宗興の本棚

第156週『愛』

第156週
2020/8/22
『愛』
苫野一徳著 講談社現代新書

「愛」は新たに設定した今年の探究テーマです。ここ半年深く内省を繰り返しているうちに、自分は人間への愛、厳密にいうなら人間の可能性を愛することが根にあるなと感じました。それでは愛とは一体何か。これまで触ってこなかったテーマで、とても楽しみです。本書は愛の分析入門として手にとりました。著者である哲学者自身の愛の体験を観察しながら、本質を掴もうとする内容です。理解にキーとなる文章を引用しながら自分の解釈を述べていきます。

●愛すると好きの違い
「好きの本質は、エゴイスティックな欲望である。」
「その対象が自分に何らかのエロス=快を味わわせてくれるがゆえに、そのモノ(人)が好きなのだ。」
「愛は、この原初的な好きから生まれながらも、そこから遠く離れたところにある。」

→愛はまず好きから始まる。ただ、好きはあくまで対象が自分の快のみ。

●愛着とは
「愛着は執着と違い、対象それ自体への慈しみを合意する情念である。」
(ちなみに情念とは理性では抑えることのできない悲・喜・愛・憎・欲などの強い感情 Weblio辞書より)
「執着は自分の欲望に拘泥する。」
「愛着は好きからエゴイズムを越えるための最初の一歩。」
「愛着にとって重要なのは、そのものの価値それ自体ではなく、このわたしとの『歴史的関係性』なのだ。」

→好きの次の形態が愛着。愛着に発展するには、歴史的関係性、つまりある程度の時間を要してその対象との関係性を構築することが必要。客観的ではなく理念的なものであるため、わずか数日の関係であってもその人の考え方次第で歴史的関係性の構築は可能。また、我が子への愛が生まれた瞬間に芽生える場合、歴史的関係性がないのだが、未来への歴史的関係性をみていると言える。

●友情と友愛
「友情は、これまでに述べてきた「愛着」感情が身近な友に向けられた単純なもの。」
「(友愛は)単なる友への愛着を越えたものをみる。」
「その情念が理性の吟味を経て『この人はわたしと同じ魂を共有しているの』と確信されるもこと。」
「ここには、単なる情念ではない、ある“理念性”の確信が備わっているのだ。」
「(その理念性の本質は)「合一感情」と「分離的尊重」の弁証法である。」
「これは高度に、“理念的”な本質である。」
「まさにこの“理念性”にこそ、私たちは、『友愛』に限らずあらゆる『愛』の根本本質を見出すことができるとは言えないだろうか。」

→友愛という言葉がでてきて、はじめて愛にぐっと近づいた。あなたがいるから私がいるという合一感情と共に、でもあなたはあなた、という分離尊重を繰り返して発展すること(=弁証法)が愛には必要である。我が子におきかえても、我が子を自分のものとするのであれば、それは愛とは呼べない。

●真の愛
「『存在意味の合一』。それは、恋人であれ、わが子であれ友であれ、わたしが、“真の愛”を感じているとするならば、そこには必ず、相手の存在によって私の存在意味が充溢するとする確信、相手が存在しなければ、私の存在意味もまた十全たり得ないとする確信があるということだ」
「『絶対的分離尊重』とわたしたちは、相手は“このわたし”には絶対に回収し得ない存在であるという意識を持っている。」
「弁証法の先にあるもの、すなわち『自己犠牲的献身』である。」

→我が子や相方だけでなく、お世話になっている方々や、研修の受講者に感じることがある。皆さんがいて今の私がある。けれども押しつけにならずに、皆さんを尊重している。

●愛は意志である
「なぜなら『愛』は、情念であると同時に理念でもあるからだ。」

●愛を阻むナルシズム
「自己不安の反動としてのナルシズムである。」
「これはいわば自己価値への過剰な『執着』である。」
「自己不安の打ち消しとしてのナルシシズムは、ほかにだれも自分を愛してくれないから、せめて自分だけは自分を過剰に愛そうとする自己の価値への『執着』にほかならならい。」
「ナルシスティックな人間は、すべては、このわたしのために、とつねにどこかで考えている。」
「『このような惨めな自分ではない自分でありたい』という切実な欲望によって生み出されたものがある限り、その根源的欲望を“理性”の力飲みによって克服するのは至難のことだ。」
「他者から『承認される経験』を、ナルシズム克服の契機として挙げることにしたいと思う。」
「親、保護者、教師などの一つの存在意義は、ここにこそあると言うべきであろう。」
「しっかり自分の尻ですわり、勇敢に自分の足で立っていないと、愛することなどできないのに。(ニーチェ『この人を見よ』九八頁)」

→自己不安は誰しももつもの。自分だけで自己不安を克服するのは確かに至難である。自己不安は根源的なものに近いから。親として我が子に“真の愛”を注ぐことに注力したい。我が子が自己不安を克服できるよう。存在=Beingを承認し続けること。

●愛は育て上げるもの
「自分の尻でしっかりと座ること。」
「わたしは、この人を、わたしとは絶対的に分離された存在として尊重するという、『意志』をもつこと。」
「“真の愛”は、親の子に対する愛のような、必ずしも特別な関係においてのみ成立するわけではないのだ。」

→好き→愛着→愛という字のつくもの(恋愛、友愛、●●愛)→真の愛と発展していく。まずは自然に湧いてくる感情や時々に表れる感情を大切にしつつ、理性的に意志をもって関係を育ててあげていく。
(2209字)