宗興の本棚

第153週『脳内革命』

第153週
2020/7/27
『脳内革命』
春山茂雄著 サンマーク出版

筆力強化のためのベストセラー研究、第6弾。1995年に出版され、国内累計発行部数の5位410万部をほこるお化け本です。

【読者として】
本書は、病気を治療する西洋医学に対して、病気にさせない東洋医学の効力を科学的に説明したものです。その科学的根拠となるのが「脳内モルヒネ」です。「脳内モルヒネ」は、β―エンドルフィンなどに代表される快楽作用をもたらすホルモンのことであり、「人の気分を良くさせるだけでなく、老化を防止し自然治癒力をたかめる、すぐれた薬理効果がある」と著者は言っています。

今回の私の一番の学びは、瞑想の科学的な効果です。瞑想は、上記の脳内モルヒネを分泌させ、病気の予防に大きな効果を上げるとのこと。実際に著者の病院では、成人病の患者さんに対して食事療法と共に、運動と瞑想を必ずセットで行い、治癒してきたそうです。

例えば、58歳の高脂血症とうつ病の女性。食事療法と運動、瞑想の三点セットの中でも、特によく効いたのは瞑想だったとのことです。この女性は非常に花が好きで、花を見ると顔つきが別人のようになる。それで花がいっぱい映ったイメージビデオをみてもらい、花のイメージトレーニングをしてから瞑想室で瞑想を繰り返してもらいました。すると脳内モルヒネが多量に分泌され(α波で判断)、非常に状態がよくなったそうです。

私自身この半年毎日行ってきた瞑想が、最近忙しくてできていませんでした。本書からの学びが、再開する動機になりそうです。

【書き手として】
■メッセージの秀逸さ×タイミング
『「超」文章法』では、メッセージが8割の重要性をもち、質の高いものはひとことで言えて、面白く、ためになるもの、とありました。本書のメッセージは「病気にならない、させないために」であり、25年前の日本ではまだ病気を治療することが主眼であったため、このメッセージが非常に新しく目から鱗のコンセプトだったのでしょう。書く際にメッセージが最重要であることを再認識させられます。

しかし、これだけでは410万部というお化け本になることはできないと思います。仮説ですが、出版のタイミングが抜群だったのではないでしょうか。多くの人が喉から手が出るほど求めていた時期ではないと、この数字は叩き出せないはずです。

成人病という言葉は、脳卒中、がん、心臓病などの「40歳前後から死亡率が高くなり、40~60歳くらいの働き盛りに多い疾病」として1955年ぐらいから行政的に使用されていたそうです。そして、以前は加齢や遺伝に関係し、病気の発症は仕方のないことであり、早期発見と早期治療に主眼がおかれていましたが、この頃、成人病の発症が生活習慣に関わることが分かってきたようです。本書の影響かどうかは分かりませんが、1997年頃から厚労省が「成人病」を「生活習慣病」という呼称に変更しています。

一年で400万部以上を売り上げるということではなく、何年かに分けてということですから、バブルが終わりモーレツな働き方が見直された、成人病の発症が生活習慣に関わることが分かってきた、このような時代背景により超メガヒットが生み出されたのではないでしょうか。
(1298字)

宗興の本棚

第152週『父が娘に語る経済の話』

第152週
2020/7/20
『父が娘に語る経済の話』
ヤニス・バルファキス著 関美和訳 ダイヤモンド社

筆力強化のためのベストセラー研究、まだ続きます。今回は累計19万部を突破している経済の本です。

【読者として】
本書は著者が娘さんに伝える形で、なるべく平易な言葉で、資本主義の仕組みや格差が発生する理由などを解き明かしています。

一番良かったのは、なぜ西洋諸国が覇権を握ったのか。なぜ、オーストラリアや、アフリカ、そして我が日本などから強国が出てこなかったのか、という以前から抱いていた疑問が解消できたことです。

結論で言えば、地理的な環境の違いが差異を生み出しました。強大な軍事力を持つのには経済が必要ですが、経済の出発点は農耕と余剰であると著者は言っています。農耕→余剰→文字(余剰を記録するためのもの)→債務・通貨→経済→技術→軍隊という流れがあり、例えばオーストラリアでは自然の食べ物に事欠かず、アボリジニが農耕技術を発明し余剰をためこむ必要はなかったということです。

地理的な広がりも重要です。アフリカ大陸は南北に広く、気温差が激しいため一つの国が農耕技術を生み出しても他の地域に転用しにくい。よって他国への技術の伝播、及び交流による技術発達が起きにくいとのことです。農耕が発達していた日本についても西欧からの遅れはこれで説明がつきます。危険と隣り合わせではありますが、他国交流があると、やはり技術は磨かれていくということでしょう。

【書き手として】
1.市場のあるテーマ×分かりやすさ
そもそも「経済」をもっとよく知りたい、という方は多いのだと思います。コミュニケーションまでいかないかもしれませんが、ニーズが強い領域です。難しいけれども知っておきたい、知っておいた方がよい、でも難しい。そこに小さな娘さんにも分かるぐらいの「分かりやすさ」が入ったことにより、売れたのではないでしょうか。

筆力強化とは別の話ですが、「経済の本なのに異様に面白い」という帯の言葉が引き寄せる面もあると思います。なかなか秀逸な帯です。
(804字)

宗興の本棚

第151週『超筋トレが最強のソリューションである』

第151週
2020/7/13
『超筋トレが最強のソリューションである』
Testosterone・久保孝史著 文響舎

筆力強化のためのベストセラー研究。累計50万部を突破している筋トレ社長Testosteroneさんのシリーズです。友人が「この本は愛がある」と薦められたことにピンときて、手に取りました。

【読者として】
まず読了後、本当に筋トレしたくなりました。特に印象的だったのは、筋トレによって人生が変わった方々の話(漫画)です。例えば、両親からの「医者になれプレッシャー」で強迫神経症になり、手の震えがとまらなくなった男性。ほぼうつ状態の中でTestosteroneさんの本を読み、ジムに通いはじめ神経症を克服した話は、涙腺崩壊ものの物語でした。これらの実例漫画には心を動かす力があります。

健康面で一つ役立ちそうな知識は、タンパク質についてです。摂取したものがエネルギーとして消費されることを「食事誘発性熱産生(ねつさんせい)」といいます。この熱産生がタンパク質が高いのです。脂質と糖質が摂取した量の7%がエネルギーとして消費されるのと比較し、タンパク質はなんと30%が消費されます。普段の食事においてタンパク質を増やすだけで、カロリーを多く消費することができるとのこと。早速、献立を考える際の参考になろうかと、妻に伝えました。「ビバタンパク質!」

【書き手として】
1.読みやすさ
ベストセラーの共通条件と思われる「読みやすさ」がここでも出てきています。本書は筋トレの効果を科学的根拠に結びつけて伝えるものであり、学術要素も多く出てきます。しかし、対話形式にする、ちょいちょいギャグを挟む、漫画を取り入れるなど、難しく感じさせない工夫がされています。

2.見出しがユニーク
「死にてえって思ったら筋肉を殺そう」「手首の代わりに筋繊維をカットしろ」「マッチョを雇用すべき4つの理由」「筋トレミクスの破壊的効果4選」「筋トレは優れた予防医学である」「ヤケ酒、ヤケ食い、ヤケ筋トレ」「スクワット侮辱罪で訴追される禁句」「筋トレオタクのタンクトップにまつわる誤解」等々、目を引く、ちょっと吹き出すような、ユニークな言葉が見出しに並んでいます。

より多くの人に届き、心を動かすには、工夫された読みやすさと磨かれた言葉が必要であることを認識させられます。
(909字)

宗興の本棚

第150週『なぜ、あなたがリーダーなのか』

第150週
2020/7/5
『なぜ、あなたがリーダーなのか』
ロブ・ゴーフィー、ガレス・ジョーンズ著 英治出版

私達のリーダーシップ研修では、ビジョン作成の材料として、3つの軸を考えてもらいます。個人、社会、組織です。この中で最も重要なのが個人軸であり、自身の価値観を明文化していきます。今回はこの個人軸の重要性を更に探究したく、本書を手に取りました。

本書はAuthentic Leadership(オーセンティック リーダーシップ)について述べた本です。Authenticとは「本物であること」。本物は偽物や、借り物でない、見せかけではないものです。それは一体何か。英英辞書では、Authenticを『誰の目にも明らかな原点をもつもの』と定義しているそうです。本物という言葉はピンとこなかったのですが、この「原点」という説明によって、もやがすっきりと晴れました。確かに自分の原点を認識できれば、それは誰のものでもない、その人固有の偽りなきものになります。

私自身の原点は「人間の可能性を愛すること」です。原体験は5歳の時、ロス五輪で4冠をとったカール・ルイスをテレビでみて鳥肌が立ったことを覚えています。「どうやったら人間はこんなにすごくなれるのだろう。」と子供ながらにワクワクし、そこから人間の可能性に魅了される人生が始まったと感じます。

自分の原点を認識し、そこから目標を立てる。するとその目標は、その人にとって「大切なもの」となり熱が入りやすくなります。また、原点は揺るぎないものであり、その人らしさの源泉になります。よって原点を認識することは、言行一致、首尾一貫のふるまいを生み出していきます。

「原点」という言葉は私達の研修では「根」という表現をしています。この根を明文化する過程で、参加者の方が「自分の原点を思い出した」と言い、そこからその方の考え方と意欲が劇的に変化しました。原点を認識することは、ものすごいパワーを生み出します。研修においてあらたに「原点」という言葉もまじえつつ、より一層明文化する過程を大切にしていきます。
(810字)