宗興の本棚

第128週『経営の教科書』

第128週
2020/1/26
『経営の教科書』
新 将命(あたらし まさみ)著 ダイヤモンド社

5年前ぐらいに、今も大変お世話になっている経営者の方が、「新さんの経営方針が良い」と話題に出していたことを人づてに聞き購入した本です。当時はその経営者の方がどんな経営をしたいのかを理解する目的で読みましたが、今回は自身の新たな経営方針を設計するため再度手に取りました。

本書の内容は不易流行の不易部分である「経営の原理原則」をまとめたものです。琴線に触れる箇所が多くあり、沢山の折れと線が出来ました。その中で三つ程、記載します。

一つ目は、合言葉を自分で何個も作っている点です。直接「合言葉を持て」と言及してはいませんが、本書には何個も合言葉が出てきます。例えば、「多・長・根」という合言葉。これは陽明学をもとに筆者がまとめたもので、大局観を身につけるために必要な考え方です。多は、多面的・複眼的なものの見方。長は、長期的な視点、根は、目的など「そもそも」の視点です。社を預かった瞬間から『「多・長・根」「多・長・根」と“念仏”を唱えながら意思決定を行ったことが、私には非常に役に立った。』と筆者は述べています。他にも、人間関係能力づくりのために心がけていた「丁褒感微名」(ていほうかんびめい)。ダメな会社の3K(カミ、カイギ、コミッティ)など、再現性のあるフレームワークのように合言葉にしている所が秀逸だなと思いました。

二つ目は、「CSの前にES」です。筆者が提唱する勝ち残る企業づくりの流れは、経営(者)品質→社員品質(満足)→商品・サービス品質→顧客・社会満足→業績→株主満足→経営(者)品質・・・となっています。経営者品質である経営力、リーダーシップ、倫理観などのあとに、社員品質(満足)が来ており、『顧客満足を実現する当事者はだれか。銀行でもなければ、評論家でも証券会社でも、コンサルタントでもない。社員である。』と著者は述べています。ホワイト企業大賞の授賞式でも強く感じたことですが、私もやはり社員のやりがいを最重要におく経営をしていきたいと思います。

三つ目は、心の強さの章で出てきた数々の言葉です。
『私の経営者としての経験では、楽しいことよりもシンドイことのほうが多かった、というのが正直な思いである。』
『苦境のたびに立ち止まり、涙を流していられるほど人生は長くない。』
『5年、10年と経つうちに痛みはやがて癒えていく。』
『すぐれた経営者とは、気分転換が上手な人でもある。』
という筆者の言葉は、心の強さを希求する自分には心に響きました。

ちなみに、筆者も42歳の時にジョソン・エンド・ジョンソンの経営者になった際、米国総本社会長の『何かをやっていい結果を出したいなら、FUNでなくてはならない』『真剣であっても深刻になるな』言葉により、苦境でも切り替えられるようになったそうです。
(1144字)

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第127週 『超効率 勉強法』

第127週
2020/1/19
『超効率 勉強法』
メンタリストDaiGo著 Gakken社

未読の書籍を含め、本棚に食指が動く本がなく、またアマゾンの検索でもピンとくるものがなかったため年始に書店へ行きました。そこで8冊ぐらいまとめ買いした中の1冊。咲心舎の塾生、自分、娘・息子に役立ちそうだと思い手に取りました。

内容は、著者が学術研究で裏付けられたテクニックを紹介するもので、冒頭で掲載された間違った勉強法7つには軽くショックを受けました。これは2013年アメリカのケント州立大学が200件を超える勉強法の検証を行い「効率が悪い」と判断したものです。特に7つの中で下記3つはこれまで私が非効率とは知らず、教育者として知っておいてよかったと強く感じたものです。

一つ目、ハイライトやアンダーラインは「重要な情報」を選別するだけで、「この内容には覚える価値がある」とまで脳は考えず、覚えたいことを脳に刻み込むにはまったく使えないそうです。考えてみれば、選別と記憶は確かに別物です。

二つ目、「自分の学習スタイルに合わせる」のも非効率だそうです。近年インディアナ大学が、数百万人のデータ検証を行い「自分が好きなスタイルで勉強をしてみてもテストの成績は全く向上しなかった」と報告していると著者は言っています。咲心舎では塾生に自分なりの勉強法を確立しようと言っていますが、『本当に効く勉強法には個人差などない』とのこと。自分なりの前に、まず効率的な勉強法をおさえることが重要と感じます。

三つ目、「忘れる前に学習する」というのも非効率だそうです。忘れる前ではなく、「忘れかけた時点」で復習するのが効率的とのこと。著者は分散学習という研究者のピョートル・ウォズニアックが過去の膨大なデータをもとに考え出したインターバル復習法を紹介しています。これは①最初の復習は1~2日後②2回目の復習は7日後③3回目の復習は16日後④4回目の復習は35日後⑤5回目の復習は62日後というように、記憶した情報の量が90%まで減ったタイミングで復習を行うよう設定されています。咲心舎の80点テスト(単元テスト)は、エビングハウスの忘却曲線を元に、忘れる前に実施する設計でしたが、忘れかけた時点に設計し直すのも良いかもしれません。

上記に加え、インターリビングの考え方も参考になりました。はさみこむ、交互に配置するという意味ですが、1回の練習の間に複数スキルを交互に練習する手法を指します。野球の投手だったら1回の練習で「カーブ→フォーク→スライダー」などの投球練習をするイメージです。2015年南フロリダ大学が行った実験で、二つのパターンの勉強法を指示しました。①1つの方程式をマスターしたら次に進む(ブロック練習)②1回の授業でさまざまな方程式の使い方を学ぶ(インターリビング)。すると、翌日のテストではインターリビングを使ったグループのほうが25%も成績が良く、さらに1ヶ月後の追試では、両グループの得点差は倍近くに開いたそうです。この結果はパワフルです。これは脳が刺激に敏感に反応するためで、一つのことより複数の方が刺激があるからと著者は言っています。企業研修でもインターリビングの考え方を伝えていこうと思いました。

最後に、著者Daigoさんの参考文献は全て海外論文でした。日本語訳もありません。完全な一次情報であり、そのこと自体、私に刺激になりました。
(1366字)

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第126週『動機づける力 モチベーションの理論と実践』

第126週
2020/1/12
『動機づける力 モチベーションの理論と実践』
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 ダイヤモンド社

学術研究により生み出された考察や理論は、数多の情報が氾濫しエビデンス重視の現代においては重要性を増していると感じます。本書は代表的なモチベーションの理論と実践を集めた論文集です。今回私達の研修でも言及しているハーズバーグの2要因理論について新しい気づきを2つ記載します。

一つ目は、『KITA』という言葉。論文の冒頭に出てくる言葉で、「尻を蹴飛ばせ:Kick in the pants」の文字を組み合わせています。そしてKITA的な施策はモチベーションにならないと筆者は言い、効用が乏しいのにも関わらず次々にKITAが生み出されていく流れをシニカルに描写しています。

まずKITAは①労働時間の短縮②賃上げ③フリンジベネフィット(諸手当)からはじまります。しかし、効果が出ず社員の金銭欲も怠け心も飽くことがないことがわかったとき、マネージャーが人間の扱い方を知らないことが原因とされます。そこで④人間関係トレーニングが導入され、その後自分を直視する必要性が生まれ⑤感受性のトレーニングへと移行します。更に、より他者との関係を考える⑥コミュニケーション論が導入されますが、モチベーションは喚起されず、一方的なコミュニケーションが原因とされます。この流れから⑦ツーウェイコミュニケーションの必要性が叫ばれ、モラールサーベイ、提案制度、労使双方のコミュニケーションが開始されます。しかし、これでもモチベーションは改善されず、人間は自己実現を欲するものという心理学に焦点があたり、ネジを締めている行員に「シボレーを作っている」と教えるなど⑧仕事への参画意識をもたせる取り組みがなされます。それでも意欲喚起が難しいため、社員は何か患っているという結論を出し⑨カウンセリングが導入されます。『使い古された積極的KITAが飽きられると、また新種が開発さていくわけである。』とあるように、著書曰くこれらの施策はあくまで全てKITAであると主張しています。

現代で使われている様々な施策が、50年以上前に一巡していることが驚きです。著者は『KITAの効果は短期的である』と言い切っており、アメとムチの効果が一時的であることに強い裏付けとなります。

もう一つは、『仕事の充実化』(Job enrichment)という造語です。これは『仕事の拡大』(Job enlargement)へのアンチテーゼです。著者は、動機づけ要因をうまく操作し、仕事の充実化を図れば社員のモチベーションは持続すると主張しています。仕事の充実化の手法として、より高い目標数字の設定や、同種の仕事の増加という「水平的職務負荷」ではなく、権限と責任を増やし、統制を省くなど「垂直的業務負荷」をかけることを提唱しています。実際の実験でも、「垂直的負荷」を新たに導入したグループの業績格差が半年で10%以上の差となりました。ちなみに、最初の3ヶ月は新たな業務への不安などから、業績が下がっていることも注目です。

まとめると、著者は『苦痛を避けようとする動物的な欲求ではなく、心理的に成長しようとする人間的な欲求』を重視し、人間の心の奥底にある向上心に着目しています。メンバーから給与や休みの不満を言われているマネジメント職に『仕事の充実化』という言葉を含め、新たな手法を伝えていけそうです。

二次情報ではなく、原文、原典という一次情報に触れることは、対象となる項目の根本理解に必須であると再認識しました。論文系は完読するのに物理的な時間を多く要しますが、今年10本程度は挑戦したいと思います。
(1456字)

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第125週『マーケティングとは「組織革命」である。』

第125週
2019/12/29
『マーケティングとは「組織革命」である。』
森岡毅著 日経BP社

最近特に強く思うことがあります。より多くの組織を束ねられる方は、結局ビジョンや事業戦略を描く以上に、組織マネジメントの力が長けていると。個ではなく組織(チーム)として行うのであれば、個の力を引き出し、つながりの化学反応を起こし成果を最大化させることに腐心するのはある意味当たり前かもしれません。著者はUSJをV字回復させたマーケティングの専門家ですが、実際のマーケティング手法ではなく「組織変革」という題名に惹かれ手に取りました。

非常に実用的な書籍のため、私共のリーダーシップ、マネジメントプログラムに直接取り入れそうな項目がふんだんにありました。中でも下記3点を取り入れていきたいと思います。

一つ目は、組織マネジメント・システムの位置づけについてです。そもそも組織とは何か。著者は組織を「機能の鎖」として捉えています。そしてシンプルに4つの機能、ファイナンス・システム、マーケティング・システム、生産マネジメント・システム、組織マネジメント・システムに大別しています。最後の組織マネジメント・システム(人をより生産的に働かすための仕組み)を3本柱の土台とおいているところがミソです。これは特にプレイヤー志向が強い技術系の管理職に対して、組織マネジメントを促進する事例として紹介できそうです。

二つ目は、変革の仕方の「勝ち筋」を明確にすることです。著者はUSJのV字回復の際、戦略として「三段ロケット構想」を掲げました。目玉であったハリーポッターの施設は450億円かかり、700億円の売り上げの会社としては投機的な色合いの強い投資になります。当然いきなり導入はできないため、コラボや低予算アイデアで稼ぐ→新ファミリー・エリアで稼ぐ→ハリー・ポッターで稼ぐ→パークの多拠点展開で稼ぐ→アジア最大のエンターテイメント・カンパニーになるという勝ち筋を明確にみせました。そして第一段階のコラボや低予算アイデアを成功させ信用貯金を増やし、ハリーポッターの導入を実現させました。勝ち筋をつくる際に、「逆算の階段」として壁の頂上(魅力的な成功)から階段を一段ずつ下げながら今いる地面まで組み立てることが重要と言っています。参加者に策定していただくビジョンと実現策を伝える際、この「勝ち筋」という言葉は有効な考え方として組み込めそうです。

三つ目は、個の便益です。人を動かし突き動かす情熱のエネルギーは公の便益に訴えるだけでなく、深層面の個の便益に響くことで生み出されていくと著者は言っています。そして個の便益は、評価や報酬が上がる実利系の便益以上に、「やりがい」という感情系便益が重要であるとも言っています。実際にハリーポッター導入の際、『このプロジェクトは、子供だけでなく、孫にもひ孫にも自慢できる仕事になる』とメンバーに伝え鼓舞したそうです。この心の奥底の種火に火をつける考え方も、ビジョンを伝え、意識統合と動機づける際に、有効な考え方として組み込めそうです。
(1223字)

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第124週『受けてみたフィンランドの教育』

第124週
2019/12/23
『受けてみたフィンランドの教育』
実川真由・元子著 文藝春秋社

2003年度のPISAで、フィンランドは3項目中2項目で1位、1項目で2位という驚くべき結果を出し、これ以降フィンランドの教育は注目をされ続けてきました。今回久々に日本の教育を再考する際のヒントにしようと手にとりました。

本書は、日本の中高一貫に通う女子高生がフィンランドに1年間留学をした時の体験をつづったものです。各章の終わりには翻訳家・ライターの母親が、親の視点から解説をしています。

本書を読み、日本との「PISA力」の差を生み出す二つの違いを抽出しました。一つは、高校のテストのほとんどがエッセイ(作文)であることです。英語、国語はもちろん、化学や生物、音楽までもエッセイであり、穴埋め問題はそもそも存在しないそうです。例えば、「あなたにとって文化が意味するところはなにか」(英語)、「耳について知っていることを全てかけ」(生物・留学生用)など、上級になると数学もエッセイがあるそうです。エッセイを書くだけの知識を詰め込む必要はありますが、あくまで自分の意見を問われており、『本や資料から得た知識を、自分なりに解釈していくという訓練がフィンランドの学校が教えていることだ。』と筆者は言っています。

もう一つは、全体を通して実学志向であることです。まず中学生について、職業教育が組み込まれている点は日本と一緒なのですが、職業体験が2週間もあります。次に高校卒業後、すぐに大学入学をする人は珍しく、若者のほとんどは高校を卒業すると仕事をしながらその後の進路を考えるそうです。フィンランドにはヴァリヴォシ(猶予期間)という言葉があるのですが、多くはこのヴァリヴォシを大切にしていると著者は言っています。そして大学について、就職で実務経験が問われるので、大学生はインターンシップなどで実務経験を積むことに一生懸命になるそうです。フィンランドの人口は約550万人、大学数も20のみで大学間の偏差値格差もないそうです。大学生の就職率はほぼ100%であり、全入時代の日本とは大学のあり方自体異なると思いますが、教育の目的を「自分の納得のいく仕事をみつけるため」とおくフィンランドらしい実学志向がうかがえます。

この実学志向に付随し「納得のいく仕事」につくまで年齢制限を設けていないのもフィンランドの特徴ではないでしょうか。著者が高校卒業後、ほとんどがすぐに大学入学する日本の現状を話すと、フィンランド人の友人が目を丸くして「え、将来のことなのに、なんでそんなに急ぐの?」と言ったシーンが印象に残っています。

国立大入試の記述式が実現できなかった今、日本の教育はどこに向かうのがよいのか。解を出すこと自体至難ですが、せめて自分の子供には社会の「年齢制限」に囚われず、応援していきたいと思います。
(1139字)

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第123週『自己肯定感の教科書』

第123週
2019/12/15
『自己肯定感の教科書』
中島輝著 SBクリエイティブ社

ライフスキル概念図の真ん中にあるのは自己肯定感です。これまで自己肯定感を高める理論を探し続けてきましたが、「決定的な」学術研究はまだ見つかっておりません。本書は、学術研究ではないですが、久しぶりにこのテーマで新たなインプットがしたくなり手にとりました。

新たな知見として得られたことは下記3つです。

一つ目は、自己肯定感は揺れ動くということです。著者曰く、自己肯定感の「強い木」を育んだ人でも、環境により自己肯定感は上下するそうです。これまでは自分が何かに不安にかられると、自己肯定感がまだ低い人間だなと考える節がありました。不安になるからといって自己肯定感が恒常的に低いと決めつけず、「今は」自己肯定感が下がっている状態だなと認知することで、自分自身が整いやすくなると感じました。

二つ目は、自己受容感を高める方法です。著者は自己肯定感を6つの感に要素分解しています。①根の自尊感情②幹の自己受容感③枝の自己効力感④葉の自己信頼感⑤花の自己決定感⑥実の自己有用感です。

この中で、特に②幹の自己受容感は、最近私がとても重要視しているものです。この定義は『自分のポジティブな面もネガティブな面もあるがままに認められる感覚』です。実例として、上司に責任転嫁された傷がいえず、ふとした時に苛立つ30代男性が挙げられていました。この方に著書が『エクスプレッシブ・ライティング』という負の感情を思いっきり書き出す方法を処方したところ、区切りをつけることでき先に進めたそうです。人間は区切りをつければ忘れられる。私は「幕引き」という表現をしていますが、幕引きにこの手法は有効だと感じました。

これに関連して、アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナーが行った「シロクマの実験」が興味深かったです。協力者を3つのグループを分け、シロクマの1日を追ったドキュメンタリー映画をみてもらいます。そしてA:シロクマのことを覚えておいて、B:シロクマのことを考えても考えなくてもよい、C:シロクマのことは絶対に考えないで、と伝えます。
1年後、映像の内容について覚えているかどうか聞くと、Cのグループが映像の内容を一番鮮明に覚えており、これを「皮肉過程理論」と名付けたそうです。この実験で、人は「忘れたい」「こだわりたくない」所に「忘れられず」「こだわってしまう」生き物であることが実証されました。負の感情を感じることは自然であり決して悪いことではないと私は思います。区切りをつける『エクスプレッシブ・ラインティング』は、自身でも早速実践してみたい方法ですし、これも子供向けに上手く展開できると良いなと感じています。

三つ目は、セルフハグです。精神科医のミシェル・ルジュワユーが「セロトニンなどの幸福感をもたらすホルモンの分泌は、自分で刺激することができる」と提唱しているそうです。ここから幸福物質である「セロトニン」を分泌させるのに8秒間セルフハグをするのが有効と著者は言っています。なぜ8秒かというと、大人が深呼吸をするのが大体8秒になるからです。ハグしながら「ありがとう、私」「がんばっているぞ、私」など自分を褒めるのも効果的だそうです。不安や焦燥、怒りに苛まれた時だけでなく、習慣としてセルフハグを取り入れると簡単でも効果が高い手法と感じました。
(1357字)

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第122週『将棋「初段になれるかな」会議』

第122週
2019/12/8
『将棋「初段になれるかな」会議』
高野秀行×岡部敬史×さくらはな。 扶桑社新書

私が人生で初めてハマったものは仕事です。そして次にハマったものは子育て。そして最近ハマっているものは将棋です。将棋は初めての趣味です。

将棋教室に通い始めたのは2017年2月です。アキレス腱を断裂しスポーツが出来なくなったこともきっかけで、娘、息子と共に始めました。最初の1年10ヶ月は、楽しむことを念頭にのんびりゆっくりと進んでいました。しかし昨年の12月、千駄ヶ谷(北参道)にある将棋会館(将棋連盟)の道場に行ったことが完全にハマる転機となりました。道場は入室料を払い様々な方と対局できる場所です。その日、何人かと対局しそこで認定された級位は10級。宗真は8級。実来は11級でした。ちなみに段・級は15級~1級、初段~6段まであります。

当時自分の棋力は少なく見積もっても6級ぐらいはあると思っており、また息子にも負けたことで大変落ち込みましたが、ここで私に火がつきました。翌週、将棋教室の先生に「子供と共に連盟の初段を目指したい」と宣言をします。しかし先生からは「大人になって将棋を始めた方が初段になるのは難しいと言われてます。」と返され、うっとなった直後「吉田さんだったらできるかもしれませんね」と言われ、更にやる気に火がつきました。

そこから1年が経ち、それまでの1年10ヶ月とは明らかに伸びが違います。10級だった私は現在3級です。ちなみに宗真は5級。何とか抜きました。(実来は9級で中学受験に意欲が傾いたため一旦将棋はお休みです)

私にとって将棋は5つの意味があります。
一つ目は、子供との共通体験。子供と一緒に取り組み互いに伸びるとても豊かな時間を過ごせます。
二つ目は、思考力の向上。論理力、想像力、大局視点が鍛えられます。また小・中学時代、遊びの将棋で私はとても弱く、将棋が強いこと=論理的で賢いことと捉えコンプレックスを感じていました。大人になってその脱却にも一役買っています<笑>。
三つ目は、教育理論の実践。持論である人の成長=成長サイクル×モチベーションを実証、改良できる機会となっています。将棋を通して、人が伸びるには、何と言っても正しいやり方とモチベーションが重要と実感しています。
四つ目は、自己分析。将棋は棋風や癖など「自分自身」が盤面に出ます。これが自己分析になり自身のことを知る事ができます。例えば、私は臆病なくせに攻め好きで無謀に突っ込む癖(へき)がある、よく馬(角)の効きを見逃す視野の狭さがある、など再認識をしました。
五つ目は、楽しさ。仕事以外でハマったものがなかったので純粋に楽しいです。人生を豊かにする方法は仕事だけでなく、趣味もあるなと今更ですが実感しています。

さて、本書についてです。本書はプロ棋士、将棋が趣味のライターと漫画家の3名の対談形式で読みやすいものです。将棋の本はプロが書いた本が殆どなので、実は級位者(初段に届いていない人)には複雑で実践できない筋も多いと常々思っていました。本書は、はじめにの部分で『本書は、今まで身の丈に合った本がなかったに違いない級位者のみなさんにとって「これならわかる」を目指したものです。』と書いてあり、まさにニーズと合致し手に取りました。

読了して総じて「迷い」がなくなり、独自のトレーニングメニューの構築につながりました。
例えば、迷いが消えた3つは下記です。
・詰将棋は5手詰めまでで十分
・戦型は一つ覚えれば十分
・棋譜並べは必要なし(楽しむためにやるだけでよし)
疑念が晴れ、やり方への迷いがなくなったことは棋力の伸びに大いに影響したと感じます。

現在のトレーニングメニューは下記の三本柱です。
1.基礎体力づくり→詰将棋。5手詰めをマスターした後、詰め将棋は自分に合っているので現在7手詰めを毎日
2.基礎力づくり→『駒落ち定跡』、『寄せの手筋』を気が向いた時に。駒の効果的な動き方がわかる。
3.課題のクリア→三間飛車対策、後手番の時、端攻め等々。会館での対局をもとに課題設定し、次の機会までに勉強して課題を克服する。これも週の中で気が向いた時に。

将棋を通して、とにかく伸びるには「モチベーション」が最も重要であることを実感します。やらされ感は何をやっても伸びません。私だけでなく、企業研修の参加者の方々も、咲心舎の塾生も、我が子も同じではないでしょうか。「やりたいことをやる」、原則これだけです。

上記の実感から年々管理職の方々に無理強いは一切しなくなりました。「できること、やりたいことを一つだけから是非」と。咲心舎の塾生にもモチベーション重視で。また我が家では「勉強しなさい」とは基本言いませんでしたが、一切言わなくなりました。「やりたかったらやろう」。お稽古も全部そうです。

今年の目標は1月中に2級。3月中に1級。そして6月中に初段で、夏の合宿を越え、9月に二段を目指しています。かなり挑戦的な目標ですが、今年の目標であった3級をクリアしたので、いけると勝手に思っています。モチベーション重視で楽しみながら伸びていきます。
(2050字)

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第121週『夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ。』

第121週
2019/12/1
『夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ。』
高橋歩著 サンクチュアリ出版

自由人で作家、事業家でもある高橋歩さんの名言集。学生時代に歩さんのトークセッションに参加し、感銘を受け、それ以降も歩さんの存在は頭の片隅にありました。本書は何年か前、妻が自分にプレゼントしてくれました。今自分の胸に刺さる言葉を挙げていきます。

1.「カッコいい」を大切にする

『オレらが何かを始めるとき、世の中は必ずというほど「理由を説明しろ」と言ってくる。でもそんなもん、自分がただ「カッケェって思う」とか「鳥肌が立つ」とか「ああいう風になりてぇ!」とかで十分じゃね?』

『自分が格好良いと思うことをやる。以上!』

『何かをはじめるとき、たいそうな大義名分は一切いらねぇべ。そんなこと考えているうちにテンション下がっていくしね。理由なんて、ヒーローになりてぇとか、格好良いとか、マジぶちかましたいからとかで十分だろ。自己満足でいいんだよ。結果、上手くいった時には、世のため人のためになってるよ。』

自分のエゴ(自利心)はダメだと決めつける人もいるのですが、そうではないと私は思います。私もかつてエゴは悪でありビジョン実現の阻害要因であるとして、禅なども取り入れながらエゴマネジメントをしてきました。ただ最近大きく変化しました。私は「子供たちが成熟社会で生き生きできるために必要な力を育みたい」と宣言しながら、「成功して力を持った事業家は『カッコいい!』し、そうなりたい」という自利心も根っこの原動力になっていたことに気づくことができました。「カッコいい」を追求して、より会社が大きくなれば、歩さんの言うように結果としてそれだけ援けられる人は多くなっていきます。自利も利他も両方を大切にしていく方が、私には合っています。

2.「やる」か「やらないか」
『「やりたい」か、「やりたくないか」か。「やる」か、「やらない」か。常に二択で生きたい。』

『「やりたいけど忙しいからできない」みたいな真ん中はない。』

本当にやりたい時は、自分に変な言い訳なんかせずに、やるものです。このモードの時は、何か障害になるものがあってもこうやって解決していけばよいという「How発想=どうしたらうまくいくか発想」で進んでいきます。私の言葉で表すなら、大切なことは自分のワクワクや、やりたいと思う衝動を大切にし、1週間経ってもその火が消えない場合、素直に従うことでしょうか。人に10段階やりたい度があるとすれば「やりたいけど今できないんだよね。」はまだ3~5あたり。ただ、歩さんの場合はそもそも度合いなど存在せず、10か0かのみ、ということでしょう。「今はやりたくない」といった方が嘘偽らない感覚かもしれませんね。ちなみに最近私は「『やりたい』か『やりたくないか』」よりも「『やる』か『やらないか』」を重要視しています。

3.やり切ることに意味がある
『やり切ることに意味がある。やり切ってはじめて終わりが始まりになるんだよ。』

『自分が決めたことはクリアしてから次にいかないと、人生が積み重なっていかないしね。なにをやっても同じ段階で無限ループすることになって、ひとつ上のステップには絶対にいけない。』

私にもこれは当てはまります。自分は挑戦好きで、自然に過酷な環境を選択する傾向があります。その道程で大体一度進退がかかる大きな壁に当たります、そこで一旦打ちひしがれながら、再度起ち上がり積み重ねてきたので今があります。公教育という堅牢無比な壁が立ちはだかる中これからNPOをどうしていくのか。この言葉に触れ、やり切ることに意味があると、あらためて闘志が湧いてきました。

4.家族が全て
『「会社の存在が掛かっているどんな大事な会議よりも、子供の運動会を優先する」って、オレは全社員に宣言して会社を創ったから、家庭を犠牲にしてまでやりたい事なんてなにも無いよ。』

今の仲間にも、そしてこれから自社にジョインしてくれる未来の仲間にも私もしっかりと宣言したいです。何よりも優先したいのは「家族」だと。家族との時間がとれない、家族の平穏が保てない事業や仕事をするつもりはありません。仮に資金がショートして、投資家がどうしても日曜日のその日しか空いていない。でも子供の運動会がある。さあどうする・・・。まだ自分はどっちもとりたいです(笑)。

壁にあたり、先のビジョンが描けず、熱さが失われていく中、歩さんの魂の言葉に触れ、深奥から闘志が湧き上がってきました。さあここからです。
(1806字)
※今日は息子に持ってもらいました。

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第120週『小児科医の僕が伝えたい 最高の子育て』

第120週
2019/11/25
『小児科医の僕が伝えたい 最高の子育て』
高橋孝雄著 マガジンハウス

物事を知るには理論知だけでなく、実践知も私は重視をします。今回は研究機関の学術的な見解ではなく、小児科医の経験的な考究に興味がわき本書を手に取りました。

本書を総括すると、「人の伸びは遺伝で決まっているのだからあくせくせずにね」ということでしょう。ごく平凡な両親から超がつく優秀な子どもが生まれたとしても、それは遺伝情報がもっている正常な「振れ幅」に収まる程度で、遺伝子が決めたシナリオの「余白」のようなもの。そして教育とは親から受け継いだ遺伝子の特徴を上手に生かせるようにすること、と著者は言っています。

遺伝子で決まっているというのは、カルヴァンの予定説を想起させ、人の可能性を否定するように聞こえて違和感がありました。ただ、少し引いてみると、過熱する早期教育や心配性の母親群に対して「安心メッセージ」を届けたい著者の意図がみえてきます。

遺伝子決定論ともいえる、著者の人間観で印象に残った視点を二つ挙げます。一つは、思春期が『人生最大の遺伝子イルミネーション・ショータイム』としている点です。思春期は遺伝子スイッチが一気にONになる時期。「ざけんな」「うぜえんだよ」と物騒な言葉で反抗されても、うろたえず「人生最大のショーが始まった」として、子供の成長を歓びそっと見守って欲しいと著者は言っています。確かにこのぐらい鷹揚に構えた方が、上手く超えられるかもしれません。

もう一つは、遅咲きの遺伝子がある点です。著者は50代になってからマラソンをはじめ、58歳で3時間7分を達成したそうです。幼少期は体育が苦手な男子だったのですが、長距離走こそが遺伝子が自分に与えた特技だったことに気づき、「遅咲きの遺伝子」に感謝したそうです。何歳になってもチャレンジをすることで、未開の自分に出会えることも人生の楽しみの一つだなと感じました。

最後に子供の自己肯定感についても著者は言及しています。著者は自己肯定感を「子供が自分で生まれてきてよかったと感じること」とし、自己肯定感を育むには、やればできるようになるという経験を沢山積ませてあげることに尽きる、と著者は言っています。様々な研究結果をリサーチしても、自己肯定感を高める決定的な方法はまだないように思えます。ただ著者を含め多くの方がその経験知より、成功体験の実効性を挙げています。「尽きる」という著者の強い想いに背中を押してもらえました。
(988字)

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第119週『ハードドリブン』

第119週
2019/11/17
『ハードドリブン』
塩田元規著 幻冬舎

「内面=魂の進化」は5年前にコーチングを受け始めた時から私のライフテーマになっています。ラジオ番組に出演していた著者の「勇気をもって書いたという」話しを聞き、興味がわき手に取りました。

アカツキは創業10年のベンチャー企業。スマホゲームを中心に業績を伸ばし、東証1部、売上高281億円・利益136億円(2018年)を上げる、いわゆる「大成功企業」です。経営者である著者はここまで到達できた理由を『ハートドリブン』の経営にあるとしています。著者曰く、『ハートドリブン』は『人々が自分の内側のハートを原動力に活動をしていくこと』であり、ドリブンの対義語をインセンティブと置いています。外発的動機ではなく、内発的動機を。思考ではなく、心の奥底にある感情を大切にする経営と解釈できます。このハートドリブン経営で二つほど強く残ったことを挙げます。

一つ目は、何かを始めたい人は、自分の本心から従うことからスタートであり、更に『説明できる建前じゃなくていい』と著者は言っています。何かを始めるとき、自分がやりたいことに社会的意義などをひもづけ、大義名分をたてることもあると思います。しかし私は根っこはもっと自利っぽくて良いと思います。本来理由なんてない。ただ「カッコいいから」「ワクワクするから」でいいのです。私も最近ようやく自身の自利を認め、受容できるようになってきました。『ワクワクとかドキドキとか、子供っぽいと言われるような青臭いこと。大人になって切り離してきた、麻痺させてきた自分の心を大切にしよう。』と著者は言っています。

二つ目は、『理解と同意を分ける』ことです。実感として自分自身でさえ感情を丁寧に扱うことは難しいです。それを組織全体に広げていき、経営の中心とおくのは至難ではないでしょうか。このハートドリブンの経営をもう少し紐解くと、安心・安全な職場の構築に近いのだと思います。安心・安全の実現には辛い、苦しい、嫌だというネガティブな感情表出も受容し、解消することが必要です。そこで著者が実践している『理解と同意を分ける』という考えは秀逸で突破口になると思いました。実際の場面として、採用担当者が「ぶっちゃ飽きたからやる気でない」的なことを言ってきた際、著者は説得をせず「採用何年かやってやりきった感あるんだよね。どうしたい」という話をしながら「採用むちゃくちゃ大切で誰かやらないと俺は困るなあ」と感情を分かち合ったそうです。すると「理解してくれた感謝」と共に「あと1年はやります!」とその担当者は言ったそうです。

様々な組織を見てきてはじめて「羨ましい」と思った組織のあり方です。次世代型の組織経営としてこれからどのような歩みをいくのか、注目していきたいと思います。
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