教育心理の部屋

第60回「ルールの発達 9章 知的発達のメカニズム」

第60回
2019/8/11
「ルールの発達 9章 知的発達のメカニズム」

【まとめ】
知識をプロダクションルール(if-then)の集まりとしてみる考え方がある。シーグラーは、形式的操作期の課題とした天秤課題についてさまざまな発達段階の子どもたちが使用するルールを推定する研究を行った。

左右のおもりの数や位置で、天秤はどう傾くかという課題。中心から同じ距離だがおもりの数が違う場合、おもりの数が同じだが距離が違う場合、おもりの数も距離も違う場合などで種類分けをする。そして子供達の思考パターンを4つのルールに分けて、各種類の課題の正答率を出した。

パターン4の多くの変数を処理する思考パターンを用いている子供達の正答率が一番高かった。また年齢別の正答率をみると、16歳~17歳の正答率が一番高い。ここから、子供の知的発達は、問題解決のための簡単なルールを使うことから、しだいに緻密な複雑なルールを獲得していくことだと考えられる。

【所感】
自分なりのプロダクションルールを作ることは、経験学習理論の教訓化に近いものがあると考えます。シーグラーの研究を考察する中で、子供達の勉強面だけでなく、生き方の面での知的発達も教訓化により促進できると感じました。具体的に用いるのはビジョンセッションのマイルールです。マイルールは勉強面における目標達成のためのルールとして決めることが多いのですが、「モチベーションが下がったとき」「親とうまくいかなかったとき」「目標を見失ったとき」など、各分野で自分なりのプロダクションルール(マイルール)を作り実践することがライフ全体の成長につながるはずです。以前も同じようなことを考えていましたが、あらためてVSに取り入れていきたいと感じました。
(694字)

教育心理の部屋

第59回「知能の発達② 9章 知的発達のメカニズム」

第59回
2019/7/15
「知能の発達② 9章 知的発達のメカニズム」

【まとめ】
ピアジェは4つの発達段階を示した。
0~2歳 感覚運動期
2~7歳 前操作期
7~11歳 具体的操作期
11歳~成人 形式的操作期

2歳から7歳までを、ピアジェは前操作期と呼び、「自己中心性」という概念で特徴づけている。

ピアジェの3つ山問題。
高さと色の違う3つの山を重なって並べ、東西南北の位置に眼鼻のない人形を置く。それぞれの位置で人形から山の見え方はどうなるか、という問題を子供に行ったところ、子供の見方がいくつかの段階に区別できることが分かった。
最初は、自分が見ている風景と似た絵を選ぶ。次に、部分的に山と山との重なりぐあいなどを考慮する。次第に複数の関係を同時に考慮し、適切な絵が選べるようになる。初期の子供の特性を「自己中心性」とピアジェは呼んだ。

7歳から11歳を具体的操作期と呼び、他者の視点を獲得できるとした。前操作期には、底面積の広いビーカーに入ったジュースを細長い容器に移し替え、どちらの量が多いかと問うと、背が高い後者の方を選ぶ子供が多い。これが具体的操作期になると、形が異なっても量が保存されると子供は答えるようになる。

12歳以降を形式的操作期といい、抽象的な思考が可能になる。見た目の具体的なものだけでなく、例えば「密度」のような抽象的概念も扱えるようになる。

私達大人があたりまえと考えていることも、長い発達の過程を通して獲得されることをピアジェは示した。ピアジェは、発達段階を区別し、例えば前操作期の子供に訓練を行うことの効果には否定的だった。しかし、その後の研究は訓練や教育がある程度効果をもつことを示している。

【所感】
ピアジェの「認知発達理論」はなるほど、と頷けるものですが、これを教育にどう生かすのかという点は本書に詳説されていません。ネットで探してみたのですが、教育法として良質な情報は得られませんでした。『ピアジェの理論は科学的な裏付けがあるのですが、(実際に何をさせるか、という)教育システムとして実用的でないという部分がネックでした。』と書いてあるサイトもあり、実用が難しいようです。ただ、以前出てきたレディネスという考え方は、ここでもやはり重要と感じます。無理に早期教育をし発達を促進するより、自然と子供の発達を待つという感覚が健全な子供の成長には有益なのではないでしょうか。
(959字)

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第58回「知能の発達① 9章 知的発達のメカニズム」

第58回
2019/6/30
「知能の発達 9章 知的発達のメカニズム」

【まとめ】
人間の知的能力はどのように発達するのか。人間の知的発達の理論としてとりわけ大きな影響を与えたピアジェの考え方を紹介する。

赤ちゃんがおっぱいを吸う行動。最初は難しいが、次第に吸えるようになる。吸うという行動はこういうものだと自分なりの構造をもっており、これを「図式」と呼ぶ。

この「図式」を環境にあわせて少しづつ変えることを「調整」と呼ぶ。

また、吸うことはおっぱいだけでなく、他にも吸う行動が組み込まれていき、これを「同化」と呼ぶ。

ピアジェの考え方によると、発達とは同化と調整による図式の変化だと考えることができる。

ピアジェは4つの発達段階を示した。
0~2歳 感覚運動期
2~7歳 前操作期
7~11歳 具体的操作期
11歳~成人 形式的操作期

【所感】
いよいよ、発達理論の大家ジャン・ピアジェ(スイス)の章に入りました。発達とは「同化と調整による図式の変化」という論は、ぐっと核心に迫る感覚です。「図式」というのは、物の捉え方、つまり認識のことと私は解釈しました。

少し話は飛びますが、私は「世界観」とは何かをずっと探求しています。世界観とは、この世界の意味付けを表すものであり、例えば、Wikipediaによると『「この世界は私にとってどんな意味があるのか」「この世界で私はどのような役割を果たしてゆくことが期待されているのか」「世界の中で人間はいかなる役割を果たせば意味があるのか」などの問いに答えようとするものである。』となっています。

ピアジェの理論でいうと、世界観とはその人がもつ世界(この世)の図式でしょうか。子供が世界に対してどのような図式を形成していくかは、同化と調整を繰り返す前提でいえばやはり環境の影響が大きいのだと思います。そして最大の影響力者は当然、親。例えば、この世界は素敵だ、喜びに満ち溢れている、と心底思う親の元であれば、同化と調整により似たような世界観をもった大人ができる可能性は高まるのでしょう。

一方で、希望の薄い世界観をもつ親など、多様な世界観があるのも実情です。公教育の役目として、どのような親の元でも、子供が健全な世界観を育める役目があるかもしれないと、あらためて思いました。
(906字)

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第57回「頭が良いとはどういうことか 9章 知的発達のメカニズム」  

第57回
2019/6/16
「頭が良いとはどういうことか 9章 知的発達のメカニズム」  

【まとめ】
私達が「頭がよい」というのは、何を指しているのか。知能について考えてみる。

知能指数の歴史。
知能テストは、フランスの心理学者アフルレッド・ビネーが作成したと言われている。
標準的な3歳児に出来る問題、4歳児に出来る問題という具合に整理をしてものさしを作った。これが「精神年齢」と呼ばれるものである。精神年齢と実年齢のとの比をとり、この比を100倍したものが知能指数である。100が平均的。ちなみに現在は、同一年齢集団の平均と比較する偏差知能指数が使われている。

はたして「頭のよさ」は1種類なのだろうか。様々な人達が全体的な知的能力を表そうとしてきた。
ルイス・レオン・サーストン(Thurstone 1938):言語、数、空間、記憶、推論、語の流暢さ、知覚
ジョイ・ギルフォード(Guilford 1967):情報の内容・情報が伝えるもの・情報に加える操作の3次元で整理
ロバート・スタンバーグ(Sternberg et al., 1981):実際的な問題解決能力、言語的能力、社会的有能さ
東・柏木(Azuma&Kashiwagi 1987):積極的な社会性、受け身の社会性(自分の分を知っている)、計画性などの優等生的頭の良さ、ひらめき型、物知り型

【所感】
二つ思うことがあります。まず、一つ目、私の考える頭のよさとは何であろうかです。頭がいいというと、私は4つを考えます。先のことを考えられる(想像力)、様々な面から考えられる(多角的視野)、深く掘り下げられる(深化力)、それらを処理するスピード(処理力)です。現象面でいえば、無駄がなく、修正が早く、結論から話し論理的などでしょうか。頭脳面の印象が強いです。頭のよさの探求の歴史を見ると、スタンバーグあたりから、頭の良さが頭脳的側面から、行動的側面にも広がっているのが分かります。ただ、個人的には頭の良さはやはり頭脳的側面の方がしっくりきます。

二つ目は、「頭の良さ」の重みです。本章を読んで、色々と仕事面で照らしても、頭が良いというのは一つの側面であり、自分はそこまで重要視していないのだなと思います。頭脳的側面以上に、行動的側面、スタンバーグでいう実際的な問題解決能力、社会的有能さを重視しています。それが今のライフスキル教育にも反映されています。
(949字)

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第56回「臨界期 8章 人間の発達について考える」  

第56回
2019/5/25
「臨界期 8章 人間の発達について考える」  

【まとめ】
動物行動学者のロレンツ(Lorentz、1952)は、ハイイロガンのヒナが生後十数時間以内に刺激対象が与えられないと追従反応が生じないことを見出した。この時期を「臨界期」と名付けた。ロレンツは、孵化後、自分だけがそこにいるようにした。するとヒナはロレンツを親だと思い追従行動をし続けた。また生涯にわたりそのことを消し去ることができなかった。生後まもなくの限られた時間内に生じ、再学習することが不可能になる学習現象を、ロレンツは刷り込み(インプリンティング)と名付けた。

ヘス(Hess,1958)は、模型の親ガモを回転させ、追従反応が生じるかどうか調べた。孵化後13~16時間で追従反応の生起率は最大になり、29時間~32時間では、ほとんと生じなかった。

では臨界期が人間にもあるのか。人間にも臨界期ほどの強いものではないが、学習に適した敏感期があると言われている。北村(1952)が行った興味深い調査がある。太平洋戦争のために福島県に疎開した子供達が地元のアクセントをどの程度習得したかを年齢ごとでまとめた。6歳以前に疎開した子供達は100%習得できたのに対し、7歳以降は疎開年齢が遅くなるほど習得できなくなっていることが分かった。

【所感】
臨界期の話を聞くと、スキャモン曲線を思い出します。この曲線によると10歳ぐらいまでが神経系が著しく発達する時期とのこと。息子の宗真がアスリートになりたい、という夢があり、幼児運動系の書籍を私が三冊読んだところ、全ての書籍にスキャモン曲線の話がありました。そして三冊とも「競技を決めず、様々な動きをさせることが大事」と主張していました。臨界期というのが運動界において「定説」になっているのだと感じます。

臨界期と聞いてもう一つ思い出すことがあります。トライ時代、慶応中等部出身の社員と大学から慶応に入った社員と、中学受験の算数(図形)の問題を解いてもらったところ、中等部出身の社員は一目で「補助線」を引き、瞬間で答えを導きました。中学受験の算数は、通常の中学、高校だと扱わないため、大学から慶応に入った社員も、中学受験の問題の訓練をすれば、すぐに答えを出せるようになるとは思います。ただ、瞬時に答えを出した所から、この時期だからできる能力の開発があるかもしれないと感じました。

臨界期はよく早期教育の根拠になります。ただ、早期教育に熱を上げるのは、リスクを伴います。先述した「レディネス」の考え方は常に頭に入れておきたいものです。
(1036字)

教育心理の部屋

第55回「双生児研究 8章 人間の発達について考える」  

第55回
2019/5/11
「双生児研究 8章 人間の発達について考える」  

【まとめ】
家系研究では遺伝要因と環境要因を分離することができないが、双生児研究法は有効である。

双生児には、一卵性(遺伝的に同一)と二卵性(きょうだいと同じ)の二種類がある。
ニューマンら(Newman et al.,1937)は、同じ家庭で育った50組の一卵性双生児と50組の二卵性双生児の合計200人を対象にビネーの知能検査を実施。それぞれの知能の相関を調べた。結果、一卵性の相関係数は0.80、二卵性は0.63であり、知能が遺伝の影響を受けることを示した。

アイゼンク(Eysenck, 1979)は、一緒に育てられた一卵性双生児と二卵性双生児の他に、異なる環境で育てらえた一卵性双生児やきょうだい、あるいは同じ環境で育った血縁関係のないもの同士や養子とその親の間の知能の相関を検討した多くの研究をまとめた。結果はやはり親と同居の一卵性(0.87)と二卵性双生児(0.53)の比較から、遺伝の影響が強いと言える。ただ、別居の一卵性(0.75)と比較すると、環境の影響も強いことが伺える。

一方、アナスタシーは別々の環境で育った19組の一卵性双生児を調べた。別れた時の年齢や、教育的環境値や社会的環境値などを得点化し、知能指数の差を比較した。結果、教育的環境差が大きいと二人の知能指数の差が大きいことが分かった。ここから環境の影響がかなり大きいことが分かる。

結論として、遺伝か環境かどちらが要因かは決められない。

これをふまえ、ジェンセンの環境閾値説がある。人が遺伝的にもっている能力が開花するかどうかに環境が閾値として作用し、特性によって閾値の水準が異なるというもの。

A身長など。必要最低限の栄養で開花する
B学力など。環境が良くなればなるほど正比例的に開花する
C絶対音感など。かなり恵まれた環境ではじめて開花する

最後に、筆者が行った遺伝論者か環境論者のどちらが多いかのアンケートを紹介する。学校の成績や、頭の良さなどの項目に対してどちらが大きな影響を与えるかを答えていく(大学生197名と小学校の教師57名で実施)。
【結果】
①極端な遺伝論者も環境論者はいない
②大学生と教師であまり差異がない
③体質や運動の力は遺伝的、パーソナリティ(新しい友人をすぐつくれる、怒りっぽさ、非行や犯罪を犯す傾向)に関わるものは環境的
④男性は環境要因、女性は遺伝要因に偏っていた

【所感】
とても興味深い領域でした。最後のアンケートに私もチェックをすると環境要因が多かったです。「人の可能性を信じ続ける」を信条にしている私としては当然環境要因派です。人の発達が遺伝要因であるという結論に達したら、発達支援はどうすれば良いのでしょうか。遺伝要因をポジティブに捉えるなら、「自分に何が向いているか」を考える際の一つの指針になることや「親に出来たのであれば自分も」と発奮材料になる気はします。とはいうものの、身体的能力以外でも遺伝的要因があることは否めないので、どちらかというと相互作用という立場が私にしっくりきます。塾生に対してはジェンセンの環境閾値説を今一度伝え、学力は努力に比例して伸びることをあらためて、何度も伝えていきます。
(1300字)

教育心理の部屋

第54回「家系研究 8章 人間の発達について考える」  

第54回
2019/5/3
「家系研究 8章 人間の発達について考える」  

【まとめ】
人間の発達は、遺伝によって規定されるのか、環境によって規定されるのか。

遺伝が発達に及ぼす影響を調べる方法として、家系研究がある。音楽家、ヨハン・セバスチャン・バッハの家系は数多くの著名な音楽家が輩出されている。また、家系研究としては1877年のダグデールによるジューク家の研究がある。ある地方刑務所に親類6人が別々の罪で収容されていた。これに関心を抱いたダグデールは彼の家系をさらに綿密に調べ、7代前までさかのぼることができた。ジューク家は709人中、140人が刑務所に服役し、うち60名は強盗常習犯であることをつきとめた。バッハ一族やジューク一族の家系研究から、近親者に類似の能力や人格をもつ者が極めて高い確率で輩出されることは確かなようだ。

ただ、家系研究から得られた結論は、環境要因も交じっており、遺伝か環境かどちらの影響によるものなのか明らかにすることはできない。

Richard Louis Dugdale (1841 – 23 July 1883) was an American merchant and sociologist, best known for his 1877 family study, The Jukes: A Study in Crime, Pauperism, Disease and Heredity.(Wikipediaより)リチャード・ルイス:ダグデールは、アメリカの商人、社会学者である。最も有名な著書は1877年家系研究『ジューク一族、犯罪、貧困、疾病、および遺伝の研究』。

【所感】
非常に興味深い領域に入ってきました。発達が遺伝によるものか、環境によるものか。「人の可能性を信じる」という事を信条としている私としては、勿論環境要因派ですが、一方これまでの体感値として遺伝要因もあるということは否定できません。学術的にはどちらに軍配があがるのか、次章の双生児研究が楽しみです。
(815字)

教育心理の部屋

第53回「成熟と学習 8章人間の発達について考える」 

第53回
2019/4/20
「成熟と学習 8章人間の発達について考える」 

【まとめ】
発達とは、胎児が成熟した個体に成長するまでの、形態や行動が変化していく過程のこと。

身体的な発達は生物学的なものといえる。一方、知的能力や人格の発達を規定する要因には、「成熟」と「学習」の要因があり、発達にはどちらが重要なのであろうか。

ゲゼルとトンプソン(Gesell&Thompson,1929)は、一組の女児一卵性双生児を対象に成熟と学習のどちらが発達に強く影響するのかについて調べた。生後46週目になった時点で、一方の幼児Aだけに階段上りと積み木操作の訓練を始めた。するとAは52週目に援助なしに26秒で上がれるようになった。他方の幼児Bは53週目の訓練開始時に、援助なしに45秒で上がることができ、2週間後にはわずか10秒での上ることができた。積み木の操作についても、53週目ではじめて触れたBは、Aと同様に積み木の操作ができた。この結果からゲゼル達は、発達が成熟の要因に強く規定されるという結論を出した。

しかし、我々は学習が発達を促すという事実を知っている。ただ、その場合にも学習者に「レディネス」(学習のための準備)が備わっている必要がある。最適な時期に学習すると最も効果的に学習内容を習得できる。

現在では発達を規定する要因は学習か成熟かという議論はされなくなった。それはピアジェの理論に代表されるよう、2つの要因が相互作用しながら発達を促すという考えが一般的になったからだ。

(アーノルド・ゲゼル(Arnold Lucius Gesell、1880年6月21日 – 1961年5月19日)は、アメリカ合衆国の心理学者、小児科医。子どもの発達研究の分野のパイオニアとされる。Wikipediaより)

【所感】
他サイトを調べると、ゲゼルの提唱した論は「ゲゼルの成熟優位説」と言われるそうです。成熟前の教育や訓練は効果が上げらないと説き、レディネス(心身の準備)の重要性を提示したこの論は、教育者にとっては留意すべきものと感じます。教育効果=量×質だけでなく、タイミングという因数の存在を示すものであり、教育方法を根本から考える上で、示唆に富む論だからです。

「その子その子に最適なタイミングがある」というのは、学習塾の塾生や我が子に対しても常に感じていることであはります。一方、難しいのは「何を、いつ、どのように行うのがその子にとって最適な教育や訓練なのか」ということです。つまり、対象となる子のレディネスが整うのはいつなのか、ということです。レディネスのタイミングを見極め最適な教育をするには、経験と勘で実行しながら、メソッドとして形式知化し改善をし続けることが道だと思います。

ともあれ、今回「レディネス」という学術用語(概念)を手に入れることができたのは大きく、英克や浩子と塾生に対して、実央とは我が子に対して、レディネスを共通言語にしながら対話をし、共に教育技術を磨いていきます。
(1199字)

教育心理の部屋

第52回「評価のための情報を得る方法② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第52回
2019/3/23
「評価のための情報を得る方法② 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
本書では何を知るのかという点で3つを挙げている。
1.学力を知る
2.知能を知る
3.性格を知る

2.知能を知る方法は、知能テストが代表的である。
近年では、知的活動の内的な過程に着目した知能テストであるITPAも用いられるようになっており、LD(学習障害)の子供の診断のためによく用いられている。

LDは学業不振の子供のことではなく、全般的な知的水準は平均的であるのに、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなど特定の基礎的能力に問題のある場合である。文の意味をとるのが難しい、読めばわかるのに聞くとわからない、算数だと桁をうまくそろえられないなど、それぞれの子供により色々な問題を抱えている。

3.性格を調べるためのテストは、3つに分類される。
・質問紙法(性格検査)
・作業検査法(クレペリン検査)
・投影法(ロールシャッハテスト)

【所感】
LDという言葉を知ったのは、咲心舎創業年に出会った塾生の保護者様でした。この塾生は計算、漢字、受け答えなど体験授業時に問題は感じられませんでしたが、保護者様からLDの検査を受けており結果は「グレー」であると告げられました。まずやってみましょうということで、指導を引き受けましたが、単純な計算から二手三手必要なものになると反復しても習得ができない、国語の読解において解説が理解できないなど、段々と指導が困難な状況になってきました。自分なりに様々なサイトを調べ、何が問題かを探っていくうちに、菜の花や鉛筆など物質名詞は理解できるが、特色、協調などの抽象名詞が理解できないことが分かりました。本書では、積み木や、迷路、組み合わせなどの動作性検査のIQが111に対し、言語性検査のIQは78という9歳LDの子のチャートが載っており、おそらくこの塾生も言語性検査に問題があったのではと推察できます。最終的に集団授業の中では受け持てないので、苦渋の中、学年の区切りで別れとなりましたが、LDという文字を見ると当時の経験を思い出します。

社会起業支援NPOであるETICのリーダーと公教育の話をした時に「今学校はLDの子が増えていてそれが問題になっている。教職課程にLDの資格を入れるべきであり、その活動を行っている」という話がありました。以前との比較は難しいのですが、LDの子が増えているというより、LDという言葉ができたことで、LDではあったが認知されていなかった子供が認知されているのかもしれません。そして、何よりそれに見合った指導法をしていこうという、社会全体の良い動きに私は思えます。
(1059字)

教育心理の部屋

第51回「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

第51回
2019/2/23
「評価のための情報を得る方法 7章 児童・生徒をどう評価するか」

【まとめ】
本書では何を知るのかという点で3つを挙げている。
1.学力を知る
2.知能を知る
3.性格を知る

また1.学力を知る方法は、5つある。
・客観式テスト
・論述式テスト
・作成・制作物による方法
・観察法
・質問紙法

観察法について、生徒の普段の授業での学習状況、挙手や発問などを観察することによって評価のための情報を得ることができる。こうした観察は、日々の授業での生徒の理解度、興味・関心を知るうえで大変重要であり日常的に行われている。観察による評価によって、教師は日々の指導を修正していくことになり、形成的な評価に観察は多くの有用な情報を与える。しかし、日常的な観察は、観点があいまいなままはっきりと意図せずに行われていることが多く、たまたま目にした場面のみで評価されたり、目立つ生徒が肯定的、否定的に評価されたりしかねない。観察の場面や観点を明確にすることや、行動としては現れない側面を知るために質問紙法などの他の方法による情報と比較をすることが大切である。

【所感】
咲心舎の講師陣は観察に注力しています。自習室に来ている、質問をしてくる、正答発言が多くなった、自己学習の完遂度が高くなった、表情が明るい、真剣度がました等々、観察による定性的変化から得られる情報は多く、塾生状況を把握する貴重な材料になります。具体的には学力向上と低下の原因仮説を立てる時や、塾生への働きかけを行う際に重要です。塾生がぽろっと口にしたちょっとした一言、つまり些細なことでも見逃さないことも含め、高橋、深松はかなり観察を徹底していると感じます。

一方で、観察法は主観的且つ定性的であり、学力を評価する上では信ぴょう性に欠けます。意欲が低かった塾生が、自習室に来る、自己学習の完成度も高くなった、だけど定期テスト前の確認テストで点数がとれない、という事態がありました。観察のみで満足していたら、正しい学力が測れず、対策も不適切なものになっていたことでしょう。よって、咲心舎では必ず定量情報=テストで学力を判断するようにしています。つい観察だけで学力判断をしそうになりますが、少し手間がかかっても「数字で判断する」ことをこれからも徹底し続けていきます。(909字)