宗興の本棚

第170週『最高の成果を生み出す ビジネススキル・プリンシプル』

第170週
2020/11/23
『最高の成果を生み出す ビジネススキル・プリンシプル』
中尾隆一郎著 フォレスト出版

LIFULL社外取締役の中尾さんの著書2冊目。リクルート時代のエピソードなどをまじえながら、ビジネスで役立つ50のスキルを紹介しています。

この中で二つほど、強く印象に残った章を書きます。

50.「もう一つの仕事」に精を出していませんか?

大阪のマネジャーのエピソードがとても印象的でした。中尾さんが情報誌の企画マネジャーをしていた頃、商品や価格帯、製造工程を標準化する企画を立てました。各エリアの部長は了承をしてくれたのですが、ある大阪のマネジャーが、「納得いかない」と中尾さんの上司に直談判してきました。

上司との面談時には、大阪マーケットの綿密なデータと、施策が難しい理由が理路整然と書かれていました。

理屈には穴も幾つかあり反論する余地もあったそうですが、中尾さんの上司は、

『いやー、あなたは本当に賢いな。その賢さと情熱とエネルギーをこの施策ができないことを説明するために使うのではなく、中尾を助けるために使ってくれないだろうか』

と、ひと言つぶやいたそうです。

すっかり毒気を抜かれた大阪のマネジャーは、「分かりました」と言い、1週間後にどうやったら実現できるか、というレポートを作成し、標準化を積極的にけん引してくれたそうです。

本章は、自分をよく見せる「強がり」に時間を割くのは無駄であるという、考えを載せている章ですが、強がりは無駄ということ以上に、この上司の方の素晴らしさに敬服しました。このような一言が言えるようになりたい、凄いなと、感じました。

44.永続的に伸びる会社を見抜く

①顧客の満足 ②従業員の満足 ③株主の満足 ④社会への貢献
企業が永続的に成長するために、優先順位をつけてください、という問いがあります。

とても難しいです。私は悩みながら、②従業員の満足 ①顧客の満足 ④社会への貢献 ③株主の満足という順番を考えました。

中尾さんが100社の経営者に同じ質問をしたところ、4社だけ「4つとも満足が必要」と回答したそうです。そして、その4社が10年後に成長していました。

そこから、中尾さんは永続的に伸びる企業は、4つを同時に満たしている、と主張されています。

どれかの優先順位下げることなく、1つもないがしろにしないことは、とても難しいことです。嘆息すると共に、合点がいきました。
(938字)

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第169週『訳注 二宮先生語録(下)・報徳外記』

第169週
2020/11/15
『訳注 二宮先生語録(下)・報徳外記」
斎藤 高行原著 佐々井典比古訳注

3年半前、自分が心から尊敬する方に毎日触れることを決めました。その日から二宮尊徳先生の著書、関連書籍を毎日少しづつ読んでいます。今回の語録は、折り目を付けた箇所42.そこから11に絞り、更に日々に落とし込み、忘れないよう3つまで絞りました。

[297]己に克って礼に復る
「孔子は、『己に克って礼に復(かえ)れば、天下人仁に帰す。』(論語、顔淵篇)と言った。
(中略)これを開墾にたとえると、「己に克つ」とは、荒地をひらくことである。『礼に復る』とは種をまくことである。「天下」とは広く言っただけのことで、あらゆる荒地と言うのと同様である。「仁に帰す」とは、あたり一面よくみのって穀物となることを言うのである。(後略)」

尊徳先生は「たとえ」が上手く、聖人や賢人が残した書物や言葉を、よく農業や動植物、日常生活にたとえています。これでもか、というぐらい「たとえ」が出てくるのは、本質を理解し、人に分かりやすく伝えるためでしょう。考の巨人というぐらい、日々考えに考えていたのと敬服します。

このたとえを参考に、克己復礼を私共のプログラム提供におきかえると、「己に克つ」とは、意欲の低い受講者にも寄り添うこと。「礼に復る」とは感情的にならず最善法を提示すること。「天下は」あらゆる大人、子供のこと。「仁に帰す」とは、自分の道を自分で拓けるようになる、ことでしょう。

[416]報徳は人道の極致
「人が世の中に生きてゆけるのは、すべて天・地・人の三つの才(はたらき)の徳によるものだ。だからその徳に報いることが、人道の極致であり、わが法の本源である。(中略)人もまた、徳に報いる心がなければ、終生安息することができない。(後略)」

私の解釈だと、感謝と貢献の二つがあると、幸福度の極致、終生の安息にものすごく近づける感覚です。学習塾を譲渡後、仕事以外の時間は趣味等に使い、奉仕的な活動をしなくなっていましたが、どうもしっくりこない日々でした。軽い空虚感というか。そして、自分の時間をもっと世のため人のために使いたい、という貢献欲が心から湧きあがり、NPOを再開することにしました。他者幸福と自己幸福は一致すると強く思います。

第十九章 教化(上)
貧困怠惰な農村があったとして、役人がどのように精勤へと導けばよいかを尊徳先生が語った章です。その秘訣を一言で表したのが「鶏晨回邑(けいしんかいゆう)」です。晨は朝早く、邑は村という意味であり、鶏が鳴く早朝に毎日村を見て回ることを指しています。しかもこれは「寒暑・雨雪にかかわらず一朝も怠らない」ことを含んでいます。

鶏晨回邑すると、徐々に村人が回村に気づき、そのうち寒暑問わず役人が回村する理由が、「我々に家を保たせようとするのである。」ことに気づくと仰っています。

やはり率先垂範。人心を動かし、大きな流れをつくるためにも、率先垂範が一番だとあらためて思いました。
(1192字)

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第168週『経営学習論』

第168週
2020/11/8
『経営学習論』
中原淳著 東京大学出版会

日本において、人材育成研究の第一人者といえば、中原教授と考えています。今回あらためて体系的に人材育成を把握するべく、手にとりました。

本書は体系図として、5つの視点を提示しています。
①組織社会化②経験学習③職場学習④組織再社会化⑤越境学習の5つです。

新たな知見や探究したい箇所が多く絞るのが難しかったですが、思い切って3つに絞ります。

1.ダニエル・フェルドマンの新規参入者の影響(Feldman 1994)
採用の企業メリットを体系的にまとめてあり、色々と活用できそうです。

【肯定的変化】
<個人>
1)職務態度の向上
2)意欲と努力の増加
3)組織知識化の増加
4)専門知識の増加
新人が入ることで、先輩として役割を果たそうとすることで生じる好影響ですね。

<組織>
1)グループの規範や団結力が高まる
2)仕事の割り振り機会増
3)職場の強みと弱みの体系的分析の実施
4)新人からのフィードバックを経営陣に提供
新人が入ることで、皆が職場をよくしようと考えることで生じる好影響だと思います。

【否定的変化】
<個人>
1)時間と労力をとられる
2)ストレス増加とパフォーマンス低下
3)不公平感の助長
4)新人への過度な配慮

<組織>
一時的に、
1)生産性の低下
2)新人の社会化の失敗(によるモチベーション低下)
3)メンバー間の摩擦の助長
4)わざと教えず現状維持をはかる
昨今、新人の扱いに困るという話はメディアで多く聞かれ、否定的影響が増大する懸念があります。育成担当のメンターへのサポートは必須でしょう。

2.プラグマティズムの祖、ジョン・デューイの考え方
学習研究における「経験」概念の利用が、デューイを起源としているのは新たな知見でした。

デューイは、
「学習とは抽象的概念・記号を個体内部に蓄積すること」という従来の学習観を批判しました。そして、「学習者の生活経験を重視し、かつ学習者が学習の主体性を持ちうるかたちで学習機会をつくりだす」ことを主張します。

ポイントとしては二つあると考えます。

まず、個体が環境に積極的に働き替えることで、「経験」を生み出していく相互作用です。この個体―環境の相互作用は、まさに私達の成長サイクルにおける「学び→実践」のことを指します。

もう一つは、反省的思考です。
デューイは、
「経験と学習をつなぐ概念として、『反省的思考』を提案し、そこにこそ個体の認知的発達の可能性を求めた。」とあります。経験してそこで終わりではなく、「獲得した新しい経験や考え方を、その後の経験の基礎としてつながっていくようなあり方」を提示しています。

この「反省的思考」は、コルヴの省察の元になっていると考えられます。そして私達の成長サイクルにおける「内省→学び」にあたります。

3.モーガン・マッコールの研究
モーガン・マッコールは、上級役員を対象に、自らが「量子的な飛躍(Quantum leap experiment)」を遂げた経験を回顧してもらい、共通項を抽出しました。

更に、『ハイ・フライヤー』でリーダーシップ開発のために「経験」「戦略」「触媒」の三要素を提示しています。

ビジョンを掲げるリーダーをより多く輩出するための研究として、このマッコールの研究は欠かせないと感じました。
(1322字)

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第167週『新1分間マネジャー』

第167週
2020/11/1
『新1分間マネジャー』
ケン・ブランチャード+スペンサー・ジョンソン著

1分間シリーズの最初の本。1983年に刊行されて以来、世界1500万部の大ヒットとなっています。

マネージャーとして成功するために、たった1分間でできる3つのこと(1分間目標設定、1分間称賛、1分間修正)を提示しています。それぞれ私なりにポイントと思う部分を書きます。

まず、1分間目標設定です。目標を絞って一緒に立てることも重要ですが、目標を都度見返すようにする、これがポイントだと思います。

「部下と上司に仕事の内容を聞くと、別々の答えが返ってくることが多い。」とあるように、メンバーが自分の職務と思っている範囲と、上司が思っている範囲にズレが生じることがあります。互いに、都度目標を見返すのはズレがなくなるために効果的な手段です。

次に、1分間称賛のポイントは、私は間をおく部分だと思います。

正しかったポイントを具体的に伝え、自分にとってどんなに嬉しいか伝える。そして、「少し間をおいて、自分の行動に対する満足感を味わわせる。」と書かれています。具体的に誉める、はよくあることですが、間をおいて満足感を実感してもらう、というのは新たな発見です。

最後に、1分間修正のポイントは、細かくフィードバックを与えていく部分です。

ありがちなのは、ミスや指摘事項をため、あとで一度にたくさんのフィードバックを与えてしまうことです。メンバーは一気に押し寄せる波に対処ができません。「早めにミスを見つけて、こまめにフィードバックを与えていくこと」と書かれているとおり、都度の修正がメンバーにとって助かるのです。

本書では逆のパターンを「ほったからしてバッサリ」式のコミュニケーションと名付けています。そうならぬよう頻繁に細かく、終わったらカラッとする。これが1分間修正のポイントだと感じます。
(735字)

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第166週『1分間リーダーシップ』

第166週
2020/11/1
『1分間リーダーシップ』
ケネス・ブランチャード+P・ジガーミ+D・ジガーミ著 ダイヤモンド社

LIFULL社外取締役の中尾さんの著書に、名著と書いてあったシリーズ。短い本で、1時間もあれば読めてしまう分量なのですが、なるほどと頷く部分が多くありました。

本書は業績を上げるリーダーの手法として状況対応型リーダーシップを提示しています。それは、指示型、コーチ型、援助型、委任型を、メンバーの成熟段階によって変えるものです。メンバーのその仕事への適正能力が低いうちは、指示型から始めます。そこからコーチ型、援助型を経て委任型へと移行していくやり方です。

印象に残ったことを二つ書きます。

一つは、人の成熟段階によって変えるというより、その人の能力とタスク・目標との関係によって使い分けるということです。

同じ人でも仕事の種類と成熟度が違えば、4つのリーダシップスタイルを使い分ける必要があるのは、見落としがちな点です。例えば、営業成績が優れた営業兼講師のメンバーがいたとします。営業成績が優れているのでつい委任型にしそうなのですが、研修講師として経験が乏しければ、その部分は指示型で導いていくことが効果的です。

もう一つは、目標設定と「取決め」が大切であることです。

経験が乏しいメンバーに対して、いきなり指示型のマネジメントをすると、管理が厳しいと思われる。一方、経験豊富なメンバーに、何も言わず委任型をすると、放置されていると思われる。私もそのような経験があります。「なぜそのように行動をしているか」を告げないと、間違って受け取られるのです。

よって円滑にメンバーを導くには、目標設定と、その際にどのようなスタイルをとるか、しっかりと伝える(=取決め)、共に歩むことが重要と感じます。

ちなみに状況対応型リーダーシップとしていますが、本書が伝えているのは日常のコミュニケーションの仕方であるため、状況対応型マネジメントの方が、私にはしっくりきます。
(769字)