教育心理の部屋

第70回「認知療法②ベックの認知療法 10章 カウンセリングとは」

第70回
2019/12/29
「認知療法②ベックの認知療法 10章 カウンセリングとは」

【まとめ】
3つの心理療法
1.クライアント中心療法
2.行動療法
3.認知療法

今回も認知療法。米アーロン・ベックの認知療法。

アーロン・ベック(Aaron Temkin Beck、1921年7月18日 – )は、アメリカの医学者、精神科医で、うつ病の認知療法(Cognitive Therapy)の創始者として知られる(Wikipediaより)

ベックは心理的な問題をもった人には、思考パターンの歪みがあることを見出し、クライアントが自分のもつ思考パターンの歪み(認知の歪み)に気づき、これを修正することを治療の目的とした。実際の臨床場面では、認知的な技法と共に行動療法的な技法も多く取り入れられている。

アーサー・フリーマン(Freeman, 1989)の認知の歪み。
1.全か無かの思考(善か悪か、白か黒かの両極端「1位ではないとびりと一緒」)
2.破局的な見方(ちょっとした困難を大変な災難と思う)
3.過度の一般化(一度失敗しただけで、いつも失敗すると勝手に結論づける)
4.選択的抽出(自分の考えにあったわずかな事実を選び出し他を無視「いつもこうだ」)
5.独断的推論(試験時、準備を十分したのに落第すると思う)
6.誇大視と極微視(自分の欠点や他人の長所を過大評価、自分の長所や他人の欠点を過小評価)
7.自己関係づけ(渋滞時「僕が急いでいるときは、いつもこうだ」と思う)

<選択的抽出の実験的研究>
クローソンとクロムウェル(Crowson&Cromwell, 1995)の簡明な実験。
抑うつ的な傾向の強い大学生とそうではない大学生を選び、否定的なメッセージと肯定的なメッセージのいずれかを好んで聞くかを実験的に検討した。20分間テープを聞き、いつでも切り替え可能で好きな方を聞くことができる。抑うつ傾向が強い学生は同じぐらいの割合で聞くが、そうではない学生は肯定的なメッセージを多く聞いた。音質についても、否定的なメッセージを音質がよいと抑うつ的な学生は評価する傾向にあった。

【所感】
フリーマンの7つの認知の歪みをみると、2~7はほぼ同じ内容に感じます。事象をマイナスに且つ大きく解釈してしまう認知の仕方でしょうか。自分を照らすと1の全か無か思考が強かったところから、歪みが治ってくるというか、徐々に和らいでいる気がします。認知療法は例えば「その考えは、全か無か思考であり、歪んでいる」と認知するところから始まりますが、ではその歪みをどう治すかは本書には言及されていません。心療内科の領域でしょう。今回で『やさしい教育心理学』の全ページまとめが終わりました。次回は、吉田が勝手に考える「本書から選ぶすごい心理学者ランキング」を載せたいと思います。
(1115字)

教育心理の部屋

第69回「認知療法①エリスの認知療法 10章 カウンセリングとは」

第69回
2019/12/8
「認知療法①エリスの認知療法 10章 カウンセリングとは」

【まとめ】
3つの心理療法
1.クライアント中心療法
2.行動療法
3.認知療法

今回は認知療法。クライアント中心療法は人の感情に焦点。行動療法は行動に焦点。認知療法は、人のものの考え方、信念こそが感情や行動の問題を引き起こすと考える。よって治療は、クライアントの思考パターンや信念を変容させることに力点がおかれる。

エリスの論理療法(Ellis, 1973)やベック(Beck, 1976)の認知療法を紹介。

米アルバート・エリスの論理療法。ABC図式に要約できる。
A(Activate event):出来事「就職面接を受ける」
C(Consequence):結果「強い不安や気分、自分への憎悪」
B(Belief):思い込み「面接で落とされたら人生真っ暗、虫けら同然。絶対にうまくやらなくては」

「不合理な思い込み」により、不安や絶望感などの不適切な感情が起こる。
エリスは10の不合理な思い込みを列挙している。

エリスはABCの後にさらにDEを付け加えている。
D(Disute):論駁=不合理な思い込みへの挑戦「面接に落ちたらなぜ人生が真っ暗になるのか。面接に落ちたら自分は虫けら同然とは何の証拠があるのか。」
E(Effect):効果=認知的な効果「面接で落ちたから虫けらなのではなく、自分で自分を虫けらだと定義するからそう感じるだけのこと」面接で不安を感じることがずっと少なくなる行動的効果も得られる

【所感】
エリスの論理療法は、自身の経験からもとても効果の高いものだと感じます。私自身、漠然としているものの鈍痛のような重い不安を感じる時があります。それは大体その原因や対策がはっきりせず、しかも具体的な未来が見えない時と認知しています。その際、具体的になぜそう感じるのかなど紙とペンをもって自問自答をするとすっと気持ちが晴れていくことが多いです。不安や怒りをはじめとした大抵の否定的感情は各々独自の論理療法で解消される気がします。

では自分でも比較的簡単に解消できることに対して、なぜカウンセリングを必要とする方が多いのか。二つの理由が浮かびます。一つは紙に書くなどの行為がそもそも面倒くさいと思うから。例えば、確かに疲れた週末に紙とペンをもって自分と向き合うのはパワーがかかることです。もう一つは、自身の内面と向き合うのが怖いから。ABC図式のBeliefを作るは幼少期からの経験であることが多く、強いトラウマがある場合などはそこと向き合うこと自体多大なストレスを引き起こします。こう考えると治療には論理療法だけでなく、行動療法と組み合わせが必要な気がします。私の場合、気が向いた時にノートに書くようにしていますが、月2回など習慣化した方が、より一層不安解消をはじめ精神の充足には効果があるかもしれません。
(1145字)

教育心理の部屋

第68回「行動療法②オペラント条件づけ 10章 カウンセリングとは」

第68回
2019/11/25
「行動療法②オペラント条件づけ 10章 カウンセリングとは」

【まとめ】
3つの心理療法
1.クライアント中心療法
2.行動療法
3.認知療法

行動療法の中の「オペラント条件づけ療法」について。小林重雄ら(小林, 1985)の研究を紹介。

登校できない小学1年生の児童、1学期は問題なかったが、2学期から登校をしぶるように。登校の準備の際に、泣いたり、部屋の隅に座り込むようになったりした。登校時、登校班に入ると支障なく登校でき、学校でも何の問題もなく過ごすことができる。治療者は、本児が単独で集合場所まで行けることを目的とした。

自宅から集合場所まで8段階で設定をし、まずは至近まで母親が同行し、それが達成されると少し離れた場所まで母親が同行する、と段階的に移行をはかり、最終的に自宅から単独行が達成された。

これはシェーピングの考え方だが、このためには報酬による強化が必要であり、この事例では、児童が母親と分かれて集合場所へ向かう際に、母親から1枚~3枚のシール(児童にとって価値がある賞品)が与えられ、児童の行動は強化された。児童の帰宅後、自らが用意した「がんばり表」にシールを貼った。その時に、母親は「大変よくできた。この次もがんばろう」と言葉により、強化をした。さらにシールがたまると、就寝時母親が添い寝をして、本を読んであげた。シールの獲得量が多いほど、その時間も長くするようにした。

結果、開始から約9週間後に集合場所への単独行が達成された。その後も、問題なく登校できているとのこと。

【所感】
行動療法の代表格として、スキナーの道具的条件づけが挙げられます。オペラント条件づけはこの道具的条件づけと同義です。これはいわばアメとムチ的な考えで、外発的動機づけにより行動変容を促すものです。本人の内発的動機を喚起することなく、アメでつるようなやり方は本当に子供のためになるのか?と常々疑問を感じてきました。よって、我が家では毎日の些細なことに称賛はしますが、だからといってご褒美的におもちゃなどの賞は極力あげないようにしてきました。
今回の章を読み、人が行動変容をし、前に進むには両方のアプローチが必要なのだなと感じました。たとえ外発的動機付けであっても、今回の不登校児が元気に単独行ができるようになったことで、本人や家族がどんなに嬉しかったことでしょう。皆の笑顔が見えてきます。
小2の息子が学校で落ち着いてきているのも、毎日の行動チェックシートに花丸(落ち着いて活動をできた印)を沢山もらってきたときに、妻が思いっきりキスとハグをしてきたからだなとあらためて感じます。
(1048字)

教育心理の部屋

第67回「行動療法①系統的脱感作法 10章 カウンセリングとは」

第67回
2019/11/10
「行動療法①系統的脱感作法 10章 カウンセリングとは」

【まとめ】
3つの心理療法
1.クライアント中心療法
2.行動療法
3.認知療法

今回は行動療法について。心理学が対象にすべきものは意識ではなく、客観的に観察・測定できる行動を対象にすべきであるという考え方。ジョン・ワトソン(Watson, 1913)が提起。(ワトソンは行動主義心理学の創始者 wikipediaより)
スキナーやパブロフの学修理論はこの考えによるもの。

系統的脱感作法。ジョセフ・ウォルピ(Wolpe, 1958)が提唱。(感作とは繰り返される刺激によって反応が徐々に増大していくプロセス)

脱感作法は不安と相容れない反応を引き起こし、不安反応を全面的ないし部分的に抑制する方法。弛緩(リラクゼーション)、呼吸(深呼吸)、摂食(何かを食べる)。

①患者の不安反応を抑止できるリラクゼーション反応を習得させる
②患者に不安反応を引き起こす刺激場面を挙げさせ、不安階層表を作成する
③不安階層表の各場面の容易なものから順番に患者をイメージさせ、引き起こされた不安をリラクゼーションによって制止。これを繰り返す。

【所感】
感情のコントールは大人でも難しいこと。子供であったら尚更です。息子は2年生からアンガーマネジメントに取り組んでいますが、その手法の一つで妻から提唱されたものに、「爆発しそうな場面でハンカチを吸う」というのがあります。このハンカチは妻の香水がつけてあり、実際に息子に聞いても「いやなことがあって爆発しそうなとき、ハンカチを吸うと落ち着く」のだそうです。これが今回勉強した「行動療法」だったとは露知らず。妻が我流で考案した落ち着き法だと思っていたのですが、勉強して考えた策でした。(先程妻にDBT(弁証法的行動療法)の本を手渡されました<笑>)。

私自身も不安にさいなまれた時、自分に意識をむけ深呼吸するようにしています。完全に不安を払拭することは生きている以上難しいと思います。しかし、少しでも楽に、生き生きと進むには俄かに起こる不安と上手くつきあっていくことが大切ではないでしょうか。自身の心身で行動療法を試していきます。
(866字)

教育心理の部屋

第66回「クライアント中心療法 10章 カウンセリングとは」

第66回
2019/10/27
「クライアント中心療法 10章 カウンセリングとは」

【まとめ】
最終章。カウンセリング、神経症的な問題の治療という側面が強調されるときは心理療法という言葉も使われる。本書では下記の3つを紹介する。
1.クライアント中心療法
2.行動療法
3.認知療法

クライアント中心療法について。アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズ1940年代によって提唱された。

(Carl Ransom Rogers、カウンセリングの研究手法として現在では当然の物となっている面接内容の記録・逐語化や、心理相談の対象者を患者(patient)ではなくクライエント(来談者:client)と称したのも彼が最初である。1982年、アメリカ心理学会によるアンケート調査「もっとも影響力のある10人の心理療法家」では第一位に選ばれた。Wikipediaより)

クライアントは潜在的に自分で問題を解決していく力をもっている。治療者の役割は、一定の制約はあるもののできるだけ許容的な空間をつくり、クライアントが自由に自己を表現し、自分で問題を解決することを手助けすることにあると考えた。横の関係を重視。

ロジャーズは、自己概念と経験2つの輪でカウンセリングの概念を図示している。母親が夫に捨てられた女性。父を憎み、その嫌悪を実際に「経験」したとすると自己概念と経験が一致する(領域I)。しかし、父親のある側面が好きという経験をすると自己概念と一致しないので意識されない(領域III)。それが父と似ている部分が自分にもあり恥ずかしいことだと、自己概念に折り合いがつくよう歪んだ形で意識に現れる(領域II)。

クライアントでは両者のずれが大きく、それが不安や混乱をもたらす。カウンセリングの目標はこの不一致な状態から2つの円がより重なる一致した状態を目指すことともいえる。

ロジャーズは、その為にカウンセラーの理想的態度として、「一致している」、「無条件の肯定的配慮」と「共感的理解」を経験していることを挙げ、それがクライアントに伝われば、クライアントはより自己一致する方向に人格を変化させるとしている。

【所感】
カウンセリングの中枢部分の理解が進む大変貴重な節でした。自己概念と経験の不一致が不安や恐怖などの情緒的な問題を引き起こすと理解ができました。経験の解釈が大切であり、それが自己概念によってかなり左右されるのです。この辺りもう少し掘っていき、自分にとって役立てる、例えば自分自身の不安を解消する材料にするなどしていきたいです。

ロジャーズは人格変化の条件を提示し、カウンセラーの心構え的なものを説いていますが、これはカウンセリングの場だけでなく、日常生活でも起こりえることとしています。家庭や学校、職場など人と触れる所では起こりえることです。私共の研修でも変化する人が多いと言って頂きますが、それは「一致」「肯定的配慮」「共感的理解」がある程度できているからかもしれません。特に肯定的配慮と共感的理解は大切で、実践課題に取りくむマネジメント職に決して無理強いはせず、大変な状況に共感しつつできることを一つだけでもという姿勢を貫いています。すると忙しい中でも実践する方々が多くなります。引き続きこの姿勢を大切にしていきます。
(1309字)

教育心理の部屋

第65回「自我同一性地位 10章 人格発達の基礎」

第65回
2019/10/13
「自我同一性地位 10章 人格発達の基礎」

【まとめ】
米の発達心理学者ジェームズ・マーシャは、自我同一性について4つの状態を区別した(Marcia、1996)。

縦軸に「積極的関与」、横軸に「危機」という2軸の座標をつくり区別。

積極的関与の有無は、自分自身をそれにかけることができるようなものがあるかどうか。職業なら自分の生涯の仕事とすべきものが自分なりに決まっているかなど。
危機は自分なりに関与すべきものを見出す過程で、悩みや葛藤に苦しんだかどうか。例えば周囲から勧められるまま理系の大学に進んだが、自分には向いてないと思い悩んだ末に別学部に転向した、という場合は危機があったと見なされる。

「同一性達成」:危機を経験したうえで関与すべきものを見出している状態
「早期完了」:危機を経験せず関与すべきものを見出している状態(親が医者で疑問を感じないなど)
「同一性拡散」:危機の経験前後はあるが、関与すべきものを見出してない状態
「モラトリアム」:支払いを猶予するという意味の経済学上の用語をエリクソンが転用したもの。自分が本来すべき仕事を見出すべくさまざまな活動を行ってみること。積極的に模索している状態。

これらの地位の特徴を実験し分類。早期完了の状態は、自分を誇大化する、権威的であり失敗すると自尊感情が大きく低下する傾向がある。

【所感】
マーシャの理論を調べると「アイデンティティ発達理論」と呼ばれることもあります。一般的には、何事も苦労をした方が良いと言われますが、アイデンティティについても苦労をして獲得をした方が精神的な安定感があり、且つ逆境のときなどに強いようです。この章を読みながら「やりたい事がわからない」とずっと言っていた中学生の女の子を思い出しました。その時は「やりたい事を見つけようとすること自体素晴らしい。必ず見つかるから、自分のしたいことを優先して沢山の経験をして欲しい」と伝えました。今だと本理論を紹介し、「早期達成せずに、時間をかけて同一性達成をした方が様々なことが安定すると、研究で言われているから、じっくりと向き合って欲しい」と付け加えたいです。
(864字)

教育心理の部屋

第64回「自我同一性 10章 人格発達の基礎」

第64回
2019/10/6
「自我同一性 10章 人格発達の基礎」

【まとめ】
自我同一性について。青年期には、本当の自分とはいったい何だろう、という疑問が生じ、自分というものを再度見つめ直す作業が行われる。青年期の子供達はしばしば反抗的だと言われるが、他人によって形作られたのではない、本来の自分を求めようとしているからだと考えられる。

私達は自分のアイデンティティを確立するときに、社会的に価値あるものを取り込もうとする。職業や人生観や生き方など、社会的に何か求められるようなものである必要があり、そうすることで自らをそれなりに社会的に価値のある存在だと確信することができる。

否定的同一性について。社会的に認められるような価値を自分が実現することはとうてい不可能だと考え、反社会的な生き方を選び、自らのアイデンティティを確保する場合がある。

総務庁青少年対策本部から出ている資料によると、一般少年と非行により補導された少年たちについて進学希望を比較すると、一般が大学・大学院までの希望が多いのと比較し、非行は中学・高校までの希望が多い。非行少年たちは、少なくとも学校社会での成功については悲観的であることが分かる。

また定点観測した資料によると、一般と非行の成績評価(自己)は、最初は近くても次第に差が開くことが分かる。社会的価値が学校に反映しているとすれば、その価値を実現できるという認識が低いことが非行少年を特徴づけている。

【所感】
非行少年少女についての話が印象的でした。なぜ非行に走るのか、は単なる衝動というより否定的同一性に起因する可能性があるというのは頷けるものです。自らのアイデンティが社会的に価値あるものとは逆の方向にいく。つまり非行は社会的に価値あるものを自分は実現できないという諦念からくるものと考えられます。

ここで思い出すのは、清瀬市教育長である坂田先生が音楽の教員だった頃のお話です。荒れていた学校で、所謂不良的な中学生を「承認する」ことで彼ら彼女らの心の障壁をとかし、彼ら彼女らは音楽の部活動に没頭し、生活をあらためるまでに導かれました。

まさに勉強ができるというのは一つの価値でしかありません。スポーツができる、気遣いができる、掃除を一生懸命する等々、他にも学校には沢山の社会的に認められる価値があります。大人が諦めることなく、その価値を自分でも持っていて、実現できることを子供達に認知してもらうことが、非行を防ぐ効果的な方法であると感じました。
(999字)

教育心理の部屋

第63回「母子のきずな 10章 人格発達の基礎」

第63回
2019/9/22
「母子のきずな 10章 人格発達の基礎」

【まとめ】
幼児期の経験が人格発達に重大な影響をもつことを示すものとして、米ハリー・フレデリック・ハーロウ教授のアカゲザルの赤ちゃんの研究(Harlow, 1971)がある。

アカゲザルの赤ちゃんを母親から分離。
A-1 針金製の母親の模型にしこまれた哺乳瓶からミルクを飲む
A-2 針金製の母親で非授乳
B-1 布製の母親の模型にしこまれた哺乳瓶からミルクを飲む
B-2 布製の母親で非授乳

結果として、B-1、B-2と接触する時間がA-1、A-2より多くなることが分かる。(15時間以上対1時間以内)。ここから、子ザルが母親に愛着を示すのは、母親が空腹を満たしてくれるからではない。母親との暖かい接触を求める欲求がることが分かる。

また、見知らぬ巨大なおもちゃに接触して恐怖を感じるときも子ザルは布製の母親にしがみつく。ここから暖かい接触を与えてくれた「母親」が自分を守ってくれる安全基地となること。安全基地があってはじめて積極的に自分から外に向かっていけるようになることが示唆されている。

更に、ハーロウの研究で生後母親から隔離された子ザルとそうではないサルの成長を比較した。結果、身体的には成熟しているが性行動で差異が出た。隔離されてきたオスはうまくメスを支えられず、受精できない。メスはオスの接触に怯えるとのこと。またメスは自分で生んだ赤ちゃんをすぐに放り出して逃げる行動がみられた。

最後に英ルネ・スピッツ教授(Spitz, 1946)の研究。両親と分かれて施設で育てられる乳幼児について、たとえ施設の衛生面や栄養面で十分な注意が払われていても、通常の子供達と比較して病気への抵抗力や発達の遅れ、無感動・無関心など抑うつ的傾向がみられた。

これは保育者との「母性的な」接触が少ないこと(母性はく奪)によると考えられる。
(ちなみに、スピッツ教授の研究は「愛着理論」の形成に大きな影響を与えた)

母性は必ずしも母親である必要がない。乳幼児期における応答的な「保育者」との暖かい感触が「基本的信頼感」を獲得するなど、人格発達に影響をもつ。

【所感】
非常に示唆に富む章でした。娘と息子が0歳~2歳のときよく「だっこ」と抱っこをせがむんできたことを思い出しました。特に娘はだっこから置くと泣き出す子だったので、だっこちゃん、甘えっこちゃんだなあと思っていました。この章を読むと、それはまだまだ「不安」でいっぱいだったからと推察できます。当時はあまりだっこをし過ぎると、「だっこグセがつく」なんていう話も聞いていたのですが、今しかないからと相方も私も構わずだっこをし続けていました。この章を読んで健全な発達のためには、あらためてそれで良かったのだと思います。

もう一つ「母性」提供する人は、母親や女性である必要がないということは新たな発見でした。母性は父親でも提供できるし、血のつながらない人でもできる。大切なのは「応答的な保育者との暖かい感触」と書いてありました。私の頭ではどこかしら母性は「母親が一番」と思っている節はありました。一番かどうかというより、「応答的・暖かな感触」が重要なのです。母親だから母性を、父親だから父性をというより、父親でも何でも母性提供を大切にしていきたいと感じました。
(1335字)

教育心理の部屋

第62回「エリクソンの発達段階 10章 人格発達の基礎」

第62回
2019/9/8
「エリクソンの発達段階 10章 人格発達の基礎」

【まとめ】
フロイトが性衝動に力点を置いたのに対し、エリク・ホーンブルガー・エリクソン(Erikson, 1950, 1968)は、フロイトの発達段階を下敷きにしつつ、心理社会的な観点から新たな発達段階を提唱した。

1.口腔感覚期 信頼性VS不信
2.筋肉肛門期 自律性VS恥・疑惑
3.運動性器期 自発性VS罪悪感
4.潜伏期 勤勉性VS劣等感
5.青年期 同一性VS同一性拡散をはじめ8つ
6.若い成人期 親密さVS孤独
7.成人期 生殖性VS停滞
8.成熟期 統合VS絶望

「肯定的なもの」VS「否定的なもの」の葛藤がポイント。両者ともに経験し、そのバランスが幾分肯定的なものに傾くことが重要。

『具体的には、ポジティブな力がネガティブな力を上回って発達課題が解決されることにより、社会に適応できる健康的な発達を遂げ、社会内でより良く生きる力(人格的活力)が獲得されると考えられています。

ただし、ポジティブな力とネガティブな力がせめぎ合う状態は生涯を通して続くものであり、各段階でポジティブな力がネガティブな力を上回る経験を積み重ねることが大切なのであって、ネガティブな力が一時的にポジティブな力を上回っても人生が台無しになることはありません。

一方で、ポジティブな力が一時的にネガティブな力を上回ったとしても、その後、ネガティブな力に押しつぶされて社会生活に支障が及ぶ可能性もあります。』
(https://psycho-lo.com/erikson)

青年期の課題としてエリクソンは「自我同一性」の達成を挙げた。Ego identityの訳語だが、単にアイデンティティと言われることもある。自分とは何かを問い直し、自分なりの答えを見つけ出すことが青年期の課題である。

ちなみに、エリクソンは、青年期以降の発達に関してそれ以前の時期程、詳述していない。

【所感】
エリクソン教授はアイデンティの概念を提唱した方です。本文を読んでいて凄い方だなと感じます。驚嘆ポイントは二つです。一つは、発達が葛藤と葛藤の克服によって実現できることを示した点です。確かに本能からくる欲求のまま生活したのでは、社会生活に適応することができません。もう一つは自我同一性(同一性VS同一性拡散)を含め、青年期の8つにも及ぶ葛藤概念を提唱したことです。

最も強く感じることは、「葛藤があることは健全なのだ」ということです。例えば、潜伏期は丁度5歳~12歳の小学生時期にあたりますが、この時期に多少自己肯定感が下がったとしても、他人と比較をし、劣等感を感じることは健全なのだと捉えられます。あとは、過度に劣等感の方に引っ張られない(続けない)よう、少しづつ勤勉性の方に傾け、葛藤を越える支援をすることが大人の役目なのだと思います。
(1144字)

教育心理の部屋

第61回「フロイトの発達段階 10章 人格発達の基礎」

第61回
2019/8/25
「フロイトの発達段階 10章 人格発達の基礎」

【まとめ】
人格はどのように形成されるのか。フロイトは幼少期の経験が、大人の人格形成に非常に重要であると考えた。

フロイトは(Freud, 1916-17)は、幼児も性衝動をもっていると考えた。その性衝動が満足される部位、言い換えると幼児が快感を得る主要な身体的部位(性感帯)が発達と共に変化するとした。

①口唇期0~1歳、1歳半 おっぱいを吸うなど吸うことによって満たされる。指しゃぶり
②肛門期1歳、1歳半~3、4歳 便をため、出すという活動が獲得すべき主要なこと
③男根期3、4歳~5、6歳 性の違いに興味をもつ。エディプスコンプレックスが見られる
④潜伏期5、6歳~11歳、12歳 表面上の性衝動は顕著でなくなる
⑤性器期11、12歳 思春期で本来の意味での性衝動が自覚される

フロイトによると、次の段階に進むには、今の衝動が十分に満足されなければならない。ある段階での満足が十分ではないと、その影響が後々現れてくることになる。例えば、離乳が早く十分におっぱいを吸うことによる口唇期的満足を得なかった子供は、その後も指を吸ったり、爪を噛んだりするという。さらに成人してもタバコを吸う、酒を飲むといった口唇を主体にした活動に過度に没頭し、受動的、依存的な性格が形成されるという。肛門期での問題は、過度の清潔好きや脅迫的性格と関連する。

【所感】
フロイトは精神分析の創始者。多くの心理的問題を抱えた人の治療の取り組む中で、幼少期の経験が人格形成に大きな影響があることを導き出したとのこと。目に見えない発達段階を明示したこと、しかもある程度首肯せざるを得ない内容であることには驚嘆します。ただ、口唇期で満たされなかった人が、成人になってタバコや飲酒に過度に没頭するというのは、学術統計が示されていないので、信ぴょう性(関連性)を疑います。

この発達段階をみると親としての役割を考えます。特にエディプスコンプレックスは興味深いです。息子が年中ぐらいから、「僕のママ」という言葉を父親である私の前で言い始めた気がします。エディプスコンプレックスは父親との同一視(父親の態度をまねるなど)で父親に愛着がわき、解消されるということですが、彼がどう変化していくのか楽しみです。親としては、小2の今が父親の態度を一番吸収する時期だと考え、ふるまいに気をつけなくてはと思います。
(976字)