宗興の本棚

第118週『ストライカーを科学する』

第118週
2019/11/10
『ストライカーを科学する』
松原良香著 岩波ジュニア文庫

私はサッカーが好きで1993年Jリーグ発足以降、ずっと日本代表を応援していました。日本代表は間違いなく25年前より強くなっています。ただ、当初から言われ続けているのが「決定力不足」です。本書はこの課題に切り込んだ初めてのサッカー論ということで、私の課題意識とマッチし手に取りました。

ストライカーの要素として、とても印象的だったのが「賢さ」です。ウルグアイ代表のタバレス監督は、稀代のストライカーである同国のルイス・スアレス選手について『「とても賢くて吸収力があり、色々なことを学んでいきました。」』と述べています。グスタボ・ポジェコーチも、『「フィジカル面よりも賢さが、彼を現在のレベルに押し上げたと思う。」』と言っています。著者はこの「賢さ」について、『自分に足りないものを知り、それを改善する努力ができること。』いわば『自分を客観視する力である』とまとめています。

この賢さはサッカーだけでなく、ビジネスにもひいては人の成長全般に通用することです。そして、これがかなり難しい。プロの世界でも監督やコーチの言うことを素直に受け止めきれない選手がいるそうです。ビジネスの世界におきかえれば、上司の言うことを素直に受け止め仕事の中で改善努力をすること。プラス、自身の課題を解決するために勤務時間外でも読書をはじめ個人トレーニングをすることが伸びるには大切だと確認できました。

著者は日本人ストライカーを養成するために、様々な施策を提言しています。その中で私は「ストライカーコーチ」のライセンスを創ることが、一番実効性が高いと感じます。現行で「GKコーチ」のライセンスはあるそうですが、著者曰く「ストライカー」養成も特殊な専門領域となるとのこと。日本のラグビーが長谷川慎スクラムコーチのおかげで世界に並ぶスクラムが実現できたことは記憶に新しく、是非施策を実施し、世界的なストライカーを輩出して欲しいです。
(798字)
光の加減で上手く写真がとれず娘に持ってもらいました

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第117週『論語』

第117週
2019/11/4
『論語』
加地伸行著 角川ソフィア文庫

日本人に膾炙(かいしゃ)されている本書。報徳仕法の源流をたどるべく『大学』に続き、手に取りました。今回は「今の私」の琴線に響いた4つの文章を挙げます。

1.『子曰く、吾 十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う(したがう)。七十にして心の欲する所に従いて、矩を踰えず(のりをこえず)。』(為政篇四)

耳順うの訳は『他人のことばを聞くとその細かい気持ちまで分かるようになった』。矩を踰えずの訳は『(自分の心の求めるままに行動しても)規定・規範からはずれるというようなことがなくなった』。

有名な「不惑」や「知命」がある文です。恥ずかしながら六十と、七十があるとは知りませんでした。自身におきかえると、孔子の生き方から大体10年~15年ぐらい遅れているかもしれません。私は二十五辺りから多読を開始し、四十にしてようやく自らの力である程度生活が安定しはじめました。四十にして惑わずの訳は『自信が揺らがず、もう惑うことがなくなった』。私は現在四十一ですが、まだこの境地には到達していません。修練あるのみです。

2.『子曰く、学びて時に之を習う。また悦ばしからずや。』(学而篇一)

訳は『(不遇のときであっても)学ぶことを続け、常に復習する。(それは、いつの日にか世に立つときのためである。)なんと心が浮き立つではないか。』

孔子には不遇の時代があったそうです。そのような時でも希望をもち学び続けるという楽観的で今を楽しむこの感覚に少し癒されます。

3.『子曰く、知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず』(子罕篇二十九)

訳は『老先生の教え。賢人は迷わない。人格者は心静かである。勇者は恐れない。』

自身におきかえると、未だ迷い、心騒がしく、恐れる、と耳の痛い文になります。しかし、この文は知性のある子貢、心優しい顔淵、勇気ある子路と三人の優秀な弟子の特色を指したものだそうです。全部ではなくても、どれか一つからまずはその境地に到達すればよいと解釈しました。ちなみに、自分としては勇者が一番心惹かれます。

4.『子曰く、君子は矜なるも争わず。群すれど党せず。』(衛霊公篇三)

訳は『老先生の教え。教養人は誇りをもっているが他者と争わない。共同生活はするが徒党は組まない。』

若い頃は自身の意見を通そうと、論破するべくよくいさかいを起こしていました。しかし勝ったとしても遺恨を生み、人間関係に支障を来すこともあります。論語の数ある文章の中で、自戒としての文を一つ選ぶとすると私はこの文になります。染み入ります。(1070字)

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第116週『オプエド』

第116週
2019/10/27
『オプエド』
上杉隆+NOBORDER取材班著 KADOKAWA

昨年インターネット報道番組『ニューズオプエド』に出演した際に頂いた本です。オプエドとはOpposite Editorialの略で、「反対側の社説」という意味。著者の上杉さんは1999年「ニューヨーク・タイムズ」入社時に、自社記事への反論コーナーであるOpposite Editorialがほぼ毎日一面に掲載されていることを知ったそうです。上杉さんは多様でフェアな言論空間を希求しニューズオプエドを創設されました。

本書では、日米首脳会談、サミット、鳩山政権終了、朝日新聞社社長辞任、築地市場移転、詩織さん事件、森友学園などの出来事に沿い、何が起こっていたかを通して日本のメディアの現状を伝えています。その中で私が気になった点を2つ挙げます。

私が一番気になったのは日本のメディアがクレジット(引用・参照元)を打たないことです。上杉さんはトランプ大統領と安倍首相の会談の際、公には取材NGと言われているゴルフ場に入り、二人がプレーしているスクープ映像を撮りました。この映像をFOXテレビもCNNも皆お金を出して買い、更に「NOBODER JAPAN」のクレジット入りでオンエアしました。しかし、日本のメディアはタダで「くれ」と言い、またクレジットも打てないと言ったそうです。唯一日本テレビだけはお金を出し、クレジット付きでのオンエアをしたとのこと。著作権の意識が欠乏しているのか、大手メディア以外を下にみているのか。フェアではない感覚を受けました。

もう一つは、記者クラブという存在です。日本の大手メディアが作った組織であり、上杉さんはこの記者クラブを強く批判しています。2008年洞爺湖サミットにフリーランスの記者として取材を申し込むと『記者クラブに入っていない』という理由で拒否をされたとのこと。外務省がメディアの仕切りをし、フリーの立場の人を拒否しているのだそうです。他の国際会議も日本で開催されるものは、申請してもフリーの立場では取材ができない。2008年アフリカ開発会議が日本で開催された際、なぜかアフリカのメディアの記者は会見会場に入れず、ビデオモニターの所にとどめられていました。上杉さんが外務省と話をつける役回りになり、強行突破など大暴れの末に入室を認めさせたそうです。日本の政府と記者クラブが特殊な関係にあり、『世界中を見ても、こんなことをやっているのは日本だけ』と喝破しています。

上杉さんは「日本に世界標準のジャーナリズムを根付かせたいという『野望』」をもち、20年来、健全な言論空間を持つために活動を続けてきました。『ニューズオプエド』にたどりつくまでメディアを4回も創ってはやめ、借金を追って閉めたものもあります。不屈の信念に私も負けていられない、立ち止まっていられないと思います。
(1149字)

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第115週『部長・何を成すべきか』

第115週
2019/10/20
『部長・何を成すべきか』
畠山芳雄著 日本能率協会マネジメントセンター

私は部長対象の研修も提供していますが、「部長は何をする人なのか」という問いにはっきりと答えられる人は少ないです。それは企業が実用的な形で示せていないことも一因だと思います。人事評価制度の役職定義に書いてあることが、例えば「部長は部門の業績を最大化する」といった抽象的な表現にとどまり、実際に機能や、やり方まで具体的に示されていることは稀ではないでしょうか。研修に参加する部長に、よりはっきりと部長本来の仕事を明示できれば迷いがなくなり成長も促進できると考え、本書を手に取りました。

部長とは一体何か。

著者は「部長は改革者である」と言い切っています。部長の機能は改革機能と維持機能と二つがあります。特に改革機能が重要であり、著者は従来と異なる発想と方法で業務・人間を改革することを部長に求めています。『部長が課長と一緒になって維持業務ばかりに熱中し、実際に新しい販売方式などを生み出したり、部門の風土を改革したりすることができないようでは問題』と著書は言っています。いわば「大課長になるな」ということです。とても共感できる考え方です。

著者が示す部長の三原則(全体最適、長期視点、重点集中)は当たり前に思えることですが、改革を目的としたものであり、特に全体最適については、自社だけでなく、国内外の業界や国内外の社会情勢をも鑑みる重要性を伝えています。これも私達が訴えていることと通じます。

『改革の新発想を経営者に先手で出され、後手に回ってしまう部長がどの会社でも多いが、それは経営者層が部長よりも他業界の経営者や幹部に接し、その情報を得る機会が多いだけにすぎないようにも思われる。』も同感であり、経営層より先に改革のアイデアを出せるよう、「経営層に先を越されるな」という合言葉と共に、アンテナを張り外に出る重要性を研修内で伝えられそうです。

また部長が事業改革者になれない理由も大変参考になりました。それは自縄自縛をするから。ある限界事業化しつつあった事業を任された事業部長に、人件費や販促費をかけてシェアを大きく伸ばすか、同業をみつけてM&Aをするかなどの選択肢を著者から当該事業部長に伝えました。すると『「そうした根本的なことは、トップの考えることで、こちらは示された枠内で、どれだけ生産や販売の効率を上げられるかが問題だと考えていました。」』と返答されたとのこと。この「枠内発想」は感覚値ですが多くの部長が囚われていることであり、この辺りの自縛を私が解き放てれば、部長陣は更に伸びると感じます。
(1046字)

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第114週『超一流になるのは才能か努力か?』

第114週
2019/10/13
『超一流になるのは才能か努力か?』
アンダース・エリクソン ロバート・プール著 土方奈美訳 文芸春秋刊

原題『PEAK』。『GRID』、『MINDSET』に続く人材開発3部作と勝手に考えていた中での最後の書です。能力開発に関わる興味深い学術研究が多く掲載されており、もっと早く出会えていればと悔恨ものの一冊でした。今回は特に印象に残った3つの研究について記載します。

一つ目、ロンドン大学ユニバーシティカレッジの神経科学者、イリーナ・マグアイアーの研究(2000年)。MRI画像を使って男性タクシー運転手50人とそうでない同世代の男性16人の脳を比較し、記憶に関わる「海馬」の後部が、タクシー運転手は他の被験者と比べて大きいことをつきとめました。バスの運転手と比較しても、タクシー運転手は海馬後部がはるかに大きいことが分かりました。また、タクシー運転手を目指す人79名のMRIをとったところ、当初違いはありませんでした。しかし4年後に免許取得者41名と取得できなかった38名の脳を比べたところ、やはり海馬後部が有意に大きいことが分かりました。

これらは人間の脳が厳しいトレーニングに反応して成長や変化をすることを示した好例です。鍛えた筋繊維と同様に、脳組織も鍛えられムキムキになったと言えます。

二つ目は、著者と他2名の研究。ベルリン芸術大学(世界レベルのバイオリニストを輩出する大学)のバイオリン科の学生を対象にしたものです。学生をSランク、Aランク、Bランクに分け10人づつを抽出して調査をしました。すると共通項としては、一人での練習が最重要であることや、練習を楽しいとは感じていないことが分かりました。一方違いとしては、18歳までに一人で練習に費やした時間の合計が違うことが分かりました。Sランクは練習の平均時間が7410時間、Aランクは5301時間、Bランクは3420時間でした。特にプレティーンとティーンエイジャーの時期に差異が見られました。また、ベルリンフィルとラジオ・シンフォニーで活躍する中年バイオリニストも平均7336時間でした。

ここから本書は二つの結論を出しています。傑出したバイオリニストになるには数千時間の練習が必要であることと、才能ある音楽家の間でさえ練習時間が多い者の方が少ない者より大きな成功を収めていることです。

三つ目は、ハンガリーの心理学者、ラズロ・ポルガーと妻のクララの実験(1969年~)。ポルガーは天才の研究をし、正しい育て方をすればどんな子供でも天才になれるという結論を導きだしていました。その理論に沿って3人の実の娘に学校に通わせずチェスの教育を施しました。結果、長女は15歳で女性のチェス世界ランク1位に、男性と同じ条件を満たしてグランドマスター(チェス選手の最高位タイトル)にもなりました。次女も女性チェスプレイヤーで6位。三女は15歳5ヶ月でグランドマスターとなり、これは男女問わず当時の最年少記録。25年間女性チェスプレイヤーで世界ランクキング1位。世界チェス選手権に女性で初参加しています。

親はチェスのエキスパートではないことから、本事例は才能ではなく教育によってエキスパートは創られることを身をもって示した例といえます。自分の理論の正しさを、学校も通わせず自分の子供で実証する所に若干狂気も感じますが。
(1324字)

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第113週『CHANGE THE WORLD』

第113週
2019/10/6
『CHANGE THE WORLD』
井上高志著 A-WORKS

LIFULL井上さんの2冊目の著書。「世界平和」をこれほど真剣に考え、行動している方を私は知りません。内容としては、世界平和を目指すに至ったプロセスと、実現するための4つのプロジェクトを載せています。井上さんからのメッセージ形式であり簡明な本です。

皆様に紹介したい観点も入れつつ、幾つかメッセージを抜粋します。

『人間って、視点の高さとか目標設定の違いによって、思考回路そのものが、まるで変ってくる。』

『ライバルとか他人に負けたくないのはすごく大事なエネルギーだけど。負けたくないっていうのは、結局、「自分は他の人よりもすごいと言われたい」と、自分に向かっているエネルギーなんだよね。』

『目先の利益を追うのではなく。本当に人を喜ばせることを優先しよう。それが、結果、自分を幸せにする。』

この三つは(人生の)目標を置くこと自体とその中身が外へ向く事の重要性ついて述べられたものです。15年以上お付き合いさせて頂いて、井上さんが最も世に伝えたいことと感じます。

私自身も「自分の道を自分で拓ける人を創る」「子供達の成熟社会で生き抜く力をつける」という目的=ミッションがなければ、起業にたどりつきませんでした。「公立小中にライフスキル教育を導入する」と途中でビジョン設定ができたことで、更に思考回路の変化が出ました。

そして私自身は自分の方にエネルギーが向くときは、エゴが生起され不足感や焦燥感が取り巻き、物事が上手く進みません。他人や社会など自分以外のものに向かうエネルギーこそが自分を幸福へと導くものであることを自覚しています。よって、大枠の目標設定は良いとしても日々心を整えるというのはとても大きなテーマです。

井上さんは「人類の幸福と世界平和=心×社会システム×テクノロジー」という公式を提唱されています。私共ブルームウィルは因数「心」をカバーするPEACE DAY PROJECTと、より良い「社会システム」を探求するNext Wisdom Foundationに関わっています。その一つPEACE DAY PROJECTは、9月21日が国連ピースデイであることを世に広めるプロジェクトで野外フェスを開催しています。私共は特別会員として賛助し、先日私は子供達とフェスに参加してきました。青空の元、芝生の上で自由かつ開放的な空気に心に養分が供給される感じです。予想より多くの方々が参加していて驚いたことと、つんくさん×キャンドルジュンさん×井上さんの対談が興味深かったです。本気で世の中を良くすると考え行動している方々の熱さと深みに触れ刺激を受けました。やはりこもるのではなく外に出るのは大切ですね。自分の持ち場で関わる人をより輝かせ、私自身も輝いていく気持ちをあらたにしました。

もし世界平和や井上さんの活動に興味があれば、いつでもお気軽にお声がけください。共に進みましょう。
(1170字)

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第112週『努力不要論』

第112週
2019/9/29
『努力不要論』
中野信子著 フォレスト出版

先日の日本政策学校同期との会食で「努力は報われるのか」の話になりました。その後メンバーの一人が見つけた書籍です。脳科学の観点から正しい努力の仕方が分かると期待し手に取りました。

筆者の結論は、適切な努力をすれば報われる、ということです。そして適切な努力とは、①目的②戦略③実行の3つが必要であり、がむしゃらな無目的な努力は無駄であると言い切っています。私は「正しい努力は報われる」と言っていますが、それとほぼ同義でした。筆者は、努力を強要されブラック企業で搾取される方々に警鐘を鳴らしています。酒井穣さんも近著で「自己啓発にハマるな」と言っていましたが、不適切な努力で疲弊している人が増えている潮流があるのかもしれません。

面白いと感じた話を二つ載せます。

一つはセロトニンの話です。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれ、セロトニンを運ぶ門であるセロトニントランスポーターについて日本人の70%が少ないタイプで欧米人は20%以下。多いタイプは日本人は2%。欧米人は30%とのことです。セロトニントランスポーターが少ない人はセロトニンが少ないので不安になりやすく、日本人が空気を読んで慎重になるとか、0から1を作るのが苦手というのも、この脳内神経伝達物質の動態が起因している面もあるという主張でした。日本人の自己肯定感の低さはこの性質による所もあるかと感じました。

もう一つは、③実行を左右する意志力に関わる部分です。意志力の強い人と弱い人の差は、前頭前皮質の機能の差であり、また前頭前野の厚さは、半分は遺伝で半分は環境要因で決まるとのこと。子供の頃に虐待を受けると、前頭前皮質の肥厚するのが妨げられるそうです。また意志力の強さは幼少期で既に差がついており、中年になるまで影響を及ぼすという結果を出した「マシュマロ実験」も興味深かったです。4歳の子の前にマシュマロを置き、15分待てばもう一個もらえると言い部屋を出ていくと、7割の子はお菓子を食べ、3割の子は机の下にお菓子を隠したり、見えないようにして、食べないことができた。そして14年後の18歳時点で、自制できた子とそうでない子はSATの成績が平均210ポイントの差があり、44歳時点の追跡調査では、年収と社会的ステータスを比べると、やはり自制できた子が高かったそうです。幼児への大人の接し方はやはり大切なのだなとあらためて感じます。
(989字)

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第111週『結果がでる仕事の「仕組み化」』

第111週
2019/9/22
『結果がでる仕事の「仕組み化」』
庄司啓太郎著 日経BP社

クライアント企業様に提供している「仕組み化」のノウハウをもう少し補強したいと考え手に取った本です。3点参考箇所がありました。

まず、働き方改革の「働きやすさ」と「生産性向上」の二つの側面について。企業の実態として、残業の削減、柔軟な勤務形態など働きやすさの環境整備は進んでいる一方、生産性向上は後回しになっているとのこと。確かに働く時間を減らしても、業務全体を見直さなければ成果が減少するだけです。参加者に業務全体の見直しを一層推奨できる材料になりました。ただ図式としては「働きやすさ」×「業務の見直し」=「生産性向上」の方がしっくりきます。企業にとっての働き方改革の目的は、生産性の向上と私は考えているからです。

二つ目は、仕組み化の端緒となる3分類の仕分けが参考になりました。A感覚型(経験や知識から高度に判断)、B選択型(一定のパターンから選択)、C単純型(誰がやっても同じ)です。マネジメント職向けに業務の見直しをするワークの中で、観点として提示できると思いました。更にやめる、減らすの二軸だった見直し方法を、変えるという観点があることもインプットできました。報告書の印刷をデータ配布にするなどが変えるにあたります。

最後に、本書の仕組み化はITを活用した「マニュアル化」を指しますが、JR東日本フードビジネス社(「ベックスコーヒーショップ」を85店舗展開)などの事例は参考になりました。印刷した分厚いマニュアルは参照、更新、周知に手間がかかり、季節毎のフェアメニューや新商品展開時には、全国からの店長を集めていました。そこでクラウド型のマニュアルに一元化しつつ、店舗に1台タブレットを配布し参照できるようにしました。結果、年間1000時間以上の出張時間削減、更に正しい調理や盛り付け方法が的確に伝わるようなり「お客様からの声」の件数も、以前より80%削減されたそうです。事例として紹介できます。
(799字)

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第110週『世界基準の「部下の育て方」』 田口力著

第110週
2019/9/15
『世界基準の「部下の育て方」』
田口力著 KADOKAWA

著者は元GEの日本・アジア地域の経営幹部育成プログラム責任者。世界基準のリーダーシップの知見を深め、私達のリーダーシップトレーニングに活用したいと考え書店で購入しました。

新たに取り入れたいと思った項目を5つ書きます。

一つ目は、リーダーの姿勢です。管理職や経営幹部が部下育成に関してまず行うべきは、自分自身が積極的に学ぶ姿を見せることであると筆者は言っています。実際にGEではCEOのジェフ・イメルト氏が30万人の社員の中で最も熱心に学んでいたそうです。私達も人材育成の必要条件として、まずマネジメント職自身が学びその姿勢を見せることと伝えており、私達の考えを補強できる内容です。「謙虚な学習者」という言葉が素晴らしく、研修で使っていきたいです。

二つ目は、インスパイア&エンゲージメントです。GEでは2012年から、リーダーのミッションとして「インスパイア」(鼓舞する)を中心に据えているそうです。「モチベート」(動機づけ)は当たり前で、メンバーを鼓舞し、毎日ウキウキしながらスキップして出社するぐらいのメンバーを増やせるかが重要視されているとのこと。エンゲージメント(従事没頭)してもらうために、このインスパイアという視点は有効であること。会社と自己の成長のためにメンバーに投資してもらう、というサポーターの観点が欠かせないことに気づきました。更に手法論も参考になりました。

三つ目、アッペルバウムのAMO理論(Applebaum et al, 2000)。好業績を上げている職場は、Performance=Ability×Motivation×Opportunityとのこと。興味深い理論であり、もう少し掘って調べてみたいです。特に鍵はOpportunityではないかと感じています。

四つ目は、キャリアフィットモデル。メンバーの現在とこれからの職務を想定し、メンバーの価値観×興味・関心×スキルの3つの軸でみていく。そして価値観と適合する職務であれば「コミットメント」が生まれるとあります。私達もビジョン作成時に価値観を土台にしてもらいますが、そのことの補強ができました。また、メンバーのキャリア形成に悩むマネジメント職にもこのモデルを紹介したいです。

五つ目は、フィードバックのSOIモデル。メンバーに良し悪しをフィードバックする際に、Standard(部下がすべきことの明確な基準・期待を示す)、Observation(行動や発言をできるだけ客観的に述べる)、Impact(部下がとった行動や発言がどのようなインパクトがあったのか)の順番が大切ということです。S(基準)を伝えずに、O(観察)やI(影響)から入るマネジメント職も多いと感じます。メンバーに納得してもらうには、分かっているという暗黙的な認識に期待せず、丁寧にSから伝えることの大切さ私自身も痛感しています。
(1187字)

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第109週『はじめての課長の教科書』

第109週
2019/9/8
『はじめての課長の教科書』
酒井穣著 ディスカヴァー・トゥエンティワン

良書とは何か。人により定義は違うと思いますが、出版して時が経っても売れ続けている本は良書の候補ではないかと思います。本書は10年以上過ぎても版を重ね15万部を突破しており、普遍的な何かを期待し手に取りました。

三つ程、印象深い点を伝えます。

まず一点目は、課長として最も大切な仕事は部下のモチベーション管理である、と言い切っている点です。課長にとってプレイヤー時代との最大の違いは人が集まるチームを持つことです。全ての活動はメンバーの意欲喚起に帰結すると言えるので、人に関わる部分が最重要であることは納得できます。私達のプログラム内で、もう少しこの領域の開発を強めても良いかと思いました。

二点目は、課長の「オフサイトミーティング」のスキルです。このスキルが、課長に必要な8つの基本スキルの中の一つに位置付けられていることに驚きました。現代の若い部下が飲み会に参加しない傾向があり、『居酒屋ではないところで、立場や肩書を越えた部下全員のホンネを聞き出す機会が強く求められている』と筆者は言っています。全員の長い自己紹介や失敗自慢大会など、酒無し議論なしでゆっくりと場を変えたMTGは、確かに『それぞれが肩書きの異なる社員である前に、魅力的な人間であるという、当たり前のことを思い出させてくれる』のでしょう。これも私達のプログラムで紹介したい観点です。

三点目は、「弱い絆」と「強い絆」です。本書は、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェター教授の理論で、転職してコネを利用している人の80%は弱い絆であり、強い絆が成功をもたらしたケースは20%という理論を紹介しています。「強い絆」は文化成熟のために必要ですが「弱い絆」を築いておくことは、組織が先鋭化せずに新しい視点を得るためにもとても有用とのことです。私自身「強い絆」重視派ですが、自身の世界を広げるにもこの「弱い絆」を作っていこうと感じました。
(800字)