宗興の本棚

第90週『自己啓発をやめて哲学を始めよう』

第90週
2019/4/20
『自己啓発をやめて哲学を始めよう』
酒井穣著 フォレスト出版

私の好きな酒井穣さんの近著。『答えを自分の内側に求める人は藁をつかみ、答えを自分の外側にもとめる人には哲学という救済の可能性がある』という帯の言葉に興味をひかれました。というのも、私は自分の内側に答えを見出せると考えており、この考えと相対する斬新な視点だと思ったからです。

本書はエビデンスなどがあまりないエッセイに近いものです。酒井さんの大切な友人が自己啓発にはまり抜け出せない(カモになった)体験から生じる「怒りのエネルギー」で書かれています。義憤という言葉が合うかもしれません。全体としては感情的な文体で、これまでの酒井さんの著書とは一線を画すものという印象です。

主旨としては、地球の収容能力が科学技術の発展で限界を超えており、確率論として多くの人が社会的弱者になる。自己啓発的な理由ではなく、進化論的な運の問題である。成功を求め自己啓発をしたって成功はしない。勉強や探求は素晴らしいことだから、自分に「なぜ」を向けるのではなく、外に「なぜ」を求めなさいということです。厭世的な論調の中、自己啓発をしても無意味だから、外に眼をむけなさい、というメッセージです。

元々酒井さんは『リーダーシップで一番大切なこと』で、自分の価値観に沿って生きることに重要性を説いています。つまり、答えは自分の中にあると言っています。しかし、ここでは答えは自分の中になんてないと言い切っています。真逆に考え方です。自己啓発に傾注している人達をターゲットに、熱病から冷めさせるために敢えてそう言っているのか、あるいは酒井さん自身の考え方が本質的に変わったからそう言っているのかが、本書では見えません。

主体性は、自分の意志を大切に、社会と個人の両面を見ていくことが肝要という私のスタンスは変わらないです。ただ、「自分が引き寄せるのでなく、勝手に環境がそうさせている」「カッコウが教えられていなのに托卵するように、人間も脳に既に必要な知識がプログラミングされている(成長とはそれを知っていくだけのこと)」など、個人が意志をもつところから少し進化したと感じる部分があったので、そこは興味深かったです。
(886字)

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