宗興の本棚

第74週『学習する組織』

第74週
2018/12/31
『学習する組織』
ピーター・M・センゲ著 英治出版

約4ヶ月かけて少しずつ読み進めてきた本書。この本を700字程度でまとめるのは困難であり、今回は「学習する組織」を構築する5つの原則の一つ「自己マスタリー」についてのみ書きます。

学習する組織を一言でいえば「変化をし続けられる組織」であり、トップに依存することなく、組織の至るところで個の能力と意欲が解き放たれ最大化し続けている組織、と私は捉えました。その組織の構築のために、まずセンゲ教授は「自己マスタリー」というディシプリンを挙げています。マスタリーは「熟達」という和訳がよく出てきますが、本書では「心技体を磨いていく過程」と意訳した方がしっくりきます。

『自己マスタリーというディシプリンは継続的に私たちの個人のビジョンを明確にし、それを深めることであり、エネルギーを集中させること、忍耐力を身に着けること、そして現実を客観的に見ることである。』
『自己マスタリーのディシプリンは、まず私たちにとって本当に大切なことを明確にし、自分の最高の志に使える人生を生きることである。』とあります。
つまり、単なるスキル向上にとどまらずに、能動的に自分の人生をより良くし続けていくことを指しているのだと思います。

そして自己マスタリーと個人ビジョンはセットであり、ビジョンと今の現実のはっきりしたイメージを対置させたときに「創造的緊張」と呼ばれるものが生まれる、とあります。『自己マスタリーの本質は、自分の人生においてこの創造的緊張をどう生み出し、どう維持するかを学習することだ。』と言っています。自己マスタリーが高いレベルの人にとって、ビジョンとは単なる良い考えではなく天命となると言っていて、このあたりも腑に落ちます。
また、感情的緊張と創造的緊張を混同してはいけないともセンゲ教授は言っています。感情的緊張=不安に耐えられないとき、ビジョンの引き下げが起こりやすいからです。

私達が提唱している「ライフスキル教育」も、個人ビジョンありきです。自分の価値観をもとにした心の底からありたい姿を明確にし、随時更新していく力が成熟社会で幸福度を高めるには必要と考えています。なぜなら成熟社会は社会が生きる目標や目的を示してくれず、自分で考える必要があるからです。本章を読み、学術的研究のパワーにまた一つ背中を押してもらえた感じがします。
(957字)