宗興の本棚

第36週『思考の生理学』

第36週
2018/4/6
『思考の生理学』
外山滋比古著 ちくま文庫

本書は2018年115刷225万部を誇るベストセラーです。思考の質を高める目的で、しかも「東大京大で一番売れている本」という文句に誘われ、手に取りました。

印象的だった章を主に二つ挙げます。

まず「醗酵」という章。論文のテーマが決まらない学生が多い中、自分でテーマをつかむ方法として醗酵が紹介されています。最初に、自分が感心する所、違和感を抱く所、分からない部分などを書きぬく。そして、繰り返し心打たれる所が、テーマの素材となります。しかし、『ビールと一緒で、麦がいくらたくさんあっても、それだけではビールはできないと同じである。ここにちょっとしたアイデアやヒントが欲しい。』と先生は仰っています。週刊誌、読書、テレビ、新聞、他人との雑談などに思いがけないヒントがあり、それが醗酵素となります。「寝させる」中で「素材と酵素の化学反応」が進行し、しかも、しばらく忘れるぐらい放っておくとテーマが生まれるそうです。

もう一つは、「醗酵」に続く「カクテル」という章。生み出したテーマは混ざりものがない自分の思考であり、それは独創になります。しかし、『ものを考える人間は、自信をもちながら、なお、あくまで謙虚でなくてはならない』とあるように、生み出したテーマには諸説があります。それらを自論と上手く混ぜ合わせながら、まるでカクテルを作るように調和折衷させていくと優れた論文になっていくそうです。『すぐれた学術論文の多くは、これである。人を酔わせながら、独断におちいらない手堅さをもっている。』と仰っています。

教育手法や世を変える手法を生み出すことは、まさに創造的な仕事です。醗酵とカクテルを現場で実践していきます。
(700字)