第107週
2019/8/25
『なぜ人と組織は変われないのか』
ロバート・キーガン リサ・ラスコウ・レイヒー著 池村千秋訳 英知出版
成人発達理論のキーガン教授の約400Pに渡る著書。キーガン教授の成人発達理論は私達の人材開発法の土台となるものであり、より深い知見を得るべく手に取りました。
なぜ人と組織は変われないのか。答えは変化を拒む「免疫システム」があるからです。この「免疫システム」と処方箋となる「免疫マップ」が本書の核であり、実例に沿って説明がされていきます。
まず、人の成長には二つの課題があるということです。技術型の課題と適応型の課題です。減量に対して、食事制限という技術的な方法で解決できる人もいますが、多くの人がその後リバウンドします。それは、ほとんどの人にとって減量は技術的な課題ではなく、適応を要する課題であることの証左です。この適応型の課題に「免疫システム」が付帯しています。
本書にあるピーター・ドノバンという金融サービス会社CEO(50歳代)の実例がとても分かりやすく、「免疫システム」を理解するのに非常に役立ちました。ピーターは、拡大していく組織の規模に合わせ分権型のリーダーになることが課題ですが、権限移譲をはじめ中々それができない状況でした。
1.改善目標
新しい考えをもっと受け入れられるようになる。役割や責任の変化に柔軟に対応できるようになる。積極的に権限移譲を行う。
2.阻害行動(改善目標を妨げる要因)
新しい考えに問答無用に却下する。他人の考えを知ろうとしない。相手にうかがいをたてさせざるをえない話し方をする。相手がのぞんでいるかわからないのに、すぐに自分の意見を言う。
3.裏の目標
私のやり方でやりたい。自分がものごとに直接影響を及ぼしていると実感したい。あらゆるものに自分の「指紋」をつけたい。最強の問題解決者でいたい。
4.強力な固定観念
自分が替えの効く存在という不安。
人は自分を変えたいと思っているが、自分の核となる部分を守りたいという思いを抱いています。この不安管理システムが変革を阻む免疫機能の正体と本書は言っています。そして、この不安管理システムを生じさせるのが3と4だと解釈できます。特に4の「強力な固定観念」は、幼少期の経験や仕事を通した成功体験で形成されることも多いと思います。
それでは、実際に人や組織を変えるにはどうするか。本書ではあるチーム全員が「免疫マップ」を作成し、しかもこれを全員で見せ合い、行動と検証を皆で繰り返していくことで変革していった例を挙げています。その人にとって一番大切な取り組むべきこと「One Big Thing」を皆で共有し合うなど、非常に有効なアプローチと感じます。
通常学術書は3ヶ月ぐらいかかるところを、本書は面白くて1.5ヶ月ぐらいで読了しました。私自身も適応課題を抱えています。愛と感謝と喜びに満ちた世界へ。まず自分も「免疫マップ」の作成をしてみます。
(1150字)