教育心理の部屋

第56回「臨界期 8章 人間の発達について考える」  

第56回
2019/5/25
「臨界期 8章 人間の発達について考える」  

【まとめ】
動物行動学者のロレンツ(Lorentz、1952)は、ハイイロガンのヒナが生後十数時間以内に刺激対象が与えられないと追従反応が生じないことを見出した。この時期を「臨界期」と名付けた。ロレンツは、孵化後、自分だけがそこにいるようにした。するとヒナはロレンツを親だと思い追従行動をし続けた。また生涯にわたりそのことを消し去ることができなかった。生後まもなくの限られた時間内に生じ、再学習することが不可能になる学習現象を、ロレンツは刷り込み(インプリンティング)と名付けた。

ヘス(Hess,1958)は、模型の親ガモを回転させ、追従反応が生じるかどうか調べた。孵化後13~16時間で追従反応の生起率は最大になり、29時間~32時間では、ほとんと生じなかった。

では臨界期が人間にもあるのか。人間にも臨界期ほどの強いものではないが、学習に適した敏感期があると言われている。北村(1952)が行った興味深い調査がある。太平洋戦争のために福島県に疎開した子供達が地元のアクセントをどの程度習得したかを年齢ごとでまとめた。6歳以前に疎開した子供達は100%習得できたのに対し、7歳以降は疎開年齢が遅くなるほど習得できなくなっていることが分かった。

【所感】
臨界期の話を聞くと、スキャモン曲線を思い出します。この曲線によると10歳ぐらいまでが神経系が著しく発達する時期とのこと。息子の宗真がアスリートになりたい、という夢があり、幼児運動系の書籍を私が三冊読んだところ、全ての書籍にスキャモン曲線の話がありました。そして三冊とも「競技を決めず、様々な動きをさせることが大事」と主張していました。臨界期というのが運動界において「定説」になっているのだと感じます。

臨界期と聞いてもう一つ思い出すことがあります。トライ時代、慶応中等部出身の社員と大学から慶応に入った社員と、中学受験の算数(図形)の問題を解いてもらったところ、中等部出身の社員は一目で「補助線」を引き、瞬間で答えを導きました。中学受験の算数は、通常の中学、高校だと扱わないため、大学から慶応に入った社員も、中学受験の問題の訓練をすれば、すぐに答えを出せるようになるとは思います。ただ、瞬時に答えを出した所から、この時期だからできる能力の開発があるかもしれないと感じました。

臨界期はよく早期教育の根拠になります。ただ、早期教育に熱を上げるのは、リスクを伴います。先述した「レディネス」の考え方は常に頭に入れておきたいものです。
(1036字)

宗興の本棚

第95週『THE TEAM』

第95週
2019/5/25
『THE TEAM』
麻野耕司著 幻冬舎・NEWSPICKS

前々職リンクアンドモチベーション社の後輩である麻野君の著書。本書との出会いのきっかけは15年来の知己であるLIFULL羽田さんです。打合せ時に、麻野君の本が出版されることと、発売前にもかかわらず30,000部の予約となり「すごいことになってますよ」と教えて頂きました。丁度、ブルームウィルの新しいチーム造りを模索していたこともあり、後輩に教えを乞うべく手に取りました。

一番参考になったのは、チームには唯一の絶対解はなく、最適解があるということです。筆者は、チームを「環境の変化度合い」×「人材の連携度合い」の2軸の掛け算で4タイプに分け、各タイプに適した解があると述べています。4タイプは、柔道団体戦型(変化大×連携小:生保の営業チーム)、サッカー型(変化大×連携大:スマホアプリの開発チーム)、駅伝型(変化小×連携小:メーカーの工場生産チーム)、野球型(変化小×連携大:飲食店の店舗チーム)です。

このタイプ分けに照らすと、もっともらしいチームに関する意見が、必ずしも正しいとは言えなくなります。例えば、「メンバーが入れ替わらないチームが良い」というのは、聞こえはいいですが、スマホアプリの開発チームなど、環境変化の大きなサッカー型のチームにおいては必ずしも当てはまりません。環境に合ったスキルを持った人材を常に流動的にアサインしていくことが求められるからです。「多様なメンバーがいるチームが良いチームだ」というのも、連携度合いが少ない駅伝型の組織ではスキルやスタンスが似たタイプのメンバーの方が、全体のパフォーマンスの総和は大きくなります。

咲心舎は、駅伝型にあてはまります。顧客が求めること(学力)や、こちらが教える内容(5科目)の変化はそこまで大きくありません。また一人で完結していくことが多い事業です。
駅伝型のチームは、ルールについて個人成果に責任を負う方がよい、確認が少ない方がよいなどの最適解があります。私の経験則からの法則を当てはめるのではなく、駅伝タイプに即した最適感を取り入れていきたいと思います。

最後に、より多くの人に再現性をもって理解してもらうために、複雑な事を分かりやすく説明する文体は、創業者で代表の小笹さんが生き移ったかのようでした。「伝承」を感じる書籍でした。
(944字)