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第195週『企業内人材育成入門』

第195週
2021/6/12
『企業内人材育成入門』
中原淳著 ダイヤモンド社

名著は何度でも読むということで、人材育成の考え方のアップデイトをしたいときに読む本です。そして今回も二つ気づきがありました。

一つは、物語の強さです。心理学者のジェロム・ブルーナーは、人間の根源的な認識には二種類の思考様式があると提示しました。それは、「論理―科学的様式(パラディグマティックモード)」と「物語様式(ナラティヴモード)」です。パラグマティックは、論理・一貫性を求める思考様式。ナラティヴは「もっともらしさ=迫真性」を求める思考形式です。

短い時間の中、これまでは講師エピソードより現場実践イメージを湧かせること優先していたところがあり、今回はこのナラティヴモードが非常に胸に響きました。受講者に覚えてもらうという面で、講師エピソードは本当に大切だと感じました。テーマに一つは取り入れていくようなプログラム設計をしていきます。

もう一つは、認知科学者アラン・コリンズが主張した「認知的徒弟制度理論」です。これは
①モデリング②コーチング③スキャフォルディング④フェイディングという4つの支援を通して、人が一人前になるとする学習モデルです。
③のscaffoldは聞きなれない言葉ですが、「足場」という意味。できるところだけは独力でやらせて、できないところを支援し、自立の足場をつくるイメージです。

指導のステップが漠然としている人は多いと思います。この徒弟性理論は非常に有効です。
(591字)

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第183週『モチベーション3.0』

第183週
2021/3/14
『モチベーション3.0』
ダニエル・ピンク著 大前研一訳 講談社

こちらも組織人事のプロの方に「モチベーションはこれがいいですよね」と薦めて頂いた本。再読になるのですが「名著は何度も読む」ということで、今の自分の印象的に残った部分をまとめます。

今回一番大きいのは、
「満足感を得るためには目標設定だけでは十分ではない。正しい目標の設定が必要だ」
ということであり、
エドワード・デシ教授、リチャード・ライアン教授等の追跡研究から導かれた結論です。

教授陣はロチェスター大学の卒業予定者からサンプルとなる学生を選び、人生の目標についてたずね、卒業後1、2年後に学生たちの様子を調査しました。

結果として、目的志向型の目標(内発的目標)の設定をしいた人は、それを成し遂げつつあると感じている人は、大きな満足感と主観的幸福感を抱き、不安や落ち込みレベルはきわめて低かったそうです。

一方、利益志向型の目標(外発的目標)を抱いていた人は、目標を達成している人も学生時代よりも不安、落ち込み、その他のネガティブな指標が「強まった」そうです。

これらより「ある目標を達成しても幸福に影響を与えず、実際には不幸を助長する」と結論づけられました。

ライアン教授の言葉を引用します。
『豊かさを求めて外発的目標を高く掲げる人は、その豊かさを手に入れる可能性が高い。それでも、彼らはやはり幸せではない。』
『高い目標を書考えて達成する人が、不安や憂鬱に取りつかれる理由の一つとして、良好な人間関係の欠如が挙げられる。金儲けや自分のことに精一杯で、愛情や配慮、思いやり、共感など、本当に大切なことにかける余裕が人生にないのだ。』

目標設定は人の意欲を高める重要な手段です。ただ、意欲を高めるには、利益だけでなく、目的と利益を志向するハイブリッド目標が組織内ではベストではないかと考えます。ただ、目的と利益両方を志向した目標を設定しても、利益志向は強くなりがちです。よって日常的に目的に立ち返る仕組みを作ることが必要です。
(805字)