宗興の本棚

第181週『仕事に関する9つの嘘』

第181週
2021/2/27
『仕事に関する9つの嘘』
マーカス・バッキンガム、アシュリー・グッドール著 サンマーク出版

組織人事のプロの方に薦めて頂き手に取った本です。内容としては、組織人事についてよくある9つの考え方をデータ分析から喝破しているものです。

9つどの項目をとっても、じっくりと深めていくに値するものであり、時間を要するので、今回一つだけ絞ります。

最高の人材は「オールラウンダーである」はウソ、最高の人材は「尖っている」がホント。

筆者曰く、好業績チームを調べていくにあたり要因となる8項目を設定しました。その中でも業績や国籍にかかわらず、チームの生産性を予測するうえで「とびきり強力な予測因子」があり、それは

メンバー一人ひとりの「仕事で『強みを発揮する機会』が毎日ある」という感覚

とのことです。

ちなみにこの質問項目から「毎日」という言葉を取り除くと相関関係が消えるそうです。「自分の強みが仕事に役立っているという『日常的な感覚』こそが、好業績の必須条件なのだ」と筆者は言っています。

そもそも「強み」とは何でしょうか。

得意なことは能力に過ぎず、高い能力を発揮しても喜びがまったく感じられないものもあると筆者は言っています。確かに私にも思い当たる節はあります。

「活動の前は楽しみでしかたがない。活動の最中は時間の進みが速くなり、時間の境界が溶けていくような感覚がある。活動のあとは疲れ切っていて、もう一度気合を入れて取り組む気にはまだなれないが、充実感と満足感をおぼえる。」という筆者の表現が秀逸です。

まとめると、強みは「事前の期待感、最中の没入感、事後の充実感の相乗効果」があるようなもの。私にとっては受講者と触れる「プログラム実施」の時間がこれに当たります。

強みは能力というより欲求に近い、というのも納得できます。最終的に仕事に「愛」を感じる部分があるかということです。卓越したリーダーはメンバーに強みを認識してもらい、その仕事を愛してもらうことが重要なのだと認識し、大変参考になりました。
(791字)

宗興の本棚

第180週『GAFAに克つデジタルシフト』

第180週
2021/2/21
『GAFAに克つデジタルシフト』
日本経済新聞出版社 鉢嶺登著

体感値で日本企業のDXの本気度は、コロナ渦を機に一気に高まった気がします。私も人材開発の分野で、DXを進めていきたいという思いは常々持っており、具体的なイメージをつけたく手に取りました。

本書は、デジタルシフトに遠い経営者を対象とした本です。著者の鉢嶺さんが自社のデジタルシフトをした実体験をもとに、すぐにできるノウハウまで落とし込んだものとなっています。

二つのことを挙げます。

まず、クリエイターの重要性です。顧客が「目で見て」「指で触れて」「耳で聞く」領域を整えて体験価値を出せる人材。いわゆるUI・UX(ユーザーエクスペリエンス)を担当する人材で、主にはデザイナーを指します。

「クリエイターの力いかんで企業価値や業績が大きく左右される時代に突入したと言える。」「これはいくら強調してもし足りない。」と鉢嶺さんが仰ったこともあり、相当深く心に残りました。

LIFULLもかなり以前からUI・UXの重要性を見越して、クリエイティブ強化に舵を切っています。LIFULL LeadershipのDXにもクリエイターの方々の力は必須であり、どうしたらクリエイターの方々がより力を発揮できるか、実際に協業しながら探究していきます。

もう一つは、オプト社の金澤社長についてです。金澤さんは34歳でオプト社に就任し、同社をものづくりの会社にシフトさせていきます。当初懐疑的だった会長の鉢嶺さんに「3年黙って見ていてくれますか。3年以内に結果を出しますので」と断言し、デジタルエンジニアの大量採用(市ヶ谷Geek★Night)と活躍維持(自主組織オプトテクノロジーズ)を成功させます。

また「オプトをものづくりの会社にする」と方向性を決めて、全社員700名を1回10名~15名に分けた1時間×40回以上の座談会を実施。同時に、現場のエンジニアチームを治外法権とするなど、覚悟を決めデジタルシフトを実現します。

リーダーの定義は、「自らビジョンを描き、自他を一致団結させる人」と定義しています。「しっくりくる」「捧げられる」ビジョンが描けることでリーダーは誕生します。そこに危機感や切迫感などの強烈な感情が入ると、一気にスピードが増します。久々に自社を活かしビジョンを実現させる素晴らしいリーダーの実例に会い、心が揺さぶられました。
(953字)