教育心理の部屋

第50回「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第50回
2019/2/16
「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
いつ評価するのか、という評価時期による分け方で評価は3つの分類できる。
1.診断的評価(教授学習活動の前)
2.総括的評価(教授学習活動の後)
3.形成的評価(教授活動の途中)
例えば、英会話学校で簡単なテストしてクラス分けがされるのは、診断的評価である。

教育指導のための観点で最も重要なのは形成的評価である。当初教師が用意した教材を生徒の大多数がよく理解をしない、興味を示さないとき、教材を差し替えたり、予定を変えて補修を行ったりする必要が生じる。教育目標や指導方法を柔軟に調整するために、いまの生徒の状況を把握する評価活動が形成的評価である。

誰が評価するのか、という観点において、通常は教師によって評価が行われているが、児童、生徒自身による自己評価、児童・生徒同士の相互評価の重要性が指摘されている。これは自分自身の行動に対して自分で報酬や罰を与える自己強化の考え方がもとになっている。

学習院大の竹綱誠一郎教授(1984)は、小学校の漢字学習を対象として、教師が採点する群と自己採点する群に分け、自己評価の効果を検討している。自己評価群は教師評価群ほどではないものの、採点を行わない群と比較し、漢字の試験成績が上昇し、自己評価が学習に対して促進的であることを示した。

【所感】
第3章で出てきた「自己強化」に関わる所が興味深いです。以前も書いたように、パンデュラの実験で、他者からの強化がなくても児童が自己強化によって学習可能であることが実証されています。ここから自己採点も効果があることが分かっていますが、漠然と丸付け直しをするだけでは、自己強化につながらないと感じます。ポイントは採点ではなく評価、つまり意味付けが大切なのではないでしょうか。採点したあとの結果と共にそれまでの行動を自分がどう評価するのか。以前のまとめにも書いたように、自分でご褒美を設定している塾生の学力が高い傾向にある事実があります。つまり、自己採点をする際に、自己賞賛をしていく事も組み込めれば、自己採点が自己強化を促進していくものだと考えます。具体的には自己学習の際の留意点で話をすると共に、ビジョンセッション「自分を賞賛してみよう」というプログラムを考えても良いかもしれません。
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宗興の本棚

第81週『成人発達理論による 能力の成長』

第81週
2019/2/16
『成人発達理論による 能力の成長』
加藤洋平著 日本能率協会マネジメントセンター社

私の専門領域である人材育成や能力開発です。これらの根底にある大切な問いは「人はどのように伸びるのか」。コーチングをはじめとした手法論的なアプローチではなく、人間の発達に関する生物学的なメカニズムにたどりつきたいと考え、本書を手に取りました。

本書は、人間の知性や能力の成長プロセスとメカニズムを専門的に扱う「知性発達科学」の知見を紹介しています。その中ですぐに活用しようと考えた二つの項目を記載します。

まず一つ目は、「意識の光」です。何かの能力を伸ばしたいときに、まず行うべきことは伸ばしたい能力を特定することであり、その行為を「意識の光」を当てると著者は表現しています。身体を鍛えるときに、どの筋肉を鍛えているのかを意識しながらトレーニングに励むか否かで、効果に大きな差が出ることが実証研究で明らかにされているそうです。

「意識の光」という表現が私にはとてもしっくりときており、早速私が行うリーダーシップやマネジメントトレーニングの中で使っています。具体的には人材育成のPDCAの回で、Planの部分の重要性を伝える際、そのエビデンスとして本書と共に「意識の光」を紹介しています。

二つ目は、「ニューウェルの三角形」です。これは身体運動学の研究者であるカール・ニューウェル氏が提唱したモデルです。何らかの能力を高めようとする場合、「人・環境・課題」の3要素と相互作用を常に考えなければならないことを指摘しています。簡潔にまとめると、それぞれの制約条件を考慮せよと置き換えてよいと思います。人はその人の能力限界を考慮せよ、環境は物理的、文化的な制約を考慮せよ、課題は種類と難易度を考慮せよということです。

この三角形はトレーニングの制作や実施をする際にとても参考になる考え方です。特に「環境」は見落としがちになります。例えば、部下への頻繁な声掛けがモチベーションを上げるのに役立つとしても、クライアント先にメンバーが常駐している環境では、マネージャーは直接頻繁な声掛けはできません。これまでも人や課題はかなり意識してトレーニングの構築をしてきましたが、環境についても参加者の状況インプットを多くし、より一層制約の想像を働かせるようにしていきます。

神経がどうつながるか等の生物学アプローチではありませんが、その次の抽象次元となる発達のメカニズムの専門書です。上記二つだけでなく、その他も活用したいと考える理論や手法が数多く紹介されていました。一回で終わりではなく、能力開発の「辞書」として都度活用していきたいと思います。
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