宗興の本棚

第98週『ダイアローグ 対話する組織』

第98週
2019/6/15
『ダイアローグ 対話する組織』
中原淳 長岡健著 ダイヤモンド社

私達が提供するプログラムは、ビジョンセッションでも、企業向けリーダーシップ研修でも、ダイアログ(対話)を活用します。今回はダイアログの知見を深め、プログラムを更に発展させたいと考え本書を手に取りました。

「なぜ、ダイアログが自分のビジョンを描くのに有効か」

この問いは、私達がプログラムを提供する際の出発点となる重要な問いです。私達は、ビジョンの描き方として自分を知り、社会を知り、描くとしています。自分の価値観から描く未来像が、情熱が湧きやすく継続しやすいからです。この自分の価値観、つまり「自分」を知るのにダイアログが非常に有効と考えています。

では「なぜダイアログが『自分』を知るのに有効」なのでしょうか。

本書によると、アメリカの心理・哲学者のジョージ・ハーバード・ミードが「自分とは『本質的に社会的構造であり、社会的経験の中から生じる』存在」と提唱しているとのこと。自分というのは他者がいて初めて認識できる。自分らしさは他者との相対の中で認知できるものでということです。確かに「自分らしさ」というものは、確かに無人島で生まれ育った場合、その概念すら出てこないと思います。他者を理解することで、自己理解が深まる。自己を理解することにより他者理解が深まることの相乗効果が発揮できるのがダイアログであり、だからこそ有効と考えられます。

次の問いは、「ダイアログは普通の会話(雑談)と何が違うのか」です。

本書の定義は、ダイアログとは①共有可能なゆるやかなテーマのもとで②聞き手と話し手で担われる③創造的なコミュニケーション行為、としています。この定義が大切というよりも、①~③を行っていくと、物事が意味づけられた背景が共有できるようになります。この物事が意味づけられていくプロセスを共有することがダイアログの本質であることが私の中ではっきりしました。

Aさんが私の懇意にしているBさんに対して、「私はBさんの言う事は信じられない」と言ったとします。その際、不信のきっかけとなった事象だけを聞くのではなく、その意味づけに至った背景を聞き対話をする。そうするとAさんと対立することなく、Bさんことを深く理解することができます。時に不信の根本がその人の幼少期の出来事に結びつくこともあります。人は事象(客観的事実)をどう意味づけするのかで、考えや行動が変わります。本書に「相手の考えている価値前提や行動の背後にある世界観を共有する」と書いてありましたが、これこそがダイアログのもつ力だと思います。

最後に、有効なダイアログ手法の一つとして、ストーリーモードが印象に残りました。単純に言えば、物語を語りあう。コピー機の修理工達が、学ぶのはマニュアルや研修ではなく、経験の語り合いだった。ある会社で理念を共有する際も、ただ言葉の意味を語り合うのではなく、ストーリーを語り合う場を設けて効果が出ていたなど、印象的な例が載っていました。これは自社の企業理念の浸透や、ビジョンセッションのコンテンツ拡充にも活用していきます。
(1248字)

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第97週『水は答えを知っている』

第97週
2019/6/7
『水は答えを知っている』
江本勝著 サンマーク出版

吉田積読シリーズ。2001年初版発行の本で、2008年ぐらいに当時の上司の薦めで購入したのを覚えています。

本書には水の結晶の写真が沢山掲載されています。筆者の主張は、結晶を分析すると様々な差異が見えてくる。例えば、水道水よりも自然水の方が美しい結晶を形成している。また肯定的な言葉を与えた水は、否定的な言葉を与えた水よりも美しい結晶を形成する。水は情報を記憶することができ、言葉などを通して人の出す波動が水に転写するのである。そして、水が示す結晶の形は人間へのメッセージであり、「愛と感謝」で生きることが大切であると筆者は言っています。

筆者の主張は、非科学的な単なる超常現象的な分類をされるかもしれません。筆者のHPには世界初の水の結晶写真集『水からの伝言』が、全世界で350万部以上発行されていると書いてあります。本書も国内20万部以上、世界で50万部以上発行されています。これだけ支持されていることから、相応の説得力のある主張なのだと思います。

実際に、写真を見ると違いがはっきりと分かります。パリやニューヨーク、東京の水道水は、どこも結晶はできず流れている感じです。一方自然水は、美しい六角形の結晶になっています。特に、広島県西條の湧水は、本当に美しい六角形の結晶を形成していました。「かわいいね」という声をかけた水は美しい結晶ですが、「ばかやろう」は結晶化していません。クラシックを聞かせた水は美しい結晶ですが、ヘビーメタルは結晶化されていません。元々人の言動に波動があるのではという私の考えが、確信となるような写真でした。

スイスのイベントで主催に関わっていた女性が、自分の二人の子供に対して、本当に愛をもってかける言葉と、命令するのとでは全く違う効果がある。「しようね」と「しなさい」の違いだ、と言って水の結晶写真に魅せられるくだりがあります。子供に対して親のエゴからでる期待と純粋な愛情からでる期待では、違いがあると私も感じます。

「愛と感謝」で生きる。私の目指す生き方です。本書に背中を押された気がします。
(858字)

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第96週『幸せの新しいものさし』

第96週
2019/6/2
『幸せの新しいものさし』
博報堂大学 幸せものさし編集部 PHP

吉田の積読シリーズで2010年発行の書籍です。約9年前、自分の「ものさし」を決める必要性を痛感した際に購入した記憶があります。最近自分の「ものさし」の変化を感じ、より多くの様々な「ものさし」に触れたいと思い手に取りました。

序章で、著者は「個人の幸福度は極めて個人的・主観的な尺度のようであって、実は、『世の中かくあるべし』というその社会あるいは時代のコンセンサスに支配されている。」そして「『幸せのものさし』を社会がもはや一本化できなくなったこと自体も生活者の安心をかき乱している。」と言い、その不安を「手詰まり感」という独特のキーワードで表しています。その手詰まり感から抜け出すには、「ものさしが複数あることの良さ」に気づきつつ、「ものさし」を自分で創り、複数の「ものさし」を使い分ける自由度がキーになると主張しています。

新しい「ものさし」を創るのはとても難しいと思います。それは、社会通念が世の人の価値観に強い影響を与えるからです。ものさしの例として、リーマン・ショック前、ものさしの代表例は「お金」でした。多ければ多いほど良い、というのは強いものさしであり、今でも根強く残っていると感じます。本書で出てくる11人のように「ものさし」を創るには、まず今の自分の「ものさし」をはっきりと自覚することが自然で、現実的なステップと考えています。自分は何が好きで、何が大切なのか、自分らしさは何かなど、自己認知していない人は、子供はもとより大人でも案外多いものです。

もう一つ感じたことは、ここに出てくる11人の中で、新しいものさしを広めようとしている方々に共通するのは、体験を大切にしているということでした。無農薬農法を広める大地を守る会は「交流会などで、消費する以外の体験」を。シブヤ大学は「誰もが教えることができ、ここにしかない体験」を。「読書体験」や、ダイアローグインザダークは体験そのものを提供しています。

私達も「ライフスキル」という新しいものさしを創り、広めることが使命です。ブルームウィル企業研修では、外部が行う教育という位置づけでなく、経営者と人事の方にも積極的に関わって頂き、参加者の劇的な成長を実感する体験をしてもらう。咲心舎でも単に塾に任せるではなく、保護者様に子供の成長に関わり、成長していることを「実感」してもらう。様々な方に、共に育成に関わってもらい対象者の成長を実現した喜びを共に実感する体験。本書を通して、この点を更に大切にしていこうと考えました。
(1037字)

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第95週『THE TEAM』

第95週
2019/5/25
『THE TEAM』
麻野耕司著 幻冬舎・NEWSPICKS

前々職リンクアンドモチベーション社の後輩である麻野君の著書。本書との出会いのきっかけは15年来の知己であるLIFULL羽田さんです。打合せ時に、麻野君の本が出版されることと、発売前にもかかわらず30,000部の予約となり「すごいことになってますよ」と教えて頂きました。丁度、ブルームウィルの新しいチーム造りを模索していたこともあり、後輩に教えを乞うべく手に取りました。

一番参考になったのは、チームには唯一の絶対解はなく、最適解があるということです。筆者は、チームを「環境の変化度合い」×「人材の連携度合い」の2軸の掛け算で4タイプに分け、各タイプに適した解があると述べています。4タイプは、柔道団体戦型(変化大×連携小:生保の営業チーム)、サッカー型(変化大×連携大:スマホアプリの開発チーム)、駅伝型(変化小×連携小:メーカーの工場生産チーム)、野球型(変化小×連携大:飲食店の店舗チーム)です。

このタイプ分けに照らすと、もっともらしいチームに関する意見が、必ずしも正しいとは言えなくなります。例えば、「メンバーが入れ替わらないチームが良い」というのは、聞こえはいいですが、スマホアプリの開発チームなど、環境変化の大きなサッカー型のチームにおいては必ずしも当てはまりません。環境に合ったスキルを持った人材を常に流動的にアサインしていくことが求められるからです。「多様なメンバーがいるチームが良いチームだ」というのも、連携度合いが少ない駅伝型の組織ではスキルやスタンスが似たタイプのメンバーの方が、全体のパフォーマンスの総和は大きくなります。

咲心舎は、駅伝型にあてはまります。顧客が求めること(学力)や、こちらが教える内容(5科目)の変化はそこまで大きくありません。また一人で完結していくことが多い事業です。
駅伝型のチームは、ルールについて個人成果に責任を負う方がよい、確認が少ない方がよいなどの最適解があります。私の経験則からの法則を当てはめるのではなく、駅伝タイプに即した最適感を取り入れていきたいと思います。

最後に、より多くの人に再現性をもって理解してもらうために、複雑な事を分かりやすく説明する文体は、創業者で代表の小笹さんが生き移ったかのようでした。「伝承」を感じる書籍でした。
(944字)

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第94週『武士道』

第94週
2019/5/18
『武士道』
新渡戸稲造  奈良本辰也 訳・解説 三笠書房

現在の自分のテーマである、日本の文化と歴史の見識を深める第三弾として手に取りました。日経アソシエの『教養大全』に掲載されていた日本文化論の体系図の一番に出てくるのが本書です。

まず、私達日本人が儒教の影響を多分に受けていることを再認識しました。欧米においてキリスト教が担っている「道徳教育」の役割を、日本では武士道が担っていると著者は主張しています。そして武士道の源泉は『孔子の教えにあり』と筆者は述べています。自らを形成している道徳観を分析したところ、儒教の多大な影響を受けたことに気づいたのでしょう。著者が武士道を成すものとして「義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義」と7つの徳を挙げていますが、これは儒教の五常「仁、義、礼、智、信」と非常に近いものです。日本人を知るには、源泉である儒教を調べることが必要と感じました。

7つの徳の中で、特に印象に残ったのは「義」と「忠義」です。「義」は『武士道の光輝く最高の支柱』と筆者は言っています。筆者は「義」の定義を明らかにしていません。父母、目上、目下の者、大きくは社会一般などに対して負う「義理」について筆者が言及していることから、損得なく人や社会のことを思いやる正しい道のこと、と私は解釈しています。そして「義」で、ぱっと浮かぶのは元ビットアイルCOOの天野さんです。義の生き方が本当に素敵で敬服します。

「忠義」の章はエピソードが鮮烈でした。例えば、菅原道真に関わる物語。道真が追放され、彼の敵は一族を根絶やしにするべく、道真の幼子も厳しく探索し、道真の従者であった源蔵の寺子屋にかくまわれていることを突き止めた。結果、源蔵にその子の首を期日に届けるよう、命令が下った。源蔵は身代わりを立てることを考え、丁度入門してきた少年が幼君とよく似ていることに気づく。気づいたのはその母子も一緒で、ある日家の人目にふれぬ場所で、母子は自らを神仏の祭壇に捧げる決意をする。

いよいよ定められた日に、役人がやってきて、贋首を冷静に吟味したが、贋とは気づかず、去っていく。実はその役人の父は、長きにわたり道真公から恩寵を受けており、公の配流後、やむをえぬ成り行きから敵に使えなくてはならなくなった。そして身代わりとなって死んだ子供こそ、その役人の子であった。主君に不忠であったことが許されなかった時代、自分の息子を立派に祖父の主君に役立て、『「我らがいとけし倅は立派にお役に立ったぞ。悦べ女房」と叫んだ』。

西洋の個人主義は親子や夫妻の個別の利害を認めているが、一族の利害とその個々の成員の利害は一体不可欠であるとする。武士道はこの利害を愛情、すなわち自然で、本能にもとづくもので、かつ他の者がとってかわることができないもので結びつけた、と著者は言っています。忠義はとても自分には持てない徳ですが、何か考えさせられました。

武士道に沿った生き方は、今の自分にとっても自然な生き方なのかもしれません。これから、自分が迷ったとき、進むべき方向を示す指針になるとも感じました。
(1245字)

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第93週『なぜ部下とうまくいかないのか』

第93週
2019/5/11
『なぜ部下とうまくいかないのか』
加藤洋平著 日本能率協会マネジメントセンター

私がかなり傾倒している発達理論心理学。前回読んだ加藤さんの著書は、「個人がどう伸びるか」の原則に焦点を当てたものですが、発達理論を実際の現場マネジメントで活用するとどうなるのか。今の職場に活かすと共に、リーダーシップ研修のコンテンツを更に充実させる目的で、本書を手に取りました。

キーガンの発達理論は能力より意識(器)の発達に焦点を当てており、意識段階を5つに分類しています。そのうち成人以降は4つの段階があります。段階2の「利己的段階」、段階3の「他者依存段階」、段階4の「自己主導段階」、段階5の「自己変容段階」です。発達段階は一つに基づくというより、複数の発達段階にまたがる「発達範囲」があり、環境や状況によっても変化します。

本書の出会いは、私が提唱しているライフスキル教育の発展と同時に、私自身の成長や生き方にも指針を与える大変意義あるものとなりました。今年「いち」の出会いです。

まずライフスキル教育の学際的位置づけがはっきりしました。私が使命として掲げている「自分の道を自分で拓ける人を創る」は平たく言えば、他人や組織、社会に依存しない個を育てることです。成長社会から成熟社会に遷移する中でその必要性を痛感しこの使命に辿り着きました。そして、企業で大人向けに実践型リーダーシップトレーニングを、そして塾や学校で子供向けにビジョンセッションというプログラムを通して、この使命を実践してきました。これらのプログラムは、学術的見地としては発達理論の段階3から段階4への移行を促すものであることが本書で明確になりました。

また私自身の成長や生き方についても、次ステップが明確になりました。私自身は段階4から段階5への移行期にあると感じました。段階5は自分の価値観に横たわる前提条件を内省しつつ、壊し、新しい自己を作り続ける人であり、下記のような特徴があるとのことです。
・開放感や柔軟性がキーワード
・「自分を構成するものは虚構の産物」と考えている
・透明な自己認識であり、自分と他者を区別しない
・他者との共同は、異なる枠組みを理解する素晴らしい機会と捉える
・自分の価値体系や認識の枠組みの限界を頻繁にさらけ出そうとする
・システム思考(複眼思考)を持ち合わせている
・自分が保持するカッコの成功や社会的な地位や名誉などはちっぽけなものに過ぎず、自分は宇宙における一粒の砂のような存在でしかないと考えている

ちなみに、段階4から5への移行は、「異質」に触れることで促進されるそうです。私は起業後、自然と沢山の「異質」を招き寄せ、飛び込み、触れる経験してきました。そして6年前から価値観が大きく変化していることも自己認知しています。逆にもしかしたら、段階4から5へ移行するために起業したと言えるかもしれません。

この他、特に重要だと感じた項目を3つ挙げます。

まず、キーガン教授の言葉、『人間は意味を構築することを宿命づけられた存在である』です。意識=認知の仕方=意味付けの仕方、と解釈することができます。発達段階が進むとは意味付けの仕方が違ってきて、見え方が変わってくる、そして使う言葉に変化が出てくると著者は言っており、対象者が使う言葉により注目していきます。

二つ目はピアジェ効果、『無理に成長・発達を促そうとすると、どこかで成長が止まってしまうということを示す概念』です。アメリカで早期英才教育が盛んに行われ、長期間に及ぶ追跡調査をした結果、無理の成長を強いられた子供たちの多くは、二十歳を過ぎるあたりでピタリと成長が止まってしまうことが分かったそうです。無理強いせず、タイミングを見極めながら、成長支援していくことの重要性や難しさを感じます。

三つ目は、成長支援側の心得、『発達理論を学ぶ人の多くは、「発達することは良いことだ」と思いがちですが、そうした認識は安直だと考えています。』です。『発達段階が高度になっていくにつれ、必ずしもいきることが楽になったり、人生が良くなったりするとは言えません。』と著者は言っています。例えば、段階4に至るにはある種の「孤独感」を生み出されるし、段階4から5はそれ以上に過酷な課題になるそうです。これは私も痛切に感じることで、正直起業後、幸福ではあるものの、過酷な道だなと感じ懊悩することも多々あります。全ての人に対して、発達段階4へ行くのが「正しい」と考えるのは間違いであり、例えそれが使命であっても盲目的になることなかれ、という戒めとなりました。

段階3から4への移行が必要なかった時代に、この理論を打ち立てたキーガン教授の慧眼や学際領域がもつ力に驚嘆します。おそらく膨大な実験や観察をもとに打ち立てた理論だと思いますが、どのようなプロセスで立論したのか、次はいよいよキーガン教授の自著に入っていきたいと思います。
(1969字)

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第92週『貢献する気持ち』

第92週
2019/5/4
『貢献する気持ち』
滝久雄著 紀伊國屋店

実は積読状態の書籍が30冊ぐらいあります。今年1年で読まなかったら捨てようと考え新刊や興味ある書籍と並行して読んでいます。本書もその中の1冊。2009年、7年半務めた前々職を退職した時、心ある人=感謝と貢献ができる人になると決めました。その時に買った本ですが、10年間読まずにいました。

著書の滝氏はぐるなびの創業者。独特の文体は正直読みやすいとは言えませんが(当時もそれで敬遠した気がします)、貢献心は理性ではなく、本能であるというのが筆者の主張です。他者のために役立てたいと志す自然な気持ちであり、人間のもっとも高尚な知性を実現させる手段ではなく、よりプリミティブで自然から授けられたものである。そして食欲や性欲などを体質的本能、そして貢献心は心質的本能と言っています。

筆者は、様々な原体験から貢献心は本能であるとたどりついていますが、私も近い感覚です。
単純に接する人の笑顔がみたい。その笑顔なくしては生きていけないぐらい、貢献心は根源欲求であると感じています。

本書で特に興味深かった項目は人生モードの話です。人の特徴を表す言葉として、遊ぶに焦点をあてた「ホモ・ルーデンス」は遊戯人。学習に焦点をあてた「ホモ・サピエンス」は知性人。仕事に焦点をあてた「ホモ・ファーベル」は工作人。そして貢献に焦点をあてると「ホモ・コントリビューエンス」=貢献人となる。そして、『複合的なモードを自然に装うことがその人の生涯に彩を与え、また活力を発揮させる』と筆者は言っています。私自身、学習、仕事、貢献はかなりの程度、自分の心身と自然に一体化していますが、遊びは自然に装うまでにはなっていないと感じます。約20年仕事にハマり、ようやく最近「将棋」というはじめて趣味ができました。また、趣味以外でも何を「遊び」と捉えるかによってこの部分は変わると思います。

最後に、2009年10月、今から約10年前にブログに書いた文章を掲載します。自分のライフコア=核の部分がはっきりしています。本書とこのタイミングで向き合ったことで、この文章を探し再読しました。本書の読了を、初心に戻りつつ更に進化をするための契機としていきます。
(900字)

■人生の柱

この休みの間、これからの人生の目標(夢)を立て、アクションを起こせるよう、自分にとっての「人生の柱」を考えました。

ベースは相変わらずワタミ社長の渡邉美樹さんであり、渡邉さんが提唱する夢(6本の柱)を自分用にアレンジして作りました。

柱は以下の6つです。

・仕事
・学び(教養・趣味)
・つながり(人脈)
・お金(財産)
・健康
・家庭

そして、何よりも大切なのが、この6つの柱の土台となるライフコア=理念です。

■理念(ライフコア)

常々自分は「一貫した価値観」に基づいて人生を送りたいと思っています。
今回の休みの収穫は、自分の人生の軸となるライフコア=人生理念が固まったことです。

自分のライフコア、それは「心ある人になる」ことです。

「心ある人」とは僕の言葉で言えば、「礼節を重んじ、感謝と貢献ができる人」です。

■お世話になった方々への御礼

この「心ある人」に辿り着いたのは、休み中のある出来事が契機になっています。

今回、前職でお世話になったお客様17名と前職の社長を含めた上司3名に御礼をしようと、一筆箋に感謝の意を書き、あわせてお気に入りの京都の和菓子(永楽屋)を送りました。

当初は感謝の意は表したいけど、どうするか迷っていました。
今次菓子折りなんて「ベタ」なものは営業のときも使っていませんでした。
唐突に贈り物をされて、相手の重荷になったら嫌だな。
何の意図?と打算的と思われたら嫌だなと考えていました。
それでも、コンサルタントの先生の後押しがあり、一筆添えて送ることにしました。

直筆の手紙なので、勿論時間はかかりました。
それでも、1枚1枚自分の手で書くことで感謝の気持ちがぐぐっと深くなっていきます。メールではなく直筆手紙の良さはこの想い入れにあるのでしょう。

また当然、相応の費用もかかります。
それでも今まで頂いた恩から比べれば・・・というか比べることは出来ません。

そして無事9月中旬には発送が出来ました。

すると到着日になるやいなや電話が。また何人かのお客様からはお手紙を頂きました。

■感謝と貢献

届いたその日にすぐに電話をもらえるなんて。
特に最近疎遠だったお客様もいて純粋に嬉しかったです。
一時期ではありましたが、互いに仕事において心血を注ぎ、紡ぎ上げた信頼関係は時間を越えることを実感します。

また、頂いた文面を読んでいると、形式的な御礼だけではなく、必ず「●●してくれてありがとう」と、僕ならではの貢献が記載をされていました。そして「何かあればいつでも」とも。
ひとつひとつお客様からの返信を読んでいて、自分の心が柔らかく温かくなるのを感じます。

そうか、自分が求めていたのはこういうことだったんだ・・・。

仕事をしている最中には、あまりその先のことは考えていませんでした。とにかく、今目の前にいるお客様にどう価値を出すか、貢献をするかに奔走をしていた気がします。
お金を頂く為には貢献するのが当たり前、お金を頂いているのだから貢献するのは当たり前という感覚です。

ただ、その貢献に対して、お客様から感謝をされることがあっても、
お客様に対して感謝の想いを心底から持つことは薄かった気がします。サービス業だったら当たり前の感覚なのに・・・。

思い起こせば時折、お客様の存在に感謝をしている時があります。
例えば、メンバー時代、マンネリ化して営業を辞めたかったとき、お客様の存在によって僕は営業を続けることにしました。

それでも猛烈な日々の中、お客様への感謝を忘れていました。

稚拙な自分に辛抱強く良く付き合って頂き発注してくださったと思います。

手紙や電話のやり取りを通して、心の底から感謝の気持ちが湧きあがってきました。
そして、会社は変われどこのようにお世話になった方々に、何らかの貢献をし続け、繋がって生きていきたいと思いました。

更に言えば、お世話になった人だけでなく、これから会う人にも感謝と貢献をもって共生したいと強く思えるようになりました。

奥底に流れていたものが勃興し、確固たるものとして形になった契機でした。

■これからが大事

感謝と貢献。ベースで礼節を絶対に忘れないこと。
これを軸として人と繋がりあっていく、人生の6つの柱を太くしていく。
そんな生き方を追求していきたいと思っています。

勿論自分はまだまだ「心ある人」には程遠く、これからも非礼をすることもあるかもしれません。
そのときには素直に詫びること。反省して二度としないようにすること。そうしていきたいと思います。

ただ、上記のことを言い切れるのは、仕事をしていない休みの時期であり、心が穏やかだからかもしれません。

陳腐ではありますが「忙しい」という文字は心を亡くすと書きます。
忙しさは健全な精神を蝕んでいきます。
どんなに忙しくても、今回自分がセットしたコアを忘れずに実践し続けることができるかどうか。

人間そんなに強くはありません。弱くて甘くて脆くてずるい存在です。
だから自分ひとりだと必ず道に逸れます。
そして、道に逸れたときに正道に戻してくれるのは、周囲の方々だと思います。

周囲の人は自分のことを映し出す鏡です。
どんなに仕事が忙しくても、会社外の人と定期的に会うことは続けていきたいと考えています。

■根本の安心感

余談にはなりますが、最近社会に対してというか人間に対して僕は安心感が増しています。
というのも、年齢が上がるにつれ、皆自然と「感謝と貢献」に共感し実践している気がするのです。礼節を守る人も多くなります。

山っ気がある、荒っぽい人でも、その方向感は持っている。
真逆の人に僕が出会わないだけかもしれませんが、
僕は人間という社会的生物は、収斂するところに収斂していくのではという仮説を持っています。その収斂するところは、所謂「善行」です。年々その仮説への自信は深まっています。

宗興の本棚

第91週『図解 基本フレームワーク50』

第91週
2019/5/3
『図解 基本フレームワーク50』
グロービス著 嶋田毅執筆 ダイヤモンド社

ブルームウィルの研修コンテンツの一つであるフレームワーク。この知見を深め、参加者のフレームワーク制作力・運用力を更に伸ばせるようにと考え、手に取りました。本書では50個のフレームワークを紹介しており、その中で印象的なフレームワークを三つの観点で整理し伝えます。

まずは、咲心舎の事業戦略上すぐに活用できそうなものからです。
戦略キャンバス、4つのアクション(①取り除く②思い切り減らす③大胆に増やす④付け加える)を適切に組み合わせ、ユニークで価値のあるポジションを考える為のものです。戦略を整理する際にすぐに活用できそうですし、英克にも追体験してもらいやすく、戦略の浸透にも有効と感じます。
ブランドエクイティ、ブランドを4つの要素(①ブランド認知②知覚品質③ブランド・ロイヤリティ④ブランド構想)に分け、ブランド価値を高める上でどこに問題があり、どのような対策をすべきかを考える為のものです。咲心舎においては、まずは③ブランド・ロイヤリティの極大化、つまり驚くべき成果を出し心酔してもらうことが最優先であることがはっきり分かります。

次に、現在プログラムで使用している中で、説明を充実化できそうなものです。
PEST分析、未来予測の期間を「通常3年から5年」と著者は言っていますが、参加者の能力を鑑み2年など近過ぎた設定の時もあったので、やはり3年から5年を適切な範囲として設定していきます。
3C分析、競合分析の情報収集が難しいと著者は言っています。これは留意点として私も参加者に伝えていますが、HPの公開情報だけでなく、「顧客や仕入れ先からの間接的な評判」なども有効と書いており、参加者にHowとして伝えられそうです。

最後に、未知でいつか使えそうなものです。
VRIO、4つの観点(①Value経済価値②Rarity希少性③Imitability模倣困難性④Organization組織)で自社を分析し、自社の強みを知る為のものです。自社の強み理解が必要な対象者に提示できそうです。
CAGE、グローバル経営において4つの隔たり(①Cultural文化的②Administrative③Geographical④Economical)で考え、国ごとの留意点やビジネスチャンスを検討する為のものです。グローバル展開を考えている企業様の場合、取り入れたい分析ツールです。
(978字)

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第90週『自己啓発をやめて哲学を始めよう』

第90週
2019/4/20
『自己啓発をやめて哲学を始めよう』
酒井穣著 フォレスト出版

私の好きな酒井穣さんの近著。『答えを自分の内側に求める人は藁をつかみ、答えを自分の外側にもとめる人には哲学という救済の可能性がある』という帯の言葉に興味をひかれました。というのも、私は自分の内側に答えを見出せると考えており、この考えと相対する斬新な視点だと思ったからです。

本書はエビデンスなどがあまりないエッセイに近いものです。酒井さんの大切な友人が自己啓発にはまり抜け出せない(カモになった)体験から生じる「怒りのエネルギー」で書かれています。義憤という言葉が合うかもしれません。全体としては感情的な文体で、これまでの酒井さんの著書とは一線を画すものという印象です。

主旨としては、地球の収容能力が科学技術の発展で限界を超えており、確率論として多くの人が社会的弱者になる。自己啓発的な理由ではなく、進化論的な運の問題である。成功を求め自己啓発をしたって成功はしない。勉強や探求は素晴らしいことだから、自分に「なぜ」を向けるのではなく、外に「なぜ」を求めなさいということです。厭世的な論調の中、自己啓発をしても無意味だから、外に眼をむけなさい、というメッセージです。

元々酒井さんは『リーダーシップで一番大切なこと』で、自分の価値観に沿って生きることに重要性を説いています。つまり、答えは自分の中にあると言っています。しかし、ここでは答えは自分の中になんてないと言い切っています。真逆に考え方です。自己啓発に傾注している人達をターゲットに、熱病から冷めさせるために敢えてそう言っているのか、あるいは酒井さん自身の考え方が本質的に変わったからそう言っているのかが、本書では見えません。

主体性は、自分の意志を大切に、社会と個人の両面を見ていくことが肝要という私のスタンスは変わらないです。ただ、「自分が引き寄せるのでなく、勝手に環境がそうさせている」「カッコウが教えられていなのに托卵するように、人間も脳に既に必要な知識がプログラミングされている(成長とはそれを知っていくだけのこと)」など、個人が意志をもつところから少し進化したと感じる部分があったので、そこは興味深かったです。
(886字)

宗興の本棚

第89週『禅と日本文化』 鈴木大拙著

第89週
2019/4/13
『禅と日本文化』
鈴木大拙著 岩波新書

今年の大きなテーマは教養を高めること。日本の歴史と文化の見識を深める第二弾として本書を手にしました。

本書は禅が日本人の性格と文化にどのような影響を与えているか、芸術全般と武士、剣道、儒教、茶道、俳句といった日本文化を象徴するものを対象として禅の影響を書いています。
著書鈴木大拙氏は「近代日本最大の仏教学者」ともいわれ、日本の禅文化を英語で著し、広く海外に伝えていった方です。本書の第一刷は1940年発行されています。

やや哲学的で難解であり、全体を網羅しまとめることが難しかったため、今回は中枢と思しき文章を引用し、解釈を加える形にします。
『日本の芸術的才能のいちじるしい特色の一つとして、南宋大画家の一人馬遠に源を発した「一角」様式を挙げることができる。この「一角」様式は、心理的にみれば、日本の画家が『減筆体』といって、絹本や紙本にできるだけ少ない描線や筆触で物の形を表すという伝統と結びつている。』
『非均衡性・非相称性・「一角」性・貧乏性・単純性・さび・わび・孤絶性・その他、日本の美術および文化の最も著しい特性となる同種の観念は、みなすべて「多即一、一即多」という禅の真理を中心から認識するところに発する。』
『茶道については、いつも物事を単純化せんするところに在る。この不必要なものを除け去ることを、全は究極実在の直覚的把握によって成し遂げ、茶は茶室内の喫茶によって典型化させられたものを生活上のものの上にうつすことによって成しとげる。』

究極的には禅とは世界に区切りはなく、自分も世界も全て一緒ということを体感(洞徹)する宗教と私は考えています。世界に区切りを入れ知性論理で真理を探究する西洋哲学と比較し、世界に区切りをつけず感性身体で真理の体感・体得を目指す東洋哲学。その道筋を様式化し、日常に示したのが禅と捉えています。読了し、この禅がもつ華美を避け、無駄を除けるといった清貧的な要素が私の深奥の渇望ではないかと直感的に感じました。例えば、多様性の中に浮き出る超越的な孤絶性が「わび」であり、貧困への信仰と共に禅の思想と結びつているそうです。この日本的感覚を愛で、磨いていきたいと思います。
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