宗興の本棚

第203週『人生が変わる哲学の教室』

第203週
2021/8/22
『人生が変わる哲学の教室』
小川仁志著 中経出版

3年以上前に買ったのですが手つかずだった本書。8月からデジタルデトックスを開始し、携帯に割く時間を読書に充てるようになり、その効用で読む気になりました。

本書は、人生とは?家族とは?幸福とは?などの哲学的なテーマについて、そのテーマにあった哲学者1名が、生徒達と対話形式で掘り下げていく内容になっています。

14名の哲学者の中で、今の私がとても印象深く感じた哲学者2名を挙げます。

一人は、ハンナ・アーレント氏です。女性の現代思想家で、ユダヤ系であるためナチスの迫害を受けアメリカに亡命した方。全体主義が発生するメカニズムを分析し世に出します。

アーレント氏の主著『人間の条件』に出てくる、労働と仕事の違い。そこからくる仕事の意味に共感をしました。

アーレント氏曰く、労働は「人間の肉体の生物学的過程に対応する活動力」を指し、食事や洗濯などいきるために必要な活動で自然性をおびます。一方仕事は「人間存在の非自然性に対応する活動力」を指し、道具や建築物などの工作物を生み出します。

労働は消費されるだけですが、仕事は形に残ります。自分の思いが形に残るので、この意味で、「仕事は自己実現に近い」とアーレントさんは言っています。

社会人になって以降、私はおそらく仕事を労働と思ったことがありません。生まれて初めて「ハマった」ものが仕事であり、自己実現の手段として無限の可能性を感じているから楽しいのでしょう。

一方でアーレント氏は仕事のやり過ぎはダメで、時間がなくなり大衆の社会への無関心を生む。それが全体主義へとつながると警鐘を鳴らしています。そして、労働や仕事の他に「活動」という、余暇や家庭との時間、地域社会への貢献など仕事以外の活動の意義を論じています。

全体主義云々というより、いち個人の幸福として「あ~本当にそうだな」と。

今の自分に大切なことは「バランス」です。仕事以外に使う時間の優先度を高め、バランスをとることが、より自身の幸福につながると実感しています。

もう一人については「再読」のどこかで書きます。
(848字)

宗興の本棚

第202週『モチベーションマネジメント【BASIC】』

第202週
2021/8/15
『モチベーションマネジメント【BASIC】』
一般社団法人モチベーション・マネジメント協会

受講者の方に「使える」と感じてもらえるモチベーションの書籍を探し続けている中、リアルなケース×理論が現場で使えると考え、手に取りました。

今回紹介されていた中で二つの理論が印象的でした。

まず、ロックとレイサム「目標設定理論」は以外と盲点であり、押さえておく必要があると感じました。

モチベーションが高まる目標とは何か。それは二つの要素があります。一つは困難な目標。もう一つは明確な目標。あわせれば「困難だが明確な目標」ということです。

モチベーションの違いはつまるところ「目標設定」によってもたらされるという考えは、非常に共感できます。この部分、研究内容を含めもう少し深堀りしてもよさそうです。

もう一つは、ハックマンとオルダムによる職務特性モデルです。

ハックマンとオルダムは、仕事に関して3つの感覚が高まったとき、臨界的心理状態となり、仕事へのモチベーションが高まること。またその3つの感覚を高めるには5つの職務特性があることを見出しました。

①仕事を有意義であると感じること→技能多様性・仕事一貫性・仕事有意味性が必要
②仕事の結果に責任があると感じること→自律性が必要
③仕事の努力が成果を生んでいるか知っていること→フィードバックが必要

①の仕事を有意義であると感じることについて、仕事そのものへ感じる価値だけでなく、技能の幅の広さや一貫性が影響することが発見でした。例えば、分けられている業務をつなげ、一気通貫してできる業務に移行するのは、技術多様性や仕事一貫性が増し、有意義に感じやすくなると考えます。仕事の振り方はモチベーションに大きく影響するので、押さえておくと便利な理論です。
(689字)

宗興の本棚

第201週『愛とは、怖れを手ばなすこと』

第201週
2021/8/7
『愛とは、怖れを手ばなすこと』
ジェラルド・G・ジャンポルスキー著 本田健訳 サンマーク文庫

昨年からテーマにおいている「愛」の探究。エーリッヒ・フロム氏の『愛するということ』に続き、何がよいかを探す中、直感的に選びました。

本書では愛の定義は書かれていません。ただ心がやすらぐためには、愛に生きることが必要であり、愛に生きるには怖れを手ばなす必要があると著者は言っています。

一つ印象的なエピソードがありました。

著書は長年、慢性のひどい腰痛に悩まされていたそうです。そして自分の心が穏やかでないのは腰痛のせいだと思っていました。しかし、感情的なストレスにさらされているとき、とりわけ怖れを感じ、誰かに対する不満が胸にあるとき、腰の痛みが悪化することに気づきました。

そして、ゆるしを通して不満を手ばなすことを学んでから、腰の痛みは消えたそうです。
椎間板の異常があり、神経外科医から手術をすすめられたのですが、結局手術もせずにすみました。腰痛が心の平穏を壊していたのではなく、実は逆で、癒されないままの人間関係が肉体的な痛みを引き起こしていたのです。

痛みは心の痛みが身体化したもの、と捉えることができると思っています。実際に私も肉体的な痛みを抱えていますが、この痛みの大小は肉体的な疲労度だけでなく、精神の状態に大きく左右されます。

ゆるしを通して怖れを手ばなすことは、我慢する、大目に見るではなく、「人を裁かないこと」としています。確かに例にあったようにウエイトレスの対応が悪かった時、単に不満を感じるか、「色々プライベートであったんだろうな」と大らかな気持ちで見るかでは、心の平穏度は違ってきます。

「愛をもって人やできごとを見るという決意」をするという著書の言葉が胸を打ちました。
こう考えると、仕事でも子育てでも、怒ることはもとより、叱ることや、戒めることもナンセンスなように感じます。

本書を通して、愛に生きるとは、
「与えること×人を裁かずにいること(=人や自分に非があると考えないこと)。」
これに尽きるのではと思いました。
(813字)

宗興の本棚

第200週『あなたの会社は、なぜDXが進まないのか?』

第200週
2021/8/1
『あなたの会社は、なぜDXが進まないのか?』
牧田幸弘著 幻冬舎

創業時から大変お世話になっている日本ビジネスシステムズ牧田社長初の著書です。日本企業に大きな可能性があるにも関わらずDXが進まない実情をふまえ、経営者のマインド変革を強く薦める内容になっています。

今回は3つのキーワードを挙げます。

1.「データドリブン」
牧田社長は経営者の間違った思い込みがIT活用を妨げていると仰っています。中でも「アイデアが出ないのは現場の工夫が足りないから」という思い込みを、牧田社長は「問題は社員の意識ではなく、情報環境です。」と喝破します。例えば、業務改善をしたい場合、好事例やムダな部分を効果的に分析できれば改善アイデアは浮かびます。データがあることで、仮説立案や検証もでき、新たなアイデアが生まれると私も思います。要は「データドリブン」であること。その重要性をあらためて認識しました。

2.「ゼロトラスト・セキュリティ」
誰からの、どのアクセスからも攻撃され得るという想定からセキュリティ対策を考えていく立ち位置のことです。「社内は安全、社外は危険」という発想から更に進める必要性を牧田社長は仰っています。初めて目にした言葉で、とても印象に残りました。確かに情報流出やウイルス拡散含め、含め社内だからこそ逆に危ないと考えることも重要とあらためて感じました。

3.DXの「X」
導入事例に出てくるセガサミーホールディングス・加藤執行役員の「D」よりも「X(トランスフォーメーション)」が重要というお話は心に残りました。「鍵となるのは、『何をやるか』ではなく、『どうありたいか』」と仰っているように、この部分を常に議論し、決めていくことが変化に対応していく本質的な策と感じます。
(697字)