宗興の本棚

第158週『NETFLIXの最強人事戦略』

第158週
2020/8/30
『NETFLIXの最強人事戦略』
パティ・マッコード著 櫻井祐子訳 光文社

ある先進企業のCPO(Chief People Officer)の方と、今後どのような組織やチームを目指すかという話になったときに挙がったのがネットフリックス(以下NF社)でした。次の組織形成の参考になると考え手に取りました。著者は元NF社の最高人事責任者で、創業時から参画し、俊敏なハイパフォーマンス文化を形成してきた方です。

1.目指す会社像
「毎日職場にわくわくしながら―難しい課題が『あるにもかかわらず』ではなく、『あるからこそ』胸を躍らせながら―来てほしかった。」(著者)
「(最高の会社は)この会社の問題をこの会社の同僚と解決したいと思いながら、毎日会社に来たくなる(会社)」(CEOリード・ヘイスティングス)

これらの言葉に、目指したい組織の姿が詰まっていると感じます。月曜日に行きたくなる会社ではなく、「毎日」行きたくなる会社。毎日やりがいに溢れているのでしょう。凄い会社です。

2.毎日行きたくなる会社の公式
本書を通して毎日行きたくなる会社を作るには、仮説として下記4つの因数で成り立つと考えました。

「最高の人材の採用」×「自由と責任の規律」×「ビジネスモデルの周知」×「積極的な解雇」

(1)最高の人材の採用
「自由な知性の応酬ほど楽しいものはない。」
「最高の人材は特典になびかない。」
「優秀な同僚と、明確な目的意識、達成すべき成果の周知徹底—この組み合わせが、パワフルな組織の秘訣だ。」

施設環境や金銭報酬の高さより、最高の人材同士のチームワークこそやりがいの秘訣であることが読み解けます。

(2)自由と責任の規律
「従業員に力を与えるのではなく、あなたたちはもう力をもっているのだと思い出させ、力を存分に発揮できる環境を整えるのが、会社の務めだ。」
「人の力を解き放て。」
「自由と責任の規律。」
「優れたチームは嬉々として挑戦に立ち向かう。」
「つらいとき、深くものごとを考えるときに、優れたチームができる。」
「彼ら(エンジニア)は無意味な手続きやばかげた施策を忌み嫌う。だがそんな彼らも、規律は一向に気にしないのだ。」

自由と責任の「規律」という所がポイントで、著者はお役所的な決まり事を廃止しながら、基本的な行動指針をしっかり守るよう指導してきたそうです。自由と規律というのは両立できるという力強いメッセージです。

(3)ビジネスモデルの周知
「従業員一人ひとりが事業を理解する。」
「すべての従業員が会社のビジネスモデルを説明できるか?全員が即答かどうか確かめよう。」
「社内のどの部署、どのチームの問題であっても、従業員がそれを自分のものにするには、経営幹部と同じ視点が欠かせない。」

NF社ではビジネスモデルと共に、経営上の良い事も悪い事も、会社の状況を頻繁にオープンに社員に伝え、社員と課題を共有してきたそうです。当事者意識を引き出すのに有用なのでしょう。

(4)積極的な解雇
「『積極的に解雇する』という規律は、ネットフリックスの文化のなかでもマネジャーにとって慣れるのがとびきり難しい部分、いや最も難しい部分なのはまちがいない。だがほとんどの人がそれを受けいれている。」
「解雇された従業員が会社を相手に訴訟を起こす可能性は、とくに業務上の課題について定期的に話し合いをもっていた場合は、ゼロに近い。」

これが一番私にとって難しい部分です。どんなに大義名分があっても解雇するのは厳しいことです。環境変化→事業変化→組織変化で、変化をし続けることが前提の流動的組織。実際にこの文化を創った著者もNF社を辞めています。「毎日」来たくなる会社にするには、私(経営者)自身がここを越える必要がある、もしくは別な方法で実現するかなのだと感じます。

総じて、NF社は「刺激を求める人たちの集まり」だなと感じます。今の私は刺激をあまり求めていません。それよりも、地に足つけて自分の力を発揮し、他者に役立ち、喜んでもらうことに専心したい思いが強いです。
(1614字)

宗興の本棚

第157週『思うことから、すべては始まる』

第157週
2020/8/23
『思うことから、すべては始まる』
植木宣隆著 サンマーク出版

「筆力強化」のための第7弾は、サンマーク出版社長の著書です。サンマーク出版は出版業界の売上が半減したこの25年間に、『生き方』『脳内革命』などミリオンセラーを8冊も出しています。本書はその陣頭指揮をとる植木社長の大切にしている考え方をかるた形式でまとめた本です。強く印象に残った4つの項目を紹介します。

1.手のひらに、一冊のエネルギー
これはサンマーク出版のグランド・コア・コンセプト(会社運営の中核となる考え方)です。植木社長は2002年に社長就任後、経営理念を確立するべく社員全員と1年半かけて経営理念をつむぎあげてきました。「手のひらに、一冊のエネルギー」はその結晶として生まれた言葉です。本はエネルギー体であり、「そのエネルギーの大きさが、人を惹きつけるのです。」と植木社長は言っています。

そして「手のひらに、一冊のエネルギー」という言葉をみた瞬間、心が震えました。それに続く「本=エネルギー論」はしびれました。まさにそうだなと。本は単なる「まとめ」で知的満足を満たす物ではなく、そもそも、著者と編集者のエネルギーの産物だということです。

想念を物質化したものが本である、とも植木社長は言っていますが、考えればこれまで読んできた本からは、ある程度強いエネルギーを感じます。そもそも強く伝えたいものがあるのか、これが大切だとあらためて感じます。

2.抜きん出た強みのある著書か
植木社長は企業経営者や個人事業主の方からよく出版の打診を受けるそうです。その際にいつも「出版企画をうんぬんする前に、ご自身の持ち場で、抜きん出た圧倒的な成果を上げることが先決です。」と伝えているとのこと。

これもその通りだなあと。圧倒的な成果が出ていなければ多くの人から共感を得るのは難しいです。しかも、「抜きん出た」という所がいいですね。

3.大ヒットする書籍に共通する5つの要素
1.驚きを生むタイトルになっている
2.心と体を癒し、健康に関わっている
3.それを読むことによって、読者自身が変われる
4.田舎でも売れる本になっている
5.女性に応援してもらえる本である
総じて、「病人のお見舞いにもっていける本」である、と植木社長は言っています。これもなるほどーとついうなってしまった言葉です。「愉しみや喜びや癒し」になるような本ですね。

しかし、この5つはミリオンセラーの必要条件に過ぎず、「ミリオンセラーに方程式は存在しない」と植木社長は言っています。必要十分条件になるためには、よくわからない『何か』がなくてはならず、その上でも結局、必要条件をどこまでやり切るか、ということが問われてくるそうです。

マスに届けるというメディア業界ならではの所がこの「何か」なのだと感じます。通常ビジネス世界では自社のお客様がだいたい決まって(ターゲティングして)いる。マスもある程度ターゲティングをしますが、20代~30代女性としても千差万別過ぎて何がニーズかは大変掴みにくいです。ただ、とどのつまり解に近い原則や法則を突き詰めて実行していく、これが成功の前提なのだと思います。

4.真理はひらがな
「わかりやすさこそ真理」「一流の人は、難しいことをやさしく伝える。」と植木社長は言っています。「やさしさ、わかりやすさにこそ、凄みを感じる。」とも。

やさしくて深い世界があるということを知りました。確かにこれまで取り上げた『アウトプット大全』『1分で話せ』『超筋トレが最強のソリューション』『父が娘に語る経済の話』などの10万部を超える本は、平易で分かりやすい。そして、前々職の社長も「モチベーション」という目に見えない難解なテーマをやさしく、わかりやすくして、伝えていたことを思い出しました。世に広げようという気概があれば、必然的にやさしく、わかりやすく、ということに辿り着くのでしょう。

真理はひらがな。凄く残る言葉です。
(1585字)

宗興の本棚

第156週『愛』

第156週
2020/8/22
『愛』
苫野一徳著 講談社現代新書

「愛」は新たに設定した今年の探究テーマです。ここ半年深く内省を繰り返しているうちに、自分は人間への愛、厳密にいうなら人間の可能性を愛することが根にあるなと感じました。それでは愛とは一体何か。これまで触ってこなかったテーマで、とても楽しみです。本書は愛の分析入門として手にとりました。著者である哲学者自身の愛の体験を観察しながら、本質を掴もうとする内容です。理解にキーとなる文章を引用しながら自分の解釈を述べていきます。

●愛すると好きの違い
「好きの本質は、エゴイスティックな欲望である。」
「その対象が自分に何らかのエロス=快を味わわせてくれるがゆえに、そのモノ(人)が好きなのだ。」
「愛は、この原初的な好きから生まれながらも、そこから遠く離れたところにある。」

→愛はまず好きから始まる。ただ、好きはあくまで対象が自分の快のみ。

●愛着とは
「愛着は執着と違い、対象それ自体への慈しみを合意する情念である。」
(ちなみに情念とは理性では抑えることのできない悲・喜・愛・憎・欲などの強い感情 Weblio辞書より)
「執着は自分の欲望に拘泥する。」
「愛着は好きからエゴイズムを越えるための最初の一歩。」
「愛着にとって重要なのは、そのものの価値それ自体ではなく、このわたしとの『歴史的関係性』なのだ。」

→好きの次の形態が愛着。愛着に発展するには、歴史的関係性、つまりある程度の時間を要してその対象との関係性を構築することが必要。客観的ではなく理念的なものであるため、わずか数日の関係であってもその人の考え方次第で歴史的関係性の構築は可能。また、我が子への愛が生まれた瞬間に芽生える場合、歴史的関係性がないのだが、未来への歴史的関係性をみていると言える。

●友情と友愛
「友情は、これまでに述べてきた「愛着」感情が身近な友に向けられた単純なもの。」
「(友愛は)単なる友への愛着を越えたものをみる。」
「その情念が理性の吟味を経て『この人はわたしと同じ魂を共有しているの』と確信されるもこと。」
「ここには、単なる情念ではない、ある“理念性”の確信が備わっているのだ。」
「(その理念性の本質は)「合一感情」と「分離的尊重」の弁証法である。」
「これは高度に、“理念的”な本質である。」
「まさにこの“理念性”にこそ、私たちは、『友愛』に限らずあらゆる『愛』の根本本質を見出すことができるとは言えないだろうか。」

→友愛という言葉がでてきて、はじめて愛にぐっと近づいた。あなたがいるから私がいるという合一感情と共に、でもあなたはあなた、という分離尊重を繰り返して発展すること(=弁証法)が愛には必要である。我が子におきかえても、我が子を自分のものとするのであれば、それは愛とは呼べない。

●真の愛
「『存在意味の合一』。それは、恋人であれ、わが子であれ友であれ、わたしが、“真の愛”を感じているとするならば、そこには必ず、相手の存在によって私の存在意味が充溢するとする確信、相手が存在しなければ、私の存在意味もまた十全たり得ないとする確信があるということだ」
「『絶対的分離尊重』とわたしたちは、相手は“このわたし”には絶対に回収し得ない存在であるという意識を持っている。」
「弁証法の先にあるもの、すなわち『自己犠牲的献身』である。」

→我が子や相方だけでなく、お世話になっている方々や、研修の受講者に感じることがある。皆さんがいて今の私がある。けれども押しつけにならずに、皆さんを尊重している。

●愛は意志である
「なぜなら『愛』は、情念であると同時に理念でもあるからだ。」

●愛を阻むナルシズム
「自己不安の反動としてのナルシズムである。」
「これはいわば自己価値への過剰な『執着』である。」
「自己不安の打ち消しとしてのナルシシズムは、ほかにだれも自分を愛してくれないから、せめて自分だけは自分を過剰に愛そうとする自己の価値への『執着』にほかならならい。」
「ナルシスティックな人間は、すべては、このわたしのために、とつねにどこかで考えている。」
「『このような惨めな自分ではない自分でありたい』という切実な欲望によって生み出されたものがある限り、その根源的欲望を“理性”の力飲みによって克服するのは至難のことだ。」
「他者から『承認される経験』を、ナルシズム克服の契機として挙げることにしたいと思う。」
「親、保護者、教師などの一つの存在意義は、ここにこそあると言うべきであろう。」
「しっかり自分の尻ですわり、勇敢に自分の足で立っていないと、愛することなどできないのに。(ニーチェ『この人を見よ』九八頁)」

→自己不安は誰しももつもの。自分だけで自己不安を克服するのは確かに至難である。自己不安は根源的なものに近いから。親として我が子に“真の愛”を注ぐことに注力したい。我が子が自己不安を克服できるよう。存在=Beingを承認し続けること。

●愛は育て上げるもの
「自分の尻でしっかりと座ること。」
「わたしは、この人を、わたしとは絶対的に分離された存在として尊重するという、『意志』をもつこと。」
「“真の愛”は、親の子に対する愛のような、必ずしも特別な関係においてのみ成立するわけではないのだ。」

→好き→愛着→愛という字のつくもの(恋愛、友愛、●●愛)→真の愛と発展していく。まずは自然に湧いてくる感情や時々に表れる感情を大切にしつつ、理性的に意志をもって関係を育ててあげていく。
(2209字)

宗興の本棚

第155週『大家族経営主義』

第155週
2020/8/10
『大家族経営主義』
天外伺朗・西康宏著 内外出版社

「月曜日に行きたくなる会社」。

私が目指したい会社像です。次に組織を創り、経営をしていく上で何より社員を大切にし、社員が「月曜日に行きたくなる会社」を創っていく気でいます。

これまで社員の充足度は顧客の満足度と等価であると位置づけて経営をしてきました。しかし、今年1月のホワイト企業大賞授賞式を機に、更に社員を大切にし、月曜日に行きたくなる会社を作っていこうと決意しました。

私に決意させたのは、そこで見たある企業の取材動画です。社員の女性がインタビュー中に「月曜日に行きたくなる」と言ったのです。「本当に??」と衝撃を受け、「これだ!!」と強く共振をしました。その企業の名は西精工。徳島にある約100年続くナットのメーカーです。社員に「月曜日が嫌じゃない」と思ってもらうのさえ難しいはずなのに、「月曜日に行きたくなる」というのは凄いレベルです。そこから西精工という企業を調べ、辿り着いたのが本書です。心に留めておきたい二つの項目を記します。

1.経営理念の策定→べき論から解放
現社長の西さんが家業である西精工を継ぎに戻ってきたのは1998年です。当時の西精工は挨拶もなく掃除も行き届かない、どちらかというと暗い職場だったそうです。西さんは戻ってきてすぐに「会社の空気を変えたい」と立ち上がります。しかし、掃除と挨拶運動を行っても、冷ややかな反応が多数でうまくいきません。この頃毎日うなされていたそうです。

そこから、稲盛さんの影響を受け西さんは新しい「経営理念」を策定します。「社員の幸せ」を入れた経営理念を策定し、「目的は幸せです」と社員に正面切って宣言します。それ以来、嫌な夢は見なくなったそうです。「ああしなくてはならい。これがいけないんだ、という『べき論』から解放されたおかげです。」と西さんは言っています。そして自分が覚悟を決めて社員などを引き受ける姿勢にどんどんなっていったそうです。この西さんの変化により、社員が変化し、会社が変わっていきます。

やはり「月曜日に行きたくなる会社」には経営理念こそ最重要です。「社員の幸福」を経営理念に入れなければ、月曜日に行きたくなる会社は作れないでしょう。もっと言えば、「社員の幸福」を経営理念に記すことで一点の曇りもなく追求する信念が重要です。

2.全員参加の経営
西精工からもらったもう一つのヒントは全員参加の経営です。「月曜日に行きたくなる会社」は当事者として皆で経営に参画することがポイントと感じます。幾つか紹介された施策から発展させてやっていこうと思ったのは経営理念を社員と創ることです。次の会社も最初は私が創ります。しかし、3年後ぐらいに新たな経営理念を社員と共に作っていく。更にもう3年後に、また社員と見直していく。それはやっていこうと決めています。社員だけでなく他のステイクホルダーと共創するのも良いかもしれません。

あとは、直感的に幾つか発展させやってみようと思った事はありますが、もう少し深めてから取捨選択していこうと思っています。
(1243字)

宗興の本棚

第154週『THE VISION』

第154週
2020/8/9
『THE VISION』
江上隆夫著 朝日新聞出版社

ビジョンについてより深く探究するために手に取った本です。三つの印象的だった項目を挙げます。

1.ビジョンの定義
ビジョンとは「自らが生み出しえる最高の公共的未来像」であると著者は定義しています。ここで目につくのは「公共的」という部分です。著者は、企業は社会の公器であるべきと考えています。そして「ビジョンとは、ある固有の組織や人の中に生じた『公共の夢』でもあるのです」というように、ビジョンに含まれる「公共性」が重要であることを何度も強調しています。優れたビジョンは伝染力があるのだとすれば、要素として、多くの人々が共感、共鳴するような利他的且つ広く開かれていることが必要なのだと考えます。

2.心に響く企業ビジョン
私がこれいいと直感的に思った企業ビジョンは二つありました。
「一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」(東京通信工業=現ソニー・会社設立の目的)

「理想工場」という言葉がいいですね。技術者にとっての最高の場であることが一言で表されている秀逸な言葉だと思います。

「1.私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します」(リッツカールトン・サービスバリューズ)

強い意志を感じました。「人間関係」、「生涯のゲスト」という通常のホテルの枠を超えた力強さがあります。

3.「初期衝動を対象化する」
ビジョンを創出する最初のステップで、出てくる言葉です。1970年代~80年代にかけてのロックミュージックの評論でよく使われていたそうです。当時のロックは、若者が叫び出したい衝動で出来ているような音楽でした。しかし、「音楽を本当に自分の表現手段とするには、心の奥深くにある最初の衝動を冷静に見つめ、自分のアイデンティティとして対象化し、使えるものとしなければならない」と言われていたそうです。

初期衝動を対象化する、いい言葉です。これは研修でもビジョン策定時に是非使っていきたいです。ちなみに、対象化するための問いは、「なぜ、私達は、この事業を行っているのか」です。
(869字)