教育心理の部屋

第7回「意味づけ」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

第7回
2018/1/27
「意味づけ」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

フランクスの実験(1982年)では、記憶における意味づけの有効性が見て取れます。
はげた男が新聞を読んだ。(1)
はげた男が帽子を買った。(2)
上の二つの文章だと、(2)の方が意味的な関連性があり、覚えすいです。
さらに、
はげた男が、帽子のセールをさがすために、新聞を読んだ。(1‘)
という形にし、(1)の意味的関連が薄いものと、(1‘)のように長くなっても意味的関連性が強いものを子供達に沢山与え記憶してもらう実験でした。

結果は、学習が進んでいる子と遅れている子に、再生率と学習時間に分けて示されました。再生率については(1)は遅れている子が悪く、一方で(1‘)のような意味づけありの文章の再生数は、進んだ子と差異はあまりありません。学習時間については、遅れた子は(1‘)の意味づけありの方が長くなっていますが、進んだ子は逆に(1)の意味づけなしの方が長くなっています。

ここから、(1)について、進んだ子は自発的に意味的な関連性をつけるような工夫をしているため学習時間は長くなっていますが、再生成績は良くなっています。これに対して遅れた子は、意味づけの有無の違いに気づかない。結局、どちらも単に丸暗記をしようとするため、意味づけられてないテキストの成績が悪い。よって、よりよく記憶をするには、主体的に意味的な関連付けが重要と分かります。

咲心舎においても、英語メソッドは意味→音読→書きの順番は効果的であることが確認できました。また、全教科各単元の意味の理解が判明するような80点テストにするのが良いと思いました。

教育心理の部屋

第6回 「リハーサル 1章 記憶力がいいとはどういうことか」

第6回
2018/1/20
「リハーサル 1章 記憶力がいいとはどういうことか」

情報を脳の中で繰りかすことをリハーサルと言います。リハーサルには2種類あり、短期記憶の情報を維持する「維持リハーサル」と、短期記憶から長期記憶に転送する「精緻化リハーサル」があります。維持リハーサルは単に言葉を頭の中で繰り返すようなことです。精緻化リハーサルは、関連付けがされるもので、たとえば「うみ」なら海のイメージを浮かべたり、「うみ」から「山」を連想したりするものです。

このことからも、やはり意味付けがされないまま暗記してもすぐに記憶から飛ぶのです。英語や社会、理科も意味を理解した上で暗記しないと、維持リハーサルにとどまり、学力には結びつけません。また、精緻化リハーサルの中でも、自分のことと関連付けられたものは、特に記憶がされます。例えば、「あかるい」という言葉を覚えるときに、3つの質問をします。これはひらがなか、カタカナか?この意味は?あなたに当てはまるか?この時、最後の質問をされた時の方が一番記憶されやすいです。

ロジャース(1997)の実験で、処理の違いによる平均再生回数が、自己、意味、音韻、形態の順になっています。自己は意味の2倍の再生回数です。私達の英語メソッド意味→音読→書きは正しいのです。ただ、更に塾生自身と結びつける工夫がされると、更に記憶の定着化が図れます。この辺り皆と探求していきたいです。
(567字)

教育心理の部屋

第5回「テスト不安 1章 記憶力がいいとはどういうことか」

第5回
2018/1/8
「テスト不安 1章 記憶力がいいとはどういうことか」

ダークは1988年にテスト不安に関する実験を行いました。テスト不安の高い人と低い人に分けた上でテストをします。テスト内容は、刺激文を2つ読んだ後、問題の文の正誤を答えるものです。内容は2タイプあり、http://muneoki-yoshida.com/wp/wp-admin/post-new.php
タイプ1は、
刺激文1 トランペットが演奏された
刺激文2 その演奏はやかましかった
問題   トランペットは静かだった。
と直前の文に答えが関係するものです。
タイプ2は、
刺激文1 男はくぎを打った。
刺激文2 彼はとても疲れた。
問題   男はかなづちを使った。
と、最初の文に答えが関係するものです。

タイプ1は、刺激文1を記憶する必要がないのですが、タイプ2は刺激文1を短期記憶に保持する必要があります。結果として、タイプ1の課題は、テスト不安の高低とも反応時間は変わりませんでした。ただ、タイプ2の課題は、テスト不安の高い人が、反応時間が長くなりました。ここから、テスト不安の高い人は「失敗したらどうしよう」など課題と関係のない考えのため短期記憶が圧迫されると考えられます。

長期記憶を書庫とすれば、短期記憶は閲覧室の机のようなものであり、情報は短期記憶に引っ張り出す必要があります。私達としては、テスト時に塾生に見たことのない問題にあたっても冷静に対応する訓練を積んでもらう必要があります。特に中3に対しては、ひろきなど、落ち着くための対処法など事前に個々人に決めてもらい、過去問に取り組み訓練することが必要かと考えます。
(596字)

教育心理の部屋

第4回「代理強化 3章 ほめることの大切さ」

第4回
2018/1/1
「代理強化 3章 ほめることの大切さ」

私達は直接経験から学習するだけでなく、他者の行動、メディアの情報を観察する事から学習もします。これを観察学習といい、人間が高い知的能力をもつからこそ可能な学習様式と言えます。

私達は観察学習によって、多くの課題を効率的に安全に学習することができます。交通事故を経験しなくても、その恐ろしさを学習することができます。また、友人が望ましくない行動を行い、教師に叱られていることを観察することにより、何をすべきなのかを学習することができます。逆に、望ましい行動を賞賛された友人を見ることにより、その行動への動機づけが高まります。これは代理強化と呼ばれる現象です。

咲心舎で言えば、賞賛と注意を先生方が行っているとして、それを感情的に行うのか、理性的(意図的)に行うのかが、塾生達の代理強化を左右するかもしれません。例えば、浩子の塾生への𠮟り方は、感情を乗せつつも理性的で、叱られた塾生だけでなく、他の塾生についても、同様の不適切な行動を起こさない可能性が高いかもしれません。つまり代理強化が促進された状態です。

この辺り何が代理強化を促進するかは、まだ不明確ではありますが、少なくとも代理強化の作用があると認識すること、そして理性的に賞賛と注意を行うことは、塾生達への指導の上で押さえておくのが良いかと思います。
(550字)

教育心理の部屋

第3回「期待―価値モデル 4章「『やる気』を考える」

第3回
2017/12/25
「期待―価値モデル 4章「『やる気』を考える」

アトキソンとリトウィンの実験(1960)は、輪投げの課題を使い、人は適度に難しい課題をやろうとすることを示しました。そこからアトキソンは、「達成行動を行おうとする傾向=達成動機×期待×価値」という式を立てました。達成動機は達成したいと思う気持ち、期待はできそうだと思う気持ち、価値は達成したときの喜び、となります。達成動機の強さはその人の性格的なもので一定だとすると、動機付けの強さは期待と価値で決まることになります。

更にアトキンソンは期待と価値の間に反比例的な関係があるとも考えました。価値=1-期待とし、期待が高いほど価値が小さい、つまり簡単にできるものは、達成感も少ないという事です。そして0.5×0.5になったときが一番達成行動傾向が強くなると考えています。

私達に使えることとしては、2点を考えています。まず期待×価値の部分で、目標と課題の階段づくりをすること。いつも言う通り200点の子がいきなり400点は難しいので、400点に向けた階段をつくること。また、試験前いきなり多くの課題はできないので、分かる系ではなくできる系の必テキも毎週のジコガクで出していく事です。

もう一つは、達成動機。ここがそもそもかけ算の最初であり、ビジョンセッション等のライフスキル教育や私たちの期待・承認行動により高めていくことです。これにより、塾生の達成したいと思う気持ちを高めていければと思います。具体的には、高校見学を促すこと、400点取るとどんな良いことがあるか伝えていくこと、高校が楽しい伝えること、社会人は楽しいという事を伝えること、でしょうか。是非、浩子も英克もこの点独自で楽しみながら探求していってもらえればと思います。
(711字)

教育心理の部屋

第2回「自己強化 3章ほめることの大切さ」

第2回
2017/12/15
「自己強化 3章ほめることの大切さ」

人間が自分でコントロールできる賞罰によって自分自身の学習を促進することを「自己強化」と呼びます。バンデュラとパーロフの実験(1967年)は子供の「自己強化」を実証しました。子供を被験者として、車輪を回すという運動課題の実験を行いました。課題は車輪を8回回すと5点の得点が与えられ、5・10・15・20点の4つの達成基準があります。被験者は3つの群に分けられ、1つ目の自己強化群は5~20の目標を一つ自分で選択し、車輪を回し始める。達成するとチャイムがなり、賞と交換できるコインを自由に獲得できます。そしてまた同じ手続きが繰り返されます。2つ目の外部強化群は、達成基準が外部に決められ、達成すればコインが自動的に与えられます。3つ目はただ課題を遂行するだけの群です。

結果としては、自己強化群と外部強化群は差異がなく統制群と比べ、高い作業量となりました。ここから、他者からの強化がなくても児童が自己強化によって学習可能であることが実証されました。親や教師からの賞罰がなくても、自律的に学習できる存在だという事です。

私達が現場で取り入れるとしたら、「自分でご褒美を設定してみる」事をライフスキル(意欲向上力)目標に入れてもらうことでしょうか。ビジョンセッションで、時折自分で勉強のご褒美を入れる事をやっている塾生がいます。昨年の受験生のMさんだったり、学力高めの子だった
記憶があります。「今日ここまでやったらテレビみてよし」等。少し皆さんも促してみてはいかがでしょうか。ちなみに私は自分に賞を与えるのが下手な人間です。自己強化を増すために、ご褒美の設定をしてみたいと思います。

教育心理の部屋

第1回「自己効力」

第1回
2017/12/9
「自己効力」

バンデュラは、行動すれば結果を変えられるという期待を結果期待と呼び、そのために必要な行動を自分がとれるかどうかの信念を自己効力と呼び両者を区別しました。

私が高3の時『星の金貨』を見て「医者になりたい」と思い立った時、医学部の問題をみて即座にやめた経験があります。この場合、行動として毎日3時間以上2~3年ぐらい勉強すれば合格できると思ました。実際にそのようなアドバイスを専門の先生からもらいました。しかし、その行動を自分がとれる自信は全く持てませんでした。自己効力が低いとは、自分にはその努力は無理だと諦めてしまう事と解釈して良いと思います。

N君の「どうせやっても」というのは、勉強しても結果は出せない=結果期待が低く、相応の時間自分は勉強できない=自己効力が低い、のどちらが当てはまるのでしょうか。結果期待が低いのは本当に困りものです。何か特別なアプローチが必要かもしれません。まずは自己効力の方を上げるところから皆さんにやってみて欲しいです。まず1日15分勉強やってみようか、次30分勉強できたよね、次40分できたよね、と勉強量=努力ができることを塾生に認知してもらいたいと思っています。