第152週
2020/7/20
『父が娘に語る経済の話』
ヤニス・バルファキス著 関美和訳 ダイヤモンド社
筆力強化のためのベストセラー研究、まだ続きます。今回は累計19万部を突破している経済の本です。
【読者として】
本書は著者が娘さんに伝える形で、なるべく平易な言葉で、資本主義の仕組みや格差が発生する理由などを解き明かしています。
一番良かったのは、なぜ西洋諸国が覇権を握ったのか。なぜ、オーストラリアや、アフリカ、そして我が日本などから強国が出てこなかったのか、という以前から抱いていた疑問が解消できたことです。
結論で言えば、地理的な環境の違いが差異を生み出しました。強大な軍事力を持つのには経済が必要ですが、経済の出発点は農耕と余剰であると著者は言っています。農耕→余剰→文字(余剰を記録するためのもの)→債務・通貨→経済→技術→軍隊という流れがあり、例えばオーストラリアでは自然の食べ物に事欠かず、アボリジニが農耕技術を発明し余剰をためこむ必要はなかったということです。
地理的な広がりも重要です。アフリカ大陸は南北に広く、気温差が激しいため一つの国が農耕技術を生み出しても他の地域に転用しにくい。よって他国への技術の伝播、及び交流による技術発達が起きにくいとのことです。農耕が発達していた日本についても西欧からの遅れはこれで説明がつきます。危険と隣り合わせではありますが、他国交流があると、やはり技術は磨かれていくということでしょう。
【書き手として】
1.市場のあるテーマ×分かりやすさ
そもそも「経済」をもっとよく知りたい、という方は多いのだと思います。コミュニケーションまでいかないかもしれませんが、ニーズが強い領域です。難しいけれども知っておきたい、知っておいた方がよい、でも難しい。そこに小さな娘さんにも分かるぐらいの「分かりやすさ」が入ったことにより、売れたのではないでしょうか。
筆力強化とは別の話ですが、「経済の本なのに異様に面白い」という帯の言葉が引き寄せる面もあると思います。なかなか秀逸な帯です。
(804字)