第146週
2020/6/7
『深夜特急1 香港・マカオ』
沢木耕太郎著 新潮文庫
コロナで外出自粛が続く中、ふと新聞に「今だから読みたい本」なるものが載っており、そこの上位にあったのが本書です。この本を読んで旅に目覚めた人は数知れずと言われる超有名本。いつものビジネス本ではなく別角度からの新鮮さが欲しくて、新聞に促されるまま手に取りました(若干ネタバレあります)。
この本が、なぜ人々をこれほど魅了するのか。
それは「真剣に酔狂なこと」をしているから、という一言で表されると思います。
「ほんのちょっぴり本音を吐けば、人のためにもならず、学問の進歩に役立つわけでもなく、真実をきわめることもなく、(中略)まるで何の意味もなく、誰にでも可能で、しかし、およそ酔狂な奴ではなくてはしそうにないことを、やりたかったのだ。」と著者は言っています。
酔狂とは、辞書で引くと「普通は人のしないようなことを、好んですること。ものずき。」とあります。この本の中毒性は、著者が酔狂を追い求めたことにあるのだと思います。
1巻で印象に残った酔狂な場面が3つありました。
まずは、ニューデリーの鉄道駅の旅行案内所へ行った場面。「アムリトサルにバスで行きたい」と著者がいうと、係員に鉄道で行けと言われる。押し問答を繰り返し、そのうち鉄道の方が「ベターで、カンファタブルで、ラピッドで、セーフティーだ」と係員がむきになり大声でまくし立てるように言う。それでも筆者が「でも、バスで行きたい」と主張します。
次に、香港についた初日、いかがわしい宿に泊まる場面。「面白そうだな、と思った。このいかにも凶々(まがまが)しくいかがわしげな宿の窓からは、絵葉書的な百万ドルの夜景も国際都市の活気あふれる街並みも見えなかったが(後略)」
「理性的に判断すればこんな宿に泊まるべきでないことは明らかだ。危険を覚悟しなくてはならない。(中略)とにかく、ここには私の胸をときめかせる何かがある。」
最後に、マカオでカジノにのめりこみ、負けても「どうしても取り返すのだ・・・」と、あきらめないでしつこく勝負にいく場面。どんどん負けが込んでいく中で、持ち金が減って旅が続けられないぐらいまでに。しかし、最後にカジノの法則を読み、負け分を取り返します。
特に、最後のカジノの章は、バカだなと思いました。無一文で旅を続けるのだろうかと、読んでいてハラハラしました。しかも、負け分を取り返し終わりかと思ったのですが、まだありました。
「香港に帰ろう」とホテルに戻って荷造りをするものの、船をまっている時間に、「得体のしれない荒々しい感情に衝き動かされそうになった。」「やろう、とことん、飽きるか、金がなくなるまで・・・足は聖パウロ学院協会に近い船上カジノへと向かっていた。」と、再度カジノで勝負をします。
読んでいて、絶望に近い感覚におそわれました。勝てるはずがないのに、完全にバカだなと。あきらめに近い境地でしたが、どんどんページは進みます。
そもそもデリーからロンドンへバスで行く事自体が酔狂です。日常からかけ離れ、自由に普通ではやらない体験をする。少し危険を伴うようなこれらの体験が、自身の中にある冒険心や解放の欲求に触れてくるのでしょう。
どこかで2巻を読み、いつかのアジアの旅に胸膨らませたいです。
(1322字)