宗興の本棚

第158週『NETFLIXの最強人事戦略』

第158週
2020/8/30
『NETFLIXの最強人事戦略』
パティ・マッコード著 櫻井祐子訳 光文社

ある先進企業のCPO(Chief People Officer)の方と、今後どのような組織やチームを目指すかという話になったときに挙がったのがネットフリックス(以下NF社)でした。次の組織形成の参考になると考え手に取りました。著者は元NF社の最高人事責任者で、創業時から参画し、俊敏なハイパフォーマンス文化を形成してきた方です。

1.目指す会社像
「毎日職場にわくわくしながら―難しい課題が『あるにもかかわらず』ではなく、『あるからこそ』胸を躍らせながら―来てほしかった。」(著者)
「(最高の会社は)この会社の問題をこの会社の同僚と解決したいと思いながら、毎日会社に来たくなる(会社)」(CEOリード・ヘイスティングス)

これらの言葉に、目指したい組織の姿が詰まっていると感じます。月曜日に行きたくなる会社ではなく、「毎日」行きたくなる会社。毎日やりがいに溢れているのでしょう。凄い会社です。

2.毎日行きたくなる会社の公式
本書を通して毎日行きたくなる会社を作るには、仮説として下記4つの因数で成り立つと考えました。

「最高の人材の採用」×「自由と責任の規律」×「ビジネスモデルの周知」×「積極的な解雇」

(1)最高の人材の採用
「自由な知性の応酬ほど楽しいものはない。」
「最高の人材は特典になびかない。」
「優秀な同僚と、明確な目的意識、達成すべき成果の周知徹底—この組み合わせが、パワフルな組織の秘訣だ。」

施設環境や金銭報酬の高さより、最高の人材同士のチームワークこそやりがいの秘訣であることが読み解けます。

(2)自由と責任の規律
「従業員に力を与えるのではなく、あなたたちはもう力をもっているのだと思い出させ、力を存分に発揮できる環境を整えるのが、会社の務めだ。」
「人の力を解き放て。」
「自由と責任の規律。」
「優れたチームは嬉々として挑戦に立ち向かう。」
「つらいとき、深くものごとを考えるときに、優れたチームができる。」
「彼ら(エンジニア)は無意味な手続きやばかげた施策を忌み嫌う。だがそんな彼らも、規律は一向に気にしないのだ。」

自由と責任の「規律」という所がポイントで、著者はお役所的な決まり事を廃止しながら、基本的な行動指針をしっかり守るよう指導してきたそうです。自由と規律というのは両立できるという力強いメッセージです。

(3)ビジネスモデルの周知
「従業員一人ひとりが事業を理解する。」
「すべての従業員が会社のビジネスモデルを説明できるか?全員が即答かどうか確かめよう。」
「社内のどの部署、どのチームの問題であっても、従業員がそれを自分のものにするには、経営幹部と同じ視点が欠かせない。」

NF社ではビジネスモデルと共に、経営上の良い事も悪い事も、会社の状況を頻繁にオープンに社員に伝え、社員と課題を共有してきたそうです。当事者意識を引き出すのに有用なのでしょう。

(4)積極的な解雇
「『積極的に解雇する』という規律は、ネットフリックスの文化のなかでもマネジャーにとって慣れるのがとびきり難しい部分、いや最も難しい部分なのはまちがいない。だがほとんどの人がそれを受けいれている。」
「解雇された従業員が会社を相手に訴訟を起こす可能性は、とくに業務上の課題について定期的に話し合いをもっていた場合は、ゼロに近い。」

これが一番私にとって難しい部分です。どんなに大義名分があっても解雇するのは厳しいことです。環境変化→事業変化→組織変化で、変化をし続けることが前提の流動的組織。実際にこの文化を創った著者もNF社を辞めています。「毎日」来たくなる会社にするには、私(経営者)自身がここを越える必要がある、もしくは別な方法で実現するかなのだと感じます。

総じて、NF社は「刺激を求める人たちの集まり」だなと感じます。今の私は刺激をあまり求めていません。それよりも、地に足つけて自分の力を発揮し、他者に役立ち、喜んでもらうことに専心したい思いが強いです。
(1614字)

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第157週『思うことから、すべては始まる』

第157週
2020/8/23
『思うことから、すべては始まる』
植木宣隆著 サンマーク出版

「筆力強化」のための第7弾は、サンマーク出版社長の著書です。サンマーク出版は出版業界の売上が半減したこの25年間に、『生き方』『脳内革命』などミリオンセラーを8冊も出しています。本書はその陣頭指揮をとる植木社長の大切にしている考え方をかるた形式でまとめた本です。強く印象に残った4つの項目を紹介します。

1.手のひらに、一冊のエネルギー
これはサンマーク出版のグランド・コア・コンセプト(会社運営の中核となる考え方)です。植木社長は2002年に社長就任後、経営理念を確立するべく社員全員と1年半かけて経営理念をつむぎあげてきました。「手のひらに、一冊のエネルギー」はその結晶として生まれた言葉です。本はエネルギー体であり、「そのエネルギーの大きさが、人を惹きつけるのです。」と植木社長は言っています。

そして「手のひらに、一冊のエネルギー」という言葉をみた瞬間、心が震えました。それに続く「本=エネルギー論」はしびれました。まさにそうだなと。本は単なる「まとめ」で知的満足を満たす物ではなく、そもそも、著者と編集者のエネルギーの産物だということです。

想念を物質化したものが本である、とも植木社長は言っていますが、考えればこれまで読んできた本からは、ある程度強いエネルギーを感じます。そもそも強く伝えたいものがあるのか、これが大切だとあらためて感じます。

2.抜きん出た強みのある著書か
植木社長は企業経営者や個人事業主の方からよく出版の打診を受けるそうです。その際にいつも「出版企画をうんぬんする前に、ご自身の持ち場で、抜きん出た圧倒的な成果を上げることが先決です。」と伝えているとのこと。

これもその通りだなあと。圧倒的な成果が出ていなければ多くの人から共感を得るのは難しいです。しかも、「抜きん出た」という所がいいですね。

3.大ヒットする書籍に共通する5つの要素
1.驚きを生むタイトルになっている
2.心と体を癒し、健康に関わっている
3.それを読むことによって、読者自身が変われる
4.田舎でも売れる本になっている
5.女性に応援してもらえる本である
総じて、「病人のお見舞いにもっていける本」である、と植木社長は言っています。これもなるほどーとついうなってしまった言葉です。「愉しみや喜びや癒し」になるような本ですね。

しかし、この5つはミリオンセラーの必要条件に過ぎず、「ミリオンセラーに方程式は存在しない」と植木社長は言っています。必要十分条件になるためには、よくわからない『何か』がなくてはならず、その上でも結局、必要条件をどこまでやり切るか、ということが問われてくるそうです。

マスに届けるというメディア業界ならではの所がこの「何か」なのだと感じます。通常ビジネス世界では自社のお客様がだいたい決まって(ターゲティングして)いる。マスもある程度ターゲティングをしますが、20代~30代女性としても千差万別過ぎて何がニーズかは大変掴みにくいです。ただ、とどのつまり解に近い原則や法則を突き詰めて実行していく、これが成功の前提なのだと思います。

4.真理はひらがな
「わかりやすさこそ真理」「一流の人は、難しいことをやさしく伝える。」と植木社長は言っています。「やさしさ、わかりやすさにこそ、凄みを感じる。」とも。

やさしくて深い世界があるということを知りました。確かにこれまで取り上げた『アウトプット大全』『1分で話せ』『超筋トレが最強のソリューション』『父が娘に語る経済の話』などの10万部を超える本は、平易で分かりやすい。そして、前々職の社長も「モチベーション」という目に見えない難解なテーマをやさしく、わかりやすくして、伝えていたことを思い出しました。世に広げようという気概があれば、必然的にやさしく、わかりやすく、ということに辿り着くのでしょう。

真理はひらがな。凄く残る言葉です。
(1585字)

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第156週『愛』

第156週
2020/8/22
『愛』
苫野一徳著 講談社現代新書

「愛」は新たに設定した今年の探究テーマです。ここ半年深く内省を繰り返しているうちに、自分は人間への愛、厳密にいうなら人間の可能性を愛することが根にあるなと感じました。それでは愛とは一体何か。これまで触ってこなかったテーマで、とても楽しみです。本書は愛の分析入門として手にとりました。著者である哲学者自身の愛の体験を観察しながら、本質を掴もうとする内容です。理解にキーとなる文章を引用しながら自分の解釈を述べていきます。

●愛すると好きの違い
「好きの本質は、エゴイスティックな欲望である。」
「その対象が自分に何らかのエロス=快を味わわせてくれるがゆえに、そのモノ(人)が好きなのだ。」
「愛は、この原初的な好きから生まれながらも、そこから遠く離れたところにある。」

→愛はまず好きから始まる。ただ、好きはあくまで対象が自分の快のみ。

●愛着とは
「愛着は執着と違い、対象それ自体への慈しみを合意する情念である。」
(ちなみに情念とは理性では抑えることのできない悲・喜・愛・憎・欲などの強い感情 Weblio辞書より)
「執着は自分の欲望に拘泥する。」
「愛着は好きからエゴイズムを越えるための最初の一歩。」
「愛着にとって重要なのは、そのものの価値それ自体ではなく、このわたしとの『歴史的関係性』なのだ。」

→好きの次の形態が愛着。愛着に発展するには、歴史的関係性、つまりある程度の時間を要してその対象との関係性を構築することが必要。客観的ではなく理念的なものであるため、わずか数日の関係であってもその人の考え方次第で歴史的関係性の構築は可能。また、我が子への愛が生まれた瞬間に芽生える場合、歴史的関係性がないのだが、未来への歴史的関係性をみていると言える。

●友情と友愛
「友情は、これまでに述べてきた「愛着」感情が身近な友に向けられた単純なもの。」
「(友愛は)単なる友への愛着を越えたものをみる。」
「その情念が理性の吟味を経て『この人はわたしと同じ魂を共有しているの』と確信されるもこと。」
「ここには、単なる情念ではない、ある“理念性”の確信が備わっているのだ。」
「(その理念性の本質は)「合一感情」と「分離的尊重」の弁証法である。」
「これは高度に、“理念的”な本質である。」
「まさにこの“理念性”にこそ、私たちは、『友愛』に限らずあらゆる『愛』の根本本質を見出すことができるとは言えないだろうか。」

→友愛という言葉がでてきて、はじめて愛にぐっと近づいた。あなたがいるから私がいるという合一感情と共に、でもあなたはあなた、という分離尊重を繰り返して発展すること(=弁証法)が愛には必要である。我が子におきかえても、我が子を自分のものとするのであれば、それは愛とは呼べない。

●真の愛
「『存在意味の合一』。それは、恋人であれ、わが子であれ友であれ、わたしが、“真の愛”を感じているとするならば、そこには必ず、相手の存在によって私の存在意味が充溢するとする確信、相手が存在しなければ、私の存在意味もまた十全たり得ないとする確信があるということだ」
「『絶対的分離尊重』とわたしたちは、相手は“このわたし”には絶対に回収し得ない存在であるという意識を持っている。」
「弁証法の先にあるもの、すなわち『自己犠牲的献身』である。」

→我が子や相方だけでなく、お世話になっている方々や、研修の受講者に感じることがある。皆さんがいて今の私がある。けれども押しつけにならずに、皆さんを尊重している。

●愛は意志である
「なぜなら『愛』は、情念であると同時に理念でもあるからだ。」

●愛を阻むナルシズム
「自己不安の反動としてのナルシズムである。」
「これはいわば自己価値への過剰な『執着』である。」
「自己不安の打ち消しとしてのナルシシズムは、ほかにだれも自分を愛してくれないから、せめて自分だけは自分を過剰に愛そうとする自己の価値への『執着』にほかならならい。」
「ナルシスティックな人間は、すべては、このわたしのために、とつねにどこかで考えている。」
「『このような惨めな自分ではない自分でありたい』という切実な欲望によって生み出されたものがある限り、その根源的欲望を“理性”の力飲みによって克服するのは至難のことだ。」
「他者から『承認される経験』を、ナルシズム克服の契機として挙げることにしたいと思う。」
「親、保護者、教師などの一つの存在意義は、ここにこそあると言うべきであろう。」
「しっかり自分の尻ですわり、勇敢に自分の足で立っていないと、愛することなどできないのに。(ニーチェ『この人を見よ』九八頁)」

→自己不安は誰しももつもの。自分だけで自己不安を克服するのは確かに至難である。自己不安は根源的なものに近いから。親として我が子に“真の愛”を注ぐことに注力したい。我が子が自己不安を克服できるよう。存在=Beingを承認し続けること。

●愛は育て上げるもの
「自分の尻でしっかりと座ること。」
「わたしは、この人を、わたしとは絶対的に分離された存在として尊重するという、『意志』をもつこと。」
「“真の愛”は、親の子に対する愛のような、必ずしも特別な関係においてのみ成立するわけではないのだ。」

→好き→愛着→愛という字のつくもの(恋愛、友愛、●●愛)→真の愛と発展していく。まずは自然に湧いてくる感情や時々に表れる感情を大切にしつつ、理性的に意志をもって関係を育ててあげていく。
(2209字)

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第155週『大家族経営主義』

第155週
2020/8/10
『大家族経営主義』
天外伺朗・西康宏著 内外出版社

「月曜日に行きたくなる会社」。

私が目指したい会社像です。次に組織を創り、経営をしていく上で何より社員を大切にし、社員が「月曜日に行きたくなる会社」を創っていく気でいます。

これまで社員の充足度は顧客の満足度と等価であると位置づけて経営をしてきました。しかし、今年1月のホワイト企業大賞授賞式を機に、更に社員を大切にし、月曜日に行きたくなる会社を作っていこうと決意しました。

私に決意させたのは、そこで見たある企業の取材動画です。社員の女性がインタビュー中に「月曜日に行きたくなる」と言ったのです。「本当に??」と衝撃を受け、「これだ!!」と強く共振をしました。その企業の名は西精工。徳島にある約100年続くナットのメーカーです。社員に「月曜日が嫌じゃない」と思ってもらうのさえ難しいはずなのに、「月曜日に行きたくなる」というのは凄いレベルです。そこから西精工という企業を調べ、辿り着いたのが本書です。心に留めておきたい二つの項目を記します。

1.経営理念の策定→べき論から解放
現社長の西さんが家業である西精工を継ぎに戻ってきたのは1998年です。当時の西精工は挨拶もなく掃除も行き届かない、どちらかというと暗い職場だったそうです。西さんは戻ってきてすぐに「会社の空気を変えたい」と立ち上がります。しかし、掃除と挨拶運動を行っても、冷ややかな反応が多数でうまくいきません。この頃毎日うなされていたそうです。

そこから、稲盛さんの影響を受け西さんは新しい「経営理念」を策定します。「社員の幸せ」を入れた経営理念を策定し、「目的は幸せです」と社員に正面切って宣言します。それ以来、嫌な夢は見なくなったそうです。「ああしなくてはならい。これがいけないんだ、という『べき論』から解放されたおかげです。」と西さんは言っています。そして自分が覚悟を決めて社員などを引き受ける姿勢にどんどんなっていったそうです。この西さんの変化により、社員が変化し、会社が変わっていきます。

やはり「月曜日に行きたくなる会社」には経営理念こそ最重要です。「社員の幸福」を経営理念に入れなければ、月曜日に行きたくなる会社は作れないでしょう。もっと言えば、「社員の幸福」を経営理念に記すことで一点の曇りもなく追求する信念が重要です。

2.全員参加の経営
西精工からもらったもう一つのヒントは全員参加の経営です。「月曜日に行きたくなる会社」は当事者として皆で経営に参画することがポイントと感じます。幾つか紹介された施策から発展させてやっていこうと思ったのは経営理念を社員と創ることです。次の会社も最初は私が創ります。しかし、3年後ぐらいに新たな経営理念を社員と共に作っていく。更にもう3年後に、また社員と見直していく。それはやっていこうと決めています。社員だけでなく他のステイクホルダーと共創するのも良いかもしれません。

あとは、直感的に幾つか発展させやってみようと思った事はありますが、もう少し深めてから取捨選択していこうと思っています。
(1243字)

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第154週『THE VISION』

第154週
2020/8/9
『THE VISION』
江上隆夫著 朝日新聞出版社

ビジョンについてより深く探究するために手に取った本です。三つの印象的だった項目を挙げます。

1.ビジョンの定義
ビジョンとは「自らが生み出しえる最高の公共的未来像」であると著者は定義しています。ここで目につくのは「公共的」という部分です。著者は、企業は社会の公器であるべきと考えています。そして「ビジョンとは、ある固有の組織や人の中に生じた『公共の夢』でもあるのです」というように、ビジョンに含まれる「公共性」が重要であることを何度も強調しています。優れたビジョンは伝染力があるのだとすれば、要素として、多くの人々が共感、共鳴するような利他的且つ広く開かれていることが必要なのだと考えます。

2.心に響く企業ビジョン
私がこれいいと直感的に思った企業ビジョンは二つありました。
「一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」(東京通信工業=現ソニー・会社設立の目的)

「理想工場」という言葉がいいですね。技術者にとっての最高の場であることが一言で表されている秀逸な言葉だと思います。

「1.私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します」(リッツカールトン・サービスバリューズ)

強い意志を感じました。「人間関係」、「生涯のゲスト」という通常のホテルの枠を超えた力強さがあります。

3.「初期衝動を対象化する」
ビジョンを創出する最初のステップで、出てくる言葉です。1970年代~80年代にかけてのロックミュージックの評論でよく使われていたそうです。当時のロックは、若者が叫び出したい衝動で出来ているような音楽でした。しかし、「音楽を本当に自分の表現手段とするには、心の奥深くにある最初の衝動を冷静に見つめ、自分のアイデンティティとして対象化し、使えるものとしなければならない」と言われていたそうです。

初期衝動を対象化する、いい言葉です。これは研修でもビジョン策定時に是非使っていきたいです。ちなみに、対象化するための問いは、「なぜ、私達は、この事業を行っているのか」です。
(869字)

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第153週『脳内革命』

第153週
2020/7/27
『脳内革命』
春山茂雄著 サンマーク出版

筆力強化のためのベストセラー研究、第6弾。1995年に出版され、国内累計発行部数の5位410万部をほこるお化け本です。

【読者として】
本書は、病気を治療する西洋医学に対して、病気にさせない東洋医学の効力を科学的に説明したものです。その科学的根拠となるのが「脳内モルヒネ」です。「脳内モルヒネ」は、β―エンドルフィンなどに代表される快楽作用をもたらすホルモンのことであり、「人の気分を良くさせるだけでなく、老化を防止し自然治癒力をたかめる、すぐれた薬理効果がある」と著者は言っています。

今回の私の一番の学びは、瞑想の科学的な効果です。瞑想は、上記の脳内モルヒネを分泌させ、病気の予防に大きな効果を上げるとのこと。実際に著者の病院では、成人病の患者さんに対して食事療法と共に、運動と瞑想を必ずセットで行い、治癒してきたそうです。

例えば、58歳の高脂血症とうつ病の女性。食事療法と運動、瞑想の三点セットの中でも、特によく効いたのは瞑想だったとのことです。この女性は非常に花が好きで、花を見ると顔つきが別人のようになる。それで花がいっぱい映ったイメージビデオをみてもらい、花のイメージトレーニングをしてから瞑想室で瞑想を繰り返してもらいました。すると脳内モルヒネが多量に分泌され(α波で判断)、非常に状態がよくなったそうです。

私自身この半年毎日行ってきた瞑想が、最近忙しくてできていませんでした。本書からの学びが、再開する動機になりそうです。

【書き手として】
■メッセージの秀逸さ×タイミング
『「超」文章法』では、メッセージが8割の重要性をもち、質の高いものはひとことで言えて、面白く、ためになるもの、とありました。本書のメッセージは「病気にならない、させないために」であり、25年前の日本ではまだ病気を治療することが主眼であったため、このメッセージが非常に新しく目から鱗のコンセプトだったのでしょう。書く際にメッセージが最重要であることを再認識させられます。

しかし、これだけでは410万部というお化け本になることはできないと思います。仮説ですが、出版のタイミングが抜群だったのではないでしょうか。多くの人が喉から手が出るほど求めていた時期ではないと、この数字は叩き出せないはずです。

成人病という言葉は、脳卒中、がん、心臓病などの「40歳前後から死亡率が高くなり、40~60歳くらいの働き盛りに多い疾病」として1955年ぐらいから行政的に使用されていたそうです。そして、以前は加齢や遺伝に関係し、病気の発症は仕方のないことであり、早期発見と早期治療に主眼がおかれていましたが、この頃、成人病の発症が生活習慣に関わることが分かってきたようです。本書の影響かどうかは分かりませんが、1997年頃から厚労省が「成人病」を「生活習慣病」という呼称に変更しています。

一年で400万部以上を売り上げるということではなく、何年かに分けてということですから、バブルが終わりモーレツな働き方が見直された、成人病の発症が生活習慣に関わることが分かってきた、このような時代背景により超メガヒットが生み出されたのではないでしょうか。
(1298字)

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第152週『父が娘に語る経済の話』

第152週
2020/7/20
『父が娘に語る経済の話』
ヤニス・バルファキス著 関美和訳 ダイヤモンド社

筆力強化のためのベストセラー研究、まだ続きます。今回は累計19万部を突破している経済の本です。

【読者として】
本書は著者が娘さんに伝える形で、なるべく平易な言葉で、資本主義の仕組みや格差が発生する理由などを解き明かしています。

一番良かったのは、なぜ西洋諸国が覇権を握ったのか。なぜ、オーストラリアや、アフリカ、そして我が日本などから強国が出てこなかったのか、という以前から抱いていた疑問が解消できたことです。

結論で言えば、地理的な環境の違いが差異を生み出しました。強大な軍事力を持つのには経済が必要ですが、経済の出発点は農耕と余剰であると著者は言っています。農耕→余剰→文字(余剰を記録するためのもの)→債務・通貨→経済→技術→軍隊という流れがあり、例えばオーストラリアでは自然の食べ物に事欠かず、アボリジニが農耕技術を発明し余剰をためこむ必要はなかったということです。

地理的な広がりも重要です。アフリカ大陸は南北に広く、気温差が激しいため一つの国が農耕技術を生み出しても他の地域に転用しにくい。よって他国への技術の伝播、及び交流による技術発達が起きにくいとのことです。農耕が発達していた日本についても西欧からの遅れはこれで説明がつきます。危険と隣り合わせではありますが、他国交流があると、やはり技術は磨かれていくということでしょう。

【書き手として】
1.市場のあるテーマ×分かりやすさ
そもそも「経済」をもっとよく知りたい、という方は多いのだと思います。コミュニケーションまでいかないかもしれませんが、ニーズが強い領域です。難しいけれども知っておきたい、知っておいた方がよい、でも難しい。そこに小さな娘さんにも分かるぐらいの「分かりやすさ」が入ったことにより、売れたのではないでしょうか。

筆力強化とは別の話ですが、「経済の本なのに異様に面白い」という帯の言葉が引き寄せる面もあると思います。なかなか秀逸な帯です。
(804字)

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第151週『超筋トレが最強のソリューションである』

第151週
2020/7/13
『超筋トレが最強のソリューションである』
Testosterone・久保孝史著 文響舎

筆力強化のためのベストセラー研究。累計50万部を突破している筋トレ社長Testosteroneさんのシリーズです。友人が「この本は愛がある」と薦められたことにピンときて、手に取りました。

【読者として】
まず読了後、本当に筋トレしたくなりました。特に印象的だったのは、筋トレによって人生が変わった方々の話(漫画)です。例えば、両親からの「医者になれプレッシャー」で強迫神経症になり、手の震えがとまらなくなった男性。ほぼうつ状態の中でTestosteroneさんの本を読み、ジムに通いはじめ神経症を克服した話は、涙腺崩壊ものの物語でした。これらの実例漫画には心を動かす力があります。

健康面で一つ役立ちそうな知識は、タンパク質についてです。摂取したものがエネルギーとして消費されることを「食事誘発性熱産生(ねつさんせい)」といいます。この熱産生がタンパク質が高いのです。脂質と糖質が摂取した量の7%がエネルギーとして消費されるのと比較し、タンパク質はなんと30%が消費されます。普段の食事においてタンパク質を増やすだけで、カロリーを多く消費することができるとのこと。早速、献立を考える際の参考になろうかと、妻に伝えました。「ビバタンパク質!」

【書き手として】
1.読みやすさ
ベストセラーの共通条件と思われる「読みやすさ」がここでも出てきています。本書は筋トレの効果を科学的根拠に結びつけて伝えるものであり、学術要素も多く出てきます。しかし、対話形式にする、ちょいちょいギャグを挟む、漫画を取り入れるなど、難しく感じさせない工夫がされています。

2.見出しがユニーク
「死にてえって思ったら筋肉を殺そう」「手首の代わりに筋繊維をカットしろ」「マッチョを雇用すべき4つの理由」「筋トレミクスの破壊的効果4選」「筋トレは優れた予防医学である」「ヤケ酒、ヤケ食い、ヤケ筋トレ」「スクワット侮辱罪で訴追される禁句」「筋トレオタクのタンクトップにまつわる誤解」等々、目を引く、ちょっと吹き出すような、ユニークな言葉が見出しに並んでいます。

より多くの人に届き、心を動かすには、工夫された読みやすさと磨かれた言葉が必要であることを認識させられます。
(909字)

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第150週『なぜ、あなたがリーダーなのか』

第150週
2020/7/5
『なぜ、あなたがリーダーなのか』
ロブ・ゴーフィー、ガレス・ジョーンズ著 英治出版

私達のリーダーシップ研修では、ビジョン作成の材料として、3つの軸を考えてもらいます。個人、社会、組織です。この中で最も重要なのが個人軸であり、自身の価値観を明文化していきます。今回はこの個人軸の重要性を更に探究したく、本書を手に取りました。

本書はAuthentic Leadership(オーセンティック リーダーシップ)について述べた本です。Authenticとは「本物であること」。本物は偽物や、借り物でない、見せかけではないものです。それは一体何か。英英辞書では、Authenticを『誰の目にも明らかな原点をもつもの』と定義しているそうです。本物という言葉はピンとこなかったのですが、この「原点」という説明によって、もやがすっきりと晴れました。確かに自分の原点を認識できれば、それは誰のものでもない、その人固有の偽りなきものになります。

私自身の原点は「人間の可能性を愛すること」です。原体験は5歳の時、ロス五輪で4冠をとったカール・ルイスをテレビでみて鳥肌が立ったことを覚えています。「どうやったら人間はこんなにすごくなれるのだろう。」と子供ながらにワクワクし、そこから人間の可能性に魅了される人生が始まったと感じます。

自分の原点を認識し、そこから目標を立てる。するとその目標は、その人にとって「大切なもの」となり熱が入りやすくなります。また、原点は揺るぎないものであり、その人らしさの源泉になります。よって原点を認識することは、言行一致、首尾一貫のふるまいを生み出していきます。

「原点」という言葉は私達の研修では「根」という表現をしています。この根を明文化する過程で、参加者の方が「自分の原点を思い出した」と言い、そこからその方の考え方と意欲が劇的に変化しました。原点を認識することは、ものすごいパワーを生み出します。研修においてあらたに「原点」という言葉もまじえつつ、より一層明文化する過程を大切にしていきます。
(810字)

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第149週『1分で話せ』

第149週
2020/6/29
『1分で話せ』
伊藤羊一著 SBクリエイティブ社

40万部突破した本書。ベストセラーから「筆力」を学ぶという目的で、購入しました。

【読者として】
是非取り入れたいと思ったのは「『超一言』で包み込む」です。

著者は、ソフトバンクアカデミアで孫社長にEコマースの戦略のプレゼンをしました。その際、納期を明確にする戦略を「きっちりくるから『キチリクルン』というモデルです」と説明しました。すると15人のプレゼンの後、「君の『キチリクルン』、いいねえ~」と孫さんが声をかけてくれたとのこと。人はキーワードで覚えてくれることを学び、この時以来、自身のプレゼンに「超一言」のキーワードを入れるようにしているそうです。

自分の伝えたいことを、一言のキーワードで表す。これは私自身、今一番鍛えたい力といっても過言ではありません。

【書き手として】
二つのことに気づきました。

・そもそもコミュニケーション領域は強いニーズがある
60万部を突破している『伝え方が9割』もそうですが、コミュニケーション、特に伝える領域は本当にニーズがあるのだと感じます。ニーズがあるというのは、それだけ困っている人が多いということです。ベストセラーになる本は、多くの人に共通する悩みや困りごとにリーチしているものだと感じます。

・とてつもなく平易な文章
本書は、読みやすく、とにかくページが進むこと進むこと。その理由は平易な文章にあると感じます。平易とは「たやすく理解できる」こと。難しい言葉はほとんど用いず、また例やエピソードを多用し、とにかく読みやすくしています。著者の方の学歴や職歴をみると相当インテリジェンスが高いことが伺えますが、その知性や教養を引けらすことなく、できるかぎり平易に書く。だから多くの人の届くのだなと思いました。
(717字)