第55週
2018/8/18
『春琴抄』
谷崎 潤一郎著 新潮文庫
多量のビジネス関連書籍を読んできた中、やや食傷気味で潤いが欲しくなりました。こういう時は文学作品です。ただ陰鬱なものではなく、透き通るような美しい世界観や美しい日本語を持つ作家の作品。丁度それならと谷崎潤一郎を相方から勧められ手に取りました。
内容は盲目の美女春琴と、春琴を慕う弟子の佐助、この二人の歪曲した愛の物語でしょうか。まず句点をほとんど使わず、それでいて柔らかな谷崎の語り口は流麗で、読んでいて体に潤いが生まれました。心地よい流れの中、一気に読み進めてしまいした。
主題の「愛」については、いわゆるSM的な愛を描写していると感じます。ただ単なる快楽を求めたSMではなく、より深淵な愛。「あなたは盲目で顔に傷ができた。だから私も盲目になった。これであなたの傷は見えないし、あなたの姿は私の中で美しいまま色あせない。むしろ盲目になりより一層美しさを感じる。」解説者が『美的恍惚の極致』と表現していたこの「愛」は、嗜虐性があり違和感はあります。ただ、嫌悪を感じずむしろ清々しさや神々しさを感じるのが不思議です。
明眸(めいぼう)、蘊奥(うんおう)、憫殺(びんさつ)、蠱惑(こわく)、怏々(おうおう)、真諦(しんてい)、実体(じってい)等々、秀逸な文学的熟語がちりばめられており、知的好奇心をくすぐり日本語の豊かさも感じることができました。他作品を読みもう少し谷崎ワールドを堪能したいと思います。
(596字)