宗興の本棚

第120週『小児科医の僕が伝えたい 最高の子育て』

第120週
2019/11/25
『小児科医の僕が伝えたい 最高の子育て』
高橋孝雄著 マガジンハウス

物事を知るには理論知だけでなく、実践知も私は重視をします。今回は研究機関の学術的な見解ではなく、小児科医の経験的な考究に興味がわき本書を手に取りました。

本書を総括すると、「人の伸びは遺伝で決まっているのだからあくせくせずにね」ということでしょう。ごく平凡な両親から超がつく優秀な子どもが生まれたとしても、それは遺伝情報がもっている正常な「振れ幅」に収まる程度で、遺伝子が決めたシナリオの「余白」のようなもの。そして教育とは親から受け継いだ遺伝子の特徴を上手に生かせるようにすること、と著者は言っています。

遺伝子で決まっているというのは、カルヴァンの予定説を想起させ、人の可能性を否定するように聞こえて違和感がありました。ただ、少し引いてみると、過熱する早期教育や心配性の母親群に対して「安心メッセージ」を届けたい著者の意図がみえてきます。

遺伝子決定論ともいえる、著者の人間観で印象に残った視点を二つ挙げます。一つは、思春期が『人生最大の遺伝子イルミネーション・ショータイム』としている点です。思春期は遺伝子スイッチが一気にONになる時期。「ざけんな」「うぜえんだよ」と物騒な言葉で反抗されても、うろたえず「人生最大のショーが始まった」として、子供の成長を歓びそっと見守って欲しいと著者は言っています。確かにこのぐらい鷹揚に構えた方が、上手く超えられるかもしれません。

もう一つは、遅咲きの遺伝子がある点です。著者は50代になってからマラソンをはじめ、58歳で3時間7分を達成したそうです。幼少期は体育が苦手な男子だったのですが、長距離走こそが遺伝子が自分に与えた特技だったことに気づき、「遅咲きの遺伝子」に感謝したそうです。何歳になってもチャレンジをすることで、未開の自分に出会えることも人生の楽しみの一つだなと感じました。

最後に子供の自己肯定感についても著者は言及しています。著者は自己肯定感を「子供が自分で生まれてきてよかったと感じること」とし、自己肯定感を育むには、やればできるようになるという経験を沢山積ませてあげることに尽きる、と著者は言っています。様々な研究結果をリサーチしても、自己肯定感を高める決定的な方法はまだないように思えます。ただ著者を含め多くの方がその経験知より、成功体験の実効性を挙げています。「尽きる」という著者の強い想いに背中を押してもらえました。
(988字)

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