第125週
2019/12/29
『マーケティングとは「組織革命」である。』
森岡毅著 日経BP社
最近特に強く思うことがあります。より多くの組織を束ねられる方は、結局ビジョンや事業戦略を描く以上に、組織マネジメントの力が長けていると。個ではなく組織(チーム)として行うのであれば、個の力を引き出し、つながりの化学反応を起こし成果を最大化させることに腐心するのはある意味当たり前かもしれません。著者はUSJをV字回復させたマーケティングの専門家ですが、実際のマーケティング手法ではなく「組織変革」という題名に惹かれ手に取りました。
非常に実用的な書籍のため、私共のリーダーシップ、マネジメントプログラムに直接取り入れそうな項目がふんだんにありました。中でも下記3点を取り入れていきたいと思います。
一つ目は、組織マネジメント・システムの位置づけについてです。そもそも組織とは何か。著者は組織を「機能の鎖」として捉えています。そしてシンプルに4つの機能、ファイナンス・システム、マーケティング・システム、生産マネジメント・システム、組織マネジメント・システムに大別しています。最後の組織マネジメント・システム(人をより生産的に働かすための仕組み)を3本柱の土台とおいているところがミソです。これは特にプレイヤー志向が強い技術系の管理職に対して、組織マネジメントを促進する事例として紹介できそうです。
二つ目は、変革の仕方の「勝ち筋」を明確にすることです。著者はUSJのV字回復の際、戦略として「三段ロケット構想」を掲げました。目玉であったハリーポッターの施設は450億円かかり、700億円の売り上げの会社としては投機的な色合いの強い投資になります。当然いきなり導入はできないため、コラボや低予算アイデアで稼ぐ→新ファミリー・エリアで稼ぐ→ハリー・ポッターで稼ぐ→パークの多拠点展開で稼ぐ→アジア最大のエンターテイメント・カンパニーになるという勝ち筋を明確にみせました。そして第一段階のコラボや低予算アイデアを成功させ信用貯金を増やし、ハリーポッターの導入を実現させました。勝ち筋をつくる際に、「逆算の階段」として壁の頂上(魅力的な成功)から階段を一段ずつ下げながら今いる地面まで組み立てることが重要と言っています。参加者に策定していただくビジョンと実現策を伝える際、この「勝ち筋」という言葉は有効な考え方として組み込めそうです。
三つ目は、個の便益です。人を動かし突き動かす情熱のエネルギーは公の便益に訴えるだけでなく、深層面の個の便益に響くことで生み出されていくと著者は言っています。そして個の便益は、評価や報酬が上がる実利系の便益以上に、「やりがい」という感情系便益が重要であるとも言っています。実際にハリーポッター導入の際、『このプロジェクトは、子供だけでなく、孫にもひ孫にも自慢できる仕事になる』とメンバーに伝え鼓舞したそうです。この心の奥底の種火に火をつける考え方も、ビジョンを伝え、意識統合と動機づける際に、有効な考え方として組み込めそうです。
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