宗興の本棚

第138週『努力は天才に勝る!』

第138週
2020/4/5
『努力は天才に勝る!』
井上真吾著 講談社現代新書

井上尚弥選手のような突き抜けた選手を生み出すには、どうすれば良いのか。その答えを探るため、父真吾さんの著書を手に取りました。

本書を読了し私が出した結論でいえば、やはり「チーム井上」で歩んできたことに尽きると思います。本書の終わりに、井上選手の母美穂さんが手記を寄せているのですが、「尚のベルトは『家族みんなで獲った』と思っています。尚も同じ気持ちでいると思います。」と言っています。

やはりチームの力は偉大です。私の娘も、息子もそれぞれ夢があります。その夢を実現するにはまず家族が「チーム吉田」になる必要があると強く思いました。では家族で強いチームを形成するにはどうしたらよいのか。二つの点が印象に残りました。

一つ目は、「リビング」の話です。「我が井上家に『強さの秘訣』があるとすれば―。それは『リビング』なのかもしれません。」と真吾さんは言っています。井上家では頻繁に家族会議が開かれ、リビングにある大きな木のテーブルで語り合うそうです。皆で集まる時もあれば、1on1もあるこの家族会議の目的は、子供達の考えや壁を把握することです。「ときには言葉を交わすことで、よりしっかりと意思を確認することができます。」と真吾さんは言っています。「子どもの今」を把握するのは、押しつけや的外れな導きを避けるためにとても重要なことです。吉田家のリビングもその目的で使っていこうとあらためて思いました。

もう一つは親が本気で取り組むということです。「『よし、二人とも頑張れよ』ではなく、『父さんも一緒に頑張るからな』『おまえたちがベストを尽くせるように環境は整えたぞ』と自分も本気になっている姿を見せたかった」と真吾さんは言っています。井上選手もあるインタビューで、お父さんに反抗せず厳しい練習についてきた理由を聞かれたとき、お父さんがやることをやっていたから納得していた、ようなことを言っていました。親が本気で取り組まなくては家族でチームにはなりえません。

美穂さんの手記の中で、真吾さんが悩んだ時期があったそうです。それは井上選手がプロ入りを決めた時に、世界のトップを知らない自分が尚の足を引っ張ることにつながらないか、と悩んでいたそうです。世の中には世界を知る名トレーナーが沢山います。この悩みは子供の未来を真剣に考える上では当然通る道でしょう。真吾さんは美穂さんの言葉でその悩みを越え、自分の手で二人を世界チャンピオンにすると心を決めたそうです。ここで真吾さんに覚悟ができたのだと思います。
(1039字)

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第137週『本当の仕事』

第137週
2020/3/31
『本当の仕事』
榎本英剛著 日本能率協会マネジメントセンター社

この3月は私自身の新たなビジョンを描くため、私共のリーダーシッププログラムで提供しているワークを自分自身で行っています。その中で「個人軸」を深めるため、別の角度から光を当てたいと考え手に取った本です。著者はコーチング企業のCTIジャパンの創立者です。

印象深いキーワードは3つありました。「存在意義」「純粋意欲」「天職創造」です。

一つ目は、「存在意義」について。著者は「仕事とは自らの存在意義を探求し、それを表現すること」としています。素晴らしい定義で、感銘を受けました。元々「仕事は自身が伝いたいメッセージの表現手段である」という考え方はしており、自らの存在意義を探求する、という部分が琴線に触れました。

そして、筆者は存在意義というのは「他者や世の中との『関係性』の中で初めて見出せるものである」としています。よくある「自分が幸せになること」は厳密にいえば存在意義ではないと。あなたはなぜ生きているのか、と言ったときに「幸せになるため」という答えは、全人類に当てはまることであり、確かにその人固有の存在意義にはなりえないと思います。

更に筆者曰く、存在意義は進化するということです。仕事を内なる仕事(=探求)と外なる仕事(=表現)に分け、自らの存在意義を探求し続けていくことが大切と著者は主張しています。私は存在意義は変化しないと考えていたため、なるほどと膝を打つ感覚でした。

二つ目は、「純粋意欲」です。いい言葉ですね~。純粋意欲とは、「自分の奥底から湧いてくるような『これがやりたい』という気持ちのこと」です。他人の目を気にして、不安や恐れの気持ちから発生する意欲ではなく、「なぜだかわからないけどとにかくそれがやりたい」といったものです。その仕事をして、魂が潤うかどうかがバロメーターになるとのこと。純粋意欲に沿ったものでないと、一生懸命やっていても魂が擦り減っていくそうです。

三つ目は、「天職創造」という言葉。著者は自分を仕事に合わせるような「適職」という考え方に違和感があり、「私たちは、職業という小さな箱にうまく収まるほどちっぽけな存在ではありません。」と言っています。厚労省発行の『職業分類』によると約17,000種ある職業のうち、多くの職業がここ50年程で出きたそうです。何屋かというのは自分で創造すれば良いのです。天職創造というプロアクティブな考え方に大変共感しました。

自身の「個人軸」を深堀する意味でも、私共のプログラムを進化させる意味でも、有意義な書籍でした。
(1039字)

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第136週『訳注 二宮先生語録(上)』

第136週
2020/3/23
『訳注 二宮先生語録(上)』
斎藤高行 原著 佐々井典比古 訳注

私淑する二宮尊徳翁の教説を門弟である斎藤高之が記録したものです。尊徳翁の考えに毎日触れたくて、少しづつ読み進めてきました。あらためて強く思う事を三つ書きます。

一つ目は、「分度」の重要性です。支出の度を定めることを分度と言いますが、「分度は土台石」「分度は足もとの用意」「分度は仕法の基本」など、巻一で尊徳翁は言葉を変えながら再三再四分度の重要性を説いています。私は自分の給与を自分で決められる立場ですが、自身の分度を決めてから経営が安定した気がします。売上が大きく伸びたから、その分給与をもらうのは道理にかなっていると思いますが、利益に回せばその分投資もできますし、何かあったときの蓄財にもなるわけです。「国家の盛衰貧富は、分度を守るか分度を失うかによって生ずる」と尊徳翁の言葉を刻印し、今後も分度を守っていきます。

二つ目は、尊徳翁も人の子であることが分かりました。「そもそもわが道は、国政や三教が不備のため、その網から脱けおちて起る諸問題を救済してやる道なのだ。なんと偉大なものではないか。」「わが日掛縄綯法のごときは、女こどもでも実行できない者はない。なんと、まさに大道ではないか。」など、自身の考えや仕法を自賛している場面がありました。尊徳翁に対し、清廉潔白、常に自分に厳しく、謙虚で私心のないイメージをもっていましたが、人間らしい一面を見る事ができ、少し安心しました。

三つ目は、尊徳翁の解釈力の凄さです。そして解釈力の源にあるのは、農業や自然現象を用いた「たとえ話」をつくることではないかと推察できました。「禍福吉凶は一つである。ちょうど米にはぬかがあるし、魚には骨があるようなものだ。」「人道を左脚とすれば、鳥獣の道は右脚だ。」など、思想や事象を「たとえ」を使い分かりやすく説明する場面が頻繁に出てきます。一朝一夕には真似できませんが、手始めにスポーツメタファーを作っていきたいと思います。
(800字)

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第135週『入社10年分のリーダー学が3時間で学べる』

第135週
2020/3/15
『入社10年分のリーダー学が3時間で学べる』
杉浦正和著 日経BP社

今年のテーマ「自身のリーダーシップ論の深化」のために手に取った本です。『入社後に活躍できる社員を育てよう。読んでおきたい本9選』(https://www.huffingtonpost.jp/enjapan-success/dokusho_a_23293627/)からの1冊です。

既知でより詳細を押さえておきたいものと、未知だったものと二つを記載します。

前者は、「オハイオ研究」です。クルト・レヴィン教授の「アイオワ研究」、レンシス・リッカート教授の「ミシガン研究」と並び3大リーダー研究の一つと呼べると思います。「オハイオ研究」は1950年代にオハイオ州立大学のキャロル・シャートル教授を中心に行われた調査です。見えない資質よりも、見える行動(ビヘイビア)に焦点をあて、リーダーの行動を測る尺度を作ることを目的に行われました。

結論として、抽出した多数の項目は二つのカテゴリーに集約されると提示しました。それは「構造づくり」と「配慮」であり、リーダーの基礎行動として押さえる必要があると考えます。三隅二不二氏のPM理論もこの研究に影響されていると推察できます。

ちなみに本書では、「アイオワ研究」は専制的、民主的、放任的という「3つの典型的なリーダーシップ・スタイルの下で、グループの雰囲気やメンバーの行動にどのような違いが生まれるかについて」調査したもの。「ミシガン研究」は1961年に提唱された理論で、「リーダーの行動を『従業員重視型』と『職務中心型』」に分類したものと書いてあります。

後者は、「オーセンティック・リーダーシップ」です。真正のリーダーシップと訳せるでしょうか。リーダーは「他の誰でもない『自分』を貫くべき」という議論で、最近注目されてきているそうです。そして真正な自分を保つ方法が、瞑想をはじめとした「マインドフルネス」であり、2008年の世界金融危機がこの流れが起きたきっかけの一つと著者は言っています。巨額のお金に多くの人が我を失い、自分達がどこにいくべきか、あらためて真剣に考え始めたそうです。

ブルームウィルが提唱しているリーダーシップ論はこの「オーセンティック・リーダーシップ」に当たると思います。「自分の価値観や行動の原理原則を再認識し、自分が何のために生きているか考えるのに他ありません。」と著者は言っていますが、「オーセンティック・リーダーシップ」は「個人軸」から考えていく私達の考えと合致しています。2008年の金融危機からオーセンティックを探求する流れが出ているのも、私が独自のリーダーシップ論を生み出した背景と一緒です。ロバート・ゴーフィ氏とガレス・ジョーンズ氏が提唱していると本書に記載があり、今後この分野を深堀りしていきたいと思います。

最後に「寸止めスピリチュアル」という言葉。マインドフルネスはスピリチュアルの世界と隣接しているため「現実世界でのリーダーシップ発揮のため」と目的から離れず、迷い込まないようにと著者は言っていますが、我が意を得たりの言葉でした。
(1251字)

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第134週『インプット大全』

第134週
2020/3/8
『インプット大全』
樺沢紫苑著 サンクチュアリ出版

樺沢さんの前著『アウトプット大全』が素晴らしく、今度は当然インプットの方もということで手に取りました。

本書はインプットの精度を高めるには、ということに力点が置かれています。すぐに使おうと考えた項目は下記4つです。

一つ目は、「生で聞く」です。セミナーや講演を生で聞くのは、読むと比べてはるかに学びの効果が高いそうです。「言語的情報」に加えて「非言語的情報」が伝わり感情が揺さぶられやすく、記憶力を増強する脳内物質ドーパミンが分泌され、結果圧倒的に記憶に残るからです。登壇時には毎回1つ以上、参加者の感情を揺さぶるコンテンツや言葉を企図していきます。

二つ目は、「音楽を聴く」です。東北大学の研究によると、速いテンポと遅いテンポの曲を聴かせた後に短期記憶課題を行ったところ、速いテンポの曲を聴いた場合、左下前頭回が活性化し、短期記憶が向上したという結果が得られたそうです。『仕事や勉強の開始前に、テンポの速い曲や、自分の好きな曲を聴いてテンションを上げるのは、脳科学的に効果がある。』とのことですが、プロレスラーの入場曲のように勉強や仕事のテーマを決めておくことをやってみます。

三つ目は、「見ない」です。研修の休憩中スマホを見る人は多いですが、著者曰くこれは『最も良くない休憩時間の使い方』とのことです。人間の脳は視覚情報の処理に脳のキャパを80%~90%を使うと言われており、スマホは脳を更に疲れさせるからです。よって「目をつぶる」ことが一番の休息であり、まずは自分で試してみます。

最後は、「移動する」です。ミシガン大学の研究で、40個の単語を場所を変えて記憶する実験をしたところ、異なる部屋で記憶した方が同じ部屋より40%も記憶力がUPしたそうです。場所を変えることで、海馬にある「場所ニューロン」が活性化するのが理由とのことですが、私もリビング、書斎、職場、カフェなど使い分けていこうと思いました。
(799字)

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第133週『勝ちスイッチ』

第133週
2020/3/1
『勝ちスイッチ』
井上尚弥著 秀和システム社

ボクシングは子供の頃から好きなスポーツの一つです。川島選手、畑山選手に魅せられ、最近だと長谷川選手に注目していました。ただ、これら歴代のチャンピオンの中でも群を抜いて強いと感じるのが本書の著者井上選手です。一流を越えて超一流に迫る彼が、何を考え、どう歩んできたか興味があり手に取りました。

井上選手がここまで強い一つの理由は、間違いなく練習量にあります。動画で井上選手の練習風景をみたことがありますが本当にハード。このような地味でハードな練習を継続するのは並大抵ではありません。本書購読の目的の一つに、継続できるモチベーションはどこから湧くのかを知りたかったのですが、結論は「チーム井上の存在」だと感じました。『井上家はボクシングを通じて、その絆を深めてきた。苦しみも喜びもみんなで分かち合ってきた。井上尚弥という人物は、両親がいて拓真がいて浩樹がいてこそ成り立っている。だからこそ負けられないのである。』という言葉に全てが詰まっていると思います。私も苦しい時に、応援して頂いている方々の顔や「言葉」を浮かべ、立ち上がってきました。何度助けられたか分かりません。「早く行きたいなら一人で。遠くに行きたいなら皆で。」琴線に触れるとても好きな言葉です。

井上選手を形作ったのは、お父さんの育て方が大きいと感じました。本書には幼少期から二人三脚で歩んできた父真吾さんの教えが所々に出てきます。例えば、『他人と比較する必要はないんだよ。他人を羨むんじゃないよ』というお父さんの教え。これにより、井上選手は人を嫌いにならないそうです。「人を嫌いにならないにはどうするか?」と聞かれた時の答えは、『「自分を好きになることだろう。自分に自信をもち、人を羨ましいとか、他人との比較をしないこと」別章にも書いたが父の教えがそうだった。』と書いています。我が子である実来と宗真に何を教え、伝えていくのか、あらためて自身の言動を振り返るきっかけとなりました。早速、真吾さんの著書も買いました笑。
(834字)

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第132週 『ビジョナリー・ピープル』

第132週
2020/2/24
『ビジョナリー・ピープル』
ジェリー・ポラス、スチュワート・エミリー、マーク・トンプソン著 宮本喜一訳 英治出版

アカツキの塩田代表が著書で言及しており、また好著『ビジョナリーカンパニー』の著者ジェリー・ポラス氏が書いていることから手に取りました。原題は『SUCCESS BUILT TO LAST』。永続的に続く成功をおさめるには、という所でしょうか。

本書は短期的な成功ではなく、長期に続く成功を分析したものです。分析対象となった200名以上のインタビュー対象者は、『ひとつあるいは多数の分野で最低20年以上強烈な影響力を発揮していること』が条件です。そもそも本書で言う成功の定義は、よくある富、名声、権力の獲得ではありません。『ビジョナリーな人にとって、成功の本当の定義とは、個人的な充実感と変わらない人間関係を与えてくれる、そして自分たちが住んでいるこの世界で、自分にしかできない成果を上げさせてくれる、そんな生活や仕事のことだ。』としています。

結論として、この永続的に続く成功をおさめる秘訣は『自分の生きがいに対する誠実さ』に集約されます。その「誠実さ」を持ち続けるために、本書から今の私にとって必要なことを二つ抽出しました。

一つ目はキャリアに固執せず自身の「静かな叫び」を聴くこと。この項目で触れられていたのは映画化もされた軍事小説『レッドオクトーバーを追え』の作者トム・クランシーです。トムは子供時代、戦争のおもちゃと宇宙が大好きで、10代は海軍の歴史に対する情熱を燃やしていたそうです。しかし、視力が弱く海軍入隊を断念し、保険の仲介業をはじめた後、妻の祖父が経営する証券会社に入り、のちにその会社を買います。所謂「よい生活」でしたが、12年ぐらい自分の夢を思い描きながら、その「静かな叫び」を耳にしていたそうです。そして上記自作の小説が世に出るまで20年の年月がかかっています。『周りの人たちによって価値があると評価されても、されなくても、人生のある時点で彼らは自分の夢をよしにつけ悪しきにつけ、大切にしようとする。永続的な成功への道はこれ以外ない。』と本書は言っています。静かな叫びに答えること、沁み込む言葉です。

二つ目は、「大義」の話。この項目で触れられていたのはサウスウエスト航空の創業者ハーブ・ケレハーです。優秀な弁護士だったケレハーは経営者に転身するのですが、航空業界に価格破壊をしかけ、その認可が下りる前にライバルからの訴訟に巻き込まれています。そういった困難を乗り越えて同社を素晴らしい企業へと導いた原動力は「大義」とのことです。『大義には自分自身を熱狂させるようなカリスマ性がある』というのがケレハーの信念だったそうです。これはすごく実感しています。取り組むだけの価値あるから「誠実」になれるのですが、自分のやりたいことが大義と重なると、とてつもないエネルギーが湧きます。
(1152字)

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第131週『成熟社会のビジネスシフト』

第131週
2020/2/16
『成熟社会のビジネスシフト』
並木将央著 総合法令出版

日本は2008年から人口減少に転じ、「成熟社会」が到来しています。それにも関わらず書店では「成熟社会」とついた書籍は多くない印象です。今回久々に「成熟社会」と名のついた書籍と出会い軽く感激しました。そして、研修参加の管理職にリーダーシップやマネジメントの仕方などを伝える上で、プラスがないかと思い手に取りました。

まず、成熟社会は『誰も困っていない社会』であると筆者は言っています。「不足」「不便」「不安」「不満」「不経済」の不がある程度解消され、そこそこ満足が行き渡った社会になっているとのこと。私も常々日本は成熟社会に入り、人々の消費欲求が希薄化していると考えています。その流れは自身を通しても実感でき、物欲に関して私はほとんどなく、先月1ヶ月個人的に使ったのは医療費だけでした。筆者の『不安は消えない。でも不満がない状態』というのは上手い表現です。

そして、この成熟社会では消費者は答えをもっていな点を筆者は強調しています。『プロダクトアウトもマーケットインも通用しない』世界です。確かに「ランチは何を食べに行く?」と聞かれても食べたいものは浮かばないかもしれません。ただ「ラーメンはどう?」と提案されると、明確に答えは出ます。つまり顧客は『ウォンツに関しての肯定否定はできる』のです。顧客は答えに気づいていないだけだと著者は主張しています。

よって、成熟社会で収益を伸ばすには、こちらから提案を繰り返し、共感を喚起する必要があります。『思いついたアイデアやコンセプトをファンにぶつけて肯定否定を受けながら、方向性を見極める』とあるように、共感を得ながら商品を作っていくことが重要と筆者は主張しています。

結論として、「何が欲しいですか」という御用聞きのスタンスはもはや通用しません。成熟社会で大切なことは「共感」を呼ぶまで顧客に提案をし続けることです。このメッセージは強く管理職に届けられそうです。
(799字)

※今日は某大学のカフェから。

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第130週『3つの真実』

第130週
2020/2/9
『3つの真実』
野口嘉則著 ビジネス社

先週、痔ろうの手術のため一泊二日で入院をしていました。ゆっくり本を読む時間ができたので、何冊か読んだ中で読了した一冊です。本書は、通塾中の天外塾同期である田中伸一さんのブログからインスピレーショが湧き手にとった本です。田中さんは人材育成のコンサルタントとして独立をしながら、ダウン症の息子さんを抱え、人生観と共に人生が変わった歩みをブログに書かれています。入院前、偶然田中さんのブログの56話を読み、胸を打たれました。https://tanaka-shinichi.hatenablog.com/entry/independencefails

本書はベストセラー『鏡の法則』の作者が書いたものです。目標必達メソッドを編み出し起業し右肩上がりに事業成長させた人材開発の社長が、大きなアクシンデントに見舞われました。その夜、ふと現れた老人との対話により「3つの真実」に気づいていく物語です。

一つ目、中心軸の話がまず印象に残りました。「人生を通じて最も望むもの」が中心軸です。これは、自分に起きてくる出来事を判断する際の「ゆるぎない価値基準」となります。中心軸が定まっていないため、その場の感情や衝動によりあらぬ現実を引き起こしていくとのこと。私自身、家族が健やかであり続けることや、母親が余生を楽しむことなど、人生を通じて望むものは「幸せの軸」として幾つか持っています。「幾つか」だからこそなのか今回「最も」という所がぐっと刺さりました。ここ最近の自身の極度な揺れから、定まっていると思っていた中心軸が未だ定まっていないことも痛感しました。孔子の言う不惑というのは、この中心軸が定まることかもしれません。

二つ目、人間の行動動機は突き詰めると「愛」か「恐れ」のどちらかしかない、ということです。例えば、社会的な成功を求めるのは、往々にして自分の存在が社会に埋もれる恐れから来ていると解釈できます。部下を叱るのはコントロールしないと、目標が未達になり上からの信頼を失う恐れから来ていると捉えられます。この状態だと社会的に成功しても、目標を達成しても、ずっと恐れに支配され幸福度は高まりません。

一方、人は愛に生きるとき、本当の幸せがもたらされる、と著者は言っています。そして、愛に生きる鍵は感謝です。感謝=愛に近く、人とつながりを感じることができるとのことです。これも大いに共感します。感謝は筋力であり、感謝をしていないと感謝力は落ちてくると私は考えています。よって毎朝感謝の手紙を読んでいるのですが、初めた約3年前と比べると自己肯定感や幸福度は格段に高まりました。様々な方々との深い「つながり」を感じることができ、これにより人生の根底の部分で支えができた感触です。何があっても大丈夫な感じというか。

中心軸を定めることと、より愛を動機に生きていくための行動として、毎朝のルーティンに加え、週末のどこか月1回1時間以上の「内観TIME」を設けることにしました。ちなみに現在の毎朝のルーティンは、4つです。①20分の瞑想②5年日記③感謝の手紙④30分の読書です。内観TIMEは、瞑想後、現在の不安や感動とじっくり向き合い、自分の心の声や感情を感じ取ること。また、今週一番感謝したいと思った方への感謝のコメントを書いていきます。既に2回行いましたが、不安感が薄まり、静かで暖かなエネルギーが湧出してきます。日々の喧騒の中で忘れがちな大切なことをじっくり「感じる」時間にしていきます。

本書の世界観は、自分の心の在り方が現実世界に投影され、出来事が引き起こされていくという非科学的なものであり、賛同しない方も多いかもしれません。若干「アヤシイ」感じ<笑>。量子や光子分野で人の想い(エネルギー)が現実化する学術研究も進んでいるようですが、科学的証明にはまだ遠い気がします。数字を含む言葉を駆使し、分けることで真理を探究した西洋思想のアプローチ。その対極にある全ては一つであり感じることで真理の体感を目指した東洋思想のアプローチ。本書は東洋思想アプローチに近く、またオットーシャーマ教授の『U理論』、天外さんの『実存的変容』とつながる話です。

すこし俯瞰的な視点でいえば、私は人類が恐れを中心に築き上げてきた社会の最終系がこの資本主義社会ではないかと感じます。そして今、人類の内的転換、つまり社会や歴史を創る前提が転換しており、有史以来最大の転換期をむかえているとも言えます。現在は、恐れから作る社会ではなく愛から作る社会へと転換する過程であり、フロー経営や、ティール組織はまさにその象徴と言えます。子供への体罰禁止なども考えてみれば、2000年以上恐れにより止められなかったことが今実現しています。資本主義の限界が叫ばれるのは、実は人類の内的転換を求める叫びなのかもしれません。
(1977字)

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第129週『リーダーシップ理論 集中講義』

第129週
2020/2/2
『リーダーシップ理論 集中講義』
小野善生著 日本実業出版社

今年の読書テーマの1つとして、リーダーシップがあります。現在のブルームウィルのリーダーシップ論を練磨し、更に進化したものを世に提示していきたいと考えており、インプットの方向を決める道しるべとして手に取りました。

本書はコッター教授をはじめ6人のリーダーシップ論の大家が、講義形式で自論を伝えていくものになります。新しい発見として、下記二人(三人)の方を挙げます。

まず、ウォレン・ベニス教授です。著者が『現在のリーダーシップ研究の第一人者』と言っている方です。ベニス教授は、優れたリーダーの4つの特性(戦略)を示しています。①人を引きつけるビジョンを描く②あらゆる方法で「意味」を伝える③「ポジショニング」で信頼を勝ち取る④自己を創造的に活かす。

この中で特に、②のあらゆる方法で「意味」を伝える、がとても参考になりました。「あらゆる」という言葉に込められた徹底姿勢は感奮ものであり、人としての強さがそこにあります。そして「意味」という言葉からも、ビジョンの背景にある価値観を共有していく重要性を感じました。②の説明の中には、インパクトのある言葉についても言及がありました。ベニス教授は、キング牧師の『I have a dream』、コマツ坂根社長の『ダントツ経営』など、新たなビジョンを象徴する言葉の使用を奨励しているそうです。私達もビジョン策定の際、キャッチコピー化を取り入れていますが、この学術的エビデンスを元により一層推し進めていけそうです。

次に、コンガー教授とカヌンゴ教授です。二人はカリスマ的リーダーシップの代表的論者として、マックスウェーバーの章に紹介されています。もう少し調べて見ると、ジェイ・オルデン・コンガー教授は、米クレアモントマッケナ大学の教授。ラビンドラ・カヌンゴ教授は、カナダマギル大学の教授であると分かりました。

二人が示したのは、カリスマ的リーダーの6つの行動特性です。①ビジョンを打ち出す②環境の変化を察知する③型にとらわれない行動をする④リスクをとる⑤フォロワーの気持ちを察知する⑥現状に満足しない。

上記理論は、コッター教授の変革型リーダーシップと『非常に近い関係にある理論』と著者は言っています。確かにそう感じますが、③と④の部分、つまりリーダーの挑戦的行動について、より明示されている気がします。私達が提唱している「挑戦と実行」の学術的エビデンスとなりそうです。

道しるべとして簡便かつ的確な本でした。今後の道筋は、まずコッター教授とベニス教授の著書を熟読したいと思います。
(1052字)