第116週
2019/10/27
『オプエド』
上杉隆+NOBORDER取材班著 KADOKAWA
昨年インターネット報道番組『ニューズオプエド』に出演した際に頂いた本です。オプエドとはOpposite Editorialの略で、「反対側の社説」という意味。著者の上杉さんは1999年「ニューヨーク・タイムズ」入社時に、自社記事への反論コーナーであるOpposite Editorialがほぼ毎日一面に掲載されていることを知ったそうです。上杉さんは多様でフェアな言論空間を希求しニューズオプエドを創設されました。
本書では、日米首脳会談、サミット、鳩山政権終了、朝日新聞社社長辞任、築地市場移転、詩織さん事件、森友学園などの出来事に沿い、何が起こっていたかを通して日本のメディアの現状を伝えています。その中で私が気になった点を2つ挙げます。
私が一番気になったのは日本のメディアがクレジット(引用・参照元)を打たないことです。上杉さんはトランプ大統領と安倍首相の会談の際、公には取材NGと言われているゴルフ場に入り、二人がプレーしているスクープ映像を撮りました。この映像をFOXテレビもCNNも皆お金を出して買い、更に「NOBODER JAPAN」のクレジット入りでオンエアしました。しかし、日本のメディアはタダで「くれ」と言い、またクレジットも打てないと言ったそうです。唯一日本テレビだけはお金を出し、クレジット付きでのオンエアをしたとのこと。著作権の意識が欠乏しているのか、大手メディア以外を下にみているのか。フェアではない感覚を受けました。
もう一つは、記者クラブという存在です。日本の大手メディアが作った組織であり、上杉さんはこの記者クラブを強く批判しています。2008年洞爺湖サミットにフリーランスの記者として取材を申し込むと『記者クラブに入っていない』という理由で拒否をされたとのこと。外務省がメディアの仕切りをし、フリーの立場の人を拒否しているのだそうです。他の国際会議も日本で開催されるものは、申請してもフリーの立場では取材ができない。2008年アフリカ開発会議が日本で開催された際、なぜかアフリカのメディアの記者は会見会場に入れず、ビデオモニターの所にとどめられていました。上杉さんが外務省と話をつける役回りになり、強行突破など大暴れの末に入室を認めさせたそうです。日本の政府と記者クラブが特殊な関係にあり、『世界中を見ても、こんなことをやっているのは日本だけ』と喝破しています。
上杉さんは「日本に世界標準のジャーナリズムを根付かせたいという『野望』」をもち、20年来、健全な言論空間を持つために活動を続けてきました。『ニューズオプエド』にたどりつくまでメディアを4回も創ってはやめ、借金を追って閉めたものもあります。不屈の信念に私も負けていられない、立ち止まっていられないと思います。
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