018/3/4
「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

私達が既に持っている知識が、科学的な概念や知識の受容、応用を妨げる場合があります。それをクレメントはコイン投げ上げ問題(1982年)で、実証しました。コインを上に投げた際、上昇中と下降中でコインに働く力を選ぶ問題を出しました。Aは、上向きの力と下向きの力、Bは下向きの力のみ、の二つの選択肢です。答えはBなのですが、全員高校物理を終えた工学部における大学生の12%しか正解できず、その中の72%が
物理学受講1セメスター後にも間違え、更に、その中の70%が物理学受講2セメスター後にも間違ったということです。

ニュートンの慣性の法則によると、力を加えなければ物体は等速運動をし、力を加えると速度変化を引き起こします。コインを投げ上げると、コインに働いている力は重力だけであり、Bが答えになりますが、私たちは等速運動しているときも、運動している方向に力が働き続けていると考えがちです。

私も、咲心舎で理科を教える前はAの感覚でした。地面に置いてあるものを動かすには引っ張る力が必要で、動かし続けるには力を加え続けることが必要です。私達はこのような日常の経験から運動や力について「こういうもの」という概念を形成していると考えられ、これを素朴概念と呼びます。

素朴概念が科学的概念の吸収を阻害しないためには、むしろ素朴概念を利用することが良いと思います。「確かに力が加わり続けているようにみえるよね。でも摩擦ないところで投げたらあとは、力を加えなくても等速にいくじゃない。力が働くのは最初だけで、あとは自然に進んでいる。」といった具合に説明すると、より塾生の知識の習得が進むのではないでしょうか。
(691字)

宗興の本棚

第31週『人を伸ばす力』

第31週
2018/3/4
『人を伸ばす力』
エドワード・L・デシ+リチャード・フラスト 桜井茂男訳 新曜社

内発的動機付けの権威、エドワードデシ教授の著書。内発的動機付けは、活動すること自体がその活動の目的であるような行為の過程を指します。ソマパズルで報酬を渡した学生は、その後パズルを行わない。報酬がない学生はパズル自体に興味を示し、ずっと遊んでいるという結果から、デシ教授は報酬が意欲を低下させることを明確にし、行動主義の報酬と罰が全盛の時代に、大きな衝撃を与えました。

このデシ教授に私が共感する所が、単に「自由にさせましょう」と言わない点です。「自律性の支援が自由放任と同じではないことは、いくら強調したくても強調しすぎることはない。」とデシ教授は述べています。私達の社会システムの中で統制を回避するのは不可能です。朝の目覚まし時計、仕事へと駆り立てる圧力、締め切り、評価、報酬。では現実的にどうすれば良いのか。そこが難しい部分です。デシ教授も「統制しないで励ますというスタンスは一見容易だが、実は強制することよりもむずかしく、より多くの努力や技能が要求される。」と述べています。

ここでデシ教授は、内在化の考えを伝えています。取り入れではなく統合。例えば、親の期待を取り入れるか、内的欲求と統合していくか、子供の成長に大きな差異がでます。私達におきかえれば、私達の指示を子供たちが取り入れ(強制)るのか、統合になるかは私達のスタンスと技術次第です。

統合を促進するには、理由づけ、承認、選択の3つがあります。承認は共感と言い換えてもよいです。大人と子供で言えば、子供の立場を尊重しているという大人側の態度が子供に伝わること。「絵の具をこぼしたりして遊ぶことが本当に楽しいことはわかるけど、ここは他の友達も
使うから、道具や部屋をきれいに使ってください」と伝えたところ、自律性を支える条件では子供を心理的にプラスの効果が見られ、統制する条件ではやる気を失わせる結果となったそうです。これは咲心舎でもすぐにできることと感じます。

ある理論を提唱した方の原書(訳書)を読むと、一つ一つの言葉に重みがあり、奥深く味わいがあり、本当にためになります。この本も、何度も読み返し、ライフスキル教育のバックボーンにしていきます。
(902字)