宗興の本棚

第82週『日本の歴史をよみなおす(全)』

第82週
2019/2/23
『日本の歴史をよみなおす(全)』
網野善彦著 ちくま学芸文庫

今年から特に意識をしたいテーマが「教養を深めること」。自身の専門領域の下支えとなる文化的な知識、能力、品位を磨いていきたいと思っています。教養の中でもより深めたい領域は様々ありますが、まずは日本の歴史と文化からと考え本書を手に取りました。

著者は独自の研究からこれまでの日本史の通説に異論を展開しており、「網野史観」とも呼ばれています。本書には好奇心をそそる多くの事実と主張があったのですが、その中で特に興味深かった二つを挙げます。

一つ目は、「日本」という国号について。この国号は、他国でよく見られるような、王朝名ではなく、王朝を建てた人の部族名でもない。そして地名でもありません。そして「ひのもと」と読むとすれば、東の方向ということなり、中国大陸を強く意識したものと捉えることができます。そして、太陽信仰を基盤に、太陽神の子孫という神話を持つ「日の御子」天皇の支配しうる国を示すものとしてつけられたと筆者は主張しています。

更に面白かったのは、どこまでを日本と指すのかという視点です。日本という国号は、701年の大宝律令制定時にはじめて使われたと言われています。しかし著書曰く、これは畿内を中心にできた律令国家の国号であり、北海道や、東北、さらに沖縄、南九州などは日本に入っていない。中世に入りようやく東北・関東も「日本国」に入ったと考えられ、ゆえに地域によって日本という国号、また深く結びつく天皇に対する考え方も非常に異なると考えた方が良いと筆者はいっています。

もう一つは、百姓=農民ではないという主張が興味深かったです。関山直太郎さんの『近代日本の人口構造』では、諸士9.8%、百姓76.4%、町人7.5%となっています。しかし、百姓は決して農民と同義ではなく、たくさんの非農業民を含んでいます。その根拠は奥能登の時国(ときくに)家の調査です。時国家は船を持ち、製塩、製炭なども行っており、農奴を駆使する大農場経営者ではないとのことです。また、土地を持たない人は水呑百姓と位置付けられ、能登最大の都市輪島は水呑が71%となっています。しかし調査によると実情は漆器職人、そうめん職人、廻船人などが沢山いて、土地を持てない、ではなく持つ必要がない人が多くいたと主張しています。しかも能登が特別ではなく、同様の事例を多数挙げています。

私自身、日本は「全国」と捉えていたし、昔の日本は「農民が大多数」と思っていたので、目から鱗であり、著者のクリティカルシンキングの凄さに感嘆です。

この他にも天皇は天皇職という職名であることや、女性はもともと力をもっていたなど、著者は私の思い込みと異なる見方を投げかけてきます。あらためて「それ本当か?」という視点とそこから生まれる好奇心を大切にしたいと感じました。
(1146字)

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