週の風景

001 VS新カリキュラム

おはようございます、吉田です。

今日から毎週月曜日朝に「週の風景」をUPしていきたいと思います。

今回はNPOライフスの話です。
先週木曜日に、石川英明と清瀬二中ビジョンセッション(VS)の大切な打ち合わせをしました。

昨年10月から清瀬二中のVSが始まり半年間。
1年生担当の教員の皆様がそれぞれ独自の形で「授業」として
仕上げて頂いて、毎回感動しておりました。

一方で、咲心舎では上手くいったのに、
学校現場では上手くいかない面が顕在化してきました。

まさに公教育の壁であり、
それは
「理解力や家庭背景が多様な子供達」
と表現できると思います。

例えば、4人グループでフセンを使ってワーク、対話をしても、
一部続かない、ふざける子がいる等々、成立しないグループが出てきます。
自分の事や自分の将来を考えるのが難しくて、真剣に取り組めないのでしょう。
一部そのような子が出ると、周囲は引っ張られていきます。

また自分の過去を振り返り、価値観を明確にするワークについても、
微妙な家庭環境の子に配慮する必要が出てきます。
(一部教員の方から猛反発もありました)

このような公教育の壁にあたり、
5月以降のメニューを変更しようと決断はしたものの、
中々良いアイデアが浮かばず、2月・3月は悶々としていました。

そこで英明に依頼し、先週木曜日2年半の新カリキュラムを一度出してもらいました。

それは、上手くいくイメージがありありとできる素晴らしいものでした。
英明のプログラム構想力にはいつも感服します。
そしていつも助けられます。

これで一気に視界が開けました。
ここから、教材化を加速していきます。

今週は、
ブルームウィル企業研修は、
創業期からお任せ頂いているクライアント様の第6期実践マネジメントプログラムが始まります。
また、ご紹介頂いた企業様との初打ち合わせ等もあり、とても楽しみです。

咲心舎は、明日から春期講習がはじまります。高橋、深松共やる気が漲っています。

寒戻りもありますが、春らしい気候になってきました。
皆様にもよい1週間になることを願っています。

【お知らせ】
1.os21イベント
自律型組織のつくり方 ~チームの力を最大化するために必要なこと~
公開 · 主催者: 一般社団法人21世紀学び研究所 – os21

私が理事をしている社団のイベントがあります。
宜しかったら是非ご参加頂ければ幸いです。
LIFULL羽田さんとヤッホーブルーイング社長の対談です。
https://www.facebook.com/events/648863895544228/

※写真はこの3月までの清瀬VS教材です

教育心理の部屋

第52回「評価のための情報を得る方法② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第52回
2019/3/23
「評価のための情報を得る方法② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
本書では何を知るのかという点で3つを挙げている。
1.学力を知る
2.知能を知る
3.性格を知る

2.知能を知る方法は、知能テストが代表的である。
近年では、知的活動の内的な過程に着目した知能テストであるITPAも用いられるようになっており、LD(学習障害)の子供の診断のためによく用いられている。

LDは学業不振の子供のことではなく、全般的な知的水準は平均的であるのに、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなど特定の基礎的能力に問題のある場合である。文の意味をとるのが難しい、読めばわかるのに聞くとわからない、算数だと桁をうまくそろえられないなど、それぞれの子供により色々な問題を抱えている。

3.性格を調べるためのテストは、3つに分類される。
・質問紙法(性格検査)
・作業検査法(クレペリン検査)
・投影法(ロールシャッハテスト)

【所感】
LDという言葉を知ったのは、咲心舎創業年に出会った塾生の保護者様でした。この塾生は計算、漢字、受け答えなど体験授業時に問題は感じられませんでしたが、保護者様からLDの検査を受けており結果は「グレー」であると告げられました。まずやってみましょうということで、指導を引き受けましたが、単純な計算から二手三手必要なものになると反復しても習得ができない、国語の読解において解説が理解できないなど、段々と指導が困難な状況になってきました。自分なりに様々なサイトを調べ、何が問題かを探っていくうちに、菜の花や鉛筆など物質名詞は理解できるが、特色、協調などの抽象名詞が理解できないことが分かりました。本書では、積み木や、迷路、組み合わせなどの動作性検査のIQが111に対し、言語性検査のIQは78という9歳LDの子のチャートが載っており、おそらくこの塾生も言語性検査に問題があったのではと推察できます。最終的に集団授業の中では受け持てないので、苦渋の中、学年の区切りで別れとなりましたが、LDという文字を見ると当時の経験を思い出します。

社会起業支援NPOであるETICのリーダーと公教育の話をした時に「今学校はLDの子が増えていてそれが問題になっている。教職課程にLDの資格を入れるべきであり、その活動を行っている」という話がありました。以前との比較は難しいのですが、LDの子が増えているというより、LDという言葉ができたことで、LDではあったが認知されていなかった子供が認知されているのかもしれません。そして、何よりそれに見合った指導法をしていこうという、社会全体の良い動きに私は思えます。
(1059字)

宗興の本棚

第86週『アウトプット大全』

第86週
2019/3/23
『アウトプット大全』
樺沢 紫苑著 サンクチュアリ出版

昨年の後半、大きな話題になった本書。「ビジネス書ランキング1位、25万部突破」という紹介を毎日東京FMで聞いていました。その時は食指が動きませんでしたが、社員の高橋が「とてもいいですよ」と薦めてくれて読むことにしました。

筆者は、人の成長はアウトプットの量で決まる、と言っています。逆にインプットはただの「自己満足」と言い切っています。そして、アウトプット(話す、書く、行動する)は運動性記憶であり、読んで覚える暗記の意味記憶とは異なり、身につきやすいとのことです。

また、コロンビア大学の心理学者アーサー・ゲイツ博士の実験を出し、成長にはインプットとアウトプットの比率を3:7とするのが丁度よいと言っています。実験では、小3から中2までの100人以上の子供達に「人名年鑑」に書かれた自分物プロフィールを9分間で覚えるよう指示。グループ毎に覚える、練習するの時間割合を違えて結果をみたところ、覚える時間に40%費やしたグループの得点が一番高かったそうです。また年長になると覚える時間に約30%の時間を費やしたグループが高得点だったのこと。

成長におけるアウトプットの重要性は認識していましたが、このように脳科学、生理学的な見地から伝えられ認識に深みが増しました。

加えて、引用された学術研究は、有用なものが多く、
ザイオンス効果ではコミュニケーションの質より量の重要性を、
ヤーキーズ・ドットソンの法則では、適度な緊張がパフォーマンスを高めることを、
ハインリッヒの法則では、ヒヤリハットを重視するリスク管理の重要性を
イリノイ大学の長寿研究では、感謝や幸福度の大切さを、
それぞれ示しています。早速登壇時に、参加者にも伝えていきたいと思います。

「へえ」が沢山ある本でした。ベストセラーの条件の一つは「へえ」が沢山あることかもしれません。
(760字)

宗興の本棚

第85週『マザー・テレサ あふれる愛』

第85週
2019/3/16
『マザー・テレサ あふれる愛』
沖 守弘著 講談社文庫

マザーテレサの名前は知っていても詳細の活動は知りませんでした。ビジネス書が続いたため、この機会にと思い手に取りました。著者は写真家であり、マザーテレサの貧民救済活動を撮り続け、写真集や書籍を上梓し彼女の活動を日本に広めてきた方です。

マザーは1948年にインド、カルカッタのスラム街に入ります。死に瀕している人々のために「死を待つ人の家」というホスピスを。親に見捨てられた乳児や幼児のために「孤児の家」を。ハンセン病者のためには働くことができる「平和の村」を。そしてスラムの飢えた人々には毎日の食べ物を提供していきます。エピソードの中では、行き倒れで悪臭を放つ老婆を抱き上げ病院にかけあう話、泥水の中で死を待つだけの5歳児を洗浄、酸素吸入、輸血をし、生き返らせた話などが強く印象に残っています。

まず読みながら一番強く感じたことは「この世の地獄」があることです。灼熱の太陽のもと、極度の栄養失調でやせ衰えた大人や子供が多数路上で生活し、連日数十人もの人々が路上で死を迎える。ゴミ箱に捨てられ死んだ嬰児の死体を野ネズミの群れが食い荒らす。本書に描写された風景1970年代後半のものであり、今から40年ぐらい前のこと。ただ、もしかしたら、まだこのような場所が世界に散在しているかもしれない。こんな地獄のような世界がまだあるのかと驚愕し胸が苦しくなりました。

この地獄の中で一心に活動してきたマザーから「同じ人間か」と思うほどの信念の強さ、純度の高さを感じます。マザーは「人間にとってもっとも悲しむべきことは、病気でも貧乏でもない、自分はこの世に不要な人間なのだと思いこむことだ。」という信念のもと、長きにわたり人々に安息をもたらしてきました。著者が「あなたのヒューマニズムを写真に記録し、日本に広めたい」と言った時、マザーは、「自分は社会福祉家でもなければ、慈善事業家でもない。ただキリストのためにやっている。英雄視や伝記を書くのはお断りだ」と、強く釘を刺されたそうです。この信念が世界中に波及し、マザーが設立した「神の愛の宣教者会」のメンバーはマザーが逝去した1997年時には4,000人を数え、123カ国の610箇所で活動を行っていたそうです。

ふと世界平和を公言し、本気でその実現に取り組んでいるLIFULLの井上さんが思い浮かびました。マザーの信念と純度の高さに触れ、起業し丸6年経った今、もう一度自分の使命とした「自分の道を自分で拓ける人を創る」を問い直そうと強く感じました。

最後にマザーの言葉を記載します(別書からの引用が掲載されていました)。
『「今日の最大の病気は、らいでも結核でもなく、自分はいてもいなくてもいい、だれもかまってくれない、みんなから見捨てられていると感ずることである。最大の悪は愛の足りないこと」』
(1159字)

宗興の本棚

第84週『日本を動かす「100の行動」』

第84週
2019/3/10
『日本を動かす「100の行動」』
堀義人+G1政策研究所著 PHP社

成長社会から成熟社会へと進む日本。時代の移り変わりの中で、様々な問題が表出してきています。私の専門領域である教育という枠を超え、日本全体の問題を俯瞰しそれぞれの問題に対して具体的な意見を持つことを目的に本書を手に取りました。今回は「100の行動」のうち、特に印象深かった二つの政策を列記します。

まず、医療費増大に対する政策です。本書に医師数の国際比較表が載っていますが、人口千人当たりの医師数は日本が2.2人で、米国の2.4人、英国の2.7人と比較しても顕著に低いわけではありません。一方、平均在院日数は米国が6.2日、英国が7.7日に対し、日本は32.5日。年間外来受診回数(年間)も、米国3.9回、英国5.0回に対し、日本13.1回と突出した数値となっています。ここから、日本は医師の数が少ないのではなく、患者の数が多いことが分かります。そして患者を減らすために、予防・健康ケア医療への転換が重要になると本書は主張しています。具体的な政策として、健康でいることに対するインセンティブを設け、保険料の差別化等を行うなどは思わず膝を打つような政策であり、発想を換えて臨むことの重要性を感じました。

もう一つは道州制の導入についてです。これはG1目玉の政策であると考えます。都道府県を廃止し、10の「道」と2の特別区を置き、20~40万人からなる300程度の基礎知自治体に再編する「廃県置道」。道州制は中央と地方の役割をはっきりさせ、地方分権を徹底する政策です。少子高齢化により、行政サービスを統廃合して効率化する必要性。そして、地域の多様化の進展により、各地域に見合ったサービスの必要性が背景となります。確かに中央政府が、外交、国防、司法など国家全体に関わる事項に専念できるのは大きなメリットですし、地域主権により政策決定、実施スピードが高まるのも間違いないと思います。ただ、この道州制は、国民がメリット(必然性)を感じにくい政策です。大阪が都になり、そのメリットを府民が享受、実感することが、実現機運が高まる突破口になる気がします。

4年かけて政策としてまとめた著書の熱意と行動に敬服します。正直、日本という大きな枠組みの政策はまだ距離が遠いものが殆どです。ただ、大局観を養うのに役立ちましたし、都度「日本」の大局を考える参考書として活用していきます。
(975字)

宗興の本棚

第83週『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』

第83週
2019/3/3
『スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン』
カーマイン・ガロ著 井口耕二訳 日経BP社

講師をする際により響くプレゼンテーションをするにはと考え、手に取りました。本書は、スティーブジョブズ氏が行った新製品発表のプレゼンテーションを分析し、18のテクニックとしてノウハウ化したものです。著者は同氏を「聴衆を魅了することにかけては世界一」と言っています。その中で特に印象深かったテクニックを列記します。

シーン3「救世主的な目的意識を持つ」。ジョブズ氏のプレゼンは「現実歪曲フィールド」となり、まるで催眠術にかかったように聴衆を魅了します。これは製品への情熱がたっぷりしみ込んだ磁力があるからと著書は言っています。そして世界を変えるというビジョンに突き動かされているとも。

結局ここに尽きると思いました。私が提供しているライフスキル教育も「情熱をもてる未来を描く力」を養うものです。情熱が最重要。成熟社会の中でここにたどり着ける人をいかに増やすか、これが私の使命であり、情熱の重要性を再確認できました。同時に、自身のビジョンへの情熱を自問する契機となりました。ホームレスから伝説の株ブローカーになったクリス・ガードナー氏。どうしてそこまで頑張り続けられたのかという問いに『大好きなこと、どうしてもやりたいと思うことが見つかれば、ああもう1日、それができると太陽が昇るのが待ち遠しくなりますよ』とガードナー氏は答えたそうです。朝が来るのが楽しみで楽しみでしょうがない。自分はそのような状態なのか。そうではないとしたら、なぜか。「どこに行きたいのかは、心が知っている」とジョブズ氏は言っていたそうです。就寝前の瞑想の他に心との対話を増やしていきます。

シーン8「禅の心で伝える」。要は、簡素にということです。ジョブズ氏は箇条書きは使いません。スライドは全てたった一言、もしくは画像のみです。ETICの社会起業塾に応募した際、文字だらけの最終プレゼンで落選しました。落選理由はプレゼンだけではいですが、パワポの作り方を今後がらっと変えます。この他にも飽きが来ない10分ルール、分かりやすい3点ルールなど、登壇時にすぐに使える有用なテクニックが多くありました。現場で使い魅了度を高めていきます。
(894字)

 

教育心理の部屋

第51回「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第51回
2019/2/23
「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
本書では何を知るのかという点で3つを挙げている。
1.学力を知る
2.知能を知る
3.性格を知る

また1.学力を知る方法は、5つある。
・客観式テスト
・論述式テスト
・作成・制作物による方法
・観察法
・質問紙法

観察法について、生徒の普段の授業での学習状況、挙手や発問などを観察することによって評価のための情報を得ることができる。こうした観察は、日々の授業での生徒の理解度、興味・関心を知るうえで大変重要であり日常的に行われている。観察による評価によって、教師は日々の指導を修正していくことになり、形成的な評価に観察は多くの有用な情報を与える。しかし、日常的な観察は、観点があいまいなままはっきりと意図せずに行われていることが多く、たまたま目にした場面のみで評価されたり、目立つ生徒が肯定的、否定的に評価されたりしかねない。観察の場面や観点を明確にすることや、行動としては現れない側面を知るために質問紙法などの他の方法による情報と比較をすることが大切である。

【所感】
咲心舎の講師陣は観察に注力しています。自習室に来ている、質問をしてくる、正答発言が多くなった、自己学習の完遂度が高くなった、表情が明るい、真剣度がました等々、観察による定性的変化から得られる情報は多く、塾生状況を把握する貴重な材料になります。具体的には学力向上と低下の原因仮説を立てる時や、塾生への働きかけを行う際に重要です。塾生がぽろっと口にしたちょっとした一言、つまり些細なことでも見逃さないことも含め、高橋、深松はかなり観察を徹底していると感じます。

一方で、観察法は主観的且つ定性的であり、学力を評価する上では信ぴょう性に欠けます。意欲が低かった塾生が、自習室に来る、自己学習の完成度も高くなった、だけど定期テスト前の確認テストで点数がとれない、という事態がありました。観察のみで満足していたら、正しい学力が測れず、対策も不適切なものになっていたことでしょう。よって、咲心舎では必ず定量情報=テストで学力を判断するようにしています。つい観察だけで学力判断をしそうになりますが、少し手間がかかっても「数字で判断する」ことをこれからも徹底し続けていきます。(909字)

宗興の本棚

第82週『日本の歴史をよみなおす(全)』

第82週
2019/2/23
『日本の歴史をよみなおす(全)』
網野善彦著 ちくま学芸文庫

今年から特に意識をしたいテーマが「教養を深めること」。自身の専門領域の下支えとなる文化的な知識、能力、品位を磨いていきたいと思っています。教養の中でもより深めたい領域は様々ありますが、まずは日本の歴史と文化からと考え本書を手に取りました。

著者は独自の研究からこれまでの日本史の通説に異論を展開しており、「網野史観」とも呼ばれています。本書には好奇心をそそる多くの事実と主張があったのですが、その中で特に興味深かった二つを挙げます。

一つ目は、「日本」という国号について。この国号は、他国でよく見られるような、王朝名ではなく、王朝を建てた人の部族名でもない。そして地名でもありません。そして「ひのもと」と読むとすれば、東の方向ということなり、中国大陸を強く意識したものと捉えることができます。そして、太陽信仰を基盤に、太陽神の子孫という神話を持つ「日の御子」天皇の支配しうる国を示すものとしてつけられたと筆者は主張しています。

更に面白かったのは、どこまでを日本と指すのかという視点です。日本という国号は、701年の大宝律令制定時にはじめて使われたと言われています。しかし著書曰く、これは畿内を中心にできた律令国家の国号であり、北海道や、東北、さらに沖縄、南九州などは日本に入っていない。中世に入りようやく東北・関東も「日本国」に入ったと考えられ、ゆえに地域によって日本という国号、また深く結びつく天皇に対する考え方も非常に異なると考えた方が良いと筆者はいっています。

もう一つは、百姓=農民ではないという主張が興味深かったです。関山直太郎さんの『近代日本の人口構造』では、諸士9.8%、百姓76.4%、町人7.5%となっています。しかし、百姓は決して農民と同義ではなく、たくさんの非農業民を含んでいます。その根拠は奥能登の時国(ときくに)家の調査です。時国家は船を持ち、製塩、製炭なども行っており、農奴を駆使する大農場経営者ではないとのことです。また、土地を持たない人は水呑百姓と位置付けられ、能登最大の都市輪島は水呑が71%となっています。しかし調査によると実情は漆器職人、そうめん職人、廻船人などが沢山いて、土地を持てない、ではなく持つ必要がない人が多くいたと主張しています。しかも能登が特別ではなく、同様の事例を多数挙げています。

私自身、日本は「全国」と捉えていたし、昔の日本は「農民が大多数」と思っていたので、目から鱗であり、著者のクリティカルシンキングの凄さに感嘆です。

この他にも天皇は天皇職という職名であることや、女性はもともと力をもっていたなど、著者は私の思い込みと異なる見方を投げかけてきます。あらためて「それ本当か?」という視点とそこから生まれる好奇心を大切にしたいと感じました。
(1146字)

教育心理の部屋

第50回「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第50回
2019/2/16
「教育の成果を評価する③ 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
いつ評価するのか、という評価時期による分け方で評価は3つの分類できる。
1.診断的評価(教授学習活動の前)
2.総括的評価(教授学習活動の後)
3.形成的評価(教授活動の途中)
例えば、英会話学校で簡単なテストしてクラス分けがされるのは、診断的評価である。

教育指導のための観点で最も重要なのは形成的評価である。当初教師が用意した教材を生徒の大多数がよく理解をしない、興味を示さないとき、教材を差し替えたり、予定を変えて補修を行ったりする必要が生じる。教育目標や指導方法を柔軟に調整するために、いまの生徒の状況を把握する評価活動が形成的評価である。

誰が評価するのか、という観点において、通常は教師によって評価が行われているが、児童、生徒自身による自己評価、児童・生徒同士の相互評価の重要性が指摘されている。これは自分自身の行動に対して自分で報酬や罰を与える自己強化の考え方がもとになっている。

学習院大の竹綱誠一郎教授(1984)は、小学校の漢字学習を対象として、教師が採点する群と自己採点する群に分け、自己評価の効果を検討している。自己評価群は教師評価群ほどではないものの、採点を行わない群と比較し、漢字の試験成績が上昇し、自己評価が学習に対して促進的であることを示した。

【所感】
第3章で出てきた「自己強化」に関わる所が興味深いです。以前も書いたように、パンデュラの実験で、他者からの強化がなくても児童が自己強化によって学習可能であることが実証されています。ここから自己採点も効果があることが分かっていますが、漠然と丸付け直しをするだけでは、自己強化につながらないと感じます。ポイントは採点ではなく評価、つまり意味付けが大切なのではないでしょうか。採点したあとの結果と共にそれまでの行動を自分がどう評価するのか。以前のまとめにも書いたように、自分でご褒美を設定している塾生の学力が高い傾向にある事実があります。つまり、自己採点をする際に、自己賞賛をしていく事も組み込めれば、自己採点が自己強化を促進していくものだと考えます。具体的には自己学習の際の留意点で話をすると共に、ビジョンセッション「自分を賞賛してみよう」というプログラムを考えても良いかもしれません。
(930字)

宗興の本棚

第81週『成人発達理論による 能力の成長』

第81週
2019/2/16
『成人発達理論による 能力の成長』
加藤洋平著 日本能率協会マネジメントセンター社

私の専門領域である人材育成や能力開発です。これらの根底にある大切な問いは「人はどのように伸びるのか」。コーチングをはじめとした手法論的なアプローチではなく、人間の発達に関する生物学的なメカニズムにたどりつきたいと考え、本書を手に取りました。

本書は、人間の知性や能力の成長プロセスとメカニズムを専門的に扱う「知性発達科学」の知見を紹介しています。その中ですぐに活用しようと考えた二つの項目を記載します。

まず一つ目は、「意識の光」です。何かの能力を伸ばしたいときに、まず行うべきことは伸ばしたい能力を特定することであり、その行為を「意識の光」を当てると著者は表現しています。身体を鍛えるときに、どの筋肉を鍛えているのかを意識しながらトレーニングに励むか否かで、効果に大きな差が出ることが実証研究で明らかにされているそうです。

「意識の光」という表現が私にはとてもしっくりときており、早速私が行うリーダーシップやマネジメントトレーニングの中で使っています。具体的には人材育成のPDCAの回で、Planの部分の重要性を伝える際、そのエビデンスとして本書と共に「意識の光」を紹介しています。

二つ目は、「ニューウェルの三角形」です。これは身体運動学の研究者であるカール・ニューウェル氏が提唱したモデルです。何らかの能力を高めようとする場合、「人・環境・課題」の3要素と相互作用を常に考えなければならないことを指摘しています。簡潔にまとめると、それぞれの制約条件を考慮せよと置き換えてよいと思います。人はその人の能力限界を考慮せよ、環境は物理的、文化的な制約を考慮せよ、課題は種類と難易度を考慮せよということです。

この三角形はトレーニングの制作や実施をする際にとても参考になる考え方です。特に「環境」は見落としがちになります。例えば、部下への頻繁な声掛けがモチベーションを上げるのに役立つとしても、クライアント先にメンバーが常駐している環境では、マネージャーは直接頻繁な声掛けはできません。これまでも人や課題はかなり意識してトレーニングの構築をしてきましたが、環境についても参加者の状況インプットを多くし、より一層制約の想像を働かせるようにしていきます。

神経がどうつながるか等の生物学アプローチではありませんが、その次の抽象次元となる発達のメカニズムの専門書です。上記二つだけでなく、その他も活用したいと考える理論や手法が数多く紹介されていました。一回で終わりではなく、能力開発の「辞書」として都度活用していきたいと思います。
(1055字)