宗興の本棚

第56週『GRIT やり抜く力』

第56週
2018/8/25
『GRIT やり抜く力』
アンジェラ・ダックワース著 神崎朗子訳 ダイヤモンド社

やり抜く力は、ライフスキルの向き合う力に近く、その正体と伸ばし方を知りたいと思い手に取った本です。最初から最後まで科学的で興味深い話が続き、読みごたえがある本でした。

米国陸軍士官学校は入学審査が厳しく、学校の成績が抜群に優秀で、大学進学適性検査(SAT)も高い得点が必要とされます。更に、入学には政治家の推薦状と体力測定の高得点が必要であり、大体が各高校を代表するスポーツ選手でその大半はチームのキャプテンという状況。つまり入学者は超精鋭の1200名なのです。入学した初期の厳しい7週間の基礎訓練をビーストと呼びますが、このビーストの訓練で脱落した者が71名います。この脱落者と残った人ではグリット・スケールで顕著な差が出ていました。このような研究から「才能があってもやり抜く力が強いとは限らない」と著者は言っています。そして、得点の才能とは努力によってスキルが上達する速さのこと。達成は、習得したスキルを活用することによって表れる成果であり、「才能×努力=スキル、スキル×努力=達成」であるとも言っています。つまり、努力をし続けるやり抜く力が必要ということです。

また、ヘスターレイシーという英ジャーナリストの調査も興味深かったです。レイシーは単なる成功者ではなく、200名以上のジェフベソスに並ぶ「メガ成功者」のインタビューを行いました。そしてメガ成功者たちの共通点は、「この仕事が大好きだ」ということ。「好き」ではなく「大好き」ということなのです。

努力に関しても、単なる努力ではなく「意図的な練習」が必要という事ははっとさせられました。認知心理学者アンダース・エリクソンの研究で、エキスパート達の練習方法を分析した結果、多量の時間は当然であり、「意図的な練習」が鍵を握ると結論を出しました。ある一点に絞ってストレッチ目標を設定する、集中して練習する、改善を繰り返し上手くなるまで行う。この一連の流れを意図的な練習と著者は呼んでいます。

本書ではマインドセットの話も出てきます。アメリカの特別認可学校KIPPでは、教員育成の明確な方針が定められている。その中で子供への声掛けの仕方で、(やり抜く力を妨げる表現)「これは難しいね。できなくても気にしなくていいよ。」(やり抜く力を伸ばす表現)「これは難しいね。すぐにできなくても気にしなくていいよ。」が目に留まりました。微細な違いも、子供達のやり抜く力を伸ばすことに影響があることは勉強になりました。

最後に子育てです。「賢明な子育て」の答えは出ていると著者は言います。賢明な育て方は、「要求が厳しく×支援を惜しまない」育て方です。褒めるか叱るかの二律背反ではありません。心理学者のローレンスタインバーグの研究で、1万名のティーンエイジャーの親の行動に関するアンケート調査をしたところ、性別、民族性、社会的地位、婚姻区分にかからず、「温かくも厳しく子供の自主性を尊重する親」を持つ子は、他の子より学校の成績が良く、自主性が強く不安症やうつ病になる確率が低いと出ているそうです。

加えて、偉業を達成した水泳選手達はほぼ例外なく親が水泳に対して興味を持っていたそうです。子供にコーチをつけ、水泳大会に参加させる経済的な余裕があったと。親として子供のやりたいことに興味を持つことは、やり抜く力をつけるために、必要なことなのです。
(1382字)

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第55週『春琴抄』

第55週
2018/8/18
『春琴抄』
谷崎 潤一郎著 新潮文庫

多量のビジネス関連書籍を読んできた中、やや食傷気味で潤いが欲しくなりました。こういう時は文学作品です。ただ陰鬱なものではなく、透き通るような美しい世界観や美しい日本語を持つ作家の作品。丁度それならと谷崎潤一郎を相方から勧められ手に取りました。

内容は盲目の美女春琴と、春琴を慕う弟子の佐助、この二人の歪曲した愛の物語でしょうか。まず句点をほとんど使わず、それでいて柔らかな谷崎の語り口は流麗で、読んでいて体に潤いが生まれました。心地よい流れの中、一気に読み進めてしまいした。

主題の「愛」については、いわゆるSM的な愛を描写していると感じます。ただ単なる快楽を求めたSMではなく、より深淵な愛。「あなたは盲目で顔に傷ができた。だから私も盲目になった。これであなたの傷は見えないし、あなたの姿は私の中で美しいまま色あせない。むしろ盲目になりより一層美しさを感じる。」解説者が『美的恍惚の極致』と表現していたこの「愛」は、嗜虐性があり違和感はあります。ただ、嫌悪を感じずむしろ清々しさや神々しさを感じるのが不思議です。

明眸(めいぼう)、蘊奥(うんおう)、憫殺(びんさつ)、蠱惑(こわく)、怏々(おうおう)、真諦(しんてい)、実体(じってい)等々、秀逸な文学的熟語がちりばめられており、知的好奇心をくすぐり日本語の豊かさも感じることができました。他作品を読みもう少し谷崎ワールドを堪能したいと思います。
(596字)

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第54週『右四間飛車戦法』

第54週
2018/8/12
『右四間飛車戦法』
先崎 学著 創元社

将棋をはじめて1年半。この半年以上、宗真と実来の昇級が滞り、僕自身も成長実感があまり持てていませんでした。棋力が伸びない理由は、将棋の基本的な考えと技が身についていないからです。これは一つの戦法に習熟してないことに起因すると考えました。色々な戦法を試してはいるものの、繰り返し行う戦法が固まっておらず、考えや手筋(技)を学んでも忘れてしまい使う機会がなく身につかない。よって、本をもとに一つの戦法に習熟していき、そこから考えと技を学ぶことが近道と考え、本書を手に取りました。

まず6月下旬に私が吉田家全員昇級計画を作成しました。そして「夏休み終わるまでに昇級しなかったら将棋教室は終わり」と崖っぷち宣言をし、危機感を醸成すると共に3つのことを進めていきました。
①詰め将棋を毎日/週1回みおみお杯(100マス的反復・3回買ったら豪華お菓子)
②朝1時間吉田ができる日に本から学ぶ(学習)
③宗真と実来で毎日平手&感想戦(実践・内省 感想戦は毎回喧嘩となり微妙)

将棋本というのは、樹形図のような構成になっています。分岐点で選択肢が幾つかあり、一つの選択肢にまた分岐点がありといった形です。よってノートに樹形図を書くところから始まります。そして、3パターンぐらいを1時間で、宗真と実来と一緒に指していきながら、戦法の流れや手の意図を覚えていっています。

結果として、6月下旬から初めて1.5ヶ月たった昨日二人とも昇級しました。実際に「おまけかな」と思って、宗真と平手で指してみたら大苦戦。負けの一歩手前で相手のミスで勝ったような状況。つまり確実に強くなっていました。現在は新しい本「四間飛車」に入っていますが今後「棒銀」「中飛車」「相矢倉」と計5つの本(戦法)を制覇できれば、中級クラスになるはずです。一方先生の私の方は、自分で指して動きを確認していないので、実はあまり伸びていません。復習の時に実来に先生をしてもらい、実際に動きを確認します。

今回は書評というより、本をどう使うか的な話になりましたが、プロの将棋本から「逃げずに攻める姿勢」を学んでいます。この本だけにとどまらず、どのプロも攻められた時や駒損(犠牲)があっても、「強く指す」と言っています。
(921字)

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第53週『人材開発マネジメントブック 学習が企業を強くする』

第53週
2018/8/4
『人材開発マネジメントブック 学習が企業を強くする』
福澤 英弘著

企業における人材開発の体系的知識を深めるために手に取った本第二弾です。人材開発の専門家としてこんなことも知らなかったのか、という知識があり役立ちました。

まず4つの学習スタイル。①学習移転モデル②経験学習モデル③批判的学習モデル④実践コミュニティモデルがあり、目的に応じて適用する必要すると効果的に学習が進みます。例えば、正解がある知識を付与する場合は①学習移転モデルが効率的。独自の知見(マイセオリー)を生み出すには②経験学習モデルが効果的。そもそもの前提や手段を疑う時は③批判的学習モデルが良いでしょう。大学の研究室のように情報量を増やすには④実践コミュニティが効果的です。

②の経験学習モデルのマイセオリーの所は是非取り入れたいです。ただ漠然とライフスキルを振り返るのではなく、マイライフスキルシートの中に、1ヶ月に1回自分なりの上手くいく、いかない法則を記入する枠を設けることで、塾生にステップアップしてもらいます。

次に、能力の話も有用でした。ガニェは獲得できる能力を①知的技能②認知的方略③言語情報④態度⑤運動技能と整理しました。ビジネス世界においては筆者のようにシンプルに①知識②スキル③メタスキル④態度としても良いと思います。マクレランドの弟子スペンサーは、コンピテンシーを①動因②特性③自己イメージ(態度・価値観)④知識⑤スキルに分類しました。この辺りの知識も有用です。インストラクショナルデザイン、ADDIEEモデル(Analyze、Design、Development、Implement、Evaluate)も知識として入れておくべきことです。

最後に、講師の4タイプも面白かったです。構造化重視⇔流れ重視、知識授与⇔知識・思考を引き出すの4象限に分かれます。構造化重視&知識・思考を引き出すタイプはファシリテータータイプで吉田。知識授与⇔流れ重視は研究者タイプで英明でしょうか。
(797字)