教育心理の部屋

第51回「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第51回
2019/2/23
「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
本書では何を知るのかという点で3つを挙げている。
1.学力を知る
2.知能を知る
3.性格を知る

また1.学力を知る方法は、5つある。
・客観式テスト
・論述式テスト
・作成・制作物による方法
・観察法
・質問紙法

観察法について、生徒の普段の授業での学習状況、挙手や発問などを観察することによって評価のための情報を得ることができる。こうした観察は、日々の授業での生徒の理解度、興味・関心を知るうえで大変重要であり日常的に行われている。観察による評価によって、教師は日々の指導を修正していくことになり、形成的な評価に観察は多くの有用な情報を与える。しかし、日常的な観察は、観点があいまいなままはっきりと意図せずに行われていることが多く、たまたま目にした場面のみで評価されたり、目立つ生徒が肯定的、否定的に評価されたりしかねない。観察の場面や観点を明確にすることや、行動としては現れない側面を知るために質問紙法などの他の方法による情報と比較をすることが大切である。

【所感】
咲心舎の講師陣は観察に注力しています。自習室に来ている、質問をしてくる、正答発言が多くなった、自己学習の完遂度が高くなった、表情が明るい、真剣度がました等々、観察による定性的変化から得られる情報は多く、塾生状況を把握する貴重な材料になります。具体的には学力向上と低下の原因仮説を立てる時や、塾生への働きかけを行う際に重要です。塾生がぽろっと口にしたちょっとした一言、つまり些細なことでも見逃さないことも含め、高橋、深松はかなり観察を徹底していると感じます。

一方で、観察法は主観的且つ定性的であり、学力を評価する上では信ぴょう性に欠けます。意欲が低かった塾生が、自習室に来る、自己学習の完成度も高くなった、だけど定期テスト前の確認テストで点数がとれない、という事態がありました。観察のみで満足していたら、正しい学力が測れず、対策も不適切なものになっていたことでしょう。よって、咲心舎では必ず定量情報=テストで学力を判断するようにしています。つい観察だけで学力判断をしそうになりますが、少し手間がかかっても「数字で判断する」ことをこれからも徹底し続けていきます。(909字)

宗興の本棚

第82週『日本の歴史をよみなおす(全)』

第82週
2019/2/23
『日本の歴史をよみなおす(全)』
網野善彦著 ちくま学芸文庫

今年から特に意識をしたいテーマが「教養を深めること」。自身の専門領域の下支えとなる文化的な知識、能力、品位を磨いていきたいと思っています。教養の中でもより深めたい領域は様々ありますが、まずは日本の歴史と文化からと考え本書を手に取りました。

著者は独自の研究からこれまでの日本史の通説に異論を展開しており、「網野史観」とも呼ばれています。本書には好奇心をそそる多くの事実と主張があったのですが、その中で特に興味深かった二つを挙げます。

一つ目は、「日本」という国号について。この国号は、他国でよく見られるような、王朝名ではなく、王朝を建てた人の部族名でもない。そして地名でもありません。そして「ひのもと」と読むとすれば、東の方向ということなり、中国大陸を強く意識したものと捉えることができます。そして、太陽信仰を基盤に、太陽神の子孫という神話を持つ「日の御子」天皇の支配しうる国を示すものとしてつけられたと筆者は主張しています。

更に面白かったのは、どこまでを日本と指すのかという視点です。日本という国号は、701年の大宝律令制定時にはじめて使われたと言われています。しかし著書曰く、これは畿内を中心にできた律令国家の国号であり、北海道や、東北、さらに沖縄、南九州などは日本に入っていない。中世に入りようやく東北・関東も「日本国」に入ったと考えられ、ゆえに地域によって日本という国号、また深く結びつく天皇に対する考え方も非常に異なると考えた方が良いと筆者はいっています。

もう一つは、百姓=農民ではないという主張が興味深かったです。関山直太郎さんの『近代日本の人口構造』では、諸士9.8%、百姓76.4%、町人7.5%となっています。しかし、百姓は決して農民と同義ではなく、たくさんの非農業民を含んでいます。その根拠は奥能登の時国(ときくに)家の調査です。時国家は船を持ち、製塩、製炭なども行っており、農奴を駆使する大農場経営者ではないとのことです。また、土地を持たない人は水呑百姓と位置付けられ、能登最大の都市輪島は水呑が71%となっています。しかし調査によると実情は漆器職人、そうめん職人、廻船人などが沢山いて、土地を持てない、ではなく持つ必要がない人が多くいたと主張しています。しかも能登が特別ではなく、同様の事例を多数挙げています。

私自身、日本は「全国」と捉えていたし、昔の日本は「農民が大多数」と思っていたので、目から鱗であり、著者のクリティカルシンキングの凄さに感嘆です。

この他にも天皇は天皇職という職名であることや、女性はもともと力をもっていたなど、著者は私の思い込みと異なる見方を投げかけてきます。あらためて「それ本当か?」という視点とそこから生まれる好奇心を大切にしたいと感じました。
(1146字)

教育心理の部屋

第50回「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第50回
2019/2/16
「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
いつ評価するのか、という評価時期による分け方で評価は3つの分類できる。
1.診断的評価(教授学習活動の前)
2.総括的評価(教授学習活動の後)
3.形成的評価(教授活動の途中)
例えば、英会話学校で簡単なテストしてクラス分けがされるのは、診断的評価である。

教育指導のための観点で最も重要なのは形成的評価である。当初教師が用意した教材を生徒の大多数がよく理解をしない、興味を示さないとき、教材を差し替えたり、予定を変えて補修を行ったりする必要が生じる。教育目標や指導方法を柔軟に調整するために、いまの生徒の状況を把握する評価活動が形成的評価である。

誰が評価するのか、という観点において、通常は教師によって評価が行われているが、児童、生徒自身による自己評価、児童・生徒同士の相互評価の重要性が指摘されている。これは自分自身の行動に対して自分で報酬や罰を与える自己強化の考え方がもとになっている。

学習院大の竹綱誠一郎教授(1984)は、小学校の漢字学習を対象として、教師が採点する群と自己採点する群に分け、自己評価の効果を検討している。自己評価群は教師評価群ほどではないものの、採点を行わない群と比較し、漢字の試験成績が上昇し、自己評価が学習に対して促進的であることを示した。

【所感】
第3章で出てきた「自己強化」に関わる所が興味深いです。以前も書いたように、パンデュラの実験で、他者からの強化がなくても児童が自己強化によって学習可能であることが実証されています。ここから自己採点も効果があることが分かっていますが、漠然と丸付け直しをするだけでは、自己強化につながらないと感じます。ポイントは採点ではなく評価、つまり意味付けが大切なのではないでしょうか。採点したあとの結果と共にそれまでの行動を自分がどう評価するのか。以前のまとめにも書いたように、自分でご褒美を設定している塾生の学力が高い傾向にある事実があります。つまり、自己採点をする際に、自己賞賛をしていく事も組み込めれば、自己採点が自己強化を促進していくものだと考えます。具体的には自己学習の際の留意点で話をすると共に、ビジョンセッション「自分を賞賛してみよう」というプログラムを考えても良いかもしれません。
(930字)

宗興の本棚

第81週『成人発達理論による 能力の成長』

第81週
2019/2/16
『成人発達理論による 能力の成長』
加藤洋平著 日本能率協会マネジメントセンター社

私の専門領域である人材育成や能力開発です。これらの根底にある大切な問いは「人はどのように伸びるのか」。コーチングをはじめとした手法論的なアプローチではなく、人間の発達に関する生物学的なメカニズムにたどりつきたいと考え、本書を手に取りました。

本書は、人間の知性や能力の成長プロセスとメカニズムを専門的に扱う「知性発達科学」の知見を紹介しています。その中ですぐに活用しようと考えた二つの項目を記載します。

まず一つ目は、「意識の光」です。何かの能力を伸ばしたいときに、まず行うべきことは伸ばしたい能力を特定することであり、その行為を「意識の光」を当てると著者は表現しています。身体を鍛えるときに、どの筋肉を鍛えているのかを意識しながらトレーニングに励むか否かで、効果に大きな差が出ることが実証研究で明らかにされているそうです。

「意識の光」という表現が私にはとてもしっくりときており、早速私が行うリーダーシップやマネジメントトレーニングの中で使っています。具体的には人材育成のPDCAの回で、Planの部分の重要性を伝える際、そのエビデンスとして本書と共に「意識の光」を紹介しています。

二つ目は、「ニューウェルの三角形」です。これは身体運動学の研究者であるカール・ニューウェル氏が提唱したモデルです。何らかの能力を高めようとする場合、「人・環境・課題」の3要素と相互作用を常に考えなければならないことを指摘しています。簡潔にまとめると、それぞれの制約条件を考慮せよと置き換えてよいと思います。人はその人の能力限界を考慮せよ、環境は物理的、文化的な制約を考慮せよ、課題は種類と難易度を考慮せよということです。

この三角形はトレーニングの制作や実施をする際にとても参考になる考え方です。特に「環境」は見落としがちになります。例えば、部下への頻繁な声掛けがモチベーションを上げるのに役立つとしても、クライアント先にメンバーが常駐している環境では、マネージャーは直接頻繁な声掛けはできません。これまでも人や課題はかなり意識してトレーニングの構築をしてきましたが、環境についても参加者の状況インプットを多くし、より一層制約の想像を働かせるようにしていきます。

神経がどうつながるか等の生物学アプローチではありませんが、その次の抽象次元となる発達のメカニズムの専門書です。上記二つだけでなく、その他も活用したいと考える理論や手法が数多く紹介されていました。一回で終わりではなく、能力開発の「辞書」として都度活用していきたいと思います。
(1055字)

教育心理の部屋

第49回「教育の成果を評価する② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第49回
2019/2/9
「教育の成果を評価する② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
ルース・バトラー教授(Butler, 1988)は到達度評価的なフィードバックの有効性を示した。子供達に課題を行ってもらい、相対評価的な成績をつけて返す群と、良いところ、悪いところをコメントする群と分け、その後の課題遂行がどうなるか検討した。その結果、特に成績の悪い子供達では、コメント群で課題遂行成績が改善されていた。一方、相対評価的な成績をフィードバックされた群は遂行の改善が見られなかった。

【所感】
最近咲心舎において学力テストの結果が出ました。咲心舎内順位が出て、刺激という意味で順位を伝えるのも良いかと思いますが、この返却の仕方はあらためて注意が必要と考えています。というのも、バトラーの結果は、成績が悪い子供達は、相対評価的な成績を返すだけにとどめると、逆にその後の課題成績が下がることも示されています。

そもそも学力テストは自身の現状を把握し、次の成長につなげるものです。強みを伸ばす、弱みを克服するという点で、講師からのフィードバック(コメント)は必要なことと感じます。小6については、三者面談があるので塾生一人一人の課題を明確にし、今後の対策について保護者様、本人、私達の中で共通認識をつくることを行っています。その他の学年についても、本人任せにするのではなく、講師からのフィードバックを丁寧にしていきます。
(566字)

宗興の本棚

第80週『ゲームの変革者 ~イノベーションで収益を伸ばす~』

第80週
2019/2/9
『ゲームの変革者 ~イノベーションで収益を伸ばす~』
A・Gラフリー ラム・チャラン著 日本経済新聞出版社

昨期からあるIT系のクライアント様にイノベーションをテーマにトレーニングを提供しています。一人でも多くの参加者がイノベーティブな事業、製品、サービスを生み出せるよう知見を増やすために手に取りました。

アリエール、パンパース、パンテーン、ファブリーズなど、有名ブランドを数多く創出し続けているP&G社。P&G社にはイノベーションを生み出す土壌となる文化があり、それは「消費者がボス」という言葉に集約されます。この「消費者がボス」を実践する施策の中で、私が一番印象に残ったのは、お客様の「リアル」を知るプログラムです。P&Gは最初に市場調査部門をつくった会社であり、データ収集や市場分析を徹底的に行っています。ただ、2002年までは、顧客はデータを提供してくれる存在でしかありませんでした。2002年から消費者密着型の方法に変え、代表的な「生活してみる」「働いてみる」という二つのプログラムをつくりました。

「生活してみる」は社員が消費者の家庭で数日過ごす企画です。この「生活してみる」の成功例がメキシコ市場です。メキシコ市場で国民の60%を占める低所得者層に対してダウニーのシェアは低迷をしていました。P&G社は2002年に「生活してみる」のプログラムを進め、幾つかの決定的な事実を発見します。まず、メキシコには水の問題があるということです。僻地に住む人は、いまだに地域の井戸や水道ポンプまでいってバケツで水を運び、また都市部でも一日数時間しか給水されないところが多かったのです。一方で、低所得者層の女性は、洗濯を本当に真剣に考えています。家族の身だしなみを整えることに並々ならぬプライドをもち、アイロンも頻繁にかけることが分かりました。つまり、洗濯が一番多くの時間をかける重労働であることがはっきり分かったのです。

こうして「洗濯を楽にして水量を抑える」という解決すべき問題点がはっきりし、洗う・柔軟剤を入れる・すすぐの3ステップですむ商品「ダウニー・シングル・リンス」を出しました。これは発売と同時にヒットとなりました。

三現主義の話と共に「お客様の『リアル』を知ってください。」と常々私は参加者に言っています。高名なP&G社でさえ、これだけリアルを知る努力をしているということは、参加者の背中を押す材料になりそうです。

最近読書のペースに、レポートが追いついていません<苦笑>。何冊か読了したものがたまっています。本書も11月末には読了していました。
(1022字)

宗興の本棚

第79週『トップリーダーが実践している 奇跡の人間育成』

第79週
2019/2/2
『トップリーダーが実践している 奇跡の人間育成』
松尾一也著 きずな出版

私はずっと「人間力」を大切にしています。盟友の石川英明に言わせると、学生時代私は「『人間力』でしょ!」しか言っていなかったそうです<笑>。著者は講師ネットワークの会社を経営している代表です。実は2年前に本書を購入したきり積読状態になっていました。最近何かふと「人間育成」という部分が気になり、手に取りました。ただ、自己啓発に近い同種の本は何冊も読んでいるので、正直どうかなと思う部分はありましたが、身に染みる部分がありました。

一つ目、「心のコップ」について。コップが上に向いてないと何も注げないように、人も心のコップが上を向いていないと、何も聞こえないし、吸収することがない。一言でいうと人間育成には「素直さ」が大切ということですが、『人を育てる側も、心のコップをきちんと上に向けてもらうように、その状況を整える工夫が必要』と著者は言っています。教育提供者として、研修参加者、塾生、そして社員に心のコップをまず上を向けてもらえるよう注力することが必要と痛感します。特に「研修なんて参加したくない」、「勉強なんてしたくない」、「上司から注意なんて受けたくない」と基本的に被教育側はコップが下を向いていることが多いです。上に向けてもらうためにも、傾聴と共感から入る。ここをあらためて行っていきたいと強く認識しました。

二つ目は、「評価基準」について。『勝ち組の評価尺度には「収入」「地位」「有名」「エリート」がありますが、人間育成における評価基準は、「心の平安」「信頼する仲間がいる」「人間的成長を続けている」。この三本柱です。』と著者は言っています。とても好きな一文です。資本主義から次の時代へと移行が進む中、人が重要視するものは進化しているはずです。私自身、心の平安は以前より大分進み、一緒にビジョンを目指す信頼する仲間ができ、日々成長も実感できている今、これを継続していくことが重要とあらためて認識しました。そのための鍵は私の場合は感謝です。「感謝の筋力」を毎日鍛えていきます。
(839字)