教育心理の部屋

第12回「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

第12回
2018/3/4
「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

私達が既に持っている知識が、科学的な概念や知識の受容、応用を妨げる場合があります。それをクレメントはコイン投げ上げ問題(1982年)で、実証しました。コインを上に投げた際、上昇中と下降中でコインに働く力を選ぶ問題を出しました。Aは、上向きの力と下向きの力、Bは下向きの力のみ、の二つの選択肢です。答えはBなのですが、全員高校物理を終えた工学部における大学生の12%しか正解できず、その中の72%が
物理学受講1セメスター後にも間違え、更に、その中の70%が物理学受講2セメスター後にも間違ったということです。

ニュートンの慣性の法則によると、力を加えなければ物体は等速運動をし、力を加えると速度変化を引き起こします。コインを投げ上げると、コインに働いている力は重力だけであり、Bが答えになりますが、私たちは等速運動しているときも、運動している方向に力が働き続けていると考えがちです。

私も、咲心舎で理科を教える前はAの感覚でした。地面に置いてあるものを動かすには引っ張る力が必要で、動かし続けるには力を加え続けることが必要です。私達はこのような日常の経験から運動や力について「こういうもの」という概念を形成していると考えられ、これを素朴概念と呼びます。

素朴概念が科学的概念の吸収を阻害しないためには、むしろ素朴概念を利用することが良いと思います。「確かに力が加わり続けているようにみえるよね。でも摩擦ないところで投げたらあとは、力を加えなくても等速にいくじゃない。力が働くのは最初だけで、あとは自然に進んでいる。」といった具合に説明すると、より塾生の知識の習得が進むのではないでしょうか。
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宗興の本棚

第31週『人を伸ばす力』

第31週
2018/3/4
『人を伸ばす力』
エドワード・L・デシ+リチャード・フラスト 桜井茂男訳 新曜社

内発的動機付けの権威、エドワードデシ教授の著書。内発的動機付けは、活動すること自体がその活動の目的であるような行為の過程を指します。ソマパズルで報酬を渡した学生は、その後パズルを行わない。報酬がない学生はパズル自体に興味を示し、ずっと遊んでいるという結果から、デシ教授は報酬が意欲を低下させることを明確にし、行動主義の報酬と罰が全盛の時代に、大きな衝撃を与えました。

このデシ教授に私が共感する所が、単に「自由にさせましょう」と言わない点です。「自律性の支援が自由放任と同じではないことは、いくら強調したくても強調しすぎることはない。」とデシ教授は述べています。私達の社会システムの中で統制を回避するのは不可能です。朝の目覚まし時計、仕事へと駆り立てる圧力、締め切り、評価、報酬。では現実的にどうすれば良いのか。そこが難しい部分です。デシ教授も「統制しないで励ますというスタンスは一見容易だが、実は強制することよりもむずかしく、より多くの努力や技能が要求される。」と述べています。

ここでデシ教授は、内在化の考えを伝えています。取り入れではなく統合。例えば、親の期待を取り入れるか、内的欲求と統合していくか、子供の成長に大きな差異がでます。私達におきかえれば、私達の指示を子供たちが取り入れ(強制)るのか、統合になるかは私達のスタンスと技術次第です。

統合を促進するには、理由づけ、承認、選択の3つがあります。承認は共感と言い換えてもよいです。大人と子供で言えば、子供の立場を尊重しているという大人側の態度が子供に伝わること。「絵の具をこぼしたりして遊ぶことが本当に楽しいことはわかるけど、ここは他の友達も
使うから、道具や部屋をきれいに使ってください」と伝えたところ、自律性を支える条件では子供を心理的にプラスの効果が見られ、統制する条件ではやる気を失わせる結果となったそうです。これは咲心舎でもすぐにできることと感じます。

ある理論を提唱した方の原書(訳書)を読むと、一つ一つの言葉に重みがあり、奥深く味わいがあり、本当にためになります。この本も、何度も読み返し、ライフスキル教育のバックボーンにしていきます。
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