教育心理の部屋

第14回「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

第14回
2018/3/18
「ヒューリステイック」(第2章 学ぶことと考えること)

数学、英語という勉強だけでなく、夜何を食べようかから、環境問題の解決まで、私達は日々問題解決活動を行っていると言えます。その問題解決の際に短時間で解決することを助けるのがヒューリステイックスです。

ヒューリスティックスは必ずしも解決が保証される訳ではないが、短時間でおおよその答えを得る可能性のある方法を指します。例えば、携帯のパスワードを忘れたとき、全ての数字を試すのは非効率です。自分の誕生日や電話番号などで試してみる思考がヒューリスティックスです。他にも「問い合わせがくる広告は?」という問いに、見やすさ、絵が多い、説明がしっかりしている等々、あらゆるパターンを考えるより、「実績を掲載する」が一番問合せの可能性があり、これがヒューリステイックな考え方です。経験則からくる仮説思考と言えるかもしれません。

このヒューリステイックの話から、正しい経験則を増やしていけば、解決のスピードが上がり、解決量も増えると考えられます。経験則は私が今研修で行っている「教訓化」によって個々人が作成できます。成功や失敗を含めた具体的事象から抽象的に自分の上手くいく原則まとめるのです。塾生に対しても自分の経験則を増やす試みをしていくと、ヒューリスティックができる、且つ精度が上がるはずです。具体的には、ビジョンセッションのマイルールを例えば、「自分のやる気を出す3ヶ条」的に設定するのも一つの手かもしれません。
(598字)

宗興の本棚

第33週『フランス革命 歴史における劇薬』

第33週
2018/3/18
『フランス革命 歴史における劇薬』
遅塚忠躬著 岩波ジュニア新書

教育改革の実現要素は何か。歴史上の革命(社会構造の改革)から要素を抽出し、教育改革の参考にする意図で本書を手に取りました。

フランス革命は、明治維新と違い、大衆という虐げられていた弱い者たちが主体となり革命を起こしました。主体が今の私の立場に近いという事も、フランス革命を分析対象とした理由でもあります。

フランス革命のポイントは3つあると考えました。

まず時代背景として、旧体制の行き詰まりがあります。覇権を争っていたイギリスは産業革命で工業化が進み、フランスは後れをとります。明治維新同様、外圧による危機感が改革の土壌を醸成する点は注目すべきです。

二つ目は、ブルジョワジー(富裕な商工農業者・知識人)の台頭です。資本主義という新しい経済システムの中核をなすのがブルジョワジーであるため、彼らの力は必然的に増し、三部会など議会でも力を持ちます。ここから読み取れるのは、時代の流れを推進する者が主役になるという点と、やはり改革には政治的な力が必要という点です。

三つ目は、革命には大衆の力が必要だったということ。大衆の情念の巨大な噴出によりバスティーユが起こり、王政が廃止されました。ここから、結局世論に認知され味方にする事が重要と考えます。一方大衆の「情念」はリスクがあり、フランス革命は内部抗争や蜂起など血で血を争う事態となっています。今後イギリス名誉革命、日本の明治維新もあらためて分析していきます。
(599字)

教育心理の部屋

第13回「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

第13回
2018/3/11
「手続き的知識」(第2章 学ぶことと考えること)

宣言的知識の他に、もう一種類の知識は、手続き的知識といいます。手続き的知識は、こういう場合はこうしろという規則(プロダクションルール)の集まりと考えられています。例えば、もし(if)赤信号なら、そのときは(then)ブレーキを踏めというように、プロダクションルールはif-thenという形で表現されます。

地頭の良いと私達が言っているのは、この手続き的知識の定着が良い子を指すのかもしれません。もし主語が三人称ならsをつける。単位がcmなら100倍する。など、二手三手の手続きができるというイメージです。

5教科の中で、手続き的知識が多く必要なのは数学だと思います。計算ひとつとっても、繰り上がり繰り下がり、通分、約分、正負、カッコ、とプロダクションルールが数多く出てきます。計算間違いは、4+5=9という単純間違いより、プロダクションルールの欠如か、間違ってあてはめているか、のどちらかが多いと言えます。

ここから私達の指導に次の点を取り入れたいと考えます。指導をする際にルールを意識してもらうという事です。計算ができないのは、分数のルールや、累乗のルールなど、プロダクションルールが定着していなことによります。逆にルールを意識せずただ単に物量をこなすだけでは一向に計算力が上がりません。四則計算をする際に、より「ルール」という言葉を多用し、各塾生にルールを意識化することを促進してもらいたいです。
(599字)

宗興の本棚

第32週『史上最強の哲学入門』

第32週
2018/3/11
『史上最強の哲学入門』
飲茶 河出文庫

「社会を本当に変えてきたのは、革命家や大衆である前に、彼らを支えた思想家たちの言説であると思う。」これは日本政策学校で知り合った馬場さんの投稿です(1/9)。フランス革命のルソー、共産主義革命のマルクスなど、世の変革にはそれを支えた思想家がいます。私自身、ライフスキル教育で大きな社会のうねりを創ろうとしています。自分が依拠できる思想を持つことは以前からの宿題であり、本書を手にとりました。本書は馬場さん主催の哲学勉強会の課題図書でもあります。

本書の中で私が納得・共感した5名の西洋哲学者を列挙します。

ルソー。人間は国家などなくても、互いに助け合って暮らしていける平和的な生き物と考えており、この人間観は私には合います。

ヒューム(イギリス経験論哲学)の、「神も科学も思い込みに過ぎない。人間の知覚を中心とした経験上の産物に過ぎない。」という考えも、現実的で納得感があります。

カント。人知を越えた真理を求めるロマンではなく、人間にとっての真理を求める現実的な方向へと哲学を変えました。人間にとって意味あるものを考えるスタンスに私も共感します。

サルトル。自由とは「何が正しいのかわからないのに『好きにしろ』と放り出されてしまった不安定な状態のこと」を指し、人間は自由の刑を科せられていると言っています。だからこそ思いっきり生きろ。折角やるのだから大きな舞台=歴史を進めるぐらいに、というメッセージは清濁併せのみつつそれでも起ち上がる感覚で、深く共鳴します。

ニーチェ。人間本来の根源的なまっすぐの欲望とは力への意志。宗教が人間の生きる力を弱めた。強くなりたいという意思をしっかり自覚し、それから目を背けないという考えの人間主体、人間礼賛の部分に共鳴をします。

この他、フッサールやソシュールにも興味がわきました。こうみると、自分の筋が「人間礼賛」的であることが見えてきました。私は人間は素晴らしいと思っています。そして生をそれぞれの目的で充実させ、まっとうしたいという強い渇望がある存在であるとも思っています。次に別の書を使い、上記5名の内容をもう少し詳しく掘っていき、誰が自分の思想の依拠する方になるのか探っていきます。また東洋思想の本も読み進めます。
(923字)

教育心理の部屋

第12回「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

第12回
2018/3/4
「素朴概念」(第2章 学ぶことと考えること)

私達が既に持っている知識が、科学的な概念や知識の受容、応用を妨げる場合があります。それをクレメントはコイン投げ上げ問題(1982年)で、実証しました。コインを上に投げた際、上昇中と下降中でコインに働く力を選ぶ問題を出しました。Aは、上向きの力と下向きの力、Bは下向きの力のみ、の二つの選択肢です。答えはBなのですが、全員高校物理を終えた工学部における大学生の12%しか正解できず、その中の72%が
物理学受講1セメスター後にも間違え、更に、その中の70%が物理学受講2セメスター後にも間違ったということです。

ニュートンの慣性の法則によると、力を加えなければ物体は等速運動をし、力を加えると速度変化を引き起こします。コインを投げ上げると、コインに働いている力は重力だけであり、Bが答えになりますが、私たちは等速運動しているときも、運動している方向に力が働き続けていると考えがちです。

私も、咲心舎で理科を教える前はAの感覚でした。地面に置いてあるものを動かすには引っ張る力が必要で、動かし続けるには力を加え続けることが必要です。私達はこのような日常の経験から運動や力について「こういうもの」という概念を形成していると考えられ、これを素朴概念と呼びます。

素朴概念が科学的概念の吸収を阻害しないためには、むしろ素朴概念を利用することが良いと思います。「確かに力が加わり続けているようにみえるよね。でも摩擦ないところで投げたらあとは、力を加えなくても等速にいくじゃない。力が働くのは最初だけで、あとは自然に進んでいる。」といった具合に説明すると、より塾生の知識の習得が進むのではないでしょうか。
(691字)

宗興の本棚

第31週『人を伸ばす力』

第31週
2018/3/4
『人を伸ばす力』
エドワード・L・デシ+リチャード・フラスト 桜井茂男訳 新曜社

内発的動機付けの権威、エドワードデシ教授の著書。内発的動機付けは、活動すること自体がその活動の目的であるような行為の過程を指します。ソマパズルで報酬を渡した学生は、その後パズルを行わない。報酬がない学生はパズル自体に興味を示し、ずっと遊んでいるという結果から、デシ教授は報酬が意欲を低下させることを明確にし、行動主義の報酬と罰が全盛の時代に、大きな衝撃を与えました。

このデシ教授に私が共感する所が、単に「自由にさせましょう」と言わない点です。「自律性の支援が自由放任と同じではないことは、いくら強調したくても強調しすぎることはない。」とデシ教授は述べています。私達の社会システムの中で統制を回避するのは不可能です。朝の目覚まし時計、仕事へと駆り立てる圧力、締め切り、評価、報酬。では現実的にどうすれば良いのか。そこが難しい部分です。デシ教授も「統制しないで励ますというスタンスは一見容易だが、実は強制することよりもむずかしく、より多くの努力や技能が要求される。」と述べています。

ここでデシ教授は、内在化の考えを伝えています。取り入れではなく統合。例えば、親の期待を取り入れるか、内的欲求と統合していくか、子供の成長に大きな差異がでます。私達におきかえれば、私達の指示を子供たちが取り入れ(強制)るのか、統合になるかは私達のスタンスと技術次第です。

統合を促進するには、理由づけ、承認、選択の3つがあります。承認は共感と言い換えてもよいです。大人と子供で言えば、子供の立場を尊重しているという大人側の態度が子供に伝わること。「絵の具をこぼしたりして遊ぶことが本当に楽しいことはわかるけど、ここは他の友達も
使うから、道具や部屋をきれいに使ってください」と伝えたところ、自律性を支える条件では子供を心理的にプラスの効果が見られ、統制する条件ではやる気を失わせる結果となったそうです。これは咲心舎でもすぐにできることと感じます。

ある理論を提唱した方の原書(訳書)を読むと、一つ一つの言葉に重みがあり、奥深く味わいがあり、本当にためになります。この本も、何度も読み返し、ライフスキル教育のバックボーンにしていきます。
(902字)

教育心理の部屋

第11回「宣言的知識と階層的ネットワーク」

第11回
2018/2/25
「宣言的知識と階層的ネットワーク」(第2章 学ぶことと考えること)

私達の頭の中に蓄えられている知識は2種類あります。一つは、宣言的知識。事実についての知識であり、「吉田は1978年に生まれた」「日本の首都は東京」がこれにあたります。所謂「What」です。もう一つは、手続き的知識。これはやり方についての知識であり、「車の運転の仕方」「分数の足し算の方法」などがこれにあたります。所謂「How」です。

宣言的知識は、構造的な形で蓄えられていると考えられます。例えば、カナリヤ(黄色、さえずる)→鳥(つばさ、飛ぶ)→動物(動く、食べる)。抽象と具体のネットワークと言えるかもしれません。そして学ぶというのはこのような構造化された知識のネットワークを作り上げていくことと考えられます。

連想課題を用いて、この知識の構造化の様子を調べた実験があります(Cachapuz&Maskill 1987)。「熱」「衝突」「反応」等について生徒達に自由に連想させました。例えば「熱」に対して、熱い、寒い、溶けるなど。「熱」と「衝突」について共通して連想された語が多ければ、その人の頭では「熱」と「衝突」が結びついてます。このような結びつきを図示してもらいました。結果、成績のよい学習者は、はじめばらばらであった概念の間に結びつきが生じ、知識が構造化されていることが分かりました。

上記より、原理を知っていると知識が結びつきやすく、構造化されやすいと思います。例えば「熱は分子の衝突によって発生する」という知識があると、人の熱を高めるには、一人ではなく、人と人とがコミュニケーションをとる(ぶつかる)のがよいと発展的解釈をすることができます。理科や社会というのは、理科は自然の、社会は人間活動の「原理を学ぶもの」になります。「学びを促進する」ためにも、あらためて大切にしていきたい教科です。

宗興の本棚

第30週『社会のために働く』

第30週
2018/2/25
『社会のために働く』
藤沢烈著 講談社

私の知り合いである藤沢烈さんの著書。烈さんはマッキンゼーに退社後、社会起業支援の会社RCFを立ち上げます。震災後、復興コーディネーターとして、東北の支援を開始。Mr.復興と言われる程、活躍されています。駒崎さんに続き、社会起業の知識を入れる第二弾として、また烈さんにNPOのマネタイズなど話を聞きにいくため、本書を手に取りました。

読了後、大きく二つの疑問が生まれました。

一つは、烈さんは震災後、どのように復興の仕事に入ったのか。震災当時、私は支援したくても何をすればよいか分かりませんでした。現地に入ることすら迷惑ぐらいの状況の中、肉体的ボランティアではなく、コーディネーターという見えにくいものを自治体はなぜ受け入れたのか。

二つ目は、本書の内容は、RCFの支援先であるグーグル、キリン、ヤフー、UBSの東北支援事業をメインに紹介しています。このような名だたる企業がRCFを選んだ理由は何か。どのようにしたらそうなるのか。この二つの疑問は是非烈さんに会って、解消します。

「株主はお金のリターンだけではなく、社会へのリターンを求めている。」「プロボノが寄付だけでなく、自分が関わって何かが変わる手触り感のある貢献を求めていた。」「市場起点ではなく、社会起点マーケティング。」という本書の言葉から、社会貢献をしたい人は多いのだと感じます。支援先だけでなく関わる人も喜びとなる。迷いなくどんどん進みます。
(599字)

教育心理の部屋

第10回「検索失敗説」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

第10回
2018/2/18
「検索失敗説」(1章 記憶力がいいとはどういうことか)

忘却が起こる原因のもう一つは検索失敗説です。Tulving&Pearlstone(1966年)は、検索失敗説を支持する実験を行いました。被験者に単語を48語記憶してもらいます。これらの単語は「うま」は『乗り物』、「なし」は『果物』というように、幾つかのカテゴリーに分類されています。何も提供しない場合は、20語しか再生できませんでしたが、『乗り物』などカテゴリーのヒントを提供した場合は、30語再生できました。

更に最初20語しか思い出せなかった被験者に後からカテゴリーのヒントを提供すると、再生数が28語に増加しました。増えた8語は、後から思い出したので、被験者の頭の中から失われていない事になります。つまり、普段思い出せないものも、頭の中に眠っているだけであり、手がかりがあれば思い出せるということです。

思い出すためには、覚える際に、手がかりを色々と用意しておいた方がよいとのこと。人の名前を覚えるにしても、単なる顔よりも同性の自分の友達や、名前から連想させるものなどを考える。例えば、米山さんという人と会ったら、同級生の米山の顔と一緒に覚える等。また、声に出してみる、書いてみるなど身体的なイメージを喚起するのも有効とのこと。古典的な声を出す、書くという暗記法はやはり教育心理手学的にも記憶に有効であるので、積極的に推奨していきましょう。

また、検索をしやすくするために、第7週に書いた意味づけもやはり有効とのことです。単純暗記ではなく意味を考えるというのは、論理思考力の面だけでなく、記憶力的にも重要なのだとあらためて感じます。社会や理科、漢字なども「単純暗記の撲滅」。意味(What)を考え理由(Why)を考えることを促進していきましょう。
(724字)

宗興の本棚

第29週『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』

第29週
2018/2/18
『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』
本間浩輔著 ダイヤモンド社

リンクのマネージャー時代、私はメンバーと毎週業務の問題解決をする1on1をしていました。また月に1回は必ずキャリアシートを元に、成長促進の1on1を行っていました。このやり方は非常に奏功しました。毎期、高い目標でしたが私のチームは目標達成をし続け、且つメンバーが育ちMVPを獲得する者もいました。

この成功体験をもとに自身で編み出した1on1を企業研修でも参加者に推奨しています。本書を手に取った理由は、より1on1の知見を入れ技術を高めることと、Yahooという有名企業を好事例として研修で1on1を促進するためです。

結論としては、既に行っていることが多く、目新しい技術は取得できせんでした。ただ、Yahooは1on1を「経験学習の促進」「才能と情熱を解き放つ」という目的の明確にしています。研修で参加者が会議体の整理をする際に、この目的の明確化を強調します。

また、レコグニションという考え自体は、とても共感できました。相手が「業務量が多い」と感じていたら、客観的に業務量は多くなくとも「そう感じている」とまず認識することが大切です。レコグニションなしには建設的な対話や議論はできません。

具体的行動としては、社員や塾生に対してやはりまず聴き、考えや感情の認知をすること。引き続き行っていきます。

最後に、研修の課題図書まではいきませんが、参考図書としてこの本を組み入れたいと思います。
(593字)