宗興の本棚

第207週『本当にわかる現代思想』

第207週
2021/9/25
『本当にわかる現代思想』
岡本裕一朗著 日本実業出版社

5年前ぐらいに購入し手つかずでしたが、デジタルデトックスの恩恵で読了した本です。

最も共感する哲学的思想は何かと聞かれたら、それは「実存主義」と答えます。一人一人の個性や生き様に焦点をあてたこの思想は、「自分の道を自分で拓ける人を増やしたい」私の根本思想と共鳴します。実存主義=主体性と解釈しても良いぐらい主体性という言葉がマッチする思想であり、人生に希望やワクワクをもたらします。

その実存主義ですが60年代に発信源のフランスだけでなく日本でも流行した後、流行が止まります。その原因となったのが「構造主義」です。人間は主体以前に、目に見えない社会構造によって生き方が規定されているという考え方です。本書では私自身の共感思想を否定するこの構造主義に特に興味が湧きました。

構造主義の代表格の二人がレヴィ=ストロースとジャック・ラカンです。

まずレヴィ=ストロースの考えは非常に複雑で本書の説明を読んでも理解ができません。
「親族の基本構造、婚姻関係、神話などは『日本の中において、人間が知らぬまに』形成される。」とありますが、これらは私達が目に見えない社会ルールに無意識的に従っている例なのでしょう。

ジャック・ラカンの方はもう少し分かりやすく、「無意識のあり方自体が言語として構造化されている」と考えました。そして無意識のうちに、他者の言語が介入してくることを「大文字の他者」という概念で表現したそうです。言語ネットワークとしての「大文字の他者」はいわば社会的な秩序のことです。これが個々人の無意識を支配していると。確かに述語を先に言う英語と、後に言う日本語の差異が、明瞭さか曖昧さのどちらを重んじるかという文化差異に結びついているかもしれません。

構造主義、更に深堀してみると面白そうです。
(740字)

宗興の本棚

第206週『君の膵臓をたべたい』

第206週
2021/9/25
『君の膵臓をたべたい』
住野よる著 双葉社

ビジネス書ばかり読んでいると飽きてきます。何か心に潤いが欲しくなり、以前から気になるタイトルで、また丁度妻や娘が読了したこともあり読んでみました。

ネタバレになるので、本の内容についてはあまり言及しません。今回は「小説なるものの読み方」に大きな気づきがあり、それについて書きます。

結論から言うと、『君すい』はあまり心が動きませんでした。主人公とヒロインの小気味よいやり取りが面白くて、何度もわっはっはと笑いが出ました。一方で、感動や感涙的なものはありませんでした。

読了後「うーん、なんか、あまり・・・」と妻、娘に感想を共有したら、中1の娘に「パパはだめ!」と両断されました。妻や娘は大泣きしたそうで、また娘は何度も読み返しているとのこと。人の感じ方なんだから「だめ!」と言われる筋合いはない的に軽く反論しましたが、ふと読み方に違いがあるなと気づきました。

そもそも本というものは、仕事や生活に活かしてナンボだと考えています。いわゆるビジネス本ばかり読んできたからそう考えているのでしょう。

活かすことに価値を見出すという点で最重要なことは「発見」です。つまり『君すい』は私にとって「発見がなかった」のですね。似たようなシチュエーションはどこかで見たことがあり、結末も「うん、そう人間ってこうなるよね」という私にとっては想像できる範囲の自然な人間の行為でした。

同じ小説でも谷崎潤一郎の『春琴抄』が面白かったのは、「へえ~人間こんなすごいことまでできるものなんだ、すごいっ!」という、自分が考えている「人間」の枠を払ってくれるものだったからと感じます。

折角なので小説というものを味わい楽しめるような読み方をしたいと考え、小説の楽しみ方なるものを調べてみましたが、いまいちピンときません。「登場人物になりきってみる」という妻の意見が一番しっくりきたので、まずはそこからはじめてみたいと思います<笑>。
<794字>