教育心理の部屋

第17回「メタ認知2」(第2章 学ぶことと考えること)

第17回
2018/4/7
「メタ認知2」(第2章 学ぶことと考えること)

メタ認知能力の高め方について、日本理学療法学術大会の論文が大変参考になりました。引用しつつ、分かりやすくまとめます。

【方法】理学療法学科学生(平均22歳)に、20問を質問紙で5段階調査をした。

【結果】その中で有意に相関が見られた項目は6つあった。
①勉強方法がわかっている(r=0.35)
②勉強方法に自信がある(r=0.57)
③勉強で何かに失敗した時、うまくいかなかった時、その原因を考える(r=0.34)
④スケジュールの立て方を知っている(r=0.35)、
⑤スケジュールに変更が生じたら、都度、計画を修正している(r=0.36)
⑥勉強をするとき次の段取りも意識している(r=0.38)。
軽度から中等度の正の相関がみられた。

【考察】これは、定期試験の学業成績が低下するほど、メタ認知能力(メタ認知知識・メタ認知活動)が低いことが示唆され、具体的には勉強方法の方策自体がわからないこと、方策に対する自信が持てないこと、反省・探求のモニタリングや、計画・修正といったコントロールが低下していることが考えられた。よって、学生の学習活動に対するアプローチでは、知識や技能の教授に加え、その根底にあるメタ認知能力を高めることに着目し、そこをアプローチ対象とすることが重要になると推察された。

【解決手法】メタ認知は、自分の能力や課題解決の方略に関する知識としての「メタ認知知識」。自己への気づきや反省などのモニタリングと、目標設定や計画・修正などのコントロールを含めた「メタ認知活動」に大別される。したがって、これらメタ認知能力向上の為には、自己の認知や活動に対して客観視する機会を設けることや、目標設定や計画・修正など問題解決のためのプロセスを実践させながら介入(教示・誘導・介助)を行うこと、そして、何より他者との関わりを通じてフィードバックを与えることで高められるものと考えられる。

私達のアプローチとして、メタ認知を高めるには、4つあると考えました。
1.もっかんシートで計画を自分で立てることの重要性とそのやり方の説明の質を高める
2.Myライフスキルシートでの振り返りの指導の質を高める
3.ビジョンセッションのどこかで「教訓化」を入れる
4.定期テストの振り返り作戦シートは必須とし、フィードバックを必ずする
※自分が上手くいかない時の原因とより自分にとって普遍的な対処法を考える
(994字)

教育心理の部屋

第16回「メタ認知」(第2章 学ぶことと考えること)

第16回
2018/4/1
「メタ認知」(第2章 学ぶことと考えること)

問題解決に役立つ力としてメタ認知があります。メタ認知とは認知の認知であり、自分の思考や行動を客観的に把握することです。教育心理の領域では自分の記憶や問題解決に関する知識のことを指します。例えば自分は「ケアレスミスが多いことを知っている」「英語が苦手で勉強を避ける傾向があると知っている」ことがメタ認知です。「自分は自分を否定されると怒りがわくことを知っている」も広義ではメタ認知例です。

メタ認知能力が伸びると、問題解決がしやすくなります。Brown教授(1984年)のある観察では「1つ2/3ℓ入る水差しが6つあり、レモネードが入っている。レモネードは全部でいくらありますか?」という問題にある子供は18ℓと答える子がいたそうです。冷静に考えれば水差し1つ2/3ℓで6ℓより多くなるはずがないので、18ℓという答えはおかしいと気づくはずですが、気づかない。つまり、自分が今行っている問題解決の方法を離れて自己点検できないのです。

年少の子供は自分で学習するときに、できなかったことに多くの時間をかけることをしないようです。確かに娘の実来も、ピアノを弾くときに、部分練習を以前教えたのにも関わらず、間違えた箇所を重点的に練習せず、間違えると曲の始めからやり直す、もしくは弾き直してすぐに先に進むことをします。

肝心のメタ認知はどのように伸ばすのか。本書にはなかったので、また次回調べて書きたいと思います。
(599字)

教育心理の部屋

第15回「孵化効果」(第2章 学ぶことと考えること)

第15回
2018/3/24
「孵化効果」(第2章 学ぶことと考えること)

問題解決を阻むものとして「孵化効果」というものがあります。ずっと問題を考えていて煮詰まることがあると思います。その際、少し休憩して離れるとその問題の答えがひらめくことがあります。鳥が卵を温めると孵化するように、創造的な解は少し間を置くなど「温める期間」が必要な場合があります。それを心理学では孵化効果(Incubation Effect)といいます。

Andersonは1980年に「安いネックレス問題」でこの孵化効果を提示しました。ここに3つのネックレスがつながれた集合が4つあります。
ひとつの輪を開くのに2セント、閉じるのに3セントかかるとして、15セント以内で4つの集合をひとつなぎの輪にするのにはどうしたらよいか、という問題です。答えは、まず1つの集合を全部開きます。これで2セント×3回=6セント。開かれた3つの輪を残りの3つの集合の接続点としてつなぎ、閉じるので3セント×3回=9セント。合計15セントとなります。

この問題を連続して30分考える場合と、中休みを入れる場合を比較すると、中休みを入れた方が正解率が高かったといいます。ちなみに被験者は中休みの間は関係ない他の事をしていました。

この孵化効果を塾生に適用するとなると、ある塾生がしばらく考えても問題が解けない場合、三つの事を促進するのが良いと考えます。①休憩してもらう②別の問題を解いてもらう③別の教科を行ってもらう、です。

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第14回「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

第14回
2018/3/18
「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

数学、英語という勉強だけでなく、夜何を食べようかから、環境問題の解決まで、私達は日々問題解決活動を行っていると言えます。その問題解決の際に短時間で解決することを助けるのがヒューリステイックスです。

ヒューリスティックスは必ずしも解決が保証される訳ではないが、短時間でおおよその答えを得る可能性のある方法を指します。例えば、携帯のパスワードを忘れたとき、全ての数字を試すのは非効率です。自分の誕生日や電話番号などで試してみる思考がヒューリスティックスです。他にも「問い合わせがくる広告は?」という問いに、見やすさ、絵が多い、説明がしっかりしている等々、あらゆるパターンを考えるより、「実績を掲載する」が一番問合せの可能性があり、これがヒューリステイックな考え方です。経験則からくる仮説思考と言えるかもしれません。

このヒューリステイックの話から、正しい経験則を増やしていけば、解決のスピードが上がり、解決量も増えると考えられます。経験則は私が今研修で行っている「教訓化」によって個々人が作成できます。成功や失敗を含めた具体的事象から抽象的に自分の上手くいく原則まとめるのです。塾生に対しても自分の経験則を増やす試みをしていくと、ヒューリスティックができる、且つ精度が上がるはずです。具体的には、ビジョンセッションのマイルールを例えば、「自分のやる気を出す3ヶ条」的に設定するのも一つの手かもしれません。
(598字)

教育心理の部屋

第13回「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

第13回
2018/3/11
「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

宣言的知識の他に、もう一種類の知識は、手続き的知識といいます。手続き的知識は、こういう場合はこうしろという規則(プロダクションルール)の集まりと考えられています。例えば、もし(if)赤信号なら、そのときは(then)ブレーキを踏めというように、プロダクションルールはif-thenという形で表現されます。

地頭の良いと私達が言っているのは、この手続き的知識の定着が良い子を指すのかもしれません。もし主語が三人称ならsをつける。単位がcmなら100倍する。など、二手三手の手続きができるというイメージです。

5教科の中で、手続き的知識が多く必要なのは数学だと思います。計算ひとつとっても、繰り上がり繰り下がり、通分、約分、正負、カッコ、とプロダクションルールが数多く出てきます。計算間違いは、4+5=9という単純間違いより、プロダクションルールの欠如か、間違ってあてはめているか、のどちらかが多いと言えます。

ここから私達の指導に次の点を取り入れたいと考えます。指導をする際にルールを意識してもらうという事です。計算ができないのは、分数のルールや、累乗のルールなど、プロダクションルールが定着していなことによります。逆にルールを意識せずただ単に物量をこなすだけでは一向に計算力が上がりません。四則計算をする際に、より「ルール」という言葉を多用し、各塾生にルールを意識化することを促進してもらいたいです。
(599字)

教育心理の部屋

第12回「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

第12回
2018/3/4
「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

私達が既に持っている知識が、科学的な概念や知識の受容、応用を妨げる場合があります。それをクレメントはコイン投げ上げ問題(1982年)で、実証しました。コインを上に投げた際、上昇中と下降中でコインに働く力を選ぶ問題を出しました。Aは、上向きの力と下向きの力、Bは下向きの力のみ、の二つの選択肢です。答えはBなのですが、全員高校物理を終えた工学部における大学生の12%しか正解できず、その中の72%が
物理学受講1セメスター後にも間違え、更に、その中の70%が物理学受講2セメスター後にも間違ったということです。

ニュートンの慣性の法則によると、力を加えなければ物体は等速運動をし、力を加えると速度変化を引き起こします。コインを投げ上げると、コインに働いている力は重力だけであり、Bが答えになりますが、私たちは等速運動しているときも、運動している方向に力が働き続けていると考えがちです。

私も、咲心舎で理科を教える前はAの感覚でした。地面に置いてあるものを動かすには引っ張る力が必要で、動かし続けるには力を加え続けることが必要です。私達はこのような日常の経験から運動や力について「こういうもの」という概念を形成していると考えられ、これを素朴概念と呼びます。

素朴概念が科学的概念の吸収を阻害しないためには、むしろ素朴概念を利用することが良いと思います。「確かに力が加わり続けているようにみえるよね。でも摩擦ないところで投げたらあとは、力を加えなくても等速にいくじゃない。力が働くのは最初だけで、あとは自然に進んでいる。」といった具合に説明すると、より塾生の知識の習得が進むのではないでしょうか。
(691字)

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第11回「宣言的知識と階層的ネットワーク」

第11回
2018/2/25
「宣言的知識と階層的ネットワーク」(第2章 学ぶことと考えること)

私達の頭の中に蓄えられている知識は2種類あります。一つは、宣言的知識。事実についての知識であり、「吉田は1978年に生まれた」「日本の首都は東京」がこれにあたります。所謂「What」です。もう一つは、手続き的知識。これはやり方についての知識であり、「車の運転の仕方」「分数の足し算の方法」などがこれにあたります。所謂「How」です。

宣言的知識は、構造的な形で蓄えられていると考えられます。例えば、カナリヤ(黄色、さえずる)→鳥(つばさ、飛ぶ)→動物(動く、食べる)。抽象と具体のネットワークと言えるかもしれません。そして学ぶというのはこのような構造化された知識のネットワークを作り上げていくことと考えられます。

連想課題を用いて、この知識の構造化の様子を調べた実験があります(Cachapuz&Maskill 1987)。「熱」「衝突」「反応」等について生徒達に自由に連想させました。例えば「熱」に対して、熱い、寒い、溶けるなど。「熱」と「衝突」について共通して連想された語が多ければ、その人の頭では「熱」と「衝突」が結びついてます。このような結びつきを図示してもらいました。結果、成績のよい学習者は、はじめばらばらであった概念の間に結びつきが生じ、知識が構造化されていることが分かりました。

上記より、原理を知っていると知識が結びつきやすく、構造化されやすいと思います。例えば「熱は分子の衝突によって発生する」という知識があると、人の熱を高めるには、一人ではなく、人と人とがコミュニケーションをとる(ぶつかる)のがよいと発展的解釈をすることができます。理科や社会というのは、理科は自然の、社会は人間活動の「原理を学ぶもの」になります。「学びを促進する」ためにも、あらためて大切にしていきたい教科です。

教育心理の部屋

第10回「検索失敗説」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

第10回
2018/2/18
「検索失敗説」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

忘却が起こる原因のもう一つは検索失敗説です。Tulving&Pearlstone(1966年)は、検索失敗説を支持する実験を行いました。被験者に単語を48語記憶してもらいます。これらの単語は「うま」は『乗り物』、「なし」は『果物』というように、幾つかのカテゴリーに分類されています。何も提供しない場合は、20語しか再生できませんでしたが、『乗り物』などカテゴリーのヒントを提供した場合は、30語再生できました。

更に最初20語しか思い出せなかった被験者に後からカテゴリーのヒントを提供すると、再生数が28語に増加しました。増えた8語は、後から思い出したので、被験者の頭の中から失われていない事になります。つまり、普段思い出せないものも、頭の中に眠っているだけであり、手がかりがあれば思い出せるということです。

思い出すためには、覚える際に、手がかりを色々と用意しておいた方がよいとのこと。人の名前を覚えるにしても、単なる顔よりも同性の自分の友達や、名前から連想させるものなどを考える。例えば、米山さんという人と会ったら、同級生の米山の顔と一緒に覚える等。また、声に出してみる、書いてみるなど身体的なイメージを喚起するのも有効とのこと。古典的な声を出す、書くという暗記法はやはり教育心理手学的にも記憶に有効であるので、積極的に推奨していきましょう。

また、検索をしやすくするために、第7週に書いた意味づけもやはり有効とのことです。単純暗記ではなく意味を考えるというのは、論理思考力の面だけでなく、記憶力的にも重要なのだとあらためて感じます。社会や理科、漢字なども「単純暗記の撲滅」。意味(What)を考え理由(Why)を考えることを促進していきましょう。
(724字)

教育心理の部屋

第9回「干渉」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

第9回
2018/2/12
「干渉」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

忘却がなぜ起こるのか。これは二通りの説があります。その一つに「干渉」という考え方があります。干渉は別のことを学習する為、前に学習したことを忘れる現象です。干渉には順向干渉と逆向干渉があります。順向干渉は、以前の学習のため新しい学習の記憶が妨害されること。例えば、英語を覚える時、私はMuneoki(ムネオキ)と最初はローマ字読みから入ったため、Makeを「マケ」Studyを「ストューディー」と読むなど修正に時間がかかりました。

活用として、中1数学の正負の計算で、カッコ外し前後では解く手順が異なり、混乱します。カッコ外し前とカッコ外しとの連関を研究し、干渉が起こらないよう指導していきます。もう一つの逆向干渉は、新しい学習のため、既に学習していたことの記憶が妨害されることです。例えば、通常の英語読みに慣れると、今度はローマ字読みがしにくくなります。SENDAI KARA KITA HITOWA「仙台から来た人は」など、私は若干ストレスに感じます。

逆向干渉について、よく実験的な証拠して用いられるのが、学習後睡眠をとった時の方が、覚醒していた時より記憶が長く保持されている事です。これは覚醒の方が、学習したことと関係のない余計な情報が入ってきて干渉が起こるからと考えられています。活用としては眠る前、重要なものの暗記を促していくことでしょう。
(573字)

教育心理の部屋

第8回「忘却」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

第8回
2018/2/4
「忘却」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

エビングハウスの実験(1885年)では、記憶が忘却されることが分かります。まず、無意味な単語13のリストを繰り返し暗記し、ひとつの誤りもなくいえるようになるまで学習します。次に20分から31日間までさまざまな間隔をおいて再び完全に覚えるまでどのくらい学習する必要があるか調べました。

ただ、結果で表しているのは実は記憶量ではなく、再学習のしやすさであり、節約率という数値で表されています。節約率という考え方は、例えば13のリストを覚えるのに10分要し、20分後に4分要したとすると、6分節約したことになるので、6÷10=0.6(60%)という考え方です。

結果として、20分後58%、1時間後44%、1日後34%、1ヶ月後21%となっています。実は、1日後と1ヶ月後で再学習の負担はそこまで大きな差異がないと感じます。これでは私達が80テストを授業後すぐに行う為の学術的裏付けにはなりません。しかし私はこのグラフに表れてないことこそ感覚値で重要だと思っています。それは、再学習後の節約率であり、具体的には各間隔で再学習したあと再々学習した時の節約率です。おそらく記憶後すぐに再学習した方が、その後の節約率が高い=定着が良いと感じています。再学習後の節約率、ここの学術的エビデンスが欲しいところですが、私達はこのまま80点テストの合格率を大切にし、進んでいきましょう。
(581字)