宗興の本棚

第199週『予測不能の時代』

第199週
2021/7/25
『予測不能の時代』
矢野和男著 草思社

幸福な組織作りを研究する日立製作所フェロー矢野氏の著書。これまで幸福や幸福な組織作りに関して読んだ書籍の中で、一番科学的な内容でした。

矢野氏の実験では、10個の多様な組織に属する468人の被験者に、名札型のウエアラブル端末を装着してもらいます。その端末により、対面コミュニケーションの記録と上半身がどのように動いたかを記録します。
そして幸福度はCES-Dという尺度を用いて「今週幸せな日は何日ありましたか」といった1週間程度の中期的な時間スケールでの主観的な状態を集計しました。

結果、幸福な組織は「FINE」という特徴で表すことができました。

①Flat
「幸せな組織では、人と人とのつながりの網目が、組織内で均等に近く、フラットにいろいろなところがつながりあっているのだ。」

これは縦関係を越えたコミュニケーションの重要性のエビデンスとなります。組織内でコミュニケーションタイムなど設け、横や斜めなど様々な人と交流する機会を作りだすことが組織長の役目として認識してもらえると思います。

②Improvised
「幸せな組織は、5分から10分の短い会話が高頻度で、毎日あるいは日に何度も行われているのだ。」

コミュニケーション頻度を高める重要性のエビデンスとなります。毎週の定例だけでなく、朝礼や夕礼など、少しでもコミュニケーション頻度を高める施策が組織長の役目として認識してもらえると思います。

③Non-verbal
「幸せな組織では、会話中に身体が互いによく動く。」

これは、上長が率先して頷きを多くするエビデンスになりえますが、ややエビデンスとしては強くないと思います。

④Equal
「幸せな組織では、会議や会話での発言権が比較的平等、つまりイコール(Equal)なのだ。」

これは実践するのに一番難易度が高そうです。会議ではメンバーは基本黙っています。ファシリテーション力が求められる上に、一人一つテーマ発表してもらうなど、事前のおぜん立てが必要です。ある一定のマネジメントレベルを持つ人はチャレンジを薦めても良いかと感じます。

Well-beingな組織づくりを目指すCHROは増えていると感じます。この本を是非薦めたいです。
(907字)


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第198週『失敗を語ろう』

第198週
2021/7/17
『失敗を語ろう』
辻庸介著

日本の代表的なフィンテック企業であるマネーフォーワード社辻さんの著書。挑戦と失敗をテーマに、創業からこれまでのリアルな話をつづった体験記です。

線を引いた言葉=心が動いた箇所を大別すると二つに分かれました。

一つ目は、「ユーザーについて」です。

「『底が空いていないバケツ』をつくる。」

「ユーザーにとって『nice to have=あったらいい』ではなく、『must have=なくてはならない』存在になること。「must have」のサービスにならないと、サービスはいずれ死ぬ。」

「みんなが便利になるようにと始めたサービスが、受け入れてもらえない。このことは本当にツラかった。」

「そして僕たちは、確信した。僕たちが存在するための唯一の価値―それは、『ユーザーに支持されること』だと。」

サービスの失敗を越え、辻さんは繰り返しユーザーに支持される必要性を伝えています。ちなみに、マネーフォーワード社のValueの一番目は「User Focus」です。これは、「受講者ファースト」という私が大切にしたい考えと近く、より一層受講者に喜ばれるものを創り、提供していくこうと決意をあらたにしました。

二つ目は、「人間関係について」です。

「だから、最初から仲間選びには一切の妥協はしなかった。人として信頼できて能力も高く、しかも一緒にいてワクワクできるひとじゃないと決めていた。
実際、この点にこだわったことは大正解だったと思っている。なぜなら、創業間もない会社の命運を左右するのは、創業メンバーのレベルだからだ。」

「根が明るくて、嘘をつかないこと。『この人となら一緒にやっていきたい』と周りのメンバーに思わせる人間性がなければ、大きな仕事は成し得ない。」

「直後はさすがにショックで人間不信になりかかった」

「公式リリースの発表直後、飛んできたチャットに背筋が凍った。」

「このときに僕が学んだのは、『大切にしたい相手には、きちんと感謝と敬意を伝えなければいけない』ということだ。」

「ツラいときこそ、明るく、鼻歌を歌おう、と決めていた。」

「そんな態度に、『お金を持っていることは、そんなに偉いことなんですか?』とキレそうになった。でも、冷静なもう一人の僕が『待て』と言った。『キレたら負けだろ?』と。」

「そうか、人から嫌われたくない自分のままでいいんだ。ありのままの嘘のない自分の強みを発揮できるリーダーを目指していこう。」

人間関係の失敗を越え、辻さんは人とつながるために必要なことを伝えています。私自身、相手を気遣い、できる限り丁寧にコミュニケーションをとっていこうと日々心掛けています。ここ数年特に身内に対して、「分かってくれているだろう」という甘えたスタンスの元、丁寧さが欠け、傷つけるようなコミュニケーションをしないようにと心に誓い、気をつけています。

それでも正直失敗はあります。そのたびに自己嫌悪になりますが、強く反省し前に進むようにしています。歳を重ねるごにその失敗は減っている気がします。
(1237字)

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第197週『習慣の力』

第197週
2021/7/3
『習慣の力』
チャールズ・デュヒッグ著 渡会圭子訳

『ザ・ゴール』に続き、LIFULL社外取締役の中尾さんが必読書と薦めていらっしゃったので手に取りました。

一番印象に残ったのは「キーストーンハビット」です。ある一つの習慣を変えることで、他の行動にも影響を及ぼし、様々なことが変わっていくことがあります。「キーストーンハビット」はそのような重要な習慣のことを指します。ボウリングの頂上ピンですね。

この「キーストーンハビット」について冒頭34歳の女性の事例が書かれています。この女性は16歳で喫煙と飲酒をはじめ、ずっと肥満に悩まされ、20代半ばに1万ドルの借金を抱え、仕事も1年以上続かなかったそうです。その女性が国立衛生研究所のプログラムに参加し劇的に変わります。

きっかけとなったのはカイロへの旅行。これを機に彼女は禁煙をします。禁煙することで、ジョギングを始めるようになりました。そうすると、食生活や、働き方、睡眠、貯金の仕方も変わり、仕事のスケジュールもきめ、将来の計画を立てるようになりました。大学に戻り、婚約し、研究者の目にとまりスカウトされました。彼女の人生は完全に変わったのです。

そして彼女の脳の画像分析によると、新しいパターンの神経活動が古いパターンより優先されていることが分かったそうです。

ビジネスや生活をつくり直すために、特に重要な「キーストーンハビット」。様々なことを試しながら「キーストーンハビット」を見つけたら、更に成長できますね。

ちなみに、2006年デューク大学の学者が人間の日常行動の40%以上が「その場の決定」ではなく「習慣」であるという論文を出したそうです。これは「習慣を変えれば人生が変わる」という格言の科学的根拠になりますね。また習慣が強力なのは、神経学的欲求を生み出すからです。
(731字)