第81週
2019/2/16
『成人発達理論による 能力の成長』
加藤洋平著 日本能率協会マネジメントセンター社
私の専門領域である人材育成や能力開発です。これらの根底にある大切な問いは「人はどのように伸びるのか」。コーチングをはじめとした手法論的なアプローチではなく、人間の発達に関する生物学的なメカニズムにたどりつきたいと考え、本書を手に取りました。
本書は、人間の知性や能力の成長プロセスとメカニズムを専門的に扱う「知性発達科学」の知見を紹介しています。その中ですぐに活用しようと考えた二つの項目を記載します。
まず一つ目は、「意識の光」です。何かの能力を伸ばしたいときに、まず行うべきことは伸ばしたい能力を特定することであり、その行為を「意識の光」を当てると著者は表現しています。身体を鍛えるときに、どの筋肉を鍛えているのかを意識しながらトレーニングに励むか否かで、効果に大きな差が出ることが実証研究で明らかにされているそうです。
「意識の光」という表現が私にはとてもしっくりときており、早速私が行うリーダーシップやマネジメントトレーニングの中で使っています。具体的には人材育成のPDCAの回で、Planの部分の重要性を伝える際、そのエビデンスとして本書と共に「意識の光」を紹介しています。
二つ目は、「ニューウェルの三角形」です。これは身体運動学の研究者であるカール・ニューウェル氏が提唱したモデルです。何らかの能力を高めようとする場合、「人・環境・課題」の3要素と相互作用を常に考えなければならないことを指摘しています。簡潔にまとめると、それぞれの制約条件を考慮せよと置き換えてよいと思います。人はその人の能力限界を考慮せよ、環境は物理的、文化的な制約を考慮せよ、課題は種類と難易度を考慮せよということです。
この三角形はトレーニングの制作や実施をする際にとても参考になる考え方です。特に「環境」は見落としがちになります。例えば、部下への頻繁な声掛けがモチベーションを上げるのに役立つとしても、クライアント先にメンバーが常駐している環境では、マネージャーは直接頻繁な声掛けはできません。これまでも人や課題はかなり意識してトレーニングの構築をしてきましたが、環境についても参加者の状況インプットを多くし、より一層制約の想像を働かせるようにしていきます。
神経がどうつながるか等の生物学アプローチではありませんが、その次の抽象次元となる発達のメカニズムの専門書です。上記二つだけでなく、その他も活用したいと考える理論や手法が数多く紹介されていました。一回で終わりではなく、能力開発の「辞書」として都度活用していきたいと思います。
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